日記ロワイアルコミュのサラリーマンのヒーロー

うちの会社の西さん(通称)の話

西さんは本社事務方の係長

10年前はバリバリの営業マンで課長だった人
当時は将来の役員候補とまで言われてた

でもその容姿はデキるサラリーマンには見えずどちらかと言えばダメリーマンに見える

多分スーツはアオキかアオヤマかハルヤマ
靴はABCマートかザシューズ

ただ社内外問わず強烈な人気があった

底抜けに明るく
ブレない軸を心に持ち
部下のために上司と喧嘩できる
とは言え臨機応変に事にあたり
営業成績も抜群

オレは入社以来、西さんに目をかけてもらってよく飲みに連れてもらってた

『上司が出すのは金と知恵
若手が出すのは大きな声とやる気』
が口癖でいつも奢ってくれた

そんな西さんの部下に我社には稀な女性営業が配属された

アオイちゃん
と皆に呼ばれた彼女は見た目は華奢、弱々しさ満開だったが気が強く向上心に富む

ツンデレの逆いく感じ

そんなアオイちゃんも見る見る頭角を表し成績優秀な女性営業としての評価を得ていた

上司である西さんも『あの弱々しいアオイを育てるとは、さすがの指導力』と評価を上げていった

しかしアオイちゃんは営業初めて二年経ったころ『会社辞めます』と言い出した

『結婚？』『妊娠？』『不倫？』と女性特有の噂を立てられたが理由はそのどれでもない女性特有のものだった

『セクハラ』
取引先からの性的な嫌がらせがエスカレートしついに我慢ならなくなったらしい

その取引先とは年間二億の取引

バイヤー(仕入担当=オレらの仕事の顧客)は担当が西さんからアオイちゃんに替わった時小躍りして喜び、以来『食事行こう』だの『飲みに行こう』だのと取引を盾に誘ってたらしい

それも営業の一環、とアオイちゃんも我慢してたのだがある日ついに商談中にカラダを触られたらしく堪忍袋の緒が切れた

帰社して一番に『会社辞めます』と上司である西さんに言い放った

それを聞いた西さん

『すまん』

とアオイちゃんに一言謝って

その取引先へ向かった

後になってわかったんだがかなりキレて抗議したらしい

結果、アオイちゃんは退社

その取引先とは取引中止

西さんは係長に降格

オレは西さんに聞いた

『なんで、西さんが降格なんすか？』

『結果的にあそこと取引中止なったんはオレの責任や
年間二億の売上飛ばしたんやからな』

『でも、それは…』

『ショージ
サラリーマンである以上、会社の決定事項には従わなアカン

管理職として部下を預かったんならその責任は取らなアカン

でも男として目の前で女が泣いてたら助けなアカン

アオイちゃんかわいそうやったやろ？』

オレは絶句した
普段の西さんの生き様はこんな時でもブレなかった

さらに西さんは
『代償を恐れて貫けない正義なんて俺の中にはないもん』
と少しおどけながら言った

降格の異動になった西さんは謹慎みたいな形で一週間の有休を消化する間、その取引先に毎日謝りに通い取引再開までこぎつけた

で会社復帰初日オレに耳打ちした
『あそこと取引再開なるからお前の手柄にしとけ』

『な、なんでですの？
西さんの成果でしょ？』

と呆気に取られているオレに西さんは

『あほかお前、昔教えたやろ？
責任は上。手柄は下。や！』

この時オレは強烈に思った

オレは西さんみたいになる

それで出世して、また西さんを上司にする

オレが西さんをリスペクトして止まないように下から信頼される

うちの会社を西さんみたいな人が活躍できる会社にする

西さんは昔も今も変わらず紛うことのないオレの英雄だ

西さんは今、奥さんの実家のある関東に帰り本社の係長として閑職に就いている