ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

日記ロワイアルコミュの夏と花火と転校生

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


「それにしても今日も暑いな……」
 外回りも一段落し、公園のベンチに座りながら俺はふっと呟いた。公園は都会の数少ない緑地となり、蝉達が群がって鳴いている。
 昼過ぎの公園では中学生くらいの男女が、暇をもてあましお喋りに興じている。
「そういえば最近の学校、土曜日は休みなのか」
 俺は手に持った缶コーヒーを遊ばせながらため息混じりに呟く。
 
 ちょうどこんな時期だったっけな、松本が転校してきたのは……




*****



「おい! ノブ! 知ってるか!? 今日転校生が来るらしいぜ!」
 クラスメイトの光明がけたたましい声で俺に話しかけてくる。
「可愛い子だったらいいよな! そしたらさー、季節は夏でも俺にだけ春が来るかも……」
 俺は中二男子独特の妄想に付き合うのもバカらしいので光明を無視することに決めた。しかしそれでも光明の妄想はとまらず永遠にしゃべり続けている。
「――――――――ってわけだよ! わかる?」
「ごめん聞いてなかった。反省はしていない」
 俺は涙目の光明は放置し更なる惰眠を貪ることにした。なんでこの時期は寝てるのがかっこいいとか思ってたんだろ。いやマジで! リスクのがでかいよ、今から考えると。
 まぁしかし寝てる間もなく担任が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。
「お前ら知っているとは思うが、我がクラスに……転校生がやってきたぞ!」
「「イェーイッッ!!!!!」」
 どうやらこのクラスには光明と同レベルの頭を持つ奴しか居ないらしい。いや知ってたけどな。
「じゃあ入ってきなさい」
 担任の久吉(35歳既婚)が転校生を招き入れる。
 まぁ今だから白状するけど本当は俺もちょっとだけ期待してたんだ。まぁ光明ほど妄想全開ではないにしても、少しくらいは……な。
 だが、そんなクラスの願望を転校生は一瞬で打ち砕くことになる。
「松本康成、○○高校からきました」
 クラスを一瞬で沈黙が支配する。それもそのはずで、なんて言ったってうちはド田舎ってことはなくても都会では絶対になくて、良くも悪くも普通の奴ばかりだ。
 それでもみんな仲良いし、なんていうか平和なんだ。
 だが……、転校生は派手な金髪に都会的な制服の着崩し、まるでごく○んに出てきそうな見た目の……男子だったのだ。



 しかしその転校生、松本は思いのほか早くクラスに馴染んだ。見た目こそ派手ではあったけど、松本は率直に言ってイイ奴だった。
「にしてもなんでそんな髪型なんだよー!!」
「るせーな光明は。これが俺には普通なんだよ」
「いやそれにしたって……」
「怖い! 怖すぎるよ松本!」
「光明はビビリだからな」
「なるほどなー」
「なんで俺を責める時だけ意気投合!?」
 そんな感じで光明の元来の人懐こさもあり、俺たち三人は松本が転校してきて一ヶ月くらいですっかり仲良くなっていた。
 しかし教師からしたら俺たちは少なくとも優等生ではなく、むしろ不良に部類されていたので、俺たちはある意味似たもの同士だったらしい。
「放課後どーする!?」
「アローのゲーセン行こうぜー、俺今頭文字Dにはまってんだ」
「それ俺も得意」
「まじで!? 対戦だ対戦!」
「「いや光明よえーじゃん」」
「ひでえぇぇ!!!!」
 よく3人でつるんでいるうちに松本の家の事情ってやつも段々わかってきた。
 松本の家はぶっちゃけ金持ちなんだけど、ドラマでよく見るような転勤族らしかった。
 この見た目は少なくとも見た目で舐められないようにするための松本なりの処世術だったんだろう。
 俺たちは本当に普通の家で、転校したことももちろんなくて、むしろ幼稚園からみんな一緒の奴ばっかりだったから、松本がその話をしているときの寂しそうな表情はよく理解できなかった。
 
 けどそれが悲しいってことだけは馬鹿な俺たちでも理解できた。


 転校してきたのが六月だったから、松本が慣れてきたころにはすぐに夏休みになった。
「夏休みだぜ! 夏休み! 夏休み!」
「うん、とりあえずこの一ヶ月ちょいで光明がうざいことはわかった」
「だろ?」
 俺たちの遊びの大半は光明いじりといっても過言ではないと思う。
「さぁ何しよー!! 海か! 山か! 今年は松本もいるしナンパも可能だぞ!!」
「いや、しねーし」
「そして松本が成功しても光明が成功したわけじゃないんだぞ」
「いや……そこはほら……友情でさー……」
「光明友達いたのか?」
「初耳だな」
「お前ら俺泣くぞーーッッッ!!!」
 
 とにもかくにも夏休みが始まった。
 随分いろんなことをしたと思う。あの頃はいろんなことに懸命で何をしても楽しかった。
 俺たちは3人で馬鹿なことを毎日毎日やりつくした。
 
 そんなときだった。
 

 松本の転校が決まったのは……。


「早いなー」
「まぁ時期は毎回バラバラだからな……仕方ねえよ」
 珍しく光明が黙りこくっている。俺は光明に呼びかけるが黙って下をずっと向いている。
 俺だって慣れてるわけじゃないが光明にとっちゃ友達が離れていくなんて初めてだから、どうしたらいいかわからないんだろう。
 それに比べて松本は随分落ち着いている。まぁ慣れてるんだろうな。
「いつ行くんだ?」
「夏休みが終わったら二学期頭には向こうの学校だな」
「宿題しなくていいとかラッキーだな」
「それ俺も思った」
 そう言って二人で笑いあう。お互いラッキーなんて思ってもいないのに。
 なんだかその日は白けてしまって解散になった。帰り道でも光明は黙りこくっていた。
 だんだん家が近づいてきて、俺と二人きりになったときに光明が呟いた。
「なぁ……松本は友達だよな」
「当たり前だろ?」
「松本も俺らのことそう思ってるよな?」
「そりゃあ……」
 そう思ってる、と言いたいが俺たちと松本は時間も経験も違いすぎて、俺ははっきりそうだと言えなかった。
「時間なんか関係ない! 俺は松本を友達だと思ってる。なら俺たちは松本の旅立ちをちゃんと祝わないと!」
 光明は馬鹿だ。
 トカゲを恐竜だと思ってるし、未だに九九をちゃんと言えないし、1192つくろう平安京とか言うし……。
 だけどこいつは、いや、だからこいつは大事なところをまっすぐ行く。
 さっきの沈黙は光明なりに必死でそれを考えていたんだろう。
「俺、馬鹿だから……。ノブ協力してくれ! 松本が一生忘れられない思い出作ってやろうよ!」
 俺は仕方ないという態度を前面に出しながらも、内心は火がついたように熱くなっているのを感じていた。


 8月31日、学生にとっては一番忙しい日だったがそんなことは俺たちには関係ない。
「何なんだよ、こんなとこ呼び出して」
 河川敷に呼び出した俺に松本は少し不機嫌そうだった。最近付き合い悪かったし仕方ないことかもしれない。
「まぁ見とけよ?」
 俺はその態度を一切無視し、両手を高く上げる。
 その瞬間松本は目を見開いた。


*****


 計画を練る上で色々考えたが、まず俺たちには金がない。とかくでかいことをしようとすると金がかかる。だが中学生の俺たちはどこかにバイトというわけにもいかない。
 そこで光明の頭は煙を吹き出していたが、俺は考え、発想を変えることにした。
 俺たちには何があるか……。その答えはこの町にあった。
 小さい頃からずっとこの町に居る俺たちは、大人も子供も含めて知り合いがめちゃくちゃ多い。つまり俺たちは町中の人間をこの計画に巻き込むことに決めたのだ。
 俺たちは確かに不良のレッテルを貼られてはいたが、別に人に迷惑なんか特にかけていなかったので、周りからはただの悪ガキ扱いだった。
 そんな周りは驚くほどすんなり俺たちの計画に協力してくれた。
「松本くんでしょ? 意外と優しいよね」
「お前らと違ってきちんと挨拶するしな!!」
「松本くんが下級生をかばってるの見たよー」
 俺たちは松本のあまりの評判に驚き、そしてなぜか自分が褒められたみたいに気恥ずかしくなったのをよく覚えている。

 計画は順調に進み、準備が出来たのが昨日。そして8月31日に至るわけだ。


*****


「なんだよ……これ……」
 松本は声も出ず口をあんぐりと空けている。それもそのはず、夜になると寝静まるはずのこの町の空が、今は昼間のように明るくなっているんだから。
「光明ー!! 次次!」
 数え切れない花火の雨。
 町中の人が俺たちに協力してくれた証だ。
 花火の雨が降り終わると、次は一転して、大音量の合唱だ。

「これって……クラス全員?」
 驚く松本に俺はニヤリと微笑む。
「ほんと馬鹿な奴らだよな、宿題もせずにみんなお前の転校を見送りたいんだってよ」
「でも俺は少ししか……」
「時間なんて関係ない、光明がそう言ったんだ」
 驚く松本を見ながら俺は続ける。
「他はどうか知らないが、たとえ一緒に過ごした時間が短かろうとお前は俺たちの仲間だ。友達だ」
 その瞬間、松本が溜めていたものを吐き出すように声を出して泣き出した。
 きっとこいつなりに辛さを押し殺そうとしてたんだろう。
 どうしようもない寂しさをいつも隠していたんだろう。
 合唱が終わり、皆が松本の周りに集まり、思い思いの別れの言葉を告げていく。俺は松本が初めて俺たちに取り繕わない本当の顔を見せてくれた気がした。
「みんな……ありがとう……」
「いつまで泣いてるんだよー! 泣き虫だな!」
「「光明が言うな!」」
「クラス全員でハモるなよ!」
 別れの際だというのに光明は相変わらずしまらない。
 
 でも、松本が笑ってるから……ま、いいっか。


*****


 あれから10年。

 俺も少し都会に出てきて、絶賛社会の荒波に揉まれているわけだが、あの頃のことをこんな風に思い返すことが時々ある。
 馬鹿なことしてばかりだったけど最高に楽しかったあの頃。何も考えずに突っ走れたあの頃。
 だからこそあの時作った思い出は決して色褪せずにいつまでも心に残っている。
 
 その時携帯が一件のメールの受信を知らせた。
「ったく……あの時の花火はそんなに綺麗だったんかよ?」
 俺は携帯を閉じ、手の中で遊ばせていた缶コーヒーをゴミ箱に捨てた。
「さぁ! もう一頑張りしますか!」
 
 その時もう一度携帯にメールが受信された。
 
 
 そこには花火職人になった松本の自慢の花火の写メが添付されていた。



















おしまい






コメント(70)

日記ロワイヤルずっと読んでますけど、初めて一票いれます。泣きました。
一票
ただ、〇〇高校のとこは間違ってほしくなかったですね。
高校から中学校へ転校してきた松本くんに一票。
最後までいい話だったですが、最後が特に良かったです。

一票です。

ログインすると、残り44件のコメントが見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

日記ロワイアル 更新情報

日記ロワイアルのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。