日記ロワイアルコミュの０から１８まで

仕事終わりにコーヒーを買った。
当時はよくあった当たり付きの自販機。

「７…７……７ッ！！」

普段そぶりさえ見せない自販機が珍しく光を点滅させ、もう一本どうぞ、と言う。

その晩「陣痛が始まった！早く来て！」と電話がかかってきた。

生まれたのは、僕らしい。

僕の家族は４人家族。
父、母、僕、弟の至って一般的な構成の家庭だと思う。

小さい頃アパートに住んでいて、よくベランダから父さんの車が帰ってくるのを母親にくっつきながら待っていた。

出張から帰ってきた日には母さんが父さんの好きな鶏肉を炒める。デザートは決まって梨だった。父さんの好物だ。

ご飯を食べ終わるといつも父さんが
今で言うドヤ顔をしながら冷蔵庫からシュークリームを取り出す。

母さんも弟も僕自身も大好きだった。
出張の日は父さんが帰ってくる事の次にこのシュークリームが楽しみだった。

ごく一般的な家庭。
ありふれた幸せだと思う。

僕が小学４年生になった時にマンションに引っ越した。僕は塾に通っていた頃。

ある日帰ってくると、リビングで母親が泣いている。

「ただいま、お父さんは？」

「お父さんは会社に戻っちゃった」

「なんで泣いてるの？」

「お父さん、仕事の都合で遠くに行く事になっちゃったの、だから寂しくて泣いてるの」

「すぐ会えるよね」

「そうね」

父さんの会社は少し有名で、支部を立ち上げるために転勤を命じられたらしい。

場所は上海。
代理とは言え現地へ赴き、人を集め、支部を立ち上げる責任者を任せられた父さんを幼いながらも尊敬していた。

誇らしい事だ。

程なく父さんは中国へ出発してしまった。

夏休みの自由研究で僕は父さんにクッションを作った。

休みに帰ってきた時それを僕は渡し、父さんはとても喜んでいた。

「ありがとう、頑張るよ」

そう言って抱きしめてくれた事を今でも覚えている。
その手は以前より痩せていた。

またしばらくして帰ってきた時、僕は父さんに

「クッション使ってる！？」
と聞いた。

「よだれだらけで汚いよ」
父さんは笑いながらそう答えた。

よかった！使ってくれてるんだ！
僕は喜んだ。
父さんはまた以前より痩せていた。

僕が高校生に上がる時、父さんが日本に帰ってきた。

僕は反抗期を迎え、ほとんど父さんと会話を交わす事は無くなっていた。

名古屋まで通う父さんに、いってらっしゃいも行ってなかった気がする。

高校３年生の終わり頃、父さんが検査入院をした。
１週間の予定だったが、２週間経っても帰って来ない

何かがおかしいと感じ、母さんに問いただした。

言葉にならなかったのを覚えてる

２週３週と過ぎ…

父さんの意識は朦朧としていて、まともに喋れない状態になった。

「もう助からない」

そんな言葉が頭の中を回転し続けていた

そんな中、一時的に家に帰って来れる日があった。

事実上最後の帰宅。

父さんと二人でリビングにいると
父さんが口を開いた。

「俺に何かあったら母さんを頼む」

一気に涙が出てきた

それどころじゃないだろ？

父さんは泣いてるのも分からないんだろうけど僕は涙を流しながら

「馬鹿な事言うなよ！何かって何だよ！これからもずっと平和な日が続くんだよ！！」

それ以上言葉は出なかった。
父さんは何も言わなかった。

これが僕が父さんと交わした最後の言葉になった。
僕が高校を卒業して間もなくの事だった。

桜の綺麗なエイプリルフールに、父さんは享年４９歳という若さでこの世を去ってしまった。

一人出張で海外で働くのは
どう考えたって辛かったと思う

そんな父さんをもっと支えられなかったのかなって

後悔は残ってしまった

でも家族のため、人の幸せのために働き続けた父さんを僕は心から尊敬しています。

父さん

あれから３年経ったね

弟が免許を取ったよ
飲みに行っても弟が運転してくれるよ

俺20歳になったんだ
成人式は懐かしい友達と会えて楽しかった

母さんがまたスマップのコンサートに行くんだって
相変わらず好きだよね

俺は今就職して、音響照明のオペレーターをやってるよ。

週末の婚礼の披露宴のオペレートでは幸せそうな家族を見てる。

いつか僕も父さんの様に幸せな家庭を築いてみせるよ。

ありがとう。大好きです。

書きながら泣いてしまった

最後まで読んで下さった方、ありがとうございました！