ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

日記ロワイアルコミュの箱入り娘の果てしない尿意。〜見知らぬ7人〜

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
《第1章  小笠原和子と山本ウェンディ》

小笠原大介[オガサワラ・ダイスケ]の箱入り娘、小笠原和子[オガサワラ・カズコ]42歳は今、記念すべき100回目のお見合いの席で、久方ぶりのいい感じと向かい合い、テンションを上げていた。
流行のベンチャー社長、若干34歳はサラサラヘアを上品な茶髪に染め上げていて言葉遣いも至極丁寧。敬語のミス・ユーズもなく、滑舌、声質共にK点越え。聴けば趣味はクルージングと家庭菜園だという。金持ちの醍醐味に終始せず、庶民らしい一面も併せ持つ、素晴らしい両立、素晴らしいバランス、ビバ。

何気なく手元を見遣れば、ロレックスのデイデイト(300万円相当)がちらりと覗いていて溜息1つ。そこから始まる華奢な手首、綺麗な手の甲はニベアをどれだけ塗りたくっても、万人が手に入れることは出来ないような、そんな光沢ときめ細やかさ。しなやかな指が摘む箸、箸の持ち方もう〜ん、パーフェクト! 焼き魚も丁寧に綺麗に食べていて好感触。

「いいじゃない…」

和子は人知れず興奮していた。そして、人知れず悶々としていた。女42歳。日照りと呼ぶには早すぎる。そしてなにより、熟し始めた躰が、男を、雄を欲していて余りあるのである。最後に褥で組み敷かれたのは遙か昔。千円札の顔も今とは違う時代。綺麗事を抜きにして、ただひたすら男が欲しい時もある。そんな折りの今日である。記念すべき100回目のお見合いにしてこの出会い。運命と呼ばずして何と呼ぼう。

これまでの99回は全て今日のこの日のためにあったのではないかと思う。和子の頭の中ではすでにSAY YESのイントロが流れ始めている。浅野温子よりも1回早く幸せを掴める自分。「ごめんね、温子」、和子は感傷的に呟き、興奮は和子を突き動かす。そんな和子はもちろん気付いていない。101回頑張ったのは浅野温子ではなく、金パチ先生だということに。

和子は人知れず興奮していた。隣に座る父、大介も娘のソワソワ落ち着きのない仕草を見て、「来たな」と感じ、同様に興奮していた。手前味噌になってしまうけれど、和子は大介の自慢の娘だ。出生児の体重が 5500 グラム、今日まで一度も風邪を引いたことがない。中学、高校の陸上部では全国大会にまで行った。活け花も出来るし、お茶も点てられる、着付けだってお茶の子さいさいである。

器量よし、体調良しとは、天からの授かりモノである。

そして大介は、他の父親方と同様、娘の容姿を盲信し、愛していた。
周囲から連呼される「アンパンマンに似てる」というフレーズも、最高級の褒め言葉だと信じており、えへらえへら笑いながら「そんなぁ、アンパンマンに悪いっすよ」などと答えていた。
とにかく、大介はそんな目の中に入れても痛くない箱入り娘が今、隣の席でギラギラ光る視線を見合い相手に容赦なく突き刺しながらノーガード戦法よろしく前後左右にフラフラ揺れているのを見て、テーブルの下でガッツポーズ。密かに先祖代々に願い、「オラに力を分けてくれ」と呟いたのである。

ただ、和子がソワソワしていたのは興奮していたからだけではなかった。

和子は、小便に立ちたかったのである。

しかし、頭の先から足の先まで完膚無きまで和服を着付けられた和子は、そう簡単に厠へ立つことが出来ない。憚りに立つのも、憚られるのである、なんつって。わかるか?
今や和子は期待に膨れあがる胸と、新陳代謝に膨れあがる膀胱の狭間で揺れていた。
冷や汗が頬を伝う。
笑顔を崩してはいけない、これは誰がどう見てもチャンスなのである。ここまでのチャンスである、決して逃してはいけない。
和子はよく耐えていた。その姿はまるで仁王の如し。見合いの席ではあまりよい表情とはいえないが、実によく耐えていた。やがて、相手のお猪口が空になっているのをめざとく見つけた大介が口を開く。


「これ、和子、ボ〜ッとしてないでお酌をなさい」

和子はその時、父の言葉で現実に引き戻された反動で一瞬だけビクッとなった。その一瞬の挙動がこの場合あまりよい方向に影響しなかったのである。

和子は、少しだけ漏らしてしまったのだ。

そして一粒の、透明と云うよりは白粉をふんだんに含んだ、濁りきった冷や汗が、彼女の二重アゴ(正しくは四重アゴ)を流れ落ちる、アゴを飛び立ってからはスローモーション。汗のくせに決して輝くことのない濁った冷や汗は、一直線に松茸のお吸い物へ向かい、音を立てて着水した。


「ポチャン」



その時、私立聖モーセ女学院大学、文学部の学生、山本ウェンディは睡魔と激烈に戦っている最中であった。今期から始まったゼミ、「東南アジア文化論」は、超スーパーウルトラ徹底的に退屈だったのである。これはミスだった、ウェンディは思う。彼女は2つのミスを犯した。1つは友人に誘われてこのゼミを希望したこと、もう一つは「東南アジア文化論の荻原[オギワラ]ゼミは余裕」という言葉を信じたこと。蓋を開けてみれば、ウェンディを誘った友人はなぜか面接で落とされ、ウェンディだけが合格を果たしてしまっていた。さらに担当教官荻原が椎間板ヘルニアを悪化させて入院してしまったせいで、急遽荻原の一番弟子で、やる気満々の非常勤講師、萩原[ハギワラ]が代理を勤めることになってしまった。そう、ウェンディが選んだのは荻原ゼミではなく萩原ゼミになってしまったのだ。

そんなこんなで、やる気満々のかたまりでユーモアセンスとファッションセンスと人間性の入る余地のまったくない男、萩原は今もまだマレーシアについて熱く語っている。

ウェンディは教科書に隠しながらさり気なく手帳を開く。本日は相模体育大学テニス部との合コン。集合は阪急三宮駅に18時。今はまだ14時過ぎであるが、萩原の独白がこれから4時間続く可能性は50%を楽に超えてくる。これはまずい。

これは…まずい。

相模体育大学と言えば、関西でもダントツにイケメン揃いで有名である。入学に面接が必要で、イケメンじゃないモノは、それだけを理由に面接を落とされるという都市伝説が立つほどの難関であり、テニス部に入ろうと思えば、さらに面接を3度重ねなければならないという、今や“サガタイのテニス部”と合コンした女子大生は周囲から憧れと尊敬の目で見られる。

しかしこっちだって負けちゃいない。いや、むしろ現在この時点においてサガタイのテニス部と互角に戦える、やり合えるのは山本ウェンディを置いて他にいないと言っても決して過言ではない。その理由はウェンディの美貌にある。

カナダ人の母親(元スーパーモデル)を持ち、ハーフという性質の利点をほぼ全て手中に収める山本ウェンディは神戸でも有名な美人である。性格は世に溢れる元気な女子大生のそれと大差なく、小さな頃からもてはやされ続けたせいで、多少傍若無人な所はあるものの、それをフォローするに余りある美貌が彼女には備わっており、今回の合コンも“サガタイのテニス部”がウェンディ目当てで設定したモノであるのはほぼ間違いない。ウェンディもその辺の所はきちんと了承している。

だからこそ、今日は絶対にドタキャンできないのである。

もしも間に合わないとしたら……いや、「間に合わないとしたら」という仮定が既に弱気である。「間に合わせる」のだ。そしてウェンディは決める。あの忌々しい萩原にどれだけ小言をぶつけられようとも、今日だけは立ち上がらなくてはいけない。みんなが私を待っている、そう思うと勇気がわいてくる。ただ合コンに行くだけでこの気合いの入れようはどうかと思うが、「何かに一生懸命になれることは素晴らしいことです」と色んな人が云ってる。
そしてウェンディは万が一の場合はゼミを早退する決意を固め、少し楽になった。少し楽になってしまったことが、この場合あまりよい方向に影響しなかったのである。突如として再燃する眠気。真向かいには、自分の話を不真面目に聴かれることが大嫌いな萩原がマレーシアへの愛を熱く語っている。
しかし頭の奥から沸き上がる衝動には抗えない。ついにウェンディは大口を開け、萩原に向けて大欠伸をぶちかますことになる。


「ふわぁ〜あ!」


《第2話に続く。》
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1719388094&owner_id=35571375

コメント(137)

一気に読んじゃいました!ありがとうございました。一票です。
長い長い長い!おもろかったです( ̄ー ̄)
一票
一票。

一気に読んじゃいました。
和子様に幸あれ
長くて読み切ること何度もあきらめましたが、
ついに完読◎
深いお話でした!
一票♪

ログインすると、残り106件のコメントが見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

日記ロワイアル 更新情報

日記ロワイアルのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。