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日記ロワイアルコミュのほんの些細な非日常

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※少々エログロ描写を含んでいます。


幹夫がその女性に気付いたのはmixiに登録して
1ヶ月程、経過した頃の事だった。

彼女の名前は希美(のぞみ)年齢、職業、住所不詳。
自己紹介のところには、ただ単に「 未亡人です 」とだけ書かれていた。
一見、素気ない彼女のプロフだったが幹夫の気を引いたのはそのトップ画像だった。
黒いワンピースを来て、明らかに自分撮りした写メ・・・
顔こそはっきり写っていないが艶やかな黒髪に隠された端正な輪郭が、
彼女が美人である事を物語っていた。

幹夫は22歳のフリーターで、このmixiが初めてのSNSだった。
登録当初、目についた女性全員に片っ端からマイミク申請を送ってみたが
その多くがけんもほろろに断られた。
どうやらここでは女性は数が少ない分、男性を選り好みする傾向があるらしい。
その失敗を踏まえ、幹夫はとりあえず「 希美 」をマイリストに登録し、
様子を見守ることにしたのであった。

しばらく希美を観察してると彼女のログイン頻度は
マメとは言えないまでも、たまに日記がアップされる事が解った。
日記には文章がほとんどなく写真のみで、その写真の服はいつも同じであった。
背中に赤い菱形模様の入った黒のワンピースでトップ画像と同じ服だった。
薄いワンピースの生地はすぐ下に隠された豊かな女体を浮き彫りにしていた。
露出が高いとは言えない分、男性のあらぬ妄想を掻き立てる要素があるらしく
その日記には精子脳から愚にもつかない一行コメントが付いていた。

ただ希美のマイミクは6人・・・
希美の登録時期から1年経過している事を考えるとこの数はかなり少ない。
少々不思議に思いながらも、幹夫は徐々に希美に対する興味を募らせていった。

ある日、幹夫は勇気を持って希美にマイミク申請を出してみる事にした。
希美の日記には何度かコメントしたし、
向こうもほぼ毎日こちらの足跡が付いている事は知ってるだろう。
「これでダメなら諦めよう・・・」
幹夫は思い切って「マイミクシィに追加」ボタンを押した。

意外にも幹夫の申請はすぐに承認され希美のマイミクは1人増えて7人になった。
彼女のマイミクになって初めて解ったことが有る。
彼女はマイミク限定日記も書いていて、そこには彼女の全裸画像があったのだ。

白い透き通るような肌に控えめでちょこんと上を向いた乳房。
女性らしい丸みを帯びた曲線にすらりと伸びた手足。
彼女の肢体はモデル顔負けで息を飲むほど美しかった。

幹夫は他のマイミクにジェラシーを感じ、他の6人のアカウントを踏んでみた。
ただ踏んでみて驚いたのだが
6人が6人とも典型的な精子脳で日記もろくに書いていなかった。
更に、皆このSNSに飽きてしまったのか、
全員「最終ログイン3日以上」になっていたのだった。
つまり今この希美の全裸画像を見ているのは幹夫一人だけという事になる。
幹夫は少なからぬ優越感に浸りながら希美の全裸を思う存分堪能したのだった。

希美のマイミクになって数日後、
幹夫宛に彼女からちょっと信じられないメッセが届いた。
-----------------------------------------------------------------
幹夫さんへ
日付 20●●年●●月●●日 ●●時●●分
差出人 希美

突然のメッセージすいません。
お元気でしょうか?
見ず知らずの貴方に頼める事では無いのを
重々承知でお頼みしたい事が有ります。
非常に厚かましいお願いですが、実は私を抱いて欲しいのです。
------------------------------------------------------------------

幹夫は一瞬、そこに書かれた文面が理解できなかった。
しばらくして文面こそ理解できたが、その内容が現実のものと思えなかった。

「 あの美しい未亡人を抱ける・・・・ 」
幹夫は天にも登るような気持ちになり二つ返事でOKした。
その後、幹夫は希美とメッセージをやり取りして逢瀬の詳細を詰めることにした。

その後、分かった事だが希美はかなり辺鄙なところに住んでいて、
幹夫の家からだと電車とバスを乗り継いで半日は掛かる。
幹夫は彼女に都心に出てきてもらいラブホかどこかで落ち合う事を提案した。
しかし彼女は事情が有って自分の家を離れられないらしい。
幹夫は仕方なく彼女の家に出向く事にしたのだった。

逢瀬の当日、幹夫は言われるがまま彼女の住む場所へ向かった。
電車・バスを乗り継ぎ、廻りの風景が鄙びていくに連れ幹夫は段々心細くなって来た。
何か担がれた様な気がしてきたのだ。

最後のバスを降りた幹夫は住所のメモを頼りに彼女の家に向かった。
そこには延々と田園風景が広がっていて携帯も圏外だった。
30分ほど歩きようやく彼女の家に辿り着いた。
彼女の家は田舎の旧家と言った感じの戸建の平屋で、
少なくとも100m四方には一軒の家も無かった。

「・・・ここか?」
門扉には「深山」と書かれた表札が掛かっていた。
「 深山希美(みやま のぞみ) 」それが希美のフルネームだった。
幹夫は震える指で門扉に有るドアフォンを押した。

「はーーい」
やがて間延びした声がしたかと思うと玄関扉が開いて中から女性が出てきた。
(希美だ!・・・間違いない!!)
彼女はいつものように赤いひし形模様の有る黒いワンピースを着ていた。
濡れた様な黒い髪に深い知性を感じさせる瞳。
優しげで端正な面立ちにワンピース越しでも解るしなやかな肢体。
間近で見る希美はまさに男性の欲望が具現化した様な理想の女性だった。

「どうぞ、お上がりになって下さい。」
希美は幹夫を見るなり警戒するそぶりも見せず家の中に招き入れた。

「し、失礼します。」
幹夫は震える声で応えながらも希美の家に足を踏み入れたのだった。
希美の家に通された幹夫はまず居間に案内された。
居間は座布団とちゃぶ台があるだけの殺風景な部屋で不思議と生活感がない。
ちゃぶ台を挟んで、幹夫は希美と向かい合って座った。

「ごめんなさいね、こんな辺鄙な所まで来させてしまって。」
希美はちゃぶ台におかれた湯呑に、お茶を注ぎながら言った。

「いいえ、お構いなく・・・どうせ暇な身ですから。」
幹夫は即座にもらった湯呑に口をつけた。緊張でノドがカラカラだったのだ。

「こういう事、よくやられるんですか?」
幹夫は希美に会ったら先ず聞こうと思っていた素朴な疑問を口にした。

「ええ、こんな辺鄙なところに一人で住んでいると
 たまに自分が女である事を忘れそうになるんですよ。」

「そんな!希美さんみたいに綺麗な女性、僕は生まれて初めて見ましたよ」

「本当ですか!?お世辞でも嬉しいです。」希美の表情が嬉しそうに輝くのが解った。

「本当です!!」幹夫の偽らざる本心だった。

「じゃあ言葉では無く・・それを身体で証明してくれますか?」
希美はそう言ったかと思うとワンピースの肩紐をするりと外した。
その瞬間、彼女の着ていたワンピースがストンと足元に落ち彼女の白い裸が露になった。
彼女はワンピースの下に何も着ていなかったのだ
一瞬にしてな欲望が跳ね上がり幹夫は希美に襲い掛かった。
無理矢理、唇を奪うとその控えめな乳房を揉みしだく・・・

「慌てないで。お隣りの寝室にお布団を曳いていますから」
希美はやんわりと幹夫の若い欲望をいなし目線で寝室の襖を示した。
幹夫は希美を抱えたまま、その襖を開けた。
そこは彼女の言うとおり布団が敷かれており幹夫はそこに彼女を横たわらせた。

ただ・・・その瞬間の事だ・・・・・
背後から強烈な複数人の「視線」を感じて幹夫は慌てて後ろを振り返り叫んだ。
「誰だ!?」
しかし予想に反して、そこには壁があるだけだった。
・・・気のせいだろうか?

幹夫は改めて希美に向き直り彼女の肢体を貪り始めた。
最初は優しく段々激しく。
幹夫は童貞でこそ無かったが、それほど経験豊富という訳でも無かった。
そんな幹夫にとって希美の身体は素晴らしかった。
幹夫は希美を抱きながら初めて女性という生き物を知った様な錯覚に陥ったのだった。

嵐のような欲望が過ぎ去ると幹夫はいささか恥ずかしくなり、
照れ隠しに隣で寝ている彼女に話しかけた。

「ねえ、希美さん・・・何か話してみてよ。」

「・・・話ですか?」

「希美さんの話、なんでも良いからさ。」

「私の話なんて退屈だと思いますよ。」

「なんでも良いよ・・・・希美さんの事、もっと知りたいんだ。」

「じゃあ私の故郷にまつわる、ちょっと面白い話をしましょうか?
 少し長くなるけど良いですか?」
 
「構わないよ。」
どうせ明日はバイト休みだし今日は泊めてもらうつもりだったのだ。

「私が生まれたのは、もっと北の方・・・山に囲まれた雪深い村だったんです。」

「へえ、今でもそんな場所があるんだ。」
 
「ええ、その村のハズレには鎮守の森が有って、
 森の中には古びた神社があるんです。
 そしてその社では、ちょっと珍しい神様が祭られていたのです。」

「珍しい神様?」

「そう、蜘蛛の神様ですわ」

「それはちょっと珍しいかも・・・」
御神躰が蛇という話は聞いたことが有るが、蜘蛛というのは初耳だった。

「その蜘蛛の神様はね、崇め称えるだけで
 村の豊作と安全を約束してくれるのです。
 ただその為の代償があって2ヶ月に一度、生贄を捧げる必要が有るんです。」

「生贄って?」

「若い男・・・その蜘蛛の神様は女だったのです」

「おおっ!」

「でね、その村は生贄を捧げる事で何百年も上手くやってきたんです。」

「でも2ヶ月に一人っていったら、年に6人だろ。
 よくその村人はそんなに簡単に生贄を差し出したな・・・」

「それは現代の人の感覚・・・昔はね、もし凶作なんかが起これば
 村の人口なんて簡単に半分くらいまで落ちこんだんですよ。」

「そんなもんか・・」
生返事をしながらも幹夫の心にはある事が引っかかっていた。
1年で6人? どこかで聞いた数だ・・・

「それに生贄として差し出されるのは、
 何も健康な男ばかりとは限らないんです・・
 重い病に冒された男や、大怪我をして助かりそうにない男は
 真っ先に生贄として差し出されたんです。」

「へーーー」

「でも村が近代化するにしたがって、
 だんだんその蜘蛛神は要らなくなってきてしまったのです。」

「えっ、どうして?」

「だって凶作や天災は農業や土木の進歩で防げるようになったし、
 不治の病や大怪我も、医療の進歩で助かるようになってしまった。
 そうなれば、わざわざ生贄を捧げる必要も無くなるでしょ・・・」
希美は少しさびしそうな顔で言った。

「なるほど・・・」

「そしてある日、村人たちはその神社の前に集まって、
 その蜘蛛神が奉られた社に火を放っってしまったんです。
 あろうことか蜘蛛神を焼き殺すために・・・」

「・・・酷い話だな。」

「そう思いますか?幹夫さん?」

「だって今まで散々お世話になった神様なんだろ?
 もっと違うやり方があっても良いのに。」

「でも、逆に言えば、いままで散々生贄を捧げさせられた訳だから、
 村人に恨みが残って当然だと思わないですか?」

「そういう考え方もあるな・・・で、その後、蜘蛛神はどうなったの?」

「・・・社の焼け跡からは何も出てこなかったんです。」

「じゃあ、蜘蛛神は逃げ出したんだ?」

「そう思いますか?」

「もしくは最初っから居なかったか・・・」

「それは無いですよ」

「どうして解るの?」

「だってその蜘蛛神は・・・今ここに居るんですから。」

希美はそう言ったかと思うといきなり幹夫の首筋に噛み付いた。
かまれた場所にチクリとした痛みが走る。

「なっ、何するんだ希美さん!?」

「ごめんなさいね、今あなたの体に毒を注がせてもらいました。
 どうですか?・・・体が動かないでしょ?」
・・・彼女の言うとおりだった、
幹夫の体は首から下がピクリとも動かなくなった。

「じょ、冗談だよね・・希美さん!?」

「冗談では無いですよ・・・
 社を追われた蜘蛛神は自分で生贄を探さなければいけなくなってしまったの。
 幹夫さん・・・貴方は大切な生贄なの。」

希美の目は太古の欲求に突き動かされて怪しく濡れて光っていた。
ただ、そこに湛えられた欲望は性欲ではなく紛れもない食欲だった。
その目を見た時、幹夫は自らの人生の終焉を悟った。
ああ、死ぬ!俺は間違いなく今ここで死ぬんだ!

それは天敵を無くしてしまった人類が、忘れて久しい感覚。
抗えない捕食者に捕まった獲物の感覚だった。

今になって幹夫は初めて、彼女のトップ画像にあった
あの赤い菱形模様のついたワンピースの意味を知った。
「セアカゴケグモ(背赤後家蜘蛛)」
猛毒を持ち、交尾の後に雄を喰らう蜘蛛の名だ。

そして同時にアクセスしなくなった彼女のマイミク6人の運命を知った。
2ヶ月に一人の生贄・・・一年で6人のマイミク
そう・・・彼らは皆、mixiに飽きてログインしなくなった訳ではなかったのだ!
彼女に・・・希美に・・・蜘蛛神に貪り喰われたのだ!!

希美は動かない幹夫の左手を持ち上げると目の前でその中指を口に含んだ。
口中で舌を絡めヌメヌメと中指を嘗め回す。
その艶かしい感覚に幹夫は思わず勃起した。

そして・・・
「カリッ!」
なにやら小枝が折れる様な音がしたかと思うと幹夫の中指が根元から無くなっていた。

希美に食われたのだ。
「わぁーーーーーー!!」
幹夫はものすごいパニックに襲われた!!!
心拍数が跳ね上がり唯一動かせる頭部を無茶苦茶に振り回した。
ただ不思議なことにその傷口からは血がほとんど出ず
白々とした骨がのぞいていた。
そして何より・・・・痛っ、んっ!?痛くない?
そう、本来なら激痛にのたうち回るはずのその傷口は、
不思議なことに痛くも痒くも無かったのだ。

「ええ、安心して。私の毒は体の痛覚を麻痺させるわ。
 だから喰われている間は痛くも痒くもない・・・」

「じゃあ、血が出ないのは何故?」

「私の唾液には強力な止血作用が有るの。
 だから傷口からは血はほとんど出ないわ。」

希美はそう言うと、再び幹夫の右手にしゃぶりついた。
次は人差し指だった。

「カリッ!」
「カリッ!」
「カリッ!」
「カリッ!」

瞬く間に、右手の五指が無くなった。
幹夫は自分の指が齧られていく様子を、
まるでビデオ録画を見るような冷静さで見守った。

指が無くなったあとも、希美の食事は続いた。
そして希美の家に来た1日目で幹夫の右手首から先は完全に無くなっていた。

ただ、本来ならのた打ち回るほどの痛みのはずが、
麻痺毒により痛くも痒くも無い。
幹夫はその無感覚が堪らなく恐ろしかった。

幹夫の右手を平らげた希美はそれで満腹になったのか、
横でスヤスヤと寝息を立てている。
無防備で、あどけない寝顔・・・
ただその正体は、まぎれもない化物なのだ。

幹夫はなんとか逃げ出そうと、身体を動かす事を試みた。
しかし努力の甲斐もむなしく首から下はピクリとも動かなかった。

翌日、目を覚ました彼女は、
昨日の続きで幹夫の右手を喰らいはじめた。
そして肘から上が無くなった時点で希美は再び眠りについた。

その日からしばらくはある意味、判を押した様な毎日が続いた。
希美は起きている間、幹夫の身体を食らい続けた。

幹夫は彼女が寝入った後、なんとか逃げ出そうと毎晩必死で足掻いたが、
相変わらず首から下はピクリとも動かなかった。
そんな幹夫を希美は愛撫する様な優しさでひたすら食らい続けたのだった。
4日目で幹夫の右手が肩口から無くなり彼女は左手を食らい出した。
そして10日目で左手が完全に無くなった。

両手を失った晩、幹夫は自らの余命についてボンヤリと考えてみた・・・
生贄は2ヶ月に1人。
つまり最長で2ヶ月掛けて食われる事になる。
もちろんその最終日まで生きている事はあり得ないだろうから、
どこかの時点で幹夫は絶命することになる。
自分はあと何日くらい生きられるのだろう?
いや、あと何日くらい「 まだ生きたい 」と思えるのだろう。
日に日に削られていく我が身を愛しむように幹夫は眠りについた。

・・・20日目になって両足が無くなった時、
幹夫はその後の人生を完全に諦めた。
「頼むから一思いに殺ってくれ」
幹夫は涙ながらに希美に訴えた。

「それは出来ないんです。
 殺してしまえば肉が腐っちゃいますから、
 貴方には出来るだけ長く生きといてもらわないと・・・」
 
世にも恐ろしいセリフを希美はサラッと口にした。

そういえば、ある種の蜘蛛は獲物を毒針で麻痺させた後、
その獲物の腹の上に卵を産みつけるが、そこから孵化した幼虫は
獲物がなるべく死なないような食べ方をするそうだ。
まずは脂肪や筋繊維、それから消化器や生殖器、そして最後に内臓を・・・
まるで生きながら腸を炙る中世の拷問の様に。

傷口は相変わらず痛くも痒くもなく血も出なかった。
痛みが有ればショック死出来るし、
血が出れば止血死できるが、そのどちらも無いのなら死に様がない。

30日目になり、いよいよ胸の肉が齧られ内臓が見えてきた。
自分の内臓が丸見えになるとというのはとてもシュールな光景だ。
いっそ笑ってしまうくらいの恐怖の中で、
幹夫の興味は「 自分の死 」に向けられた。
自分が死ぬのは、肝臓を喰われた時だろうか?腎臓を喰われた時だろうか?
いずれにせよ心臓が喰われたら終わりだろう。
幹夫はその日を今か今かと待ちわびた・・・

そして、40日目になってついに希美は幹夫の内臓を食べ始めた・・
最初は腎臓だった。
内臓というのは生き物の中で一番美味な部分らしい。

希美は
「美味しい・・・美味しい・・・」
と言いながら幹夫の内臓を貪り続けた。
その頬には涙が伝っていた・・・
泣きならがら自分の内臓を喰らう希美を幹夫は美しいとすら思えた。

ちょっと前、幹夫にも同じ様な経験がある。
生活費をパチスロでスってしまい、丸3日ほど絶食したのだ。
その後、なんとかバイトの金が入ったので幹夫は吉野家で空腹を満たした。

あの時の特盛は食ってて涙が出たな・・・
ただ、あの時俺が食べたのは決して牛の肉なんかじゃない、
きっと牛の命そのものだったんだ。
もう、希美に対して何の憎しみも涌いてこなくなった。
それどころか自分の身体がこの美しくも悲しい化物の血肉に
変わることが誇らしくさえあった。

幹夫の腎臓は2つとも、希美によって貪り喰われた。
驚いたことに、幹夫はまだ死ななかった。
次に希美は幹夫の肝臓を貪りだした。
やがて肝臓も無くなったが幹夫は何故か死ななかった。
ここにきて初めて幹夫は自らの生を疑問視した。
肝臓も腎臓も人体の急所だ。
それが全部なくなって人が生きているというのがあり得るだろうか?

やがて希美は幹夫の心臓を食い始めた。
ただ心臓が無くなっても幹夫は死ななかった。
その時になって初めて幹夫は真実に気づき思わず笑い転げそうになった。

「 なんだ俺は・・・もうとっくに死んでいたんだ。」

完全に死んだのはいつだろうか?
両腕を喰われた時だろうか、両足を喰われた時だろうか?
ひょっとして希美に首筋を噛まれた時かも知れない。
彼女が殺さないと言ったのは、きっと自分が生きていると信じこませ、
新鮮な肉を喰らうための方便なのだろう。

50日目になって、幹夫はとうとう首だけになった。
そのころから彼女は少しずつ幹夫に飽きはじめたらしく、
寝室に置いてあるノートPCに向かうことが多くなっていた。
幹夫がふとした拍子に覗き見たそのPCによると、
彼女のマイミクは8人になっていた。
どうやら次の生贄が見つかったようだ。

彼女は幹夫の頬肉を喰らい、耳を喰らい、
鼻を喰らい、やがて脳を喰らい始めた。
そして55日目になってようやく幹夫の肉体は跡形もなくなった。
幹夫は己の肉体から開放され、魂だけの存在になったのだ。

その時になって初めて、幹夫は寝室の向こう側で、
こちらをじっと見ている「 何か 」の存在に気付いた。

間違いない!

それは幹夫と同じく魂だけの存在になった6人のマイミク達だった。
ああ、この部屋に入った時に感じた「 視線 」の正体はこれだったんだ。
幹夫は彼らの方向にゆらゆらと漂って行った。

「ようこそ、初めまして!新入り君!!」
彼らの中の一人が言った。

「初めまして、幹夫と言います。」

「君のことは知ってるよ。
 たまに希美のPCを覗いていたからね。」
 
「この度はご愁傷さまでした。」
彼らの中の1人が言ったジョークに幹夫は思わず吹き出していた。
彼らもよほどそれが可笑しいらしく腹を抱えて大笑いしている。

・・・いい連中だな、幹夫は思った。

幹夫たちはお互いに自己紹介をした。
何人かは日記で顔を知っていたし、
期間は短くても同じ女を愛した男たちの間には、
何か目に見えない連帯感のようなものが存在した。

やがて話題は希美の事になった。
驚いたことに、ここに集まった7人は誰一人として、
自らを殺めた彼女の事を恨んではいなかった。

「彼女、いったい何者だと思う?」
幹夫は喰われている間ずっと脳裏に抱いていた疑問を皆に振ってみた。

「クトゥルフ神話って知ってます?
 ハワード・フィリップス・ラヴクラフトという
 19世紀の怪奇小説家の創作神話なんですが、
 その神話の中で『アトラク=ナクア』という蜘蛛の神様が出てくるんですよ。
 僕、実は彼女がその『アトラク=ナクア』じゃないのかなと思ってるんですよ。」
メガネを掛けている一番年長の男が言った。

「それってどんな神様なの?」
幹夫は更に突っ込んで聞いてみた。

「『アトラク=ナクア 』は広大な深淵に巨大な巣をはりつつ、
 無限の幽閉期間を送っている蜘蛛の神様なんです。」

「無限の幽閉期間か・・・確かにそうかも知れないね。」
幹夫は彼女の話を思い出していた。
ずっと社に閉じ込められていた彼女・・・
事情が有って家を離れられないと言ってた彼女・・・
そんな彼女が巣を張ったのはWEBという広大で深遠な空間だった。

「一説には『アトラク=ナクア 』の巣が完成した時、
 世界が滅ぶと言われています。
 ただ、僕は違うと思うのです。
 彼女の巣が完成した時、ここにいる僕たちは
 彼女の子供として、新しい世界に再生されるんです。」

「巣が完成した時か・・・・・」
一体、巣の完成にどれだけの時間が掛かるのだろうか?
そして新しい世界とはどんな世界なのか?
彼女の子供?それじゃあ俺は蜘蛛として再生するのか?

「そろそろ8人目のお出ましらしいぜ!!」
ふと誰かがそう言ったので幹夫は空想を中断した。

やがて寝室の扉を開き、素っ裸の希美を抱えた男が入ってきた。
幹夫たちが一斉にそちらに注目すると、
男は「誰だ!!!」と言ってこちらを睨み付けた。

その姿を見て幹夫たち7人は笑い転げ、
決して聞こえない嬌声だけが寝室中に響きわたっていた・・・

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