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日記ロワイアルコミュのメロンソーダ・サマー

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「それ、なんね?」

大好物の粉末メロンソーダを啜っていると、女の子に話しかけられた。









母方の田舎は山形県で、その中でも天童とか蔵王とか、

いわゆる有名な場所ではない。



山の麓にある為か、起伏の激しい、それでも見渡す限り田んぼが広がる、村と言うよりは集落のような場所だった。



この時期、夏休みになると、家族で東京から山形の田舎へ行くのが通例となっていた。

密かな楽しみはサービスエリアで買ってもらうジュースだった。

普段は言ってもなかなか買ってもらえなかったジュース。

それを買ってもらえるだけでも、田舎に行く意味は充分あった。



田舎のばあちゃん家は所謂地主さんで、辺りの家から毎日来客がある。

殆んどの家でスイカを作っているのに、お土産はスイカだ。

ばあちゃん家の倉庫には、スイカが何百個と山積みされていた。



家の脇には小川が流れて、そこから田んぼに水を引いている。

僕らが行く頃には360度、緑の海が広がっていた。







ばあちゃん家の目の前には、神社がある。

神社と言っても、小さな丘の上に立ち、こじんまりとしていて、
人の良さそうな神様が祀ってあるに違いない可愛い神社だった。

そこの周りだけ、やたら背の高いくぬぎの木が密集していて、
夏の太陽の日差しからちょうど神社を守ってくれる格好になっていた。




僕は、なんとなくそこが好きだった。


田舎に来る前にいつも駄菓子屋でまとめ買いしてくる、メロンソーダ。

タバコくらいの大きさのアルミ袋に粉末が入っていて、そこに水を注いで飲むのだ。



神社の階段に腰掛けて、かかとで階段の石を叩きながら、波打つ緑の海と大きな大きな入道雲を眺めて、小さくて細いストローに勢いよく吸いつく。


子どもながらに、至福の時間を感じていた。





ここは豪雪地帯、冬になれば建物の一階部分は雪で埋まってしまう様な所。


だから夏が短かった。


夏休みも東京に比べると2週間も短かった。



その分、夏が凝縮されていた。



花火もなければ、盆踊りもない。


そんな夏でも、毎年絵日記が一杯になるほど僕を楽しませてくれた。









「それ、なんね?」


大好物の粉末メロンソーダを啜っていると、女の子に話しかけられた。



この近辺の子は大体知ってるつもりだったが、その女の子は見た事が無かった。

だって集落みたいな所だ。一番近い信号機まで車で20分は掛かる。

そんな所で知らない子に会う事自体が珍しい事だった。


「これ?・・・メロンソーダだよ。飲む?」


「んだがしたー(そうなんだー)。ちょーだいな」


神社の脇にある地下水をくみ上げるポンプをギコギコ2人で引いて、メロンソーダを作ってあげた。



「はー!しゅわしゅわするねー!」

「うん、しゅわしゅわでしょ?」


決して小綺麗な格好ではないその女の子に好意を抱いて、何個もメロンソーダを作ってあげた。


体育座りで頬杖ついて、美味しそうにメロンソーダを飲んでくれた。


かおり、と言う名前だった。

その日のうちに、カオちゃんとあだ名で呼べるくらい仲良くなった。


「あ、カラの袋どうしようか?」


「神社の下に投げればいいは(捨てたらいいよ)」


そうやって、その夏は神社の下にカラの袋が溜まっていった。


お昼過ぎに待ち合わせては、カブトムシを取ったり、鬼ごっこしたり。

神社の中に進入して、木魚で8ビートを奏でたりした。



そんなある夜。

婆ちゃんが言った。

「あん子と遊ばんほうがいいは(あの子と遊んじゃダメだ)」


なんで?


どうして?


聞けば、村のはずれに住んでいる子なのだが両親の素行が悪く、村八分にされているとの事。


まぁ、関係ないやと思ってよく遊んでいた。



周りに住んでいる子ども達は決して入ってくる素振りを見せなかった。




その翌年、またメロンソーダを握り締めて田舎へ向かった。

どこからか、僕が来たと言う噂を聞きつけて、カオは神社で待っていた。



「ひさしぶり!カオちゃん!!」


シシシシシシ!!と彼女は笑うと、僕らは一瞬で一年前に戻れた。




僕は知っていた。

一年前のメロンソーダのカラ袋を放置して、カオが怒られた事。

木魚を叩いていた事で和尚に怒られていた事。


婆ちゃんから聞いた。


でもカオは何も言わず、同じ様に遊んでくれた。

僕は卑怯だったから、カオが何も言わなければいいやと思っていた。




その後の2年間、カオは姿を見せなかった。

僕は理由も聞けず、物足りない田舎の夏を過ごしていた。

きっと、謝らなかった僕に嫌気が差したんだろう。

まぁ、当然と言えば当然だ。








中学生になり、僕は野球部に入った。


夏なんて休みすらない。


高校でも同じく。


大学に入るために浪人し、ようやく手入れたキャンパスライフ。


その生活の中に、田舎の夏が入り込む余地は1ミクロンも無かった。



そのまま社会人になり、気が付けば田舎に15年も行ってない事に。


カオの事なんて、全く。

頭の片隅にすら留まっていなかった。





「あんた。今年の夏は?」


母親に言われた。

25にもなって恥ずかしかったが、野球以外に予定が無い。


つーか、婆ちゃんに会いに行かなきゃと思い、田舎に行く事にした。

15年前に、すごく遠かった田舎は、今となっては簡単に行ける距離だった。



婆ちゃん家に着いて、親戚に挨拶して。

一通り終えて、散歩に出た。


隣近所の友達はもう村を出ていて、残ってるのは2・3人だけだった。


いきなり大人になった者同士だったので会話も弾まず早々と帰ってきた。


婆ちゃん家に入る前に、神社が目についた。

暑い日差しの中を神社に向かって歩く。



「こんなに小さい神社だったっけか?」



あの時に腰掛けてメロンソーダを飲んだ階段は、明らかに幅が狭くなっている様に見えた。


今はそこでタバコを吸っている。


妙な感じだ。



「・・・・・・・・・・あ!!」

そこでやっとカオの事を思い出した。


後ろを振り返る。


そこにカオがいるわけないのに。



シシシシシシシと笑い声が聞こえた気がした。




「おーい!!」



母親が呼んでいる。


婆ちゃん家に戻るなり、母親がスーツに着替えていた。



「どこに行くんだよ?」



「え?・・・・・・・・ええ?・・・あんたに言ってなかったっけ?」



田舎に行くとしか聞いてませんが。




「結婚式よ!!!!」



「誰の?!」






「カオちゃんの!!!!」



「はぁ!?・・・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!???」


もう、どっきり大成功みたいな顔しちゃったよ。

つーかスーツ持って来てないしね!!




ここの風習では村全員を結婚式に呼ぶのだそうだ。

それは孫ろうが甥っ子だろうが関係なく。

生きている中で関わりのあった村住民関連全員だ。


新婦、つまりカオは、誰が来るかなんて、全員は把握していない。

いや、出来ていない。





「おかん!!!!カオは俺来てるのは知ってるの?」

「知るわけ無いでしょ!!」



ぐはー。


まぁ、行くしかないか。



覚えているかも知れないし。・・・ないか。



少し市内寄りの結婚式場に着いた。


私服で目立ちすぎるので、式はパスして披露宴からの参加にしてもらった。


だって、ジーンズのハーパンに半袖のラモーンズTシャツだぜ。


どんな知り合いだ。


披露宴までの時間に、近所に住んでいた野郎連中が俺に気づいた。


「あんれー!!!夏音だがしたー!!!(夏音じゃないか!!!)」


もう、おまえらわかんねー。


誰と誰だ!?




そんなこんなで披露宴。


実に15年ぶりにカオを見る事になった。



会場には100人近い人。


一応、端っこの親戚席に着いた。

どうやら、俺とカオは遠い親戚らしい。


そんなことすら知らなかった。



重そうな扉が開き、新郎新婦が入場して来た。


真っ白なドレスに包まれた彼女は、

もう俺の知ってるカオの面影すら残っていない、綺麗で素敵な女性だった。



会場内に拍手が鳴り響く。


各テーブルの間を練り歩くように、2人はゆっくりと進む。


もちろん俺たちのテーブルの前も通り、

明らかに俺と目が合ったが、


その目は『知らない人』を見る目だった。


拍手をしたまま軽く会釈をし、カオも同じ事をした。


そりゃそうだ。


そりゃそうだ。






「なぁ・・オカン、俺が最後に田舎に来た2年間って、カオ遊びに来なかったのって覚えてる?」


「あー。お父さん亡くなったからね。ちょっと引越ししてたみたいよ」



え?!

俺が嫌われたからじゃないの?




「その後、なんでか村に戻りたがって。友達もいないのに変な子だよって皆言ってたね」




ドクンと心臓が鳴った。




「それにあんた!小さい頃から神社に毎年毎年メロンソーダの袋捨てて行ったでしょ。和尚さん怒ってたわよ。」



「・・・・・俺、15年くらい来てないだろ?」




「あ、そうだね。じゃあ誰だろ?」











『ビールの他にお飲み物は何かお持ち致しましょうか?』


式場の係の女性が言った。




「ウィスキーと、水を下さい」




『かしこまりました』









「あ・・・・それと・・・」














新郎新婦席で、シシシシシと笑う面影だけ残っている花嫁に向かって、ゆっくりと俺は歩き出した。










鮮やかな緑色のメロンソーダを両手に持って。

コメント(214)

一票!!

かおちゃんの所に行った、その後が気にはなりますが、この終わり方が素敵なんだと思いました。

少し切なくてでも温くて、心がホンワリしました。
1票
夏の情景がいいすね。
ぼくも西日本で似たような夏休みを過ごしたので、懐かしかった。
むせかえるほどのみどりの情景に、メロンソーダ。

(*´ー`*)

一票です。

一票です
あー切ない夏
ずっと、色褪せない夏

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