ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

日記ロワイアルコミュの涙と笑顔の狭間に

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
舞台は一件のバーを中心に始まった。


冬の冷え込みが厳しい日の店内は、平日のまだ開店直後ということもあり、一組の40歳ほどの夫婦が二人きりだった。


===========================

『………今、なんて??』


私は耳を疑った。


朝、突然話したいことがあるから、オレの行きつけの店に行こうと夫に誘われ、開店直後の店で軽い晩酌をしていた。


夫は、無口ではないが、あまり会話をするタイプではない。


ここ最近に至っては、仕事から帰ると夕飯も食べずに書斎に閉じこもり、たまにフラッと外に散歩に行っていた。


散歩に行く割には、外出するような格好をバシっとキメすぎじゃないかと思っていた。


その夫が、今日に限って好きでも無いスコッチウイスキーを飲み、ほろ酔いになっていた。


会話も弾んだ頃、グラスを置き、突然私にこう切り出した。


オレ、改めて好きな人が出来た。だから、別れてほしい。



何が起きたか分からない私は、飲んでいたカクテルをカウンターに置き、呆然としていた。



意外にも私が口にした言葉は素っ気ないものだった。

『そっか。。。』


実はここに連れてきたのも、マスターが持ってるその娘の写真を見てもらおうと思ってな♪♪



夫から渡された写真には、このバーのカウンターを背景に、私の知らない女性が夫と肩を寄せ合い、幸せそうに写っていた。

なんで、、、こんなもの見せ付けるのよ………!!!私の心を弄んでるの!!!???

腹ワタが煮え繰り返る感覚に襲われたと同時に、深い悲しみが、言いたい事を全て飲み込んでしまった………







次の日、夫は会社を休み、知り合いの弁護士を呼び、離婚調停の手続きを始めた。


でも、私は上の空。


結婚して12年。


あまり良い嫁では無かったのかも知れない。


心臓が弱く、その影響で体力が無いため、夫はいつも気遣ってくれた。


お前は仕事なんかしなくていい。オレがお前の分も稼いでやる!!子どもなんかいらない!お前がいれば充分だ!!


普段は無口なくせに、歯の浮くようなセリフを何度聞いたことか。


でも、私だって専業主婦としての責務は全うした。


家事も不器用ながらこなし、お互いのコミュニケーションだって取り合った。



あなたの言葉は………全てウソだったの?


あなたを信じて12年間、ついてきたのに。。。


気付くと、弁護士が淡々と話す中、私の目は涙で溢れていた。


夫は、そんな私を嘲笑うかのように、、、


ウザイ芝居はやめろ。ヘドが出る。



心に突き刺さった言葉は、もう後戻り出来ないところまで来たんだ、そう実感させられた。



最後に、、、一つだけ、、、



『その女性と出会えて、今は幸せなの?』


夫の顔が見れない………


ああ、、、幸せだよ、、、


そうか………


いつの間にか、自分ではなく、、、全く見知らぬ女性が夫の心を引き離したんだ………


あの夜の散歩も………その人に会うためだったのね………



私は………どうすればいいの??どうやって暮らせばいいの???



あなた無しの生活、、、独りぼっちの生活だなんて………



その出来事から一週間後………私たちは別々の道を進み始めた………


===========================


夫からの慰謝料は週払いで、離婚経験などない私には多いのか少ないのか分からなかったが、女一人で暮らすには充分に余る程だ。



配偶者がいない上、仕事もしていないため、心臓病のための治療費は免除されるし、将来いつ慰謝料が途切れてもいいよう、貯金まで出来ているのだ。


でも、お金じゃ買えない信頼が、一ヶ月前まであったはずなんだ。


心の穴は埋まらない………


そう考えてた、


厳しい冬も終わり、雪解け水が川となって流れ始める時期。


離婚調停を引き受けてくれた、あの人の知り合いでもある弁護士が訪ねてきた。



見るのも嫌だった………



この人も、私とあの人を引き裂いた一人に違いない………



心の中で、涙を貯めつづけた………



お茶を出し、長い沈黙があった後、弁護士の顔をチラリと見る。



なんだろう。上手くいえないけど、弁護士としての顔はしていない。



あの人の、友人………



そう、仲が良い友人の顔になっていた。



悲しそうな、歯痒さが、伝わってきた。



なんとなく、私は会話を切り出した。



あの人は元気??



………彼は………



………………




………亡くなりました………


『…………えっ?』


彼から、弁護士として遺書を。そして………友人として、これを受け取りました。


そう言うと、一枚の茶封筒を私にくれた………


===========================



バーでの出来事の3週間前、オレは仕事中に目眩を起こし、仕事を早引きして病院へ行った。



何でもない、過労だろ。

ったく、こんぐらいで病院なんか行かせやがって。帰ったら心配してた部長や事務員たちに、バーカって罵ってやらあ!



………



………???


『あなた、よくこんな身体で生きていましたね………肝臓ガンがすでに一年近く前に出来ていたんですよ。それが転移して、内蔵系は肺と心臓が辛うじて無事なだけで、手の施しようがないですよ………』


一年………って、、、


半年前の健康診断では何も………


『再診断通知書が届いてたはずですよ。さっき会社の上司の方にも確認しました。あなた、何でもないだろって、上司の目の前で破って捨てたらしいじゃないですか………』


オイオイ………なんだそりゃ………笑い話しにもならねえよ………


『もってあと半年………治療をつづけても、延命にしかならないことは、ご理解下さい。』



………



オレは何が起きたのか分からず、ボーっとした表情で家に戻った。



お帰りなさい



『………ああ………ただ今………』



いつもと変わらない妻の顔



ああ、そうだ


オレ、死んだらコイツ守れないじゃないか………



恥ずかしさも隠してまで言ってきた、歯の浮くようなセリフ………


でも嘘ではないその気持ち………


あーー………オレ………



やっぱり死にたくねえや………


===========================


オレはその日から自分の書斎に閉じこもり、妻に見られないように、現実に引き戻された感情を剥き出しにして、泣き続けた………



ただ、あまり書斎ばかりに閉じこもり過ぎても、優しい妻のことだ。

夜食だコーヒーだと、気遣いまくってくるだろうな………

………ったく………オレ気遣う前に自分の身体に気を配れよ………半年後にオレより先にあの世に行ってたら、笑い飛ばしてやる!



そう思いながらも、妻に涙を見せないため、たまにフラッと散歩に出掛けた。

オレはもうすぐ死ぬ。

ただ、今のままじゃ死ねない………


妻が、どうすれば金銭的に困ることなく、治療も受けながら、一人で生活できるのだろう………


そう思い、オレは携帯をおもむろに開き、友人に電話をかけた。


弁護士の、あいつに………


===========================


なにーーーーーーーーー!!!!???



リアクション大好き人間である友人が、予想通りのアクションをしてみせた。

ったく、コイツは。

法廷でこんな顔と声で威圧されたら、被疑者や検察もたまったもんじゃないだろ。



『うるさい。で、お前に相談がある』


オレはお前の妻と再婚する気はないぞ!!!



………


本当に良かった。コイツが天然キャラで。


40過ぎたヤローが友人で弁護士でこんなキャラじゃあなけりゃ、もっと辛気臭い話し合いになるだろうからな。コイツに話してホントに正解だ。



『ちげーよ、バカ。弁護士として依頼したいことと、聞きたいことがあるんだよ。』


まいどありがとうございますニャン♪


うん、やっぱり人選を間違えたようだ。


んで、聞きたいこととは??


『まず、金のことだ。はっきり言って、妻を不満にさせないためにもオレはがむしゃらに働いてきたから、かなりの財産がある。』


ふむふむ、大体分かった。相続税のことだな。


『ああ。しかもあと一ヶ月もしたら退職するつもりでもいる。その時の退職金も財産に入るなら、かなり現状が悪くなる。死亡保険金も上乗せされたらハッピーターンだ。そこで、今の財産をそっくりとまでは行かないが、出来るだけ多く遺してやりたい。』


………弁護士としてではなく、友人として聞いてほしい………色々事情があるからな………


『ああ………』


………まず、別れろ。



『!!!』



すると、淡々と内容を話してくれた。



今持っている、土地、家、預貯金は慰謝料として全て明け渡す。

慰謝料に税金はかからない。

保険に関しては、自分が受け取るタイプにすると、妻に渡すとき財産相続になるため、受け取り名義人を妻の名前にすること。

これは財産相続にならないため、相続税はかからないらしい。

さらに、治療費の問題は、『独身で低所得、働こうにも心身の疾病を患い働けない』という条件をクリアしているため、自己負担金はゼロに等しくなる。



ただし、慰謝料を丸々明け渡すには、『自己理由による相手への負担度』が基準にもなるため、死ぬから別れてくれといわれても、全額渡せる訳ではない。

つまり、嘘をついてでも自分勝手な理由でなければならないのだ。



………嘘………か………



オレは現代には珍しい、頑固オヤジタイプだ。


別の言い方をすれば、感情表現は猪突猛進だ。



そんなオレに、嘘をつけと???



すると、奴は言った。


あー。あと、いきなり明日に切り出すとか、やめとけよ。

そんな一発でバレるような嘘なんか必要ないからな。



友人と別れた後、自分なりに計画を打ち立てた。



医者は持って半年と言ってた。



勝負は三ヶ月の準備だ。




オレはまず、生活スタイルを変えた。


わざわざ仕事の帰りに、無理矢理バーに寄っては苦手な酒を飲み、コミュニケーション下手ながらもマスターと仲良くなった。

そしてマスターに頼み、マスターの知り合いの女性とのツーショット写真を撮ってもらい、いつか、その写真を利用し、妻を連れて辛気臭い話しをするだろうけど、許してくれと、前もって言った。


次は別れの切り出し方……だ。


浮気………か………


でも………


浮気って、どうやれば表せるんだ??


………



………よし。



これから週に3度ほど、帰宅後にメシも食わず、スーツで散歩してやろう。



さすがに何ヶ月かやってたら疑い始めるだろう。



あとは、仕事だ。

絶対まだ死ねない。

絶対まだ辞められない。


限界ギリギリまでやってやる!!!

退職金を慰謝料として渡せば、ダイジョブ。経費はかからない。


………これで………



あいつを死ぬまで面倒見てくれる奴がいれば………悔いもないのにな………


………いや、泣いてる場合じゃねえ!!後輩に仕事を引き継ぐつもりで、頑張らなくちゃな!!




その日から、今まで以上のストレスと、いつ症状が出てもおかしくない病気に怯えた生活が始まった。



そして………あのバーで話し合う3日前………


毎日のように吐いていた血が、どす黒く変色してしまった。。。


心臓に転移し、もう長くない事を知らせる、身体からの警報だった。



その翌々日、残業を全て片付け終わった夜………



部長の机にそっと辞表をだし、私物を紙袋にほうり込んで、会社を後にした。


社長秘書には、すでに説明済みだ。何かあれば、アイツと友人の弁護士が片をつけてくれる。



…………あ…………


遺書かいとかなきゃ。


退職金が中途半端に残った状態では死ねないからな。



さあ………それも済んだら………………



最後の大仕事だ………



大好きな妻が最も嫌う、最悪な嘘をつかなきゃな!



…………



嫌だな………アイツの涙を見るのは………



死にたくねえよ………



なんで、今なんだよ………



アイツの笑顔をまだまだ見ていたい………!!!

アイツの悲しむ涙を見たくない!!!



………………



やっぱり、笑顔でいて欲しい!!


自分の素直な気持ちを、手紙として遺しとこう!!

まあ遺書と一緒にアイツに頼めばいいかな。

それから、オレは便箋に自分の思いを書きはじめた………

『まず、お前に謝りたい。こんな形でしか、方法を見つけることが出来ないオレを、心底蔑んでくれ。

バーでの出来事、写真はデタラメだけど、お前に言った‘好きな人が出来たから別れてくれ’って言葉は真実だよ。

オレは死と向き合った時、改めて気付いたんだ。

お前が好きだ………ってね。

そりゃあ、家事は得意とも言えないし、身体の怠い日なんか一日中寝てるなんてこともあった。

でもな………

オレの話しを聞いてくれてる時の、お前の笑顔。

その笑顔のためだったら、全財産を捧げてもいいって感じれた。

お前の笑顔は、オレの財産だ。

その財産を、決して涙なんかで消さないでほしい。

あと、オレからの、最後の願いだ。

先にエンマ様に嘘つきってことで怒られに行くけど、もし、またあの世で会えたら………

もう一回プロポーズさせてくれよな!!お前をバツイチにしちゃったこと、かなり後悔してるんだから!!

涙を笑顔に変えて生きる姿を、草場の陰からストーカーさせていただきます(笑)』


………


………


………さよなら。


そして、ありがとう。


===========================

コメント(409)

ログインすると、残り374件のコメントが見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

日記ロワイアル 更新情報

日記ロワイアルのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。