ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

日記ロワイアルコミュの短い夏休み

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
大学進学をきっかけに、東京に移り住んで10年以上になる。
家族と特別折り合いが悪いわけではないが、なんだかんだで7年前に1度だけ帰省したっきりである。

先週、母親から電話があった。
母方の祖父の13回忌に来い、という内容だった。
父親は電話の後ろで野球を観ていて、時折大声を出していた。
僕は母方の祖父も祖母もあまり記憶がない。
母の実家といえば、とにかくかなりの田舎で、夜が怖く眠れなかった思い出しか残っていない。

ふいに電話がなる。
小学校からの親友。
3年振りに会話をした。
電話を切ってタバコを吸う。

「久しぶりに帰るか・・・」

13回忌の後、親友の結婚式の2次会に顔でも出そう、と思ったからだ。

僕はその晩もウォッカをストレートで飲み眠りについた。


◆◆◆◆◆

朝、起きると、そこは昭和60年だった。

部屋の隅には使わなくなった白黒テレビ。
机の横のランドセル。
1階に降りると、まだ30代の母親。
黒電話。
箱型テレビの「Uチャンネル」。

不思議、というよりも、むしろ長い眠りから覚めたような感覚だった。

人生は大小含めて「選択」の連続。
「岐路」の連鎖。

あの時、僕はどうしただろう?

◆◆◆◆◆

朝食をとりながら母親が僕に言う。
「あんた、私が今度入院しとる間、山田のおじいちゃんとこに行くね?」

僕は「いかんよ、お父さんがおるならここにおるよ」と言おうとしてとっさに口を塞いだ。

記憶を辿る。
確か来週からの夏休みの間、1週間だけ母親が手術で入院する。
僕は父親と普通に過ごした。それで終わり。確かそうだ。

爺さんのところでぼーっと田舎を満喫するのも悪くはない。
なんとなくそう思った。

◆◆◆◆◆

かろうじてさびれた商店街に辿りつき、バスが来るまでの1時間を本屋で過ごす。
爺さん婆さんの住む「山田」まではさらにバスで1時間。
夕刻の小汚いラーメン屋から野球中継が見えた。
店主は新聞を読んでいる。
吉村がバッターボックスに入ったところで、つい笑ってしまった。
リュックが子供ながらに不快だ。
しかし意外と疲れない。

1人2人と乗客が降り、そこから約30分は運転手と僕だけだ。
夜の車内は黒鏡。
じいっと自分の顔を見てみる。

妙な胸騒ぎと孤独感をのせて、バスは見覚えのある村へと向かった。

◆◆◆◆◆

「タケ坊が来たばーい」婆さんが足をひょこひょこさせながら大声を出した。婆さんが呼ぶと「タケボン」に聞こえる。
僕はつい「爺さん」と言おうとしたが「おじいちゃん、おばあちゃん、こんばんは。よろしくお願いします」と言い直した。

短い夏が始まる。

◆◆◆◆◆

地元じゃないからラジオ体操も行かなくて良い、と思っていたが6時に起こされて一緒に爺さんオリジナルの体操をさせられる。
朝食はご飯に味噌汁。おそらくは僕の存在を意識してハムエッグなんかも作ってくれた。
10時までは宿題をしたり教育番組を見ていた。
「クラさんマーク」を久しぶりに練習した。
宿題といっても簡単だが、理科の問題は意外と忘れていて手ごわい。

爺さんが仕事に行くと出て行った。普通に考えると定年退職しているはずだが何かしら仕事を続けていた事を知った。

お昼までは外を散歩してみた。
近所の駄菓子屋に行き、大人になっても食べられるつい無難なフィリックスガムやうまい棒を食べた。壊れたインベーダゲームはダンボール箱置きになっていた。

◆◆◆◆◆

昔のタモリを見ながら昼は大体そうめん。
ネギとキュウリをトッピングした。

それから昼寝をしてからテレビを見る。
「西遊記」や「一休さん」は懐かしさを超え普通に楽しい。
夜は爺さんと野球を観てから寝る。
相変わらず古時計は怖い。

◆◆◆◆◆

数日してから事件が起きた。
駄菓子屋で2つくらい年上の上級者に絡まれた。
「お前、見らんけどどこん小や?」

体力・筋力は小学生に戻ったが、何せ精神力と頭は違う。

「喧嘩売りよるんか?やるならやるぜ。泣いても親に言わんやろな?」

「何や〜!?」

胸倉を捕まれる瞬間、上級者の鼻っ面に裏拳をかました。
足払いで転ばせて肛門のあたりを蹴り上げて逃げた。


夜、案の定、上級者の親が来た。
爺さんが飲み会で遅かったので、婆さんがどう反応するかと思った。
正直「悪いな」と思っていた。
それが婆さんの強いこと強いこと。

「あんたん息子は年下に喧嘩ばふっかけるんね!!鼻血が出たくらいで親が出てきてどうしますか?」

後で合点がいった。
母親の弟はここいら一番の悪で、こんなのは慣れていたのだ。

騒ぎが収まった後、婆さんが僕に言った。

「あんたは定信によう似とる。気ぃつけんとあげなんなるばい」

定信おじさんは警察を辞めた後、ヤクザになって堅気に戻った後も職を転々としている。

「俺は大学に行ってちゃんと働くけん・・・大丈夫たい」

多分、そうなるはずだ。

◆◆◆◆◆

近所のジャングルジムに登る。体が軽い。
青空はどこまでも広がり、東京では空を見ることがあまりなかった事に気付いた。
ジャンプして飛び降りた時、とっさに股を開いて蟻の行列をかわした。

◆◆◆◆◆

病院の母親からは何度か電話があり会話した。

最後の夜。

爺さんはその日も飲み会があった。夏祭りの話し合いのようだった。
婆さんに爺さんを迎えに行くよう言われた。

数年後に死ぬ爺さんは旨い酒を飲んでいた。
僕が迎えに行って頭を撫でられた時、涙が出そうになった。

帰り道。
手をつないだ。

「お手て〜繋いで〜野道を行けば〜」

そこまでは覚えている。爺さんはさすがだ。

「みんな〜 可愛い小鳥になって〜 唄をうたえば靴が鳴る〜」

爺さんが立ち止まった。
「おおおっ!タケ坊、あれを見よ!」

僕は指差す方向を見た。
蛍だ。

爺さんが走った。
走って角を降りた。

川から山へと帰る蛍が何千も輝いていた。
山が呼吸するかのように、何千もの蛍が同じタイミングでどくんどくんと光っている。

「蛍はもう終わっとったのに、何でじゃあ」

僕はものすごく神聖なものを見る気持ちで、光のカーテンの幕開けに立っていた。

「こげなこつは30年振りじゃあ」

爺さんは何度も叫んだ。

◆◆◆◆◆

朝、僕はいつものように起きた。
爺さんとオリジナル体操をやった。

朝食を済ませて、帰宅の準備をする。

爺さんも婆さんもバス停まで送ってくれた。
これだけ年が離れていると、あまり会話は弾まない。
一度聞いてみたかった戦争の話をたずねてみた。
爺さんは満州から引き上げてすぐ、婆さんとお見合いした。
婆さんは隣町の工場の娘でお嬢さんだった。
それから子供を4人作った。3番目が僕の母親。
母親が小さい時に死にかけたときは、近くの神社に何度もお詣りに行ったらしい。
その神社の前もさっき通った。

バスが来た。
婆さんは僕に御守りをくれた。
爺さんは肩を叩いた。

「勉強ばちゃんとやって、お母さんば困らせるなよ」

僕の記憶が確かなら、高校受験に合格した時にもう一度遊びに来ていた。
しかしその時は爺さんは足を悪くして歩けなくなっていた。

バスが見えなくなるまで、二人は手を振ってくれた。
最後に爺さんの背中が見えた時、涙が出た。



◆◆◆◆◆



朝、僕はいつものように起きた。
そして爺さんのオリジナル体操をやった。


平成21年だ。
不思議、というよりも、むしろ長い眠りから覚めたような感覚だった。

短い夏休みを終えた僕は、ワイシャツに袖を通した。


遅れてでも良い。

今度の13回忌は墓参りに行こう。



(了)

コメント(109)

遠い記憶のじぃちゃんとばぁちゃんに会いたくなりましたほっとした顔ダッシュ(走り出す様)
一票クローバー
おじいちゃん、おばあちゃんにもう一度逢いたいです。

一票
私は祖父母に対して(母方も父方も)いい思い出がありません。うらやましいです。
一票

ログインすると、残り82件のコメントが見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

日記ロワイアル 更新情報

日記ロワイアルのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。