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日記ロワイアルコミュの人間の王

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「あーぁ、つまらね」

と思わず誰もいないバイトの休憩室で口にする。

望月達也。あだ名はモッツィーは、大学を卒業後、就職せずに…いや就職できなかったのでフリーター生活を送っている。

そんなモッツィーの趣味は

寝ること。

ザ☆寝ること。

つまり無趣味であるといっていい。だがしかし最近その至極の一時であるモッツィーの睡眠は、徐々に脅かされつつある。

悪夢である。

最近頻繁に悪夢を見るようになったのだ。バイトで大きなミスをしたり、刑務所に放り込まれたり、失恋したり、拳銃で打たれたり、怪物に食われたり…ありとあらゆる悪夢である。そのバリエーションたるやバービー人形にも匹敵する。モッツィー曰く

「夢ぐらい幸せでいさせてくれ」

状態であった。

そんなある日だった。セールスマンがモッツィーの家に訪ねて来た。

「もしもし、すいません」

「はーい」

と言ってしまった。ドア越しに身形を見てセールスマンだとわかれば居留守を使う術もあったのだが、モッツィーは既にドアを開け返事をしてしまった。

「な、なんでしょうか?」

「わたくしこーいう者でして」

と言うなり名刺を差し出してきた。名刺には

「ライム製薬」

という会社の名前とそのセールスマンの極普通の名前が記されていた。

「はぁ…」

「で、今回はですね望月さんに新薬の御紹介で参りました」

「いえ、結構です。別に何の病気でもないんで…」

「悪夢を見たりしませんか?」

「え…?」

「夢とは訓練と意思の強さによってコントロールすることができます」

「いや…そうらしいですけど…僕はうまくコントロールできなかったですね」

「そこで今回我が社が開発した新薬がコチラになります」

するとセールスマンはおもむろにアタッシュケースから

「ベストミン」

と書かれた小瓶を取り出した。中には液体が入っているようだった。

「このベストミンとはですね、まぁ簡単にいうと好きな夢が見れる睡眠薬になります」

「へ?好きな夢?」

「そうです。訓練も強い意思も必要なくなり、この薬を飲んだだけで夢を自分の思い描くように簡単にコントロールできるようになります。
 さらにそれだけではございません。好きな時間だけ睡眠を取ることができます。つまり、ちょっと昼寝したいと言う時でも寝過ぎず、グッスリ眠りたいという時も途中で起きて睡眠を阻害されることもなく、自分が好きな夢を好きなだけ見ることができるのです。」

「ほぉ、それはすごい」

「今回はですね。貴方にそれをいきなり買えとは申しません。まずはこの『ベストミン』のお試し品を差し上げます。お試し品は一応24時間分となっております。満足して頂き、これからも使用し続けたいと言って頂くならば、こちらに電話を下さい」

セールスマンは手際良くその小さな小さな小瓶を渡すとそうそうに立ち去っていった。

モッツィーはその夜、さっそくその薬を試してみようと思い説明書を読んだ。

コップ一杯つまり200ccの水に専用の小さなスポイトでベストミンを一滴。それを飲んでから5分後に1時間の睡眠をキッチリ取ることができる。

モッツィーは取り敢えず一滴分だけ飲み干した。

約束の5分後に身体が軽くなり、夢の世界に訪れる。

夢はファンシーなものではなかった。

小、中、高、大の同級生が入り乱れていたりしていたが、

基本は日常とはほぼ変わらぬ風景が映し出されていた。

そしてその世界はモッツィーの思うようにコントロールすることができた。夢だったミュージシャンになり、好きなだけ女を抱き、好きな服も買いたい放題だった。

夢も一時間キッカリで覚めた。

「こりゃあ…すごいぞ…」

それからモッツィーが受話器を手にするにはそう時間はかからなかった。

モッツィーは一か月分の「ベストミン」を購入した。

そして購入してからの一か月間はまさに薔薇色だった。

現実では気に食わない奴は夢で殺し、

現実ではフラれてしまった女の子は自分の彼女になり、

現実では嫌われてしまった人からは愛される。

時間も正確である。一時間なら一時間。二時間なら二時間。三時間なら三時間。どんな時間に設定しても狂うことはなかった。途中で起きてしまうことも、寝過ぎることもなかった。





しかし、その時間の後は目が覚める。幸せなのは夢の中だけの話であった。

目が覚めて、一歩自分の家を出ればとてつもない重力によって心も身体も地を這いつくばった。

モッツィーは一か月の間度々思うことがあった。



(夢が現実だったら良いのにな…)




ある日

モッツィーはローンを組んで大量のベストミンを購入した。

200ccの水に小さなスポイト一滴で一時間の睡眠。

モッツィーはそのベストミンを丼に次々に開け、5分間でできるだけ飲んだ。

そう、モッツィーは


夢の世界の方を現実にしようとしたのだった。






「局長、No,0206の望月達也が、265000時間分のベストミンを購入致しました」

「なに!?」

「連続投与で約30年と3か月分となります」

「30年…」

「…」

「よし、望月達也をマークしておけ」











5分後、俺は大学生だった。キャンパスに通う普通の大学生。それはハッキリとした夢だった。

いや

これからこの世界が俺の現実となる。俺の人生となる。

まず、俺は大学生の時にフラれてしまった女の子を彼女にする。彼女は俺にメロメロである。

「好き!!大好き!!」

と言って向こうから俺に抱き付いてくる有様である。

次に、俺の音楽的才能は世間に認められ、バンドでメジャーデビューを果たす。大学で俺はチヤホヤされ始める。

そして、メジャー1枚目のCDがいきなりミリオンヒットを叩き出し、俺の財布はパンパンになる。

好きな服、CD、ゲーム、漫画、高級な料理、酒、住まい、車、思い付く全ての欲しいものを片っ端から手に入れ始める。
日本で様々なミュージシャンとステージの上で共演を果たし、メディアの露出も増える。俺はそこで出会った複数の女優、アイドル、グラビアアイドル、アナウンサー、歌手と同時に付き合う。

次いで海外デビューを果たす、海外での評判も天下を取り。海外でも俺はモテにモテまくる。世界各国に女を作ってゆく。

街をあるけばチヤホヤされ、幾多の女を抱き、幾多の物欲を満たし、幾多の自己顕示欲も満たした。

そして政治にも若干の興味があった俺は日本の政治家となり多大な活躍を見せる。ついに民主党、自由党などに並び「モッツィー党」ができる。

俺はついに総理大臣となる。俺の活躍により日本は経済的、治安的、文化的にもより良い国となった。

総理大臣になってもまだ支持率は上がり続け、色々あってついには世界統一を成し得た。



俺はとうとう人間の王となった。



世界中の人間は俺のことを愛し、尊敬し、世界中の物は全て俺のものとなった。

俺は幸せだった。

その状態がしばらく続いた、ある日のことだった。



抱いた女に

「俺のことを好きか?」

と尋ねた。女は無論

「はい、大好きです」

と答える。

「何故だ?」

「優しくて、面白くて、格好いいからです」

「そうか…」

俺はその時ふと思った。

一人ぐらい俺のことを嫌いな奴がいてもいいんじゃないかと…

少しぐらい世界で犯罪や、災害が起こってもいいんじゃないかと…

少しぐらい俺は汗をかいて苦労してもいいんじゃないかと…

そうじゃないとつまらない。

俺は少し世界にスパイスを足すつもりで世界の均衡を崩した。が、すぐにそれらは解決する。そう俺がなんとかしようと思った時点で…

俺はより強いスパイスを足すが…また直ぐに解決する。

まるで自分の考えた謎なぞを自分で解くような気持ちである。

「なぁ、お前。俺のこと嫌いになれよ」

「バーカ、お前なんか嫌いだよっ!!バーカ!!」

「そうか…嫌いか…」

想定の範囲内。この世界の限界は俺が思い描ける範疇にある。

「嫌われてる感じもしないな…」

故に言ってみれば自作映画が永遠に続いている状態である。ヒーローが世界を平和にする。それ以降のストーリーは考えられていないように思い付く欲望を一通り叶えるだけ叶えてしまった俺に残されたのは倦怠である。

しかも新しい知識や、新しい漫画、新しい映画、新しい出会い。それらは全て皆無に等しい、新しいとされる知識はうそ八百、新しい漫画と映画は俺の考えうる範疇のもの。出会いは俺の思ったことを話す人間、どこかで見たことある顔、しかもどの国の人間も全員日本語を喋る。

脳内鎖国。自慰行為。

以上の問題点は他の人間ならどうとも思わなかったり、自己暗示でどうともできるのであるのかもしれないが

俺には不可能だった。

そして

どんな欲望も叶うと思っていたこの「ベストミン」だが、絶対に叶うことのできないものをひとつ見つけてしまった。



そう

途中で目を覚ましたくても覚ませないのだ。



俺はいったい後どのぐらい夢を見続けるのであろうか…

これならば、少しばかり辛いことがあっても現実社会を生きた方がマシだった。

そして倦怠した状態で、刻々と時は流れる。

これがこの夢の成れの果てだ。

夢の中ではいったいいくら時間がたったのかは正確にはわからないが…

とにかく果てしなく長い時間が過ぎてゆく…

目が覚めたら浦島太郎状態かもしれん…











重たい瞼を開けると、突然網膜を焼くような光が目に刺さった。

「ま、眩しい…」

「目を覚ましましたか。望月達也さん」

ぼやけた視界からだが、そこにはスーツを着た若い男と顎鬚を生やした男がいるのはわかった。

「こ、ここは…」

「ライム製薬の実験室です」

「お、俺はいったい…どれだけ寝ていたんだ…」



「一週間です」



「へ!?一週間!?」

「そうです」

「確か…もっと薬を飲んだはずだけど…」

「そうです。貴方は265000時間分、つまり30年と3ヶ月分の薬を購入し、その殆どを口に入れた。が、我が社はこういう使い方をする者が現われることを既に予期していたのである。なので専用の解剤も既に用意していたのだ」

「はぁ…」

顎鬚の男が口を開く。

「だが、このような使い方をしたのは君が初めてだった。なので実験の為、一週間放置させてもらった」

「じ、実験?」

「安心して下さい。謝礼金は出ますよ」

「で、一週間の夢はどうだったね?」

「え…」

「率直な感想を聞かせてくれ」

「え…まぁ、最初の方は良かったです」

「最初の方?」

「でも…後はただ退屈でした。全てが上手く行き過ぎるし、それに早く夢から覚めたいと…」

「何故だね?」

「なんていうか…なかなか上手く行かない現実の世界の方がマシな気がしたんです…」

「局長!!」

「うむ、予想通りだな…」

「へ?」

「これで我が社の『ベストミン』が…





現実逃避気味の根性ない若者にも効用があることがわかったな」

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