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日記ロワイアルコミュのすてきなホリディ

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駅前ロータリーの中心にある植え込みが、いつの間にかきらびやかな
イルミネーションに飾られていた。

(そっか…もうすぐクリスマスか…。)

ディスプレイが始まる時期が何だか年々早まってきているように思える。
過ぎていく時間の感覚がずれているのだろうか。
それが、確実に年を取っているということだからなのか、
それとも、抱え込む一人の時間の長さに、だんだん耐えられなくなって
きているからなのか………
そう考えたら、会社帰りに、今、頬に触る12月の夜の空気が、
更に2℃くらい温度を下げた気がした。

改札を出ると、駅の正面から伸びる道には、左右にハンバーガーショップや
レンタルビデオ屋、コンビニエンスストア等が連なり、どの店も競うように
並べたクリスマスツリーが不規則な点滅を繰り返していた。
見入ってしまうと、この独特の季節風に負けてしまいそうで、真っ直ぐに
前だけを見た。

明るい駅前通りを抜けると、そのまま静かな住宅街に続く。地域の自治会か
何かがクリスマス用につけたのか、街路樹には白いLEDライトがささやかな
明かりを灯していた。
駅前の喧騒的な光にも、柔らかい静寂をもらたす白色にも、どちらにも
当てはまれない自分を感じて、私はアパートまでの足を速めた。


彼が転勤してから3年が過ぎた。
今年で4回目の『一人のクリスマス』になりそうだな、と思った。
でも、仕方がない。彼にとって一年で一番忙しい年末に、200kmの道のりを
「帰ってきて。」とは言えない。……そう。たとえ心の中で思ったとしても、
それを口に出すほど幼くはない、今は。

最初のクリスマスの時は、電話口で怒った。年があけたら帰れるから、と
繰り返す彼に納得しながらも言わずにはいられなかったのだ。
「だって、クリスマスなんだよ。」と。

(あれは可哀想だったな…)と、今の私は3年前の彼に同情して苦笑する。
「じゃあ、君が来られないか?」と彼に言われて、こっちも年内一杯は
税務書類の山から逃げられないんだから、と急に小声で言う3年前の私は、
本当に扱いづらい女だったろうな、とつくづく思う。
あの頃の私は、自分に仕方ないことがあるのと同じように、相手にもよんどころ
ない事情があるのだ、と気持ちを折り合わせることが出来なかった。
というより、そんな折り合わせ方を知らなかった。

結局、クリスマスイブは、彼から送られてきたカードを何百回も読んだ。
一語一句を覚えるほど読んだ後、イブの夜を越えて4時間も電話で話した。
今思えば、それはそれで心の内側から暖かくなれた夜だったような気がする。

2度目のクリスマスの時は、彼は本部長推薦で2週間の海外研修に
なってしまったんだっけ。懐かしくて切ない感情が、鼻の奥をツンとさせた。
その年のイブの夜は、電話はなかったがカードが届いた。
摩天楼の写真にキラキラとしたラメがついたカードは、手で触るとザラついて
いて、まるで私の気持ちを振りまいたように思えて、目を通した後すぐに
そのままレターラックに差し込んでしまった。


「こっちもかなり寒いけど、君のほうも風邪なんてひいてないか?」


去年より離れた距離の中では、彼の姿がイメージ出来なかった。
たとえ、感覚的にでも彼の忙しさが届けば落ち着けたのかもしれない。
「見える」悲しみが作るさざ波よりも、「届かない」不安が作り出す
うねりのほうが、感情のやり場のない分、身悶えするような辛さなんだ、と
知った。


「やだなぁ…。」

駅前のイルミネーションを見たせいか、変に感傷的になっている自分に苛立った。

思い出しながら歩いているうちに、アパートを通り過ぎそうになった。
駅から歩いて10分余りのアパートは通勤に便利だが、思い出を振り返るには
短い距離だった。それとも、思い出すことが多すぎたのだろうか。

私は郵便受けからダイレクトメールの束を掴んで2階への階段を上がった。
どこかの部屋から、笑い声とカレーの薫りが洩れてきた。
隣りの新婚夫婦かもしれない。心と体の「空腹感」に小さな溜め息が出た。

「ただいま。」

部屋の電気をつけながら、誰もいない空間に向かって、いつも通り言った。
返事がない寂しさよりも、声を出さない寂しさから逃げる術を覚えてからも
3年だ。


夕食を手早く済ませ、シャワーを浴びた後、着替えたパジャマのボタンが
ひとつ取れているのに気づいた。
裁縫箱から、新しいボタンと針と糸を出そうとして思い返す。
もし、彼のだったら、文句を言いながら脱がせて、すぐボタンを
縫い付けるんだろうな、と思いながら、ボタンホールに人差し指を入れてみる。
かけ違えたボタンなら、はめ直すことは出来るけれど、もし無くしてしまったら
全く同じボタンは二度と手に入らないかもしれない。
そんなことを考えたら、どうしてもボタンを探さなくてはいけない気になった。
脱衣室やキッチンや部屋の中を探し回り、最後にやっとベッドの中で見つけた。
テーブルに置いたボタンは、とてもかけがえのない宝物のように見えてきた。

コンポからは、さっきつけたFM放送が流れている。
手持ちのアルバムは何を聴いても、色々なことを思い出しそうで止めたのだ。
囁くような女性DJがリクエスト曲を紹介している。

“次のリクエストは…ああ、懐かしいですねえ。この曲になります”


去年のクリスマスは大学時代の女友達3人と飲みに行った。
私と同じように遠距離恋愛をしている友人もいれば、数週間前に彼氏と
別れた子もいて、みんなで夜中まで飲みながら、「彼氏のいることの不幸」と
「彼氏がいないことの不幸」を比べあって話したりした。

「どっちにしても、クリスマスに女4人で飲むっていう状況が一番の不幸かな」

そう言って笑いあった。

そういえば、あの時のもう一人の「遠距離恋愛」組から、先月「彼と別れた」と
メールをもらった。

「そっちは大丈夫?もう遠距離歴 長いから平気かな?(苦笑)」

(遠距離歴…って。苦笑したいのは私のほうだわ。)
でも、ぶしつけだが友達ならではの言い回しに救われた部分もあった。

コンポからは、Wham!の『Last Christmas』が流れてきた。
この時期にかかる曲は、何年経っても結局変わらないものだ。
聴きたくもないが、立ち上がってコンポのスイッチを切るのも億劫でそのままに
しておいた。

『結婚は勢いとタイミングだ』と誰かが言っていたが、今の私と彼に
そのタイミングは来るのだろうか、その勢いは戻ってくるのだろうか。

(もう…さすがに疲れちゃったかな?)と自分に訊いてみる。

今も好きで仕方ないのは確かだ。
そして、嫌いになれないままでいるのが苦しいのも確かだ。


今年のクリスマスが会えないようなら……どうしよう。

フッと頭をよぎった言葉に自分がうろたえる。

(どうしよう……って、どうするの?)

私の中の私に問いかけても、もう何も応えない。







携帯が鳴った。表示を見ると、彼からだった。驚いて通話ボタンを押す。

「よかった。捕まった。」

彼の声は弾んでいた。

「今はもう家?」

「うん…どうしたの?」

「実はさ…今年も戻れそうにないんだ、クリスマス頃は。」

神様はあっさりと、私たちの『タイミング』を取り上げてしまったらしい。

「うん……。そっか。仕方ないよ。」

「だからさ…。」

「いいよ。」と私は遮った。年があけたら、という言葉を聞きたくなかった。

「いや、そうじゃなくてさ。」

「なに?」

「だから、早いけど、今日、クリスマスプレゼントを持ってこうと思ってさ。」

「え……今日…って?どういうこと?」

「あと2時間もしないで、そっちの駅に着くから。駅前まで出てこられる?」


頭が混乱する。信じられない。

「ちょっと…待って。どういうこと?」

「今からそっちに写メ送るから。一旦、切るよ。」

「ちょ、ちょっと。写メ…って、何?どういうこと?」

急いでいるのか、電話は一方的に切れてしまった。
あんなに息急く彼は初めてかもしれない。
結局、私は「どういうこと?」しか訊けず、その質問の応えはなかった。

あれこれ悩む暇もなく、彼からメールが届いた。添付写真がついている。
不安と興味が入り交るザワザワした気持ちになりながら、添付写真を開いた。




「………辞令?」


目を凝らして写真を見た。


『上記の者は1月5日付けを以て、東京総支社・企画営業2部へ異動を命じる』


彼の名前が一番上に大きく書いてある。

「…東京総支社?…異動?」

彼が…戻ってくる…?


すぐに電話がかかってきた。

「見たかい?そういうことなんだよ。」

「本当なの?」

「ああ。ずっと希望を出してて。やっと今日正式に辞令が出たんだ。」

私は何も言えなくなった。と同時に、悲しい時だけではなく、嬉し過ぎても
何も言葉が出ないものなんだな、と思った。

「もしもし?もしもし?」

「うん…ごめん。聞いてるよ。」

そう返事をした途端、聞いたことの真実味が増して涙が出てきた。

「とにかく君に知らせたくて。総支社扱いなら、もうこれ以上異動はないよ。」

「そうなんだ?・・・うん。ありがとう。最高のクリスマスプレゼントだよ。」

彼が電話の向こうで、「プレゼントは違うよ。駅までおいで。」と笑った。

「この時を待たせたし、僕も待ってた。」

「え…。」

「いいから。早くおいで。わかったかい?君にして欲しい指輪を持ってきた。」


彼は、今しかない『勢いとタイミング』を掴まえたのだ。


もう涙が止まらなかった。
電話を切った後、私は子供のように思い切り泣いた。

そして、様々な思いが渦巻いた涙の後、「さあ。」とひと声上げた。
待ち合わせに出かける準備をしよう。

いつもは20分で済ませるメイクや身支度に1時間以上かけてから、
立ち上がった時、テーブルの上のボタンが目についた。

私は、決して失くさないようにと、それをそっとポケットにしまった。


部屋のドアを閉める直前に、コンポのスイッチを切り忘れたことに気づいた。

“…さあ、次の曲は…竹内まりやさんのナンバーですね”

「もう…いいや。」

私はコンポをそのままにドアを閉めた。


ドアのすき間から、誰もいなくなった部屋の楽しそうな歌声だけが響いてきた。





        “クリスマスが今年もやって来る

         悲しかった出来事を消し去るように

         さあパジャマを脱いだら出かけよう

         少しずつ白くなる街路樹を駆け抜けて”


コメント(199)


ハッピーエンドでよかった(´;ω;`)

今も好きで仕方ないのは確かだ。
そして、嫌いになれないままでいるのが苦しいのも確かだ。

ここが、胸に来ました。

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