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日記ロワイアルコミュのその男、アルバイトにつき (続・オールマイティー松岡)

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【オールマイティー松岡】の続きです。
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=29773307&comm_id=1841967


どんな仕事もオールマイティーにできます、と大口をたたき、周囲を期待させながら何一つまともにできないという衝撃のデビュー、そして筋肉痛を理由にした涙の引退からわずか2週間、不死鳥の如く松岡さん(43歳)が奇跡の復帰を果たしました。

あんな辞め方をしておきながらノコノコと帰ってくるまでには様々な経緯があったのだろうと思いましたが、理由はただ単に筋肉痛が治ったからというのと、酒・タバコを買う金が無くなったから(主に両親の年金で生活をしているが、酒とタバコ代だけは自分持ち。)というもの。そして、

『リベンジさせてください!どうしてもそちらで働きたいんです!』

という再雇用希望の電話も彼らしい。こちらはいわば被害者であり、復讐なんぞされる筋合いは無い。ほかに言葉を選べなかったのだろうか。ただ、前回は彼の言葉を信じたあまりに期待を裏切られた感でいっぱいだったが、今回は誰一人として期待も信用もしてないので彼にとっての労働条件は良くなったはずだ。


松岡さん復帰初日の朝は、あの日と同じようにシトシトと雨が降っていた。その日の松岡さんは、以前のようにブルブルと震えてはいなかったものの、自転車の脇で頭を抱え込んでいた。あいさつもそこそこに、どうしたんですか、と尋ねると早速の松岡節が炸裂。

『自転車のかごに入れていたお昼御飯のパンを、鳥に持ってかれたんです。ああ。どうしよう。一回帰っていいですか?』

仕事が始まる前からすでにめんどくさい。無くなったなら買えばいいじゃないですか、とマリーアントワネットが言うようなセリフを松岡さんに向けるも、お金を持ってないとのこと。それなら、お金貸しますから、と解決策を提案するも松岡さんは食い下がる。

『お金を借りたり、迷惑をかけることはできないのでやっぱり一回家に帰ってパンを買ってきます。』

鳥にパンを取られて正気ではないのだろう。ここで帰宅の許可を出したらこの男は往復にかかる2時間半は帰ってこないと思ったので、必死に説得した。お金を借りることよりも帰宅される方が迷惑だというのが判断できないのだろうか。

定時になり、仕事を始める。前回までの仕事を完全に忘れてしまってる様子で、またイチから教える羽目に。こんな本返し縫いみたいな仕事では人手を増やした意味がなくなってしまう。そして、今日、仕事を教えたところで、また明日辞めます、では教え甲斐もなくなってしまう。そんな意味合いも込めて、

『もう一回イチから教えるのはいいんですけど、これからもずっと仕事を続けていく気はありますか?』

と確認をした。すると松岡さんは照れ臭そうに言う。

『そうですね。簡単にハイ、とは言い切れません。絶対なんて言葉はありませんし。明日はなにが起こるかわかりませんしね。』

ただ今回の復帰についての決意が聞きたかっただけなのにひどくイライラしてしまった。ここは嘘でも一言“はい”と言っておくべきだろう。40過ぎのおじさんでなければ危うく蹴り飛ばしているところだった。結果的に、彼は年に助けられている。

前回教えた仕事は松岡さんには向いてなかったんだと思い、考えた結果、力はある程度いるものの、一番の単純作業である“梱包した段ボール箱をパレットに積む”という仕事を任せることにした。

『お手本を見せるんで、ちゃんと覚えてくださいね。』

と、40代のおじさんに先輩風を吹かせる俺。段ボール箱のフタを閉め、箱の横にある穴に指を刺し、せっせとパレットに積む。一通りのお手本を見せ、今やったのと同じように動いてください、と松岡さんに指示をした。

おっかなびっくり動き出す松岡さん。箱のフタを閉めるのも箱を持つのも、背中を丸めすぎて作業をしているのと、あまりにも動きが遅いためにクソジジイにしか見えない。目も当てられないほどにひどかったので、俺の見本はそんなジジイみたいでしたか?と、思わず聞いてしまった。

お手本を見せても、アドバイスをしても一向に松岡さんはコツをつかまない。それどころか箱を持ったままフリーズしてしまうことが多くなった。松岡名人、長考に入ります。10秒、20秒、30秒・・・

『ああぁっ!松岡さん動いてください!!』

その声で我に返った様子だった。

『すいません。いろいろ考えてしまって・・・』


これは、考えなければならないほど頭を使う仕事ではない。


『箱の積み方ですか?わからないならちゃんと聞いてくださいね。早めに。』

言葉の最後にスパイスとして嫌味を入れてみたのだが、松岡さんの返事は俺の予想をはるかに越えていて、隠し味は完全に消えた。

『いや、全く仕事とは関係ないことですから心配しないでください。いまから数年前、大腿骨を骨折した時のことを思い出してたんですけどね、うちの近くにあるガストっていうレストラン知ってますか?そこにある、ドリンクバーって施設があるんですけど、ドリンクバーはわかりますか?そこでですね・・・』

本当に仕事と関係ないことだったので、逆に心配もしてしまう。仕事中は仕事のことで悩め。あと、ガストくらい知ってる。ドリンクバーもわかる。

『松岡さん、ちゃんと働いてください!!』


その後も松岡さんの長考は繰り返され、作業の能率は下がり、すでに普段よりも1時間押しの仕事になってしまった。

そんな中、仕事場の前を、こちらをちらちらとのぞき見しながら何往復もしている見慣れない老婆がいることに気づく。最近はこの地域も空き巣や、不審者が増えて物騒になっているので注意して見ていたが、明らかにこちらを気にしている様子だ。あまりにも挙動不審だったので、怪しい人がいるから気を付けてください、と周囲に注意を促した。すると、それを聞いた松岡さんが口を開く。


『あれは母です。』


仕事場の前をうろうろしていたのは松岡さんの母だった。朝、パンを鳥に取られ、帰宅の許可をもらえなかったから仕方なく母に昼飯を持ってきてもらったのだという。おまえは小学生か。

松岡さんは母から手渡されたチョココロネの袋を開けてすぐさま一口食べたが、まだ仕事中であって、昼休みでは無い。あまりにも勝手な行動だったので、40代の男を70代であろう母親の前で叱った。こんな複雑な気持ちになったのは初めてです。

昼休みが終わり、午後の仕事が始まる。仕事場に不自然に用意されたパイプ椅子にはなぜか松岡の母が座り、松岡さんの仕事を見学している。小学校の父兄参観のような空気だ。俺が松岡さんの立場だったらかなり恥ずかしいと思うのだが、本人にそんな気配は感じられない。

そんな母親の手前、できれば松岡さんを叱りたくなかったのだが、午前中に教えた仕事をすべて忘れてしまうという離れ業をやってのけたので、母岡の方をちらちらと気にしながら仕方なく叱咤する。

こんな調子では俺の心と体は持たない。なんとか円滑に仕事を進めたかったので、作業の要点をまとめたメモを松岡さんに渡した。カンニングペーパーのようなもので、次の仕事がわからなくなったら、だれかに怒鳴られる前にこのメモを見てさっと動いてください。わかりましたか?と、力強く念を押した。

松岡さんは特別待遇で、他の人たちよりも3時間早く帰すことに決まった。本人には、松岡さんの年齢、体力を考えてのことだと伝えたが、実際はこれ以上居座られても全く役に立たないからだった。

午後三時、6時間の労働を終え、自転車に乗った松岡さんが帰宅。3時間以上も息子の仕事を見学していた松岡の母も、

『これから、息子をよろしくお願いします。あの子、先々週はただ突っ立ってるだけで金がもらえる、みたいなことを言ってましたけど、意外と結構動くんですね。』

と挨拶をしてバス停に向かった。この息子にこの母あり、といったところか。少しの挨拶の中にもカチンとくる一言をねじ込んでくるあたり、親子としか思えない。


松岡さんが帰ってからおよそ1時間後、普段以上のペースで仕事は進み、なんとか1時間の遅れを取り戻した。そんな折、軽トラックに乗った、だまし絵みたいな顔をしたジジイが訪ねてきた。

『ウチの家内来てるかな?』

こんどは松岡の父が登場した。俺の頭の中のNスタ(脳内スタジアム)のウグイス嬢はピッチャーの交代を告げる。

『ピッチャー、松岡(息子)に代わりまして、松岡(父)』

入来(兄)と入来(弟)が継投するように、入れ替わりで父。

聞けば、家に置き手紙があり“息子の職場にパンを届けます。あなたの仕事が終わり次第、迎えに来てください。”とのことで、奥さんを迎えに来たらしい。

残念ながら奥さまはバスで帰られました、と伝えると彼は、

『あのバカ!自分で置手紙書いといて、俺が迎えに来るの忘れてるんだ。』

と舌打ちをして、笑った。松岡(父)はとても気さくで、仕事中のこちらに気を使いながらおしゃべりを始めた。

『うちのせがれ、ちゃんとやってますか?どこに勤めても全然長続きしなくてね。何年か前、どうしても働いてほしかったから、俺がその時勤めてた会社に頼んで、運転手としてなんとか採用してもらったんだけども、あいつ、ついうっかり免許を更新しにいかなくてね、免許が無いもんだから1か月でクビだったのよ。その時は半ば無理やり採用してもらったから、俺も責任感じて気まずくなっちゃって、自主的に退職することになってね。あいつが全然働かねーもんだから、年金もらえるまでってことで庭の手入れの仕事を始めたんですよ。』

父岡は、俺たちが相槌を打つ間もなくしゃべり続ける。

『あいつ、酒とタバコ代が無いって言ってたでしょ。俺たちの年金を使って買ってやってもいいんだよ?でもね、そうすると、あいつ、全く働かなくなるんだよ。酒とタバコはどうしてもやめらんないみたいでさ。それで釣らないと働けないの。俺も、酒とタバコ好きだったから、止められない気持ちがよくわかるんだよ。でもね、俺が酒とタバコをやりすぎて体を壊したら、うちは破産しちゃって家内もせがれも食いっぱぐれちまうだろ?それで、俺はスパッとやめたわけ。人間はなにか背負うと意志が強くなるよ。俺は70歳過ぎても家族背負ってんだよ。まだ大黒柱なんだよ。全く情けないよ。あいつも48歳になるのに。』

俺たちが作業の手を休めることはなかったが、松岡さんの父の話を聞いてたら、涙が出そうになってしまった。人の家の事情にあれこれ口を出したくないけども、こんなにも素晴らしい父の家族愛に、恩をあだで返すようなことを繰り返す松岡さんに腹が立った。それと同時に、今まで頑張りすぎてきたこの親父さんに一息ついてほしいと思った。そして、松岡さんが5歳ほど年をさば読んでいたのが発覚してしまった。


松岡さんの父が帰ってから1時間後、なぜか松岡さんが自転車に乗って帰ってきた。

『さっきもらったメモを自転車のかごの中に入れておいたら無くしてしまったんです。もう一回書いてもらえますか?』

時計は午後5時15分をさしていた。松岡さんが仕事場をでてから2時間以上。家の近くまで行って引き返してきたことになる。あまりにも引き返してきた理由が小さすぎたのと、親父さんの話を聞いた後だったので、

『甘えんな!!』

と、きつく言い放って門前払いにした。さきほど一気に5歳ほど年をとり、完全に2回り近く年が離れてしまった松岡さんだが、容赦はしなかった。

背中を丸め、しょぼしょぼと自転車を押して帰る松岡さんの姿を見ても心は痛まなかった。これも甘えグセのある松岡さんのため、親父さんのため。そう心を鬼にしてこれから松岡さんと接していこうと決心した。


翌日、定時になっても松岡さんは来なかった。無断欠勤だろうか。9時過ぎに電話が鳴り、受話器を取ると松岡さんだった。


『朝起きたら、やる気がなくなっちゃたんで、やる気がでたら行きます。』


マギー審司の、“耳がおっきくなっちゃった”みたいな言い方で、何倍にも腹が立った。失礼にもほどがある。

『いい加減にしろよ!そんな気持ちなら来るな!普通はクビになるとか思うだろ!?』


午後一時過ぎ、やる気が出たのか松岡さん登場。あまりに腹がたっていたので、俺から話しかけることはせず、無視を決め込んだ。そして、松岡さんからも話しかけられることはなく、彼は仕事もせずにぼーっと立っていた。


3時になり、松岡さんは、“お先に帰ります。”と言って帰って行った。


お先も何もなく、もちろんその日のうちにクビになったが、本人はなぜクビになったのか理由がわからないと言い、翌日の朝も仕事場に来ては幽霊、もしくはドアラのように半日ぼーっと立っていた。

そして今日、松岡さんからの電話。


『立ち仕事がきついので申しわけありませんが辞めます。』



クビになった後に、仕事場に押し掛けてきてただぼーっと立っているのは立ち仕事とは呼びません。立ち怠けです。



さようなら、世界のマツオカさん。1のつく日と、1の倍数の日にやる気が無くなってしまうような方はうちではやっていけません。

ただ一つ、ガストのドリンクバーの話がどう転んで大腿骨骨折の話に繋がっていくのか、忙しくて最後まで聞けなかったことが心残りです。

コメント(263)

ちゃんと働こうと思いましたあせあせ(飛び散る汗)(あ、ニートぢゃないです)

1票
ちゃんと働こうと思いましたあせあせ(飛び散る汗)(あ、ニートぢゃないです)

1票
2年経った今…松岡サンどうなってるんやろあせあせ(飛び散る汗)
父母は??衝撃

一票!ぴかぴか(新しい)
この就職難に…
松岡レジェンドですね
一票
だからなんやねんコイツwww

一票です!!
ホントなんなんですかこの人w
お疲れ様でしたの一票
一票
…お父さんが働けなくなったら大変ですね…
うわあぁぁぁー!

っていう次元の違いに一票です!

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