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日記ロワイアルコミュのオールマイティー松岡

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こんばんわ。左折のウインカーの出しすぎで肩を壊す男、暴君です。


先日、仕事があまりに忙しくなってしまい、今の従業員の数ではとても追いつかないとのことで3年ぶりに新しいバイトさんを雇うことになりました。

先週の日曜に面接をし、なかなかの好印象だったようでさっそくの採用、翌日の月曜からの出勤となりました。


月曜の朝、外はあいにくの雨。今日から新人が来るということもあって、いつもより15分ほど早く仕事場に到着。すると、見慣れない中年男性が仕事場の前で雨に打たれ、傘もささずにブルブルと震えていました。

一目見て新しいバイトさんだとはわかったのだが、なぜこんなにもびしょ濡れになってしまったのだろう。いい大人がそんな震え方をしていたら捨て猫に間違えられてしまい、自動的にこの仕事場は落ち葉に埋もれた空き箱みたいになってしまう。

『おはようございます。』

思い切って声をかけてみると、彼はクリスペプラーばりのいい声で返事をした。

『おはようございます。松岡です。カッパを着ないで自転車で来てしまって・・ハハ。初出勤からこの有様です。おっちょこちょいで。』

可愛い女の子ならおっちょこちょいでも許されるかもしれないが、中年男性のおっちょこちょいは“どんくさい”に言葉が変換されてしまうのが辛い現実だ。

目も当てられないくらいに寒そうにしてたので、あわてて仕事場の鍵を開け、松岡と名乗る男と自転車を仕事場へ招き入れた。

改めて彼の全身に目をやると、海やプールに落ちたんじゃないかと思うほどに乾いた所が無い。このまま琵琶湖の周辺を歩いていたとしたら、間違いなく鳥人間コンテスト後の参加者として労をねぎらわれてしまう事だろう。



仕事の始まる8時までに少し時間があったので、少しの間、びしょびしょの松岡さんとコミュニケーションをとってみることにした。


『ここに来る前はどんな仕事をなされてたんですか?』


『ああ、ここの前も別の場所で同じ仕事をしてました。ちょっとの間でしたが相当にしごかれたんで、オールマイティーに仕事は一通り何でもできますよ。その仕事の前は運転手をしてました。』

どうやら即戦力となってくれそうだ。頼もしい。


『今日は雨の中、自転車ですけどクルマはお持ちじゃ無いんですか?』


少々痛いところをついてしまったかな、と思いつつも興味があったので思い切って聞いてみた。

『ああ、言われると思いました。免許、持ってたんですけどね、更新を忘れて失効してしまったんです。へへ、おっちょこちょいで。』

へへ、じゃない。

車の運転をしてお金をいただく仕事をしていたのに免許を失効してしまうというのは、もはやおっちょこちょいどころのレベルではない。警察官が警察手帳を、風俗嬢が乳首を無くしてしまうよりも事が重大だと思うのだが。この人、大丈夫か・・・?


仕事が始まり、オールマイティーに何でもできると言いきった松岡さんのお手並み拝見となった。

『これはどうやればいいんですか?』
『ここは何センチでやりましょう?』
『このゴミはどこに捨てればいいですか?』


根が完璧主義者なようで、一つ一つの作業をこまめに聞いてくる。なかなか仕事熱心で、期待できそうだ。


『これは前の職場ではこうでした!』
『ここは前の職場では○センチでした!』
『このゴミは前の職場では特に分別してませんでした!』

期待したのもほんのつかの間、前の職場との対比を口にする。そのジレンマからか仕事が全くはかどらず、こちらの指示も全然聞いてくれない。スタートからこの調子で少々呆れていたが、初日だからということもあり、これからのオールマイティーぶりに期待し、大目に見ることにした。


数時間が経過し、しばし小休憩。松岡さんに缶コーヒーとお茶を差し入れる。どちらか好きなほうを選んでくださいと言うも、

『腸がね、僕もよく知らないんですけど、腸がね、なんか、腸がね、よくわかんないんですけど、腸がね、コーヒーとお茶はだめなんです。ビールは4缶までなら平気なんですけどね。腸があれなんでお湯をください。』

と、言葉を返される。ビールを4缶も飲めるようなので、さほど深刻な話ではなさそうだが、腸が大変だという気持ちだけは伝わってきた。

お湯では味気ないだろうと思い、たまたま冷蔵庫に1本だけあったオレンジジュースを手渡す。缶のプルタブをカツカツとめくろうとする松岡さん。首をかしげ、オレンジジュースをこちらに返してきた。

『昨日爪を切ったばかりなんです。開けてもらえませんか?』


男性に頼まれて缶ジュースのふたを開けたのはこれが初めてです。



休憩が終わり、松岡さんが席を立つと、ふわっといい香りがした。女の子特有のシャンプーの残り香と、ヤクザ特有のテロテロの服に染み付いたいい香りを足して、適当な数字で割ったような感じ。

そんなやさしい香りに包まれ、俺のn-pod(脳内)は松任谷由美の“優しさに包まれたなら”が自動再生を始める。

松岡さんは43歳だが、よく見ればなかなかの男前だ。無駄に麻生久美子にも似ている。俺にそっちの気が少しでもあったなら、今の香りを嗅いだ時点で抱かれていただろう。それにしてもいい香りだ。力を抜いて、体を委ねて・・・

はっと正気に戻り、n-podをバールのようなもので壊す。危ないところだった。


休憩後、松岡さんが本領を発揮する。

荷物を積んだ車を、作業する機械にぶつからない程度、ギリギリの所までバックさせるために後ろで見てあげて下さい、と指示をした。

『オーライッ!オーライッ!』

松岡さんはどんくさいが、声はクリスペプラーなので、オーライの声がとても響いて格好いい。

『オーライッ!All,Right!』

えらいネイティブな発音で、近所の人が何事かと思って見学に来るほどだった。

『オーライッ!』

ガシャーン!

『オーライッ!ぶつかってます!ストップ!』

実力の伴わない人間がクリスペプろうとするから、こういう残念な結果になる。


てんやわんやで午前の部が終了。松岡さんの昼飯は、ずぶぬれの自転車のかごの中に入っている見覚えのあるパンの袋。山崎パンのチョコチップスナック(9本入り)だった。値段の割にいっぱい食べた気になるので高校生のころはよく食べてました。

そんな庶民の味方、チョコチップスナックの袋を松岡さんが開けようとした時、何かしらの違和感を感じたので目を凝らしてよくよく見てみた。


すると、残念なことに松岡さんのチョコチップスナックの袋には4本しか入っていなかった。9本入りのはずだが、残りの5本はどこに消えたのだろう。

松岡さんはチョコチップスナック4本を手早く口に詰め、お湯で流し込んだ。2分足らずで松岡さんの食事は終わった。大の大人が2分チャージで何時間キープできるだろうか。

午後の部開始。早々に松岡さんが寒気を訴え始める。聞けば、家からこの仕事場まで、自転車で1時間半かかるという。そんな距離、時間を、雨にうたれながら自転車のペダルをこいだら体調を崩すに決まっている。しかも昼食は五体不満足(五本行方不明)な菓子パン。こんな食生活では栄養もとれない。

少し休みたいとのことなので、

『休みながら俺たちの仕事を見て、ちゃんと動きを覚えてください。』

と、言った。甘やかしすぎかとも思うが、風邪をひかれても困るので、明日以降を見据えて早退させることにもなった。もちろん1時間半かけて自転車をこいでの帰宅。急いで帰りたかったからなのか“お先に帰ります”の一言も無く、さらには、びしょ濡れになって干してあったトレーナーを忘れて行った。

結局、初日は最初から最後まで見せ場がなく、2分チャージ30分キープくらいの結果となった。

しかし、毎日3時間のサイクリング+実質9時間の労働、今日は体調を崩してしまったがこれを承知で面接に来たのだからかなりのタフガイなのだろう。根も真面目そうで、1か月もすれば半人前くらいにはなって、仕事を助けてくれるだろう。少しは俺の仕事も楽になるかな・・・


そんなことを思った矢先、その翌々日の早朝に松岡さんから電話があり、

『体力の限界なのでバイトを辞めます。』

とのこと。千代の富士の引退式じゃねえんだから。


あの日仕事場に置き忘れていった、松岡さんのびしょびしょになったいい匂いのする服は、裁ちばさみでバラバラに切り刻まれ、鳩の糞を処理するための雑巾として、テーブルを拭くための雑巾として、車を磨くための雑巾として、松岡さん以上にオールマイティーに活用されています。

コメント(215)

チョコチップ…まだ、食べてます。
38才

一票
始まりの文で心を掴まれました(笑)

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