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備後の歴史を歩くコミュの梅原猛 新著「葬られた王朝」

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 岡山と広島県東部は、古、吉備と称した。山陽新聞社は昭和54年(1979)1月4日に創刊100周年を迎え、その記念に「古代吉備国論争」という文化事業を開催した。文献史学、考古学、民俗学、文学、文化人類学、哲学の各分野で活躍していた当時の日本を代表する研究者が岡山に参集し、シンポジウムや基調講演会が繰り広げられ、その内容は「古代吉備国論争・上下巻」に収録され、上巻が昭和54年7月11日、下巻は昭和54年12月3日に発行された。

内容
上巻
?対談「花咲いた古代吉備」 林屋辰三郎・司馬遼太郎
?対談「古代吉備国論争の意義」 池田彌三郎・上田正昭
?シンポジウム「古代吉備を語る」司会 林屋辰三郎
基調講演 井上光貞・上田正昭・江上波夫・鳥越憲三郎
?講演会「伝承の世界」
講演者 大林太良・土橋寛・池田彌三郎
?講演会「吉備と出雲と大和」
講演者 水野祐・上田正昭・梅原猛

下巻
?講演会「吉備の英雄達」
講演者 平野邦雄・岸俊男・谷川徹三
?シンポジウム「吉備王国論」司会 井上光貞
基調講演 林屋辰三郎・門脇禎二・坪井清足・直木孝次郎
?シンポジウム「考古学からみた吉備」司会 片山新助
基調講演 鎌木義昌・近藤義郎・坪井清足
?論争を終えて「吉備古代史の重み」上田正昭

 今から31年も前の講演会の記録であるが、いまだに読み応えがある。中には昭和54年以降今日までに、新たな遺跡の発見により、それまでの説を根幹から検討し直さなければならなくなった人もいる。この時の講演者達はその間にほとんどが亡くなられた。岡山大学で活躍され、古墳の発掘で映画にもなった近藤義郎教授も 昨年2009年4月5日に84才で亡くなられたのは記憶に新しい。

 第5回講演会「吉備と出雲と大和」で梅原猛氏は、神話はあっても遺跡のでない出雲を称して結びで次のように語られている。「出雲族が昔おり、大和族と対抗するぐらいの力を持っていたというが、実はそんなものはない。全部幻想である。それぐらいの幻想を持たせるほど、彼ら(出雲神話の創作者・藤原氏)は上手なイデオロギーを使ったといえます。これがやっと千何百年もの後に梅原猛によって見破られた」と豪語されている。

 ところが、昭和59年(1984)に島根県簸川郡斐川町大字神庭で荒神谷遺跡が発見され、それまでに日本全国から発掘された銅剣総数を上回る358本もの銅剣と16本の銅矛、6コの銅鐸がそこから出土した。さらに平成8年(1996)には島根県雲南市加茂町岩倉で加茂岩倉遺跡が発見され、ここから39コの銅鐸が出土した。併せて四隅突出型墳丘墓を始め、鳥取県では吉野ヶ里遺跡を遥かにしのぐ面積を有する妻木晩田(むきばんだ)遺跡なども発見され、出雲から鳥取にかけて山陰の巨大な弥生集落の存在を証明する遺跡が次々と発掘されていった。これに対して未だご存命の梅原氏はどのように反論されるのだろうか。


 今年2010年4月25日に梅原猛氏は「葬られた王朝 古代出雲の謎を解く」と題された新刊を発行された。冒頭で「私は40年ほど前、『神々の流竄』という本を書いた。そこで「出雲神話なるものは、大和に伝わった神話を出雲に仮託したものである」と論じた。・・・中略・・・もしも記紀が語るような壮大な出雲王国というものが存在していたとすれば、その神話を裏づける考古学的遺跡が存在しなければならない。しかし、40年ほど前までは、出雲にそのような遺跡は存在しないと考えられていた・・・中略・・・これらのこと(荒神谷・加茂岩倉遺跡の発見)を考慮すれば、出雲には壮大な神話にふさわしい考古学的遺跡はないという通説は木っ端微塵に粉砕される。とすれば、我々は学問的良心を持つ限り、出雲神話は全くの架空の物語であるという説を根本的に検討し直さなければならないことになる。旧説に対し厳しい批判が必要であるが、それは私にとって大変辛いことである。しかし、学者というものは、自分の旧説が間違っていたとすれば、自説といえども厳しく批判しなければなるまい・・・」

 こうして書かれたのが「葬られた王朝 古代出雲の謎を解く」である。「今回改めて出雲大社に参拝し、神前で拝礼してオオクニヌシノミコトに心からお詫びした。そして「私は間違っていました。改めてミコトの人生を正しく顕彰する書物を書きます」と固く誓って出雲を後にしたのである」と結ばれている。梅原猛氏は85才になられた。ますますお元気で活躍されることをお祈りする。

  

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