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小さな別世界コミュの学園からファンタジー(仮) 執筆中

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コメント(37)

「わぁーっ!!」
大声にもビクともしない紅葉は大声の主に文句を言う。
「うるせーよ一美。」
「なんだよ!少しは驚けよ!」

咲島一美...

小学校から”ダチ ”で悪友でもある。

「もしかしてずっと寝てたの?」
一美は知っていて紅葉に聞いた。
「あ〜?遅刻したもん。あんな静まり返ってる中に入れる訳ないだろ?
そりゃ教室で寝るわ〜」
「本当、遅刻魔だな」
一美は紅葉を呆れ顔で見ている。

「あのさ〜面白い話仕入れたんだけど!」
紅葉に話しかけても机に突っ伏していて聞き入れない。
「あそー?そりゃーよかったな〜」
「この学校の七不思議なんだけど?」
一美は紅葉の方眉が上がったのを確認して話を続けた。

この話は一年の坂井健吾から聞いた話だ。

この学校はミッション学校と言うこともあって雰囲気はバッチリ七不思議向きである。

夜な夜な学校に”出る ”と言う何とも在り来たりな話なのであるが
その”出る ”が何とも不思議なんだと言う。
羽が生えた人間、天使だと言うのだ。

「天使?」
紅葉は投げやりに吐いた。
「そー!天使だか故獲鳥だか」
「うぶめ?なんだよ故獲鳥って?」
「妖怪だよ!なんにも知らないんだなー!
要するに人に羽が生えた得体の知れない物体が学校を歩き回ってることよ」
へー。少し興味をそそられた紅葉は一美に質問をした。
「でも噂だろ?誰が見たって訳じゃあるまいし」
「そー思うだろ?健吾のクラスの子が見たらしいんだよ。その子は」
ショックのあまり学校を休んでいる言う。
「俺らの時も流行ったじゃん?動く鎧だとかさ?消える絵の人とか?」
「え?流行った?」
「お前、覚えてないの?紅葉らしいけどな!....あっ!ヤベ!今日、叔父の家に行くんだった!悪い!先に帰るわ!」
活きよいよく教室を出ようしている一美に
「一美、カバン忘れてるぞ」
相変わらずドジな奴だと思いながら心は例の天使に向いていた。
 教師が夏休み中の注意などを延々と話している間も、室内はざわめく空気を抑えられないでいた。
 普段なら、これから始まる夏休みについてが話題だろうが、今日に限っては違った。
 皆が例外なく不安で、それでいてどことなく浮ついた雰囲気を持たせる話題、

“天使”である。

 皆の視線は、一様に空いた席へと向けられていた。
 彼女は、「小澤 美紅」と、言う。


 健吾は、楽しげに手を振りつつ去っていく集団を恨めしそうに見やりつつ、
「なんで僕だけなのさ…」
 つぶやいた。

 園芸部の活動は、夏休みに入ることとは関係はない。が、花壇には健吾以外の人は見当たらなかった。
 美紅の見舞い、だそうだ。
、ポケットからハンドタオルを取り出し、額を拭う。タオルは大量の汗を吸って不快に湿っていた。

「今年もやっぱり暑いなぁ…」

 もう夕方も近いというのに、照りつける太陽はいっこうに衰えるそぶりをみせず、じりじりと照り付けている。今しがた拭いたばかりの額にも、もう汗が滲み始めていた。

 プランターを動かす手を止め、水道へと向かう。
 蛇口から出る生ぬるい水に閉口しつつ、タオルを洗った。
 水道の水がようやく冷たく感じ始めた頃、ふと視線を感じた気がして、健吾は振り返った。
 己の仕事は全部終わらせたというのに、なぜ自分はこんなところでこんなことをしているんだろう。と、八重朝比奈は深い、深い溜息をついた。大げさな吐息は部屋の埃っぽい空気と混ざり、宙を一回転して、消える。
 彼の言う「こんなところ」とは、西日の差し込む資料室。彼の言う「こんなこと」とは、学年主任に押し付けられた山のような仕事のことである。

 おまけに、

「ひなちゃん、そのスピードで文字読めてんの?」
「その呼び方をするな!この馬鹿!」

 天敵ともいえる生徒を目の前にしているとあっては溜息も出てくるというものだろう。
 人間とは思えない速さで目を通した書類をまとめると、八重はいつも眠たげな教え子をジロリと睨みつけた。
「何が目的だ、嘉神紅葉」
「さぁすがひなちゃん、話がわかるな」
「だから…っ!」
 八重が青筋を浮かべるのを無視して、手元の紙を弄りながら紅葉は続ける。
「一年で、何日も休んでる子がいるって?」
「…小澤のことか?」
「なんで休んでんだ?」
「さぁな」
 紅葉から来年度予算案を取り上げると、ぶっきらぼうに答えた。
「『小澤・欠席』とだけ書いたメモが、毎朝デスクに置いてあるそうだ。恐らく事務の誰かが連絡を受けて…」
「天使」
「…はぁ?」
 思わず書類から顔を上げた。教室の入り口から、いつもより少し楽しげな声が聞こえる。

「その子、天使を見たらしーぜ」



 ドアが閉まり、段々と遠ざかっていく足音を聞きながら、八重はまた深々と息を吐いた。
 天使だと?
 …アホらしい。
 そんなくだらないことのために仕事を邪魔されたかと思うと、無性に腹が立った。
 まったく手のついてない仕事は文字通り山となって自分の横に積み重なり、窓の外を見れば夕日が付属の教会の向こうへと沈んでいくところで。
 残業、の重い二文字がのしかかり、八重は本日何度目ともつかない溜息を洩らしたのだった。
「小澤、お前、舐めてんのか」

吐き捨てるようにそう言うと、ごめん、小さな声が聞こえた。
もう口を開くのも嫌になり、苛立ちに任せてロッカーを蹴りつける。
ガァン、と金属特有の音の響きが残った。
それで雰囲気を感じ取ったのか、俺の視界の隅で棒立ちになっていたそいつは音に後押しされるみたいに部屋を飛び出していった。

「…っくそ、」

どうして逃げる?なんか理由があるんならはっきり言えばいいだろーが。
みんないつもそうだ。初めはバンドって言えば「かっこいい」なんてついてきて。
そのうち飽きれば何かしら理由をつけて練習を休むようになって、それで終わり。
さっきまでいたあいつも、今までにここを去っていった奴と同じだったってことだ。
…みんな、結局、嘘つきなんだよ。

そこまで考えたら何だか馬鹿らしくなって、体の力が抜けて、そのまま俺専用ソファに倒れこんだ。
仰向けに寝転がって無数の小さな穴が開いた天井を見上げながら、頭の後ろで腕を組む。
この時間ならいつもいじっているギターも今日はやる気が起きなくて、ただただぼんやりと開けっ放しの窓の外から聞こえてくる野球部の掛け声を聞いていた。
終業式だからだろう、トランペットの外れた音も、ソプラノの女子のどこかへ飛んでいってしまいそうなほど高い声も、校内からは聞こえてこない。

と。


カーーン……


澄みきった、どこか涼しげな、教会の鐘の音。
耳を澄ませて4度しかならないだろうその音を聴いていたら、自然と瞼が重くなってきて。

…いっそ寝てしまおうか。

学校に遅くまでいるのはいつものことだし、見回りの教師に叩き起こされたのも1度や2度のことじゃない。
俺は寝ることを心に決めると、耳の奥で未だ鳴り響く鐘の音をBGMに、眠りの世界へと吸い込まれていった。
「するってーとお前さん。その下手人って〜のが天使って訳かい?」
どこか江戸の”おかっぴき ”思わせる口調の叔父、隆春が一美に問うている。

「詳しくは分からないよ?実際、見たって子がいるんだよね」
一美は隆春と仲がいい。暇さえあれば叔父の家に来ては世間話をするのが好きなのだ。

ブルブルブル.....ブルブルブル......
テーブルの上に置いてある携帯が震えていた。

「一美、携帯なってるぞ!」
便利な世の中になったもんだ。俺が小さい頃なんかと愚痴を言っている叔父を軽くあしらい携帯を手に取りに向かった。

「もしもーし? おう!紅葉か?どーした?」
「鞄。」
「ん?鞄ってなんだよ?」
「だから鞄!」
「鞄がどーした?」
「忘れてる。学校に」
「.......あ!鞄忘れた!もっと早く言ってくれよ!帰りがけとかに!」
「だるい!それに用があるから早く来いよ!」
待ってるからと一方的に電話が切れた。

「あ〜しばらく学校に行かなく済と思ったのに....しゃーない学校に行くか?」
ため息を付きながら事情を叔父に話し学校へと向かうことにした。

〜   〜   〜   〜   〜   〜   〜

ガァン
樋川 空哉がロッカーを蹴り付けている。

その姿を見ながらごめんと聞こえないほど小さな声で言い教室をあとにした。

空哉には悪いことをしたと思っている。
嫌で部活をやめるわけでわない。
ただ....ただ今は、そんなことしている場合じゃない。

家路に着くとすぐさまに妹の部屋をノックする。
「美紅?大丈夫か?」
部屋から返事がない。何度かノックをしても返答がない。
焦りながらドアを活きよいよく空ける。

中はものけの空。

机の上に目をやると”学校 ”と書いてある紙切れが一枚落ちていた。

〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  〜  

ようやく学校に着いた一美は紅葉に電話し居場所を聞いた。
「もしもし今どこ?着いたよ。」
「おせーよ。今、資料室。ひなちゃんカラかってるとこ」
電話の奥でいい加減しろこの馬鹿と八重の声がする。

電話を切り、資料室へと向かった。

そこには紅葉、健吾、八重と知らない女子生徒がいた。
「ったく。ここはガキの溜り場じゃないんだがな…」

 八重先生のが小さく呟くのを横目に、健吾は途方に暮れていた。
(今日は早く帰るつもりだったのに)
 何故か僕が資料室にいるのか。答えは簡単だった。紅葉先輩に連行されたからだ。
 理由は恐らく、例の“天使”についてだろう。紅葉・一実先輩が絡んでいる以上、何も起こらないわけがない。ましてや、教師陣中もっとも苦手な八重先生が混じっているとなると。

「ふぅ」

 無意識にため息をつき、慌ててそれを打ち消そうと俯く。だが、遅かった。

「健吾君、どうしたんだい?ため息なんかついちゃって。もしかして、もう帰るとか言うんじゃないだろうね?」

 質問形式でありながら、有無を言わせない一言。我ながら、ここで素直に帰ると言えないのが情けない。
 ただ、興味があるのは確かだった。僕が見たあれは、天使なんかじゃない。

「ん、来たみたいだな」

 何が、と聞く前にドアが開き、一実先輩が現れた。
 部屋を見、志菜さんに目を留めた。

「見ない顔だな。えと、誰だっけ」

「神龍 志菜です。咲島さんでしたよね?」

「そうだけど…なんで知ってんの?」

 志菜さんは心底楽しそうに一実先輩を見た。当の先輩は困惑した様子を隠せないようだった。

「お二人とも色々有名ですし。どこか一実先輩とは似てるような気がして」

 ふと横を見ると、紅葉先輩が完全に出るタイミングを失ったようで、口をぱくぱくさせていた。どうにも、紅葉先輩にとって志菜さんは苦手なタイプだと思う。うん。

「あ〜、ちょっといいか。俺は忙しいんだ。第一、ここは談話室じゃあない。出てけ」

「ひなちゃん、よく言った!そうだそうだ、俺たちは“天使”を調べるために来たんだ!」

 怒鳴る紅葉先輩に、志菜さんが驚いてこっちを見、それを見て一実先輩が可笑しそうに僕に視線を送ってきた。

「いや、俺が言ってるのはそういう事じゃないんだが――」

「とにかく!今夜、真相を確かめようと思う。ひなちゃん、もとい八重先生の許可はとったから」

「いや、俺がいつ――」

 八重先生の言葉を無視し、こうして事は動き出した。
「樋川ァ、お前空気読めよ」

 今更かよ、とわざとらしく肩をすくめる嘉神に、樋川はまったく意に介さずに生返事を返すと、再び神龍に向き直った。嘉神を突き飛ばして。ちなみに彼女はイマイチ状況を掴みきれずにポカンとしている。

「ずっと思ってたんだよね!去年の文化祭でアンタのソロ聴いてから!俺の曲にアンタの声乗せたらサイコーじゃんって!」
「え、えと、あの」
「アンタが入ってくれたら、幅もぐっと広がるし!今までと違うようなアレンジもできる!」
「お〜い、樋川〜」
「本音言えばコーラスやめて、って言いてぇけど贅沢言わねェから!マジちょっと考えてみてよ!ど?」
「…」

 マシンガントークに単身さらされた神龍はただでさえデッカイ目をさらに見開いて、自分よりも高い位置にある生気に満ちた樋川の両眼を呆けたように見つめていた。咲島は面白そうに、嘉神は突き飛ばされたことを恨んでだろう。憮然とした表情で、野次を飛ばしながら事の成り行きを眺めている。

 …付き合ってられん。

 ガキ共は放っておいて、黙々と窓の施錠を確認する。唯一俺の行動に気づいた坂井が、慌てて自分の背後にある窓の鍵をかけた。
「サンキュ」
 一声かけると、少し驚いたような顔をしてから、いえ、と応えた。

「オラお前ら外に出ろ!鍵かけんぞ!」
 怒鳴るように言えば、神龍と坂井は慌てて、嘉神と咲島はふざけながら、樋川はまだ若干寝ぼけている様子で廊下に出てきた。交渉がどうなったかは知らないが、樋川の表情から推察するならいい返事ではなかったようだ。
 そのまま電気を消して、鍵をかける。

 普段ならこの後、ぐるりと校舎を一周するんだが、
「予定変更だ」
「ん?」
「一旦職員室に行く。そこでプリント渡すから、お前らホントもうマジ帰れ」
「え〜?」
 嘉神と咲島が不服そうな声を上げる。
「センセー冷た〜い」
「ひなちゃんのケチ〜」
「だ・ま・れ」
 神経を逆なでするように言う二人をジロリと睨んでから、意識して少し視線を和らげ、神龍を見た。
「行くぞ、神龍」
「は、はいっ」
 やや上ずった声を上げる神龍に心中で溜息を吐いた。別に怯えさせようとしているわけではないのだが、まぁこういう性格でこういう口調だから仕方ない。そう思うことにした。
 さっさと追い出してしまおうと思い、職員室の方向へ身を翻した、その時だった。

 なにかが、ひかった。

「な…」

 中庭に面する窓。地面から離れたこのフロアで、そこに「なにか」が見えるなんて事は、それが浮いているか落ちているかでない限りありえない。

 なのに。

 あれは。



「……『天使』…?」


 かすれた声で、鼓膜の奥に、誰かが呟いた。
日が伸びたのか
月が眩しいのか
外は少し青を残している。

”それ ”はゆっくりと地に足を着こうとしている。

「……『天使』…?」
志菜の一言で皆の視線が集まる。
「神龍!お前までおかしなことを言....」
志菜に振り返り窓越しに目やった時”それ ”をハッキリ見てしまった八重は言葉を続かせることが出来なくなった。

紅葉は志菜の視線を追うと”それ ”が目に入ってくる。
「へ〜本当に出るんだな〜!健吾、お前が見た天使ってあれのことか?」
動揺はしていないが緊張が入り混じった声で健吾に聞く。

「先輩。もう無理です帰らせてください」
泣き言を言う健吾を無視し
「どーなの?」
と一実が問う。

健吾は頭を抱え、志菜は恐怖の余りしゃがみこんでしまっている。
「おい!誰かいるぞ!」
少女が一人、”それ ”に向かって歩いているのだ。
樋川の声に反応した八重が目を疑った。
「小澤....?」
窓を開け、小澤ー!何をしている!そっちにいっちゃいかん!
大声で八重が叫んだが声はまったく届いていない。

八重はこう見えても責任感が強い。
活きよいよく中庭へと駆け出した。

ひなちゃん!俺も行く!
一実と目を合わせた紅葉は八重のあとを「わー」と大声を出しながら追いかける。
「お前ら!ま、まてよ!おいてくな!」
樋川があとを追う。

しゃがみこんでいた志菜が立ち上がり一人にしないでー!と叫びながら健吾とおとを追う。
「あの二人は怖くないのかしら?」
「志菜さん、きおつけてください。おのコンビは楽しんでいるだけです。」
もう帰れないかもしれないぶつぶつ文句を言いながらあと追った。



「小澤!!」
八重達が中庭に着いた頃に小澤美紅と”それ ”は半分消えかかっていた。
「消えた....嘘だろ?」
誰かだ呟く。

みんなが呆然とする中、後ろで人の気配を感じ、振り向くとそこには小澤美紅の兄、小澤純一が立ちすくんでいた。


夜の学校。
そこは見慣れているはずなのにまったく知らないところにいるような錯覚を起こさせる。電気が切れ真っ暗な廊下、まるで異世界へとつながる道のように見える。

「で?お前が部活止めた理由と関係あるのかよ?」
少しイライラしながら樋川は小澤に問い掛ける。

一階の教室の一室である。

「なんで言わないんだよ!」
「............」
「なんで何も言わないんだよ!」
天使を見たせいか叫び声に似た声で樋川は小澤純一をせめた。
「............」
「何とか言えよ!」
「....妹が化け物見ておかしくなったって言ったら何とかしてくれたか?樋川?」
「ん.....」
「毎日毎日、妹の看病があるって言ったら何とかしてくれたか?」
「.........」
何も言えなくなった樋川は下を向いたまま動かなくなった。

「まーまーまー!今のはこっちが悪かった!駄目じゃないか?樋川君!」
中に入った紅葉は楽しそうである。
「今はそんなことより妹さんをどう助けるか?だろ?」
一実がもっともな意見を言い皆を我に返した。

「小澤君に質問です。妹さんは何を見た?」
紅葉が単刀直入に聞いたが一実に止められた。
「小澤君、今のは無しね。今の状況を考えて?なぜこうなったかを出来る限りで教えてくれるかな?なにか妹さんを助ける方法があるかもしれない」

小澤純一は今までの経緯を話し始めた。。。

俺の妹は元気でクラスでもすぐ人気者になれる自慢の妹だった。
それがだんだん元気をなくし部屋に閉じこもっていった。
心配した俺は何があったのか?と聞いても返事が来なかった。
最後には学校にも行けなくなってしまった。

じばらくはそんな状態が続いていたある日、美紅が天使の話をしてきたんだ。
始めは信じれるはずもなく、話を流していた。それがいけなかった.....
美紅はいつも「どうすれば助けることができる?」、「やっぱり行くしかないかな?」など変なことを呟きだした。
さすがに焦ったよ。本当に頭がおかしくなったのかと思った。

それで今日、いつものように部屋に行ったら美紅が部屋にいなくて残っていたのは学校って書いてある紙きれだけ。

あとはいままであった通りでよ....

沈黙が続いた.....

ドンドン....ドンドン

ドアを叩く音で皆が我に帰った。

ドンドン....ドンドン

「失礼する!!」

ドアが開き、
そこには毛むくじゃらで大きな角のカブトを被った小柄の男がにらみを利かせこっちを見ていた。

「あんたらかい?選ばれし子等は? 迎えに来たぜ!」
 極彩色の空気が渦巻いている。天地がない。重力すら感じない。自分が落ちているのか浮いているのかすらわからない。
 ただひとつ、はっきりとわかる。確信めいた予感は。
 自分が、何か、とてつもなく大きくて、不可解な事件に巻き込まれていること、だった。


 誰かに腕を掴まれて、ぐいと引っ張られたように急激に、坂井健吾は意識を取り戻した。それと同時に世界を感じる。
 自分が座り込んでいるのは地面。目に映るのは森の木々。肺に吸い込むのは空気。耳に聞こえるのは風が葉を揺らす音と、

「気がついたか?」

 己を気遣う声。

「怪我とかはねぇな。えっとー…」
「…坂井健吾、です」
「そうそう、坂井」
 にっ、と笑う樋川に、健吾もかろうじてぎこちない笑みを返した。
 ようやく周りを見渡す余裕が出てくる。今ここにいるのは自分と樋川。そしていまだ気絶している神龍志菜。木には葉が多く繁っていて、時間帯はよくわからない。夜ではないようだが。
いずれにせよ、全く見覚えはなかった。
「…先輩たちと、先生は?」
「辺りを見てくるってよ。もうそろそろ帰ってくると…」
 言いかけて、樋川は言を止めた。件の彼らの姿が、行く手をさえぎるように繁茂する木の向こうに見えたのだ。
「たっだいま〜っと」
「ただいま〜、お、健吾君起きたんだね〜」
「あ、はい」
「どうだったよ、周りの様子は」
「…どうもこうも」
 ぐしゃり、と、八重が苛立たしいように前髪をかきあげる。眉間には皴。紅葉や一実の何も考えていなさそうな――失礼――笑顔とは対照的だった。
「…川は、あった。食用だと思われる木の実のなっている木もあったし、道中危険には出くわさなかった。だが……」
 いったん言葉を切る。小さく舌打ちをしたようだ。
 志菜は、まだ目を覚まさない。
「…見たこともねぇ、知らない場所だ」
「知らない『場所』っていうより、いっそ『世界』って言っちゃったほうが正しいんじゃないの?」
 そう茶々を入れたのは紅葉だ。笑顔。不敵な。しかし、目には緊張が見て取れる。恐怖や不安を感じているとは、とても思えなかったけれど。
「そうだね…みんな、直前のこと、覚えてるでしょ?『天使』と小澤さん、もじゃもじゃのおじさん、そんで、漫画やゲームでしか見たことないような、不思議な空間」
 指折り数える一実には、緊張する素振りすら見られない。日常と同じように、冷静に、なんてことないように状況を判断していく。
「…何が言いたい、咲島」
 普段よりもずっと重い声で、八重が先を促した。樋川も真剣に、健吾は先を聞きたくないという風に、しかしそれでも、一実の一言を待つ。まるで、決定的な審判を、彼にゆだねるように。
 認めたくない。しかしその一方で、誰もが待っていた。
 今のこの状況を定義づける、その言葉を。
 ザァ、と、一際強く風が吹く。しかしそれでいて、一実の声ははっきりと、耳に、届いた。

「ここは、異世界だよ」
 ガァン
 叩きつけるようにドアを閉める。部屋の中は、静まり返っている。小さなアパートの一室が、ひどく広く思えた。
 美紅が、そして樋川達までもが消えてしまった。『選ばれし子等』とは一体何のことだ。そして、妹達は何処へいってしまったというのか。
 何気なく妹の部屋へと向かう。そして、ふと机の上の置手紙が目に入った。
『学校に行きます』
 小澤は悲しみのような、憎しみのような、どこへ向ければいいのかわからない感情に支配されつつ、その紙を手に取った。
 そして、紙の裏に、妹のものとは違う、流麗な文字が並んでいるのを見つけた。

『我、異世の者。答を知りたくば我を求め、念じよ
               我が名は シキ 』
「シキ?この際、誰でもいい!妹を返してくれー!!」

..
...
....ふっふふふ...

不気味な笑い声が部屋を充満する。

笑い声はだんだん、大きくなり始めた。

「はーはははは!くくくっ」

「誰だ!シキか?!頼む!妹の所につれてってくれ!!」
純一は必死だった。自分一人取り残されてなんとも言えない気持ちが爆発したのだ。

「汝よ。答えを知りたいか?くっくっく」
「あー!知りたい!教えろ!」
姿の見えない謎に純一は怒鳴りながら言った。

「くっくっく...ではついて来るがいい...」

異世界ギルバードへ...

「ギルバード?そこにみんなもいるのか?」
純一が謎に問い掛けた瞬間...

目の前に透明がかった靄のような不思議な物体が現れ周りの景色を一気に吸収するかのようにあたりは真っ暗になった。

純一は気を失った.....

......
.......
........
.........

「へーこの子かい?」
どこか古めかしい甘ったるい声が響いた。
「はい。紫様、では私はこれで」
監視がありますからと言い残し消えた。

雷の音が酷く目立つ。
洞窟のような部屋というよりお城の間をイメージさせる。
真っ暗で何処か不気味な場所。

「あんた。あんた!いい加減、起きっ!」
「う..う.うん?」
冷たい床に顔をつけていた純一は何が起きたかを思い出した。
「ここは!何処だ?」

お色気のある声で返事か来た。
「うるさい子だね〜ここはギルバードさぁ〜」

純一が声の主を確認しようと振り返ると
派手な着物に目立つほどのかんざし。
長いキセルを口にあて壁に寄りかかりながらずっとこっちを見ている。
まるで花魁だ。

「あんた〜。妹を助けたいだろ?」
「あ!何処にいる?!教えろ!」
「それが人に頼む態度かい?」
「....」
「頼みがありんす。」
「頼み....?」


選ばれし子等の始末さぁ〜
冷たい声があたりに響いた。
「でも…これからって言ったって…」

 不安そうに健吾が続ける。

「ふぅむ…俺らが『選ばれし子』で、あのちっさいおっさんが俺らをここに連れてきた…ってことは、向こうから案内役を付けるのが筋ってもんだと思うんだけど」

 やけに芝居がかった口調で、名探偵のようなポーズを付けながら軽口をたたく紅葉。その様子に八重が食って掛かる。

「この馬鹿。だから、この状況でいくらそれを言っても無駄だと今言って…!」
「あ、志菜ちゃん目ェ覚めた?」

 しかしその弁を途中で遮られ、苦虫を1ダースまとめて噛みつぶしたような顔で押し黙る。紅葉に怒鳴りかかろうとしたそのままの姿勢で、言葉を遮った張本人である一実を無言で睨みつけた。
 マイペースを地で行く一実はそんな視線を気にも留めず、今、ようやっと身体を起し、眠たげな眼をしぱしぱと瞬かせる志菜に優しげに声をかける。

「具合は悪くない?怪我なんかしてない?」
「………」

 未だに半分は夢の中なのだろう。彼女から返事はかえってこない。しかし虚ろなままの目である一点を見つめ、



「……へ、び…?」

 呟いた。


「なんだって?」
「寝ぼけてるのかな?蛇って…」


『やぁっと気づいてくれた』


 何もないはずの場所から柔らかい、流れるような声が聞こえて、全員が体をこわばらせた。
 声が聞こえたのは、志菜が見つめている先。欝蒼と茂る木。何もない。しかし、ぐにゃりと、その空間がゆがむ。そして現われたのは、

「…はじめまして?」

 にこりと微笑んで首をかしげる、一人の青年。
 整った顔立ち、顔にかけた不格好な眼鏡よりも目立つのは、ガスバーナーの炎の色にも似た青い髪。
 上品に一礼すると、彼は優雅に、こう述べた。

「ようこそ、異世界『ギルバート』へ、『選ばれし子』たち。僕はナナツ=イロハ。ノルドール=アウレ氏の言により、あなた方のいう『案内役』をさせていただきます」
 絶句。のち沈黙。
 その間、青年は微笑みを浮かべ続けていた。
「――貴方は……」
 はじめに口を開いたのは、意外にも健吾だった。しかし、自分が喋ったこと自体に驚き、慌てて口をつぐむ。
「そう、警戒しなくても何もしませんよ。まぁ、僕の機嫌をそこねることをしたら、保障はしませんけどね」
 一同が固まるのを見て、ナナツ=イロハは実に楽しそうにくつくつと笑った。
「冗談ですよ。ただ、ここから先にはそういう方が少なからずいるので注意してくださいね。――あぁ、そうそう」
 言いながら、軽く手を振る。途端、麻のようなもので出来た袋が現れた。
「ノルドール氏からの餞別です。通貨ですのでなくさないように気をつけてくださいね。この道を進めば、それほど行かないうちに街があります。ひとまずは、そこで宿をとることをお勧めしますね」
 言い終わると、現れた時と同じように唐突に、青年は消えうせた。一同は呆気にとられたまま、放心していた。



『――ヒドイわね。爬虫類一のフェミニストが聞いて呆れるわ』
「見てらしたんですか」
 青年は苦笑する。その間も視線は一同を見つめている。万一のことが無いように。
『そもそも、お金だけ渡して服その他装備一式渡さないってやりすぎだと思わない?』
「…彼らには、自分達で切り抜けてもらいたいんですよ」
『この森だって、上・中位の魔物こそいないけどモンスターだって住んでるのよ。それほどにあのコ達を信用しているとでも?それともそれが親心だとでもいうの』
「両方ですよ」
「両方?ほんと呆れるわ。」
「まっ。念の為、僕の友達紹介しときます。何かあるとノルドールさんに怒られますかね。」
「この世界がかかってるの.....」
ナナツ=イロハが言葉を手で制し一言

「試したんですよ。本当にこの世界を救える選ばれし子なのか?」




沈黙を破ったのは八重だった。
「....なんだ今のは?」

「俺、好きくなれねーな!今の何とか=何とかってやつ」
樋川が文句を言うがつかさづ一実が
「言えてねーよ。ナナツ=イロハだろ。」

「うわ〜〜」
驚いた声を出したのは紅葉だった。

「すげーよこれ?見たことねーよ。このお金!」
どちらかと言うと海外の金貨のようだが書かれている絵が狼のような絵なのだ。

「この馬鹿!そんなことで騒いでどうする!今はどうするかを考えろ!」
八重が一喝を入れるが
「まぁ〜焦らない焦らない。」
「でも紅葉先輩....このままじゃまずいっすよ」
心配そうに健吾言う。

沈黙が続く

「状況判断。まず、僕らが知っていることは」
一実が全体把握を始めだした。

。この世界はギルバードと言う世界
。僕らは選ばせし子である。選ばれし子とは?
。ナナツ=イロハ、ノルドール=アウレは仲間?
少なくとも敵ではない。
。なぜ、僕らがこの世界に呼ばれたのか?
。小澤の妹とこの世界、天使のつながりは?

「答えは一つ、分かるだろ?」
一実が皆に問い掛けた。

「先に進むしかないですね。」
病み上がりな志菜が答えた。

「そう。」
「じゃー行くか?!」
個々に声を上げ先に進むことにした。

「でもさ?どっちに行く?」


「教えてあげようか?」
どっかから甲高い声がする。

「ん?どっから声が聞える?」
八重が周りを見渡すが姿ない。

「おい!ここだよここ!下!」

みんなが一斉に下を見た。
そこには手のひらぐらいのカエルがこっちを見ていた。
「…そういうもんなのか?」
「そういうもんなんだよ」

 にこ、と人ならざるものは微笑む。不思議なことに、嫌な感じは全くしなかった。

「さぁ、もたもたせずに移動しようか。今から行けば大丈夫、女子供の足で歩いても、日が暮れるまでには着くだろうさ」

 正体不明なカエルに従うのもしゃくだったが、今はそれ以外にない。一同は道に沿って、西へと進んで行った。


* * *

「ああ、そうそう」
「なんだ?」

 本調子ではない志菜がいるために休み休み進んでいたところ、幾度目かの休憩で、案内役はまた甲高い声を上げた。

「そういえばお前ら、自分の属性も知らないんだよな?」
「属性?」
「やっぱり……ま、それくらいは手助けしてやるか」

 そう言って、ぴょこんと志菜の肩から降り――気に入ったのだろうか、彼は移動中は常にそこに陣取っていた――きょろきょろと辺りを見回して、やがて一人に視線を据える。

「じゃあ、とりあえず、ヤエ」
「あ?」
「そこに立ってろよ」

 応とも否とも言わないうちに、異変が起こった。

「なっ…!」
「カエルさん!?」

 カエルが、黄金色に輝きだしたのだ。放出されるその光はやがて糸のように寄り合わさり、一本の細い細い筋になる。
 そして、

「動くなよ」
「うわっ!?」

 八重の額に、すう、と先端が吸い込まれていった。光り輝く小さな体と八重が、光の筋でつながった形だ。
 圧倒される光景に、周囲も、本人も、その光が消えるまで、声を出すことはできなかった。

「頭は良いな…体力と力はカスみたいなもんだが、その分魔力と抵抗力、精神力は申し分ない…もっとも、魔力はまだ覚醒はしていないが」

 書物を音読しているように朗々と読み上げる小さな案内役を、彼らはただ黙って見つめるしかできない。

「よし、わかった。お前の属性は――銃士(ガンナー)だ、ヤエ」
「次、シンリュウ」
 弾かれたように、志菜はカエルの下へと駆け寄る。再び、光の筋が伸び、今度は志菜へと向かう。
「…ふむ、抵抗性、精神力は劣るが、魔力は問題なレベルではない。それよりも――いや、いいや、それは、無い、な。……肉体、精神的共に柔軟性もある。一部、抜けているところもあるようだがな」
 小さく苦笑しつつ、一同を見回し、そして、志菜と視線を合わせる。
「槍士が、シンリュウの容(かたち)だ」

「サキジマは――ほぅ、これは凄い。魔力に関しては群を抜く素質が見受けられるな。お前は間違いなく魔道師の器だな。ただ、性格からして、後方支援に周るタイプではないだろうが、独りで走りすぎることは死に直結することを覚えておくことだ。後々、後悔したくなければ、な。」
 一実は嬉しそうに、苦い顔をしてみせた。

「カガミか。ふぅむ、戦士、それも聖戦士だな。身体能力、魔力がそれぞれに安定して高い位置にある。使いどころ次第では様々な局面に対応できらるだろう」
 紅葉は、嬉しそうな、そうでもなさそうな、そんな顔をした。

「――創造士だ。持ち前の、器用さ、行動力を持ってすれば、魔力の低さは十分に補えるだろう。ただ」
 そこで、一呼吸いれ、わざとらしく咳をしてみせた。
「ただ、相手への対応にもう少し気を使うべきだな。それは、今後命に関わる可能性もあるだろうから」

「最後だな、サカイ。お前は――際立った特徴、性質も、上でもなく、最低でもない。八方美人といえば聞こえはいいが、苦労は多いだろう。ただ、順応性と、状況把握能力からみて、お前の属性は統帥士だな。――嫌な顔をするな、上に立てる器じゃないことは十分見て取れる。が、これは仕方の無いことだ」

 ――銃士・槍士・魔道士・聖戦士・創造師・統帥士。自身の道を指され、彼ら、彼女らは、それぞれ別々複雑な思惑を入り乱れつつ、再び道のりを進み始める。
魔道師....
そう呟く一実は実感がなかった。
たしかに現実とは違う世界、喋るカエル。
不思議な事ばかり起きている。

一実は歩きながら両手を前に出し
「メラ...ホイミ....んん...ゲームか?」
一通りしてみた。

「先輩?大丈夫ですか?」
心配した健吾が声をかけた。
みんな声を噛み殺し笑っていた。

ガザガザガザ。

森の隅から物音がする。

「ん〜第一陣のおでましたか?」
カエルが笑いながら皆に告げた。

物音は大きくなり、叫び声ともなんとも言えない雄たけびがする。ドシドシと大きな足音。

「なんだ!一体なんなんだ!」
取り乱す八重を後ろ目に
「お前が一番の年上なんだからしっかりせ!!」
カエルはヤエに一喝する。

足音が森の目の前で止まった。

皆、緊張の中
「死にたくなければ我の後ろにいろ。」
カエルは一言言い何か呪文のような言葉を喋りだした。

ドシンドシン....

森から出てきた怪物....モンスターは

かなり大きい、真っ黒な毛並み。
頭が三つ、三頭犬だった。

「......なんでこの森になぜケロベロスがいる...」
カエルは焦りだした。
「カエルさんよ!ケロベロスって地獄の門番の?」
紅葉が陽気に聞くが
「不味いぞ。こいつは上級モンスターだ。我も一筋縄では行かん。」

とその時、
ケロベロスが叫びだし突進してきたのだ。

「きゃー!」
志菜な叫びが合図で皆一斉に逃げ出した。

だか、
カエルとなぜか一実だけはその場に残っていた。

一実の両手が光だし
そのまま投げるようにケロベロスに向けた。

一実の手から放たれた光はケロベロスに的中し一瞬、光に包まれたケロベロスは粉砕した。

遠くの方で
「かずみー!どーした?」
紅葉が叫んでいる。
「逃げ足は速いな〜あれで本当に聖戦士か?」
一実は周りの無事を確認して呟いた。

「サキジマ。お前の能力にはタマゲタ。まさかケロベロス相手に粉砕の魔法を使うとはな...なかなか...じゃ...」

「集合ー!」
紅葉の呼びかけに皆あつまり一実の安否を確認した。
「咲島!大丈夫か?お前、手光ってたぞ」
心配した樋川が駆け寄ってきた。
「あーなんとか。ところでシール疑問があるんだけど」
「シール?誰はそれは?」
疑問に思った八重は問い掛けた。
「我がシールじゃ」
視線がカエルに集まった。
「力が覚醒したんじゃな。だから名前が解ったのじゃ。解ったとう言うより感覚じゃな。」

「シール。なんで俺たちが選ばれし子なのか説明してくれないか?」
一実は一番の疑問を問い掛けた。

「よかろう....時間もない。歩きながらじゃ」
シールはそう言い、志菜の方の上に乗った。
「俺たちにかかってる…って言われても、なぁ?」

困惑したような樋川の声に、全員が、同じような表情で頷き、あるいは考え込むようなそぶりを見せた。

「ま、普通はそうじゃな。その辺の折り合いは後々、自分らの中でつけてくれ」
「…随分と突き放すな」
「おや、手取り足取り気遣って欲しいのか?」
「……」

死んでも嫌だ。
わかりやすい八重のしかめっ面は、声なくとも十分そう語っていた。

「…ふむ、まあ難しいこととか折り合いだなんだっていうのはさっぴくとしてさ。つまり、そっちとしては俺たちに、その『召喚』の能力で『何か』を『どーにか』してほしい、ってことなんだろ?」
「大きく省きに省けば、そういうことじゃ」
「じゃあ質問」

紅葉がまっすぐにシールを見る。
深い深い泉を連想させる、恐怖すら感じさせるであろう深淵の瞳に、シールはごくわずかに目を細める。
なるほど、彼なら、いや、彼らなら「召喚者」という、「選ばれし子」などという、おとぎ話のような名称も、信じられるかもしれない、と。

「あんたらは、俺たちに何をしてほしいわけ?」

射抜く瞳は、見知らぬ力に戸惑ってはいても、決して恐れを抱いてはいない。人を見る目には自信がある。これは、自らが戦う場所を知っている目。

彼らを選んだ、召喚されし者も。
己の目と、召喚されし者たちを信じたノルドールも。
彼らの未来を見、自分を遣わせたナナツ=イロハも。
そして、己も。

知っている。信じている。決めている。
このまっすぐな目に、かけると。



「……『天使』、いや、世界の、奪還を」
雷の光で美しく怪しい紫の顔が一瞬、髑髏をなす。
「それはねぇ、選ばれし子等が・・・―――」

あんたの妹を殺すからさぁ〜。

「.....殺す?あいつらが?.....」
純一は現実感のない会話に戸惑っている。

「紫様もお人が悪い」
真っ暗な壁から老人の声がする。
どんなに目を凝らしてもそこには闇しか見えない。
「おや?ムラクモかい?しばらく顔出さないから死んだかと思ってたよ。」
「あいかわずお人が悪いですな〜紫様。で、この子が例の」

.....滅びの子ですね?

髪を結い、顎髭の長い仙人のような老人が闇の中から出てきた。

「紫様も人が悪い。いきなり殺すと言われても困るだけ。まずは昔話を聞かせてあげましょう。」
ムラクモは近くの岩の椅子に座り話始めた。

「ちと硬いがしょうがない...では、よく聞くがいい滅びの子よ」

「おっおい!滅びの子ってなんだよ!教えてくれ?」
戸惑いを隠せない純一はムラクモに聞くがまず話を聞けとしか言わない。

ムラクモは一呼吸置き、話始めた。

むかーしむかし。
まだギルバードに3大国あった時の話。

心の優しい王が統一する国、クラウブ。
何事にも一生懸命で正義を信じる王が統一する国、アラージ
権力にこだわり魔法を重視する王が統一する国、アルク

ある日。
何事も平等が取れていた3大国もアルク王の気ままで魔法をほぼ脅しのように使うことに我慢ができなくなったアラージ王はアルク王に話を付けに行ったそうじゃ。

しかし

アラージ王とアルク王、二人の性格は水と油。
話も上手く行かず、ついには戦争までに発展してしまったのじゃ。

結果は、
アルク王に付く民は少なくアラージ王がアルク王を討ち取ったのじゃが......
アルク王は死に際に

”とんでもないもの ”

を召還したのじゃ。

「アラージよ。殺すがいい。かならずしも後悔するがな。」

アルク国は消滅。
民達はアラージ、クラウブに住むことになった。

平和に暮らしていたある日。

アラージ国の真上に真っ黒な雲が渦巻き、どんどん大きくなりアラージ国全体を覆い始めたのじゃ。

暗雲から大きな塊が降ってきた。
その塊は地面に着くと真っ直ぐ、
アラージ王の元に向かって行ったそうじゃ。

しばらくするとその塊は人の形を成し、右手にはアラージ王の首を持ち暗雲に戻って行ったのだ。

しかし
6体の光がその塊を追って暗雲の中に消えて行ったのじゃ。
その戦いは7日間続いた。

アラージ王の悲報、今の状況に心痛んだクレイブ王は、自分の命に関わるほどの召還を試みたのじゃ。

7日目。
クレイブ国から大きな光が暗雲へ向かったと共に暗雲も消えたのじゃ。

しかしアルク王の召還は強く、ある言葉を残し消えていった。
「1000年に一度、滅びを連れて来よう。」


そして時間が経つにつれ伝説となり、

アルクを滅びの子
アラージを選ばれし子等
クラウブを全てを治める天使

と、呼ぶようになったのじゃ。

「ふ〜。年寄りに長話はきついわな〜。」
ムラクモはため息交じりで話を終えた。

「お、俺が滅びの子だって言うのか?」
「どうやらそうらしいね〜。」
紫は長話に疲れたのか欠伸をしながら言う。
「話が早いの〜。お前の妹が全て治める天使じゃ。すなわち戦いの終わりは死を意味する。」
「紫様、滅びの子を少し借りてもよろしいでしょうかな?」
「構わないが時間がないんだからね。」
「はい。」
では、と純一を連れ、闇に消えて行った。

紫はその闇を見つめていた。
「ムラクモや、なんた何者なんだい?」
敵か味方かも解りやしない。
と、愚痴を言いながら闇へ消えて行った。

そこには雷と光と闇だけが残った。





「…で、そのアラージを継ぐものを、伝承として『選ばれし子等』と呼ぶようになったんじゃ」

時を同じくして別の場所で、彼らは遠い地にいる友人と同じ話に耳を傾けていた。もっともこちらでは、『滅びの子』はまだわからないとされていたが。

「…はぁ〜、なんというか…」
「壮大なお話だねぇ」
「…俺、頭こんがらがってきた」
「要するに」

頭を抱える樋川を見て、八重が口を開く。不機嫌そうに眉間にはしわがよっていたが、もとからお世辞にも愛想がいいとは言えないので、どの程度この状況に不満を持っているのかはわからない。

「俺たちが『選ばれし子』で、この世界の滅びを防ぐために、あのちっさいおっさんに呼ばれた。一方で小澤美紅は戦いを終わらす『天使』の役目を持って、この世界に呼ばれた」

樋川と志菜が、一生懸命理解しようと頷きながら聞いている。実はさっきわかったような顔をしていた紅葉もまた「へぇ」といった表情で聞き入っているのだが、残念ながら八重の視界からは外れていたため、リアクションは隣にいた一実が苦笑してため息をつくのみに留まった。

「そして『滅びの子』と呼ばれる存在もいるが、これの正体はまだ不明。しかし1000年前の呪いから、この世界を壊そうとしていることが予想される……間違いはないか?」

最後の問いかけはシールに向けられたものだった。小さなカエルは、さらに小さなその顔を笑みの形に歪ませて、満足そうに首肯した。

「そういうことだ。付け足すことも特にない」
「あの、」
「うん?」

おずおずと授業中のように挙手して、いままで黙っていた健吾に、全員の視線が集中した。
普段からそんな状況に慣れていないだろう健吾は、しかしシールの目を見て、落ち着かない風にしながらも言葉を発した。

「あの、1000年前の争いの発端は、主張の違いだったんですよね?」
「ああ」
「じゃあ、今は?」

健吾の眼は、まっすぐと、揺らぎはしても、ひた、とシールのその水晶のような目を見つめた。

「いくら『呪い』だといっても、原因のない所に争いとか、滅びとかいうのは起きづらいんじゃないですか?今ほかに、何か原因が?」

シールもまた、彼から目を逸らすことはなかった。

統帥士。

はじめは、正直どうかと思ったが、なるほど。
この少年の後ろを見る目は、確かに、その器のものだ。

内心舌を巻きながらも、シールが口にしたのは別のことだった。

「…先程の話ののち、新たな命が生まれた。暗雲が散った場所、木も花もない大地から。それが…今、魔族と呼ばれている種族だ」

まぞく、と、口の中で反芻する。先ほどの獣を見た瞬間の圧迫感が、再び襲ってくるような幻覚を見た。

「原因はそれ。…我々が無条件で平和を愛するように、彼らもまた無条件に乱を望む。1000年前のような、国と国との争いでは収まらない。魔族と、その他の多くの命との世界をかけた戦いが、はじまろうとしているのさ」
遥か昔....

アダムとイブが楽園を追放された時。
憎しみは始っていた。

可哀想に思った蛇が
アダムとイブに知恵の果実を与えただけのことだった。

知恵の果実を食べてイケないとの神との約束を破った
アダムとイブは追放と言う形で未来へと向かせた。

神は蛇に対して厳しい罰を与えた。
死の無い罰。
どんな苦しみを受けても決して死ぬこのない罰。

蛇は神を呪い、いつしか体得て悪魔へと変貌していった。

そして

聖戦が始る。
神 対 悪魔。

激しい戦いは7年続いた。
結果は神の勝利だが死の無い罰を与えた蛇は
死ぬことはなかった。

一度与えた罰はたとえ神であろう絶対なのだ。

仕方が無く神は、今の世界と別にもう一つ世界を作り
蛇をそこに封印することにした。

封印の守護神として6人の賢者と1人の天使を使わした。

封印した世界を「ギルバード」と言う。



......時は立ち、ある青年達の話

「では!これから我々ギルバードの3大国の後継の儀式を行う。」
牧師のような黒い服に長い帽子を被った司祭が場を仕切る。
花火が打ち上がり、長いパレードが賑やかさを膨大させている。
「では、各大国の王子!クラウブ王子、アラージ王子、アルク王子、前へ」

この三人は非常に仲が良い。
小さい頃から悪友である。

「では王子方々、後継の儀式の説明を行いますぞ。」
後継の儀式とは国王から王子への政権の受け渡しの儀式だ。
代々伝わる後継の洞窟に入り中に納めてあるアイテムを持って
くる儀式だ。

「よいですかな?では3大国の王子達よ私の前に着なさい。祝福を送ろう。」

王子達は司祭のもとへ行き祝福を受けた。
「まさかこの悪ガキ達が国の主になるとはなぁ〜」
司祭は小さい頃から見てきたので親心があったのだ。

王子達は司祭と一人一人抱きしめ合い洞窟は向かって行った。

「俺はこの魔法の才能を生かし国を活性化させたいんだ」
アルクは洞窟の中で二人に理想を語りだした。

「何事も一生懸命!民の為に尽くせる国王になるんだ。」
アラージが語り、クラウブが三人で力を合わせてがんばって
行こう!父親に負けないぐらいに。

しばらく洞窟の中を歩くと三つに分かれていた。

左にクラウブ
真ん中にアラージ
右にアルク

それぞれ闇に消えて行った。。。

クラウブよ....
クラウブは最深層に着いた時、闇の奥から声が消えてきた。

クラウブよ....危機がせまってきています。
汝よ.....我の力で全てを納めるのです。

声が光に変わりクラウブの体へと入っていった。

同じ頃、アラージにも同じことが起きていた。
アラージよ.....危機がせまっておる封印が解かれる。
汝よ....我々の力で倒すのだ。
光はアルージの体へ消えて行った。


アルク....
「誰だ?」
アルクよ....力が欲しくないか.....
「力?あぁ欲しいさ」
そうか....では汝に力を与えよう....

我の封印を解くのだ.....





「とま〜これが真実じゃ。あとはさっき話した通りじゃな」
ムラクモは歩きながら純一に話をした。

「神が悪いんじゃないか!蛇の気持ち考えないで」
まったくじゃ〜
ムラクモは城のある部屋へ純一を連れてきた。

「ここじゃ。まぁ〜入りなされ。お会いさせて方がおる」


ドア明け中へ入った。
中には一人の男が後ろ向きで立っていた。

「連れてきましたよ」
滅びの子を

「ご苦労さまです。ムラクモさん」
男は振り返り純一と顔を合わす。

若いが純一より年上でかなり整った綺麗な顔立ちだ。
「初めましてナナツ=イロハと申します。」

男はそう名乗った。


耳障りな音をたてて、古びた蝶番がきしむ。
己の場所と外とが完璧に遮断されたことを確認すると、ナナツ=イロハは嘆息した。
自分に任せる、と言っておきながら、恐らくは見張っていたのだろう、ムラクモは。これだから魔族は食えない。誰にともなく毒づきたい気持ちになった。


何も知らない、知らされていない「滅びの子」と、それを担ぎあげて争いを待つ魔族。

何も知らない、しかし友人の言葉によって、少しずつその知識と能力を蓄えている「選ばれし子等」。

そして自分。

役者は少しずつ埋まってきている。残る空席はあと少し。
そのためにすべきことは。

「じゃあ行きますか…天使のお嬢さんのもとへ」

そう言ってナナツ=イロハは、神とも悪魔ともつかない微笑みを、縦に割れた瞳孔に乗せた。


***

遥か昔…

アダムとイブが楽園を追放された時。
悲しみは始っていた。

悪戯好きな蛇が
アダムとイブに知恵の果実を与えただけのことだった。

知恵の果実を食べてはいけないとの神との約束を破った
アダムとイブは追放と言う形で未来へと向かった。

神は蛇に対して厳しい罰を与えた。
死の無い罰。
どんな苦しみを受けても決して死ぬこのない罰。

しかし

愚かな蛇は、それを罰とは思わなかった。
とわに生きることの苦しみを、感じるすべを持たなかった。

そして神は慈悲深かった。
終わりの見えぬ絶望に、一筋の希望を与えたのだ。

神は、今の世界と別にもう一つ世界を作り
蛇をそこに封印することにした。

そして、封印の守護神として6人の賢者と1人の天使を遣わせた。

封印した世界を「ギルバード」と言う。

愚かな蛇の呪いを解く、最後の希望の世界である。


***

「これが、このギルバードの創世記だ」

長話を終えたシールは疲れたように、そしてどこか満足げに、言葉を切った。

「なぁるほどね〜。で、その賢者ってのが俺らの背後霊で、天使が小澤ちゃんの背後霊、ってわけだ」
「じゃあ、その蛇の人が、さっきも出てきた「滅びの子」ってことですか?」
「いや、」

小さな両生類は否定の語を述べた。そして、どこか遠くを見るように言う。

「蛇は、この世界の争いに関わることはできない。死のない体でただ見守るだけだ。
…滅びの子の持つ力は、別のところにある」
そこは、全てが闇だった。

町はただのガラクタになり家々は崩れ壊れていた。

空は暗雲が広がり全てを飲み込んだ。

樋川は近くの崩れかけの家の壁に寄りかかり信じられない光景を見ていた。

「う...ん? ここは何処?さっきまでみんなと....」
樋川の目に入ったのは、真っ黒な炎に纏われた小澤純一だった。

体が動かない。
辛うじて動くのは目だけだった。

右に目をやるとシールが下を出してひっくり返っている。
その横には志菜が倒れている。

さらに左に目をやると八重と健吾が倒れている。
八重にとっては口から血がでていてかなり重症ととれた。
鎧のような服がボロボロになっている。

「一体、どーしたって言うだ!」
しかし、声にならない自分も血まみれなっているからだ。

意識が朦朧とする中。

紅葉と一実は、小澤純一に構えている。

「貴様ら、我に逆らうと言うのか?」
まるでホラー映画に出てくるゴーストのような低い声で小澤は喋っている。

「小澤!意識をハッキリ持て!」
一実は、大声で怒鳴った。

「う..う...どうやら時間の問題らしい...」
小澤純一の中に二人いる。

滅びの子と小澤純一。

「嘉神! 咲島! よーく聞け!俺はもたない。だからすぐにケリを付けてくれ!!そして」

妹を助けてくれ。

紅葉は黙って自分の持っている大きな刀のような剣を小澤に向けた。

「紅葉!!まて!!相手は小澤だぜ!なんで俺らが.....」
一実は取り乱している。

「分かってる!!俺だってこんなことしたくねーよ!!だけど!しょーがないだろ!!ここでケリを付けないと現実世界も消えてなくなる!」

現実世界も無くなる?
どーゆーことだ?
樋川は朦朧としながら意識が途切れ途切れになっていった。

紅葉があんなに取り乱している。
一実が泣いてる。

あのコンビがここまで取り乱すなんて見たことなかったな.....

小澤!!行くぞ!!
一実は大きな水晶が付いた杖を向けそれが光った瞬間、樋川は闇へと落ちて行った。

.
..
...
....
.....
......

「おーい。樋川〜大丈夫かぁ〜」

樋川は、ベットの上で目が覚めた。
どうやら宿らしい。

紅葉は椅子に足を乗せカエルのような格好でこっちに見ていた。
志菜は絞ったタオルを樋川のおでこに置くとこだった。
シールと一実は地図を眺め、八重は窓の外を見ていた。

さっきのはなんだったんだ。
とても酷い夢だった。

「樋川!大丈夫か?焦ったよ!町に着いた瞬間。倒れるんだもん!」
紅葉が心配して声をかけた。

「倒れた?まったく記憶がないな。。。嫌な夢を見た。すごいリアルな。」

「話すでないぞ!自分の中で留めとくのじゃ」
シールが細い目をもっと細くして怒鳴った。

な!なんでだよ!夢だぜ。

「お主の創造士の力が目覚めつつある。いいかの?創造士の力に未来を予測する力がある!」

「おっおい!待てよ!あんなのって無いぜ!!」

「話は最後まで聞かんか!未来と行っても何通りもあるんじゃ!創造士の力によって何通りの未来が何通り出来るかが決まる。お主が弱ければ今、見た夢の通りじゃな。しかし!力をつけてけば何通りの未来があるのじゃ。」

一人じゃどうにもならん。だから仲間がいるのじゃ。
シールは話が終わるとどっかに行ってしまった。


「樋川も起きたことだし!町、行こうぜ?!」
紅葉の明るい声が部屋に響いた。
side; destroyer <滅びの子>

『全てを仕方が無いと受け入れない事、それこそが真実です』

残像のような青い影が記憶の奥で踊る。
運命に屈さない。力に屈さない。口では言える。出来ることなら覚悟もある。
けれど、自分は独りだ。
その事実は、揺るがない。

ならば、

(見極めなさい)
見極めようじゃないか、真実を。

許された部屋から抜け出して、魔族の名のつく彼らが待つであろう扉を開けた。
利用されるならそれでいい。ただ、俺は、見極める。

「お主…」
「武器を、ください」

諦めない。

「俺は戦う」

真実を知る。

「選ばれし子らを倒すために」

何をするかは、その後だ。


side; Angel <天使>

戦いのニオイがする。
悲しみのニオイがする。

「泣かないで」

小さな手が私に触れる。あたたかい水滴。
泣かないで、優しい子。

「天使さま、泣かないで」

泣かないで、異界の子。
世界に巻き込まれた優しい子。私に愛されたかわいそうな子。

ああ、すべてを、終わらせなくては。


side; snake <蛇>

霧の中。森の奥。泉のほとり。世界樹と呼ばれる木の下で。
濡れた瞳。小さな体。天使の魂に寄り添う少女。
まるで、ここだけ世界が切り取られたようだ。彼女らにとっては、おそらくその通りなのだろう。

争いにまみれる世界を疎い、泣きながらすべてを捨てた天使。
天使に抱かれ、泣きながら、泣かないで、と懇願する少女。
お互いにとって、お互いがすべてなのだ。

しかし、それではいけない。

この世界のために、彼女らのためにも。

「お兄さんが来ていますよ」

カサリ、と下草が音を立てる。涙を溜めた虚ろな目が揺れる。こちらを見た。風が流れ、霧が少し晴れた。

「あなたを想って」

果たして、この声は届いているのだろうか。
彼女たちが世界すら象徴している以上、聖域とも呼べる場所に土足で踏み入ることもできない。もっとも、そんなものがなかったとしても、いたいけな少女に無理に近づくなどというフェアでない真似はしたくないが。
ただただ、言葉をかけ続けた。

「どうか絶望しないでください」
「世界を見て下さい」
「まだ美しいものはある」

「すべてを終わらせようなどと、思わないで」

世界の象徴。天使の象徴。
すべての汚れないものの象徴である彼女が、どれだけ自分の言葉に耳を貸すかはわからない。

けれど、放ってはおけなかったのだ。
世界に巻き込んでしまった、彼らの、苦しみを想うと。

(…なーんて、ね)

ガラでもない。
偽善的。偽悪的。嘘つきで卑怯で愚かなヘビは、本当の心など遥か昔に忘れたのだ。
今ある気持ちなんて、嘘偽りにまみれて、自分でも、もう、わからない。


side; unique <変命の種>

昔語りをしてあげようか?
むかーしむかし、ここではないどこかで、戦いがあったんだ。滅びと賢者と天使のお話。ずっとずっと昔の話。

でもね、
伝えられてない存在も、ある。

さぁ、興味がある?
この手をとる?

君の名を教えてよ。


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