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外国から見たニッポンコミュの芦屋探訪

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 神戸と大阪の間に位置する兵庫県・芦屋市には、わが国でも指折りの高級住宅街がある。

阪急電車・芦屋川駅で降りて、川に沿った歩道を北へ歩く。

坂道は歩いているうちに傾斜がきつくなり、初夏でも全身から汗が噴き出してくる。

芦屋川沿いの丘の上や森の陰に、古めかしい洋館が見え隠れする。

山手町・三条町・六麓荘(ろくろくそう)といった地域には、神戸や大阪で企業を経営して財産を作った成功者たちの豪邸が、今も数多く見られる。

大阪城のように大きな岩を組み合わせた石垣。

古めかしい土蔵を持ち、しんと静まり返ったお屋敷。

東京の高級住宅街とは異質な、伝統の鎧におおわれた重々しい雰囲気が漂っている。

芦屋に来ていつも感嘆させられるのは、ぜいたくな借景である。

北を見れば、緑したたる六甲山。

南に目を転じれば、大阪湾が広がっている。

夜になれば、大阪湾の対岸、泉南地方の灯りが見える。

芦屋のお屋敷町は、丘の中腹にあるので、山と海の両方を見ることができるのだ。

これほど豪華な自然の風景を持った住宅街を、私はほかに知らない。

いわんや私が住んでいるドイツでは、このような変化の富んだ風景は、あまり見られない。

阪急電車の線路から北側の地域では、阪神大震災による被害は、海岸沿いの地域に比べて軽微だった。

自然の猛威すらも、成功者たちをひいきし、持たざる者により厳しいしうちをするのだろうか。

芦屋は、谷崎潤一郎の小説「細雪」の舞台でもある。

零落しつつある大阪の商家・蒔岡家の三人姉妹、幸子・雪子・妙子が住んでいるのがこの地であり、美しい自然に囲まれた屋敷とその庭の様子が、昭和初期の芦屋のたたずまいを、ほうふつとさせる。

関西では大阪で働き、芦屋に住み、京都で遊ぶというのが、富裕層の生活パターンだが、この姉妹の生活はその典型である。

特に姉妹が恒例の行事として、京都の平安神宮の神苑で桜を愛でるシーンは圧巻である。

三人の娘が芦屋の屋敷に強い愛着を覚え、ときおり訪れる東京になじめないのは、阪神間地域の美しさを知る者にはよく理解できる。

この地域に甚大な被害をもたらした阪神大水害すらも、この姉妹の芦屋への愛着には、何の影響も及ぼさない。

「細雪」では、豪商だった父の死後、かつては羽振りの良かった一族に衰退の影が強まっていく。

つまり伝統的な家族制度の崩壊が大きなテーマの一つとなっている。

今日の芦屋を歩けば、谷崎が予見した伝統美の消滅や、エスタブリッシュメントの凋落を、至る所で目にすることができる。

たとえば、立派な石垣を持った邸宅が空き家となり、「管理地」の看板が立てられていたり、ブルドーザーが騒音をまきちらしながら、邸宅の跡地を平らにしたりしているのを目にした。

所有者が相続税を払うことができず、土地を売り飛ばしてマンションが建てられるのだろう。

「細雪」で谷崎があざやかに映し出した旧富裕階層の崩壊の流れは、今も続いているのだ。

外部に向かって固く閉ざされた門の裏では、三人姉妹が味わったような零落のドラマが、ひそかに繰り広げられているのかもしれない。

(文・熊谷 徹 ミュンヘン在住)

筆者ホームページ・http://www.tkumagai.de

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