https://news.yahoo.co.jp/articles/f8ba0569f6c16e3c54751860dd90309d6b7e8f9d
前回「カナダで殆ど報道されず話題にも上らない東京オリンピック・パラリンピック」を書いたのが3月1日。【m(カナダ在住ブロガー)】
あれから3カ月、カナダでも東京オリンピック・パラリンピックの報道は増加した。その殆どが「開催されるか否か」「安全か否か」だ。
既に大会まで2カ月を切っているのに、いまだに開催されるかどうか安全かどうかがuncertain(不確実)なのだ。
カナダでも「パンデミックなのにオリンピックをするのか?」という疑問と葛藤が存在している。
2020年3月、ICOのアスリート委員であるヘイリー・ウィッケンハイザー氏(6回オリンピックに出場し金メダルを4個持つ元アイスホッケー選手。2021年5月にメディカルコースを修了し'ドクター'となった)は自身のtweetで「この危機(コロナ禍)はオリンピックより巨大です」「IOCがオリンピックを強固に進めると主張しているのは、人類の今の状況を考えると無神経で無責任なことだと思います」と述べ開催延期のきっかけを作った。しかし、IOCや周囲はこの彼女の発言に「ハッピーではなかった」らしい。
陸上競技のチャールズ・フィリベルト=ティブートット選手はウィッケンハイザー氏の発言を受けて「人々は、本当に打撃を受けている。事業を営んでいる人たち、解雇される人たち... それなのにIOCは『まだ大会を開催する』と言っている。無神経だと思う」、「もっと大きな問題は、人々の健康や安全をIOCはあまり配慮していないところだ。選手は苦労しているが、私たち以上に苦労している人はたくさんいる」と選手という立場でありながら、コロナの危機に際してオリンピックは最優先されるべきではないことを指摘。[参照: 'Insensitive and irresponsible': Hayley Wickenheiser calls out IOC decision on Olympics|Global NEWS]
結果としてカナダIOCが「2020年の夏に予定通りに開催されるのであれば参加しない」と発表、これに賛同する国が現れ、開催延期の運びの糸口となった。
そして2021年の4月、再びヘイリー・ウィッケンハイザー氏は「オリンピックの決定は、IOCではなく(オリンピックの利権に関わらない)医療の専門家であるべきだ」と発言。大会に注ぎ込まれたトレーニング、準備、資金は理解できるが、最終的には「安全性と公衆衛生を重視すべき」、「大会を開催するのであれば、非常に明確で透明性のある説明がなされるべき」とCBC(カナダの公共放送局)に語っている。[参照: Hayley Wickenheiser again sounds alarm, saying wrong people making decision on Olympic Games|CBC]
5月19日にはトロント大学の感染症疫学者であるコリン・ファーネス氏は「世界的なパンデミックの際の最悪な行動は、世界中から大勢の人が一箇所に集まり、密集して混ざり合い、また戻ってくることだと思います」と発言。[参照: 'Risks just too high': Calls grow to cancel Tokyo Olympics amid Japan's COVID-19 surge|Global NEWS] オリンピック開催は、まさにこの『最悪な行動』に当てはまる。
つまり、カナダはパンデミックの中でオリンピックを行うことにかなり懐疑的だ。
一方でIOC委員のディック・パウンド氏は、IOC会長のトーマス・バッハ氏が6月の日本訪問を中止したにもかかわらず、「東京オリンピックは予定通り開催される」と述べている。[参照: IOC's Dick Pound says Tokyo Olympics to move ahead despite pandemic concerns|CBC]
<何故、ワクチン接種が日本は飛び抜けて遅いのか?>
「オリンピック開催国なのに何故ワクチン準備を怠ったのか?」「準備が遅れた時に、何故、然るべき対策を立てなかったのか?」
日本はワクチン接種開始がG7の国では一番遅かった。それでも『ロジスティックには優れている日本だから、あっという間に接種を終えるのかも』という予測もあった。しかし、5月31日時点でワクチン接種完了者は2.7%、1回目の接種完了者は7.7%(データ: Our World in Data)である。
ワクチン供給、予約や接種実行で躓くのは他国でもあった。しかし他国では数週間程度で解消されてきた問題が日本では解消されていない。日本人であれば『トップダウン方式や自治体との連携問題などで初期に時間がかかるのであろう』と問題の原因と背景は何となく想像がつく。しかし、他国からすれば「1年延期されて準備期間があったのに?」「オリンピック開催国なのに?」と疑問でしかないようだ。
カナダでは既に殆どの州でワクチン接種対象者が12歳以上全員になっている。よって、州が定めた順番に従って1回目の接種を終えているオリンピック選手が多い。オリンピック選手がワクチンを打つことは『特権』ではなくなっているのだ。2月にカナダIOCが「オリンピック選手を優先してワクチンを打つ」案を掲げた時は大きな反発があり、その案は却下された。しかし数カ月でそれを特権と感じさせないワクチン接種率をカナダは達成した。
日本は医療従事者や高齢者のワクチン接種でさえ完了していない。こういった事情から日本が開催国としての努力を怠ったようにみえてしまう感は否めない。
<カナダは静観する>
前回記事の「カナダで殆ど報道されず話題にも上らない東京オリンピック・パラリンピック」でも書いたが、2020年と違い、カナダは表立った表明はしないと思われる。開催に反対もしないし開催キャンセルに反対もしないだろう。
既に一部の選手やチームは選考辞退や最終予選に行かない決定をしている。参加に関しては個人やチームに任せるというスタンスをとっているように思う。
IOCと日本が既に開催すると言っているのであれば、選手たちはベストを尽くすだけだろう。開催をキャンセルするというのであれば、選手たちはそれを苦痛を伴って受け入れるだろう。
既にオリンピックはスポーツイベントとしての楽しさよりも、お金が絡むイベントの醜悪さをまざまざと見せつけてしまった。オリンピック・スピリッツはなく、原義は説得力のかけらもなく消え失せ、お金への執着と汚さを浮き彫りにしてしまった。
カナダは東京オリンピック・パラリンピック開催に懐疑的である。開催可否よりも、開催が人間として正しい行為なのかどうか疑問を呈する人が多い。『オリンピック開催よりパンデミックの沈静化を優先させるべき』と思っている人は多いように見受けられる。しかし、カナダは開催国ではないのだ。医療逼迫のさらなる悪化やワクチン接種の遅れがあっても、オリンピック開催を声高に唱えているのは日本なのだ。開催で引き起こされる問題は端的に言ってしまえば『他国ごと』だ。
カナダの選手は粛々と準備するであろうし、ベストコンディションも保つ努力をするであろう。チームや選手が参加が安全なものでないと判断したなら、出場辞退することもあるだろう。
障害飛越競技のエリック・ラマーズ選手は体調不良を理由にオリンピック代表選手選考辞退を申し出た際にこう言っている。「オリンピックはアスリートの祭典ですが、東京では本当の意味での祭典にはならないと思います。祝うべき時ではないのです」(参照: Show jumper Eric Lamaze won't compete at Tokyo Olympics due to health concerns|TRONTO SUN)
アスリートたちに葛藤と苦痛を精神的にも身体的にも与えるオリンピックという点では、東京オリンピック・パラリンピックは突出しているかもしれない。