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カナダの歴史と政治コミュのカナダでなぜ中国系議員が増えているのか

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※本稿は、安田峰俊著『中国vs.世界』(PHP新書)より一部を抜粋・編集したものです
https://news.yahoo.co.jp/articles/a75801c24712eb22ea3ece23de6273fce01fdc7d

 移民大国カナダで、中国人系の国会議員が増えているという。2年前のカナダ連邦下院選に立候補した華人候補者は過去最多の41人にのぼり、そのうち8人が当選した。寛容な民主主義国家で何が起こっているのか。現地を訪れたルポライターが、歴史をひもときながら解説する。

■民主主義体制と権威主義体制の対立
 新型コロナウイルスの流行以降、世界では感染症に対する民主主義国家の弱点が指摘された。対して中国は2020年の春ごろにコロナの封じ込めにほぼ成功してからは、かえって自国の体制の優位性を強調するようになった。ポストコロナの時代は、民主主義体制と中国のような権威主義体制の対立がより深まっていくことだろう。
 しかし、実はコロナ以前から「中国vs.民主主義」の角逐の最前線に置かれていたのが、多数の中国人移民を受け入れてきたカナダである。過去の歴史的な経緯を踏まえたうえで、現在の問題をみていこう。

■1990年代に香港人が殺到
 カナダにおける中国系住民の歴史は、1850年代にロッキー山脈で金鉱脈が発見され、一攫千金を夢見る中国人の炭鉱夫が殺到してゴールドラッシュが起きたことで幕を開ける。
 金鉱脈は20年ほどで衰退したが、その後も大陸横断鉄道の建設にともない多数の安価な労働力が必要とされたことで、広東省出身者を中心とした多くの中国人労働者「苦力」(クーリー)たちが香港経由で海を渡った。
 北米有数の規模で知られるバンクーバーのチャイナタウンは、この時期に成立している。ほか、チャイニーズ・フリーメイソンの別名で知られる中国人の伝統的な秘密結社・洪門(ホンメン)のカナダの組織も、1863年に金鉱山に近いバーカービルの中国人鉱山労働者たちの間で結成された。
 とはいえ、往年のカナダ政府は人種的偏見もあって、中国からの移民たちに好意的とは限らなかった。むしろ、中国系移民にのみ人頭税を課したり、中国人労働者の家族の渡航を拒否する華人排斥法(1923〜47年)を成立させたりと、20世紀なかばまでは移住を制限する傾向のほうが強かった。
 いっぽう、この時期までの中国系移民は、労働者層を中心とする学歴や収入が比較的低い層の人たちが多く、性別も男性に大きく偏っていた。中華人民共和国の成立後には、社会主義化や文化大革命の混乱から香港経由で逃げてきた政治・経済難民も多数いた。
 こうした傾向が大きく変わるのは1990年代以降である。1989年に起きた天安門事件のショックもあって、来る1997年の香港返還を前に、同じ旧英国植民地で歴史的な関係も深い(= 広東系移民が多い)カナダへの移住を望む香港人たちが激増したからだ。
 いっぽう、この時期は台湾でも、国民党の一党独裁体制に見切りをつけて海外移住を望む人たちた移民が殺到し、特に香港人が多かったことから「ホンクーバー」という渾名すら付いた。
 香港・台湾出身の移民たちの特徴は、それまでの中国系移民と違い、専門的な技術や知識を持つ高学歴のホワイトカラー層が多かったことだ。彼らは従来の中国系移民が暮らすチャイナタウンを嫌い、郊外に住んだことから、結果的にカナダ国内で中国系住民の分布が広がった。
 たとえば、バンクーバー郊外のリッチモンド市は、いまや人口約20万人のうちで中国系住民が約7割を占めるという巨大な中国人タウンに変貌している。そのきっかけをつくった中国系の移民こそ、1980〜90年代の香港出身者たちである。
 とはいえ、高学歴のホワイトカラー層が多かったとしても、人口が少なく雇用のパイも限られているカナダで、移民たちが望む仕事に就けるとは限らない。
 間もなく、移住先では充分に稼げないと見切りをつけた男性が、治安や教育環境が良好なカナダに妻子だけを残して、本人は香港や台湾に戻って働いて家族を養うという、逆出稼ぎのような奇妙な状況があちこちで見られるようになった。
 「太太(タイタイ:妻)」から離れて家庭を「空」にしていることから、こうした男性たちを「太空人(タイコンレン)」と呼ぶ俗語も流行した。ちなみに太空人とは、本来は宇宙飛行士を意味する中国語である。
 やがて1997年に香港が返還されると、「太空人」現象を割に合わないと感じる人が増えたことや、返還後の香港が意外と安定していたことなどから(香港の政治情勢が大幅に悪化しはじめるのは2014年の雨傘革命以降の話である)、香港人のカナダ移住熱は一気に下がる。
 結果、21世紀に入るころから、香港・台湾人の代わりに増加しはじめたのが中国大陸出身の移民である。過去のような出稼ぎ労働者や難民ではなく、中国の対外開放と経済発展にともなって、比較的豊かな層の人たちがカナダに移り住むようになったのだ。

■カナダ連邦下院選で8人の中国系候補が当選
 中国からの移民が増えていること自体は、カナダだけの限った話ではない。カナダと他国の違いは、事態がさらに「先」に進んでいたことである。
 多様性を重視する民主主義国家であるカナダにおいて、近年になり華人議員が増加していることだ。人口の5%近くを占める華人票を得ることで選出された議員たちは、カナダの各都市や各州、さらには連邦議会でも存在感を増しつつある。
 2019年のカナダ連邦下院選に立候補した華人候補者は過去最多の41人にのぼり、そのうち8人が当選した(なお、2011年の選挙は華人候補者23人のうち7人当選、2015年の選挙では27人立候補のうち6人当選)。
 2019年の当選組のうち、現職議員がそのまま勝利したのは、対日歴史問題に強硬姿勢を取る香港出身のジェニー・クワン(関慧貞)ら6人。いっぽうで新人は、ハン・ドンとケニー・チウ(趙錦栄)の2人である。
 特に1977年生まれのハンは13歳で上海からカナダに移住しており、中華人民共和国の体制下で生まれた人物としては、今回の選挙で唯一の当選者となった。
 なお、こうした華人議員たちの所属政党は、中道左派の与党・自由党が4人で、二大政党の一角をなす中道右派の野党・保守党が3人、左派の社会民主主義政党である新民主党が1人となっており、意外にも政治的立場はかなりバラバラだ。
 だが、彼らの選挙区は、中国系住民が多いトロントがある東海岸のオンタリオ州と、バンクーバーやリッチモンドがある西海岸のブリティッシュコロンビア州に偏っている。

■選挙を用いた浸透工作
 マイノリティである中国系住民から多数の議員が誕生している現象それ自体は、カナダ社会の寛容性を示すものだ。
 日本が100万人近い中国人人口を抱えているにもかかわらず、華人の議員がほぼいないことを考えれば(例外は立憲民主党の蓮舫氏くらいだ)、カナダのありかたは民主主義社会としては非常に健全だ。本来は称賛するべき話である。
 しかし、他方で近年になり明白になりつつある「残念な真実」も存在する。カナダの華人議員の一部に、北京の中国政府と近い人物や、中国人のナショナリズムを煽り立てる人物が少なからず含まれていることだ。
 たとえば、新民主党の下院議員で香港出身のジェニー・クワンをはじめ、オンタリオ州やブリティッシュコロンビア州の一部の中国系地方議員は、カナダの社会で南京大虐殺や慰安婦の問題を過剰に持ち出し、対日歴史問題に強硬なポーズを示すことで華人票を固める戦略を取っている(拙著『もっとさいはての中国』参照)。
 同じカナダ華人といっても、移住時期や言語が大きく異なる人たちを、最大公約数的にまとめあげて票につなげるのに、「日本の中国侵略」や「祖籍国(中国)への愛」は、非常に使いやすいテーマとなるわけだ。
 いっそう深刻なのは、2015年に中華人民共和国の出身者として史上初の下院議員に当選したゲン・タン(譚耕)のケースである。北京生まれ湖南省育ちの彼は、湖南大学を卒業後に中国で高級エンジニアとして働いてからトロントに留学、カナダで博士号を取得してそのまま定住した経歴を持つ。
 ところが2018年1月、複数の現地メディアは、ゲンが中国人ビジネスマンの資金供与を受ける形で中国渡航をおこなったことや、中国大使館への口利きをおこなっていたこと、さらには下院議員当選後にしばしば中国に赴いて中国共産党員の政府関係者らと接触していたことなどを次々と報じた。
 つまり、過去起こったオーストラリアの事例と似た問題が持ち上がったのだ。ゲンはこれらの報道を否定したものの、その後に別の個人的なスキャンダルが伝えられたこともあって、まだ50代後半と議員としては脂が乗った時期にもかかわらず、2019年の下院選には不出馬を表明している。
 アメリカの緊密な同盟国かつ隣国にもかかわらず、アメリカよりもはるかに「ゆるい」カナダは、中国から見れば非常に貴重な浸透工作の対象だった。多様性を重んじる民主主義国家ゆえに、自分たちの手駒を国家の内部に送り込むことも容易だったのである。
 とはいえ、近年はさすがに風向きが変わってきた。2018年12月に中国企業ファーウェイの孟晩舟副会長がバンクーバーで拘束されて以来、中国とカナダの関係は悪化している。
 中国側はファーウェイ問題の報復として、カナダ人の元外交官マイケル・コブリグと企業家のマイケル・スパバを中国国内で拘束して恫喝してみせたが、これはかえってカナダ世論の対中警戒心を強める結果を招いた。
 コロナの流行が収まったあと、カナダと中国という世界の国土面積の2位と4位を占める国同士の関係には、どんな景色が広がることになるのだろうか。

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