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カナダの歴史と政治コミュの保守党のシーア党首が辞任、党首選へ

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 保守党のアンドリュー・シーア党首は12月12日、下院での演説で党首を辞任する意向を表明した。次の党首が選出されるまでは職にとどまり、また「当面は」下院議員を続ける。

 (1) 若くて古い人
 トルドー首相に関するあまりに多くのスキャンダルがあるにもかかわらず、そして支持率では自由党を上回っていたにもかかわらず、シーア党首は勝ちきれなかった。彼は若いのに、同性婚や妊娠中絶などの社会問題について徹底的に守旧派であり、プライド・パレードの行進に主要政党党首で唯一参加しなかったため、テレビ討論ではそれらの社会問題について追及され、国民が真に望んでいた経済などの問題に焦点を当てることに失敗した。「笑顔のあるハーパー」と呼ばれた彼は、予算の均衡、減税などハーパー首相の政策を忠実にコピーし、地球温暖化対策を提示することすらしなかった。そして総選挙敗北にもかかわらず、彼は方針を改めようとせず、スタッフも刷新しようとしなかったため、党内では公然と辞任を要求する声が挙がっていた。
 カナダの政治的潮流は、ハーパー時代から大きく動いている。今では信じがたいことだが、そのころの自由党には中絶反対の議員がいた。トルドー氏が党首となってから、中絶反対派は公認しないと決めたので、いなくなったのである。今では保守党は、2016年に同姓婚廃止を綱領から削除したものの、中絶反対を表明する唯一の主要政党である。国民の中にそのようなニーズがある以上、また保守党が保守派である以上、何も変える必要はないとシーア党首は判断したのだろう。
 だがトルドーは2015年総選挙で、財政赤字を恐れず景気を刺激すると発表し、政権を奪取した。彼は首相として初めて、プライド・パレードで行進した。反対の声が挙がっても、炭素税を導入した。トルドー首相に叩けば出る埃が多くあった以上、もう少しましなポリシーを掲げもう少しましな戦略を練れるリーダーだったら保守党は選挙に勝てたかもしれないと、人々は考えただろう。
 シーア党首は総選挙以降、彼がトルドー政権に最初の一撃を加え、その終焉を早めたと主張した。彼は辞任を公表した下院での演説で、こう述べた。
「私はこの党を信じている。私は我々の動向を信じている。そして私は、選挙の後で我々が政権に就くと信じている。」
 25歳で下院議員となり、史上最年少の32歳で下院議長を務め、38歳で党首に就任した彼は、40歳の若さでそのキャリアを終える。終わった時代のアジェンダに固執した人として。
 レジェ・マーケティング社による世論調査は、新民主党支持者が議席を減らしたシン党首について、留任すべきが87%・辞めるべきが6%だったのに対し、保守党支持者が議席を増やしたシーア党首については、留任すべきが48%・辞めるべきが40%という対照的な結果を示していた。全てのカナダ人の間では、シン党首は留任すべきが52%に対し、シーア党首は留任すべきはわずか24%だった。

 (2) シーア党首は家族を理由に挙げた
 シーア党首は先々週、帰宅すると息子の一人と話した。野党第一党党首は公職で、オタワに公邸が用意されていることから、妻と5人の子供たちとともにリジャイナから転居した。子供たちも転校を余儀なくされたが、多忙な日々の中で彼は、自分がいかに子供たちの状況を理解していないかを気づかされたという。
 彼は下院でこう演説した。
「私は同僚たちに、常に誠実だった。私は誰にでも、常に誠実だった。そして前途にある負担が家族にかかることを知りながら、100%の完全な平安を保証をすることができなかった。」

 (3) 経費私的流用問題
 シーア党首は辞任を公表する前に、12日午前の臨時幹部会でその意向を保守党議員たちに表明している。実は前日11日にも幹部会が招集され、その日辞意を表明するつもりでいたが、アメリカ・メキシコとの新しい貿易協定に関する情報が入って来て、その対応について協議したため、言い出せなかったという。それで翌12日に臨時幹部会を招集し、辞任を発表したのだという。
 だが匿名の情報源は、異なる筋書きを説明する。党はシーア党首の転居費用を負担することになっていたが、子供たちをオタワの私立校に通わせるための授業料まで負担させていたことが10日に発覚した。シーア党首の側近は、彼の党首就任時に党重役たちに承認されたことであり、問題はないとしているが、党の経理担当者は知らされていなかったという。「最小限」とされた費用は、実際には数千ドルにも達していた。この件が極秘情報だったことは明らかであり、党中枢の誰かがシーア党首を追い落とすためにマスコミに暴露したのは確実だった。
 ハーパー前首相の側近だったジェニー・バーン氏は、「擁護できない」と明確に非難した。
「党の経費で子供を私立校に入れた党首など、私は一人も知らない。」
「皆は、これが不適切で容認しがたいと感じている。これらは転居費用でなく、生活助成金である。」
 ジャン=ギ・ダジュネ上院議員も、シーア党首は経費を払い戻すべきだと力説した。
 シーア党首の事務所は、授業料問題が辞任の理由ではないという声明を発表した。党経理担当は、辞任発表まで授業料問題を知らず、調査を開始しようとしたとき「偶然にも」辞任が発表されたと、わざわざ説明した。

 (4) 後任は誰か
 サッチャーやコールのような長期政権の後は、後継者が頼りなく見られるのか、野党に転落している。池田や佐藤のようなリーダーは後継者を育てているが、「安倍の次は安倍」などと言われている人は、引退後はどうするつもりだろうか。
 ハーパー前党首(前首相)は、引退後を引き継ぐ後継者を育てるのではなく、自分の立場を脅かしそうなナンバー2を次々と排除した。そのため有力な後継候補はみな政界引退に追い込まれ、後継党首は閣僚経験もない38歳のシーアだった。
 ナンバー2と言われてきたジム・プレンティス元環境大臣は、引退して銀行家となり、後にアルバータ州首相になったが、事故死した。ジョン・ベアード元外務大臣も、突如引退した。ジェームズ・ムーア元産業大臣も、息子の病気を理由に引退し、法律事務所で働いている。
 本人が何度否定しても、その都度党首の座を狙っていると言われ続けているピーター・マッケイ元外務大臣も、結婚して「家庭の事情」を理由に突如引退し、弁護士を務めている。シーア党首の辞任発表で、彼はまたしても大本命と言われている。
 2017年の党首選を沸かせたケビン・オリアリー氏とマクシム・ベルニエ氏は、ともに党首選出馬の噂を一蹴した。ベルニエ氏は人民党党首であり、骨肉の総選挙を戦ったばかりである。
 ハーパー政権の「影の実力者」ジェイソン・ケニー元国防大臣は、アルバータ州首相になったばかりで、考えていないという。オンタリオ州のダグ・フォード首相も、興味がないと語った。
 穏健派のエリン・オトゥール元退役軍人大臣は、2017年党首選で3位になり、有力視されている。
 リサ・レイト前副党首も有力視されているが、同じ選挙区に金メダリストのアダム・バン=コーバーデンがいて落選中である。
 マイケル・チョン元政府間関係大臣は、2017年党首選で5位に敗れている。
 ブラッド・トロスト前議員は、著名な社会保守主義者で、妊娠中絶非合法化を今も主張し続けている。2017年党首選で4位に敗退したが、党内基盤の弱いシーア氏を支持し当選させた。シーア党首が社会保守主義的政策に固執したのは、トロスト氏ら社会保守主義者に支えられているからであり、総選挙敗北の元凶と見られている今、当選への道は険しい。保守党は近い将来、妊娠中絶非合法化を放棄し、従来型の社会保守主義者は居場所を失うのではないだろうか。
 彼は党首選で、党員リストを外部に漏洩した疑惑を持たれ、選挙区での予備選で落選し総選挙に立候補できなかった。
 オンタリオ州のキャロライン・マルローニ運輸大臣は、ブライアン・マルローニ元首相の娘で、名を挙げられている。2018年のオンタリオ進歩保守党党首選で、彼女は政治歴がないのに立候補を要請され、3位となった。
 ミシェル・レンペル・ガーナー前西部経済多様化大臣の名を挙げる人もいる。彼女は妊娠中絶や同性婚に寛容な「ピンク・トーリー」で、社会保守主義が強い批判に晒されている今はチャンスと言えようが、39歳と若く、これからの人だろう。
 リオナ・アレスレフ副党首は、自由党から移籍してまだ日が浅い。シーア党首から副党首に抜擢されたが、プライド・パレードに参加しない彼をかばおうとして「(アイルランド人の)セント・パトリック・デーの祭に参加を強制する人はいない」と発言し、一昔前には差別されていたアイルランド人を、現在差別されているLGBTに譬えたことを批判され、謝罪した。

 サスカチュワン州で長期保守政権を築いたブラッド・ウォール前首相は、何度も連邦保守党党首の地位を打診され、その都度断り、引退して2年経つが今でも名を挙げられる。彼は出馬を否定したが、ロナ・アンブローズ前暫定党首の出馬を望むと語った。
 2015年総選挙敗北を受け、暫定党首に就任した彼女は、党首選を無事に終わらせると政界を引退した。彼女はまた、プライド・パレードに参加した初の(連邦)保守党党首である。任期中には、先住民の女性が多数行方不明になっている問題について、ジョディ・ウィルソン=レイボールド法務大臣に会い「できることは何でもする、これは党派を超えた問題だから」と言って協力を約束した。また新任の裁判官に性的暴行プログラムの履修を義務づけたのは、彼女が個人提出した法案が成立したものである。
 ウォール氏は、党派に固執しない彼女が党首なら、党は結束できると語った。
「党は、社会保守主義的問題に集中しない。彼女は彼らに対し、異なる姿勢をとる。」
「我々は、経済問題に立ち返る。」
 西部の疎外感が原因で、西部分離主義「ウェグジット」が盛り上がる兆候を見せている。ウォール氏はそれを抑えるためにも、アルバータ出身のアンブローズ氏が適任だと推薦した。
 自由党もまた、彼女を高く評価している。トルドー首相は、アメリカ・メキシコとの貿易協定の顧問団に、彼女を加わえた。首相が彼女を駐米大使に任命するという推測もある。


図左:保守政党党首の、総選挙敗北から辞任までの日数。
写真右:ブラッド・ウォール前首相(左)とロナ・アンブローズ前暫定党首(右)。

コメント(11)

https://www.cbc.ca/news/politics/scheer-conservative-leadership-contenders-1.5393809
CBCの記事で、クリスティ・クラークBC州前首相の名が挙げられていますが、勘弁してほしいです。長期政権の最後は見苦しいものでした。
https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=1611536&page=1&id=82566373
 保守党は12月20日、2020年4月にトロントで開催する予定の党大会を延期し、11月中旬にケベックで開催すると発表した。党首選もこのとき実施され、それまではシーア党首が留任する。
 連立する習慣のないカナダでは、少数政権がしばしば成立したが、その多くは1年と続かなかった。三大野党が協力すればいつでもトルドー内閣を打倒できるのに、最大野党が暫定党首では、新政権を樹立できない。保守党内では、このままでは戦えない、4月より前に党首を選任すべきだという声も挙がった。だが党首選立候補には、7つ以上の州・30以上の選挙区から推薦人300人以上の署名が必要だという党則があり、短期間での党首選開催は難しかった。
 カナダ同盟と進歩保守党が合併して成立したカナダ保守党は、実際には雑多なグループの集合体だった。初代党首のハーパー(後の首相)は、選挙に勝つことだけを考え、党綱領は両党のものを足して2で割ったようなものにした。そして自分が党首の間は、同性婚廃止や中絶非合法化といった、党を分裂させそうな問題を封じ込めた。だが彼が引退すると、13人が党首選に出馬し、実は雑多なグループの寄せ集めであることが明確になった。
 全国評議会のゼハビ・ジノバーグ氏は、党首選について次のように述べた。
「我が党は、大きなテントだ。それは、社会保守主義から財政保守主義やレッド・トーリーまで、異なる保守のグループから成る。次の党首がそれらのグループを一つにすることができるなら、我々にはトルドー首相を破る大きな可能性がある。」
 保守党は1月3日、6月27日にトロントで党首選を行うと発表した。
 党首選管理委員会のダン・ノーラン委員長は、党員の圧倒的多数は、できるだけ早期の党首選を望んでいたと説明した。
「自由党少数政権がいつでも打倒可能な状況にあって、我々には最大野党として、できるだけ早くその用意をする義務がある。」
 管理委員会には、党首選に関するあらゆる規則を作る任務がある。日付の次は、立候補の条件を設定しなければならない。2020年党首選では、立候補するには党員3000人の署名と登録料30万ドルの支払いが求められることになりそうだと、党内事情通は語った。2017年党首選では、署名300人分と登録料10万ドルだった。なお登録料は、候補が規則に従い公正な選挙を行ったときは、半額は払い戻される。
 皮肉なことに、党首選はトロントのプライド・パレードと同日に行われる。その日辞任するシーア党首と、その日就任する新党首は、どちらもパレードに参加しないだろう。
 妊娠中絶に反対する保守系圧力団体「キャンペーンライフ連合」のジェフ・ガンナーソン理事長は、保守党党首選で支持する候補を探している。それは、中絶に関し「議論するだけの十分な合理的理由がある」と主張してくれる人である。
「我々には、意中の人が何人かいる。だがそのうちの誰も『出馬する』と言わない。」
 キャンペーンライフ連合は2017年党首選で、中絶非合法化を明確に訴えるブラッド・トロスト議員を支援し、4位に着けることに成功した。彼の敗退後は、残った候補の中で最もましと思われるアンドリュー・シーア議員を支援し、当選させた。そのような経緯から、シーア党首は個人的には中絶や同性婚に反対するという社会保守主義的態度を取ったが、それらの法制化には反対するというハーパー前党首と同じスタンスを取った。彼のそのような前時代的スタンスが、総選挙で多くの票を逃したと見なされ、社会保守主義者たちも強い批判にさらされている。党内ではもはや、社会保守主義的議論を封じ込めようとする気運すら高まっている。
 メディアでは有力な候補として、ロナ・アンブローズ前暫定党首、ピーター・マッケイ元法務大臣、ジャン・シャレー元ケベック州首相、エリン・オトゥール議員、ピエール・ポワリーブル議員らの名が挙げられているが、保守党左派ばかりであり、その中でキャンペーンライフ連合に最も都合のいい人はポワリーブル議員だろう。だがガンナーソン理事長は「私は彼の立ち位置について、よく知らない」と言う。
 彼はまた、近年の保守党が、何の議論もなしに社会保守主義的政策を封じ込めてきたと語った。
「マスコミやレッド・トーリーはしばしば、我々は声すら上げてはならないかのような圧力をかけて来た。それはおかしい。」
 2018年にオンタリオ進歩保守党党首選に立候補した著名な社会保守主義者のターニャ・グラニック・アレン氏は、社会保守主義はまだ党内で影響力を持っていると語った。
「特定の問題を封じ込める権利が、誰かにあるとは思わない。」
 彼女はオンタリオ進歩保守党で、社会保守主義がしばしば無視されたと証言した。そして次の保守党党首選では、あらゆる問題が議論され、その中で最善の考えが当選すべきだと語った。

 ハーパー前首相の側近だったリシャール・デカリ氏は、シャレー氏の立候補の噂を聞き、彼の当選を阻止するため立候補するという。
 彼は、妊娠中絶への扶助を廃止し、教会での結婚のみを正式な婚姻とすることを訴えている。シャレー氏については、左に寄りすぎているという。
「保守主義とは、過去の社会は良かったと敬意を払うことだと、私は思う。」
 ケベック州元首相のジャン・シャレー氏は1月21日、保守党党首選立候補を断念すると発表した。
 2019年12月にシーア党首が辞任を表明すると、シャレー氏は直後に「立候補を考慮する」と発表した。だが彼は党首選規則と、保守党の変容と、家庭生活を理由に挙げて不出馬を表明した。
 彼は1998年まで、進歩保守党党首を務めていた。だが彼はその後ケベックの州政治に転進し、中道右派の進歩保守党は右翼のカナダ同盟に吸収された。こうして新たに結成されたカナダ保守党は、社会保守主義者が中絶や同性愛反対を声高に叫ぶ党になっていた。
「保守党は私が1998年に去ったころから、大きく変わった。社会問題に関する私のスタンスは、深い信念に基づくものだ。」
 彼が次に挙げたのが、党首選出馬のハードルが高いことだった。立候補申し込み書類を2月27日までに提出し、21日以上前から党員である支持者3000人分の署名を3月25日までに集め、登録料20万ドルを支払い保証金10万ドルを預けなければならない。
「党が設定した党首選規則は、外部の候補には敷居が高い。最終期限は、非常に短い。」
 こうして彼は3つの理由を挙げたが、ほとんどの人はその話を真に受けてはいない。カナディアン・プレスは最近、首相時代の企業献金について彼が汚職の嫌疑で調査の対象になっていると報じた。だが彼は21日、汚職疑惑が立候補断念の理由ではないとわざわざ弁明した。
 雑誌「マクリーン」は先週、ハーパー前党首(前首相)が保守党の財務委員を辞任したと報じた。同誌によると、ハーパー氏はシャレー氏に支援を求められたが、断ったという。保守党の財政を握っているハーパー氏は、シャレー氏を次の党首として好ましくないと考え、党の公職から身を引くことで、別の誰かを公然と支援できるようになるのだと解説した。


図左:党首選出馬を表明しているのは、1993年党首選に出馬したジャン・シャレーと、2003年党首選に出馬したピーター・マッケイ。まさか、1976年党首選に出馬したジョー・クラークは出ないでしょうが。
図右:「バック・トゥー・ザ・ポリティック」。
 ロナ・アンブローズ前暫定党首は1月22日、保守党党首選に立候補しないとフェイスブックで発表した。
「我々が、強く、哀れみ深く、全ての家庭をサポートする人をリーダーに選ぶことを知っている。低い税と少ない規制を通して、民間セクターの可能性を誘発し、普遍的人権と基本外交政策を守るリーダー。」
「何にも増して保守党は、党首は全てのカナダ人に奉仕するものだと理解している人を選ぶ必要がある。」
「我々は良いリーダーを選ぶだろう。そして私は、その人を支える。」
 彼女のメッセージは、次の党首は特定の国民を排除しようとしたシーア党首のようであってはならないと言っているかのようだった。

 右に寄りすぎてなく、穏健な保守と見なされた彼女は、自由党に勝てる党の顔として多くの人々から出馬を期待された。ジェイソン・ケニー首相(アルバータ州)、ブレイン・ヒッグス首相(ニューブランズウィック州)、ブラッド・ウォール元首相(サスカチュワン州)ら重鎮たちからも、出馬を求めるラブコールが挙がっていた。いっぽう大物候補の脱落は、出馬を躊躇していた新たな候補の出馬を促すことになるかもしれない。
 マリリン・グラデュ議員、ピエール・ポワリーブル議員、エリン・オトゥール議員、デレク・スローン議員の4人が、すでに立候補を表明している。
 保守党党首選に立候補しているエリン・オトゥール議員は、6月10日にマニフェストを発表したが、スローガンの「カナダを取り戻す」(Take Canada back)が話題になっている。
 インターネットでは、様々な疑問や揶揄の声が挙がった。
「この国はあなたのものではない。」
「人種差別が問題になっているこの時期に、いったいカナダが誰に奪われたのか、はっきりさせてほしい。」
「カナダを取り戻すと言えるのは、先住民だけだ」
「エリン・オトゥールは、誰からカナダを取り戻すのか。ほかのカナダ人から?移民から?自由党から?左翼から?いったい彼は、カナダが誰に奪われたというのか?」
 またある人々は、それをトランプ大統領の「偉大なアメリカをもう一度」(Make America Great Again)と似たようなものだと考えた。作家のマリッサ・メルトン氏は2017年「トランプ氏の言葉は、それを人種差別的と捉えた人々の心には響かなかったが、別の集団の跋扈によって地位を奪われたと感じる人々の心には響いた」と語った。
 ハフィントン・ポスト紙は、オトゥール議員の事務所にスローガンの具体的意味について問い合わせたが、返答はないという。

 日本では2012年の総選挙で、安倍晋三総裁率いる自民党が「日本を取り戻す」のスローガンを掲げて圧勝している。
 アメリカでは8月11日、カマラ・ハリス上院議員が副大統領候補に指名された。女性として3人目、黒人では初めてである。
 保守党党首選には4人の候補が立候補し、うち閣僚経験があり知名度の高いピーター・マッケイ元法務大臣とエリン・オトゥール元退役軍人大臣が本命と対抗と見なされているが、政治評論家の中にはレスリン・ルイス候補を台風の目と指摘する声がある。マル/ブルー社が7月28日に実施した支持率調査では、マッケイ候補51%、オトゥール候補25%、ルイス候補16%、デレク・スローン候補8%となっており、ルイス候補の人気が急上昇している。保守党は西部の、田舎の、白人の、男性の党だと思われているが、彼女はトロント出身の黒人で女性である。
 彼女は2015年下院選に落選したことを別にすれば、政治経験のない新人である。社会保守主義を自称するが、大学院で環境学を学んだ彼女は、討論会で単に炭素税に反対するだけではなく、代替プランを提示してみせた。同じ社会保守主義のデレク・スローン候補が過激な発言で評判を落としたことから、彼の支持者が今後ルイス候補に流れて行くものとみられる。これにより、彼女がオトゥール候補を上回り2位になることは夢ではない。2位になれれば、次の次を狙う人としてその株は急上昇することになるだろう。もし、スローン候補脱落前の第1回投票で2位につければ、あっと驚く大波乱が起きるかもしれない。
 ハーパー首相の相談役だったデニス・マシューズ氏は、彼女が保守党を刷新したいと思う党員たちを惹きつける可能性を指摘する。
「マッケイ氏とオトゥール氏は、保守党がここ20年間歩んで来たスタイルそのもので、何の新鮮味もない。保守党員の全員が社会保守主義ではなく、党員たちは彼女の意見に同意しないかもしれないが、彼女が何かを変えてくれると期待するかもしれない。」
 保守党党首選は21日に郵便投票が締め切られ、集計が終わりしだい結果が発表される。
 保守党党首選の集計作業が8月24日に確定し、エリン・オトゥール元退役軍人大臣が当選した。
 投票は21日に締め切られ、ただちに開票作業に入ったが、封筒が前回党首選より小さかったため、集計機が中の投票用紙を大量に噛んでしまい、手作業の集計となったため、23日夕方に発表する予定が24日早朝にずれ込んだ。

 事前の予想では、マッケイ候補がリードするのをオトゥール候補が追う展開で、ルイス候補とスローン候補は泡沫候補と見られていたが、予想に反し前者3名の接戦となった。今回は保守党の根拠地である西部から候補がなく、マッケイ候補は東部、あとの3人はオンタリオ出身だった。またマッケイ候補だけがレッド・トーリー(保守左派)だったのに対し、あとの3人はブルー・トーリー(保守右派)だった。ゆえにマッケイ候補は、第1回投票で40%の獲得を目指していた。回が進むごとに最下位候補を足切りする方式なので、脱落した候補の票が自分以外に取り込まれる可能性が高いからだ。だが第1回投票の実際の得票は、マッケイ候補30.3%、オトゥール候補29.4%、ルイス候補24.7%、スローン候補15.6%となった。マッケイ候補は東部では強さを発揮したが、アルバータとケベックではオトゥール候補に大差をつけられた。
 スローン候補脱落を受けて、第2回投票で彼の票の3分の2は同じ社会保守主義のルイス候補に流れた。だが21%はオトゥール候補に流れたので、票数ではルイス候補35.2%、オトゥール候補33.2%、マッケイ候補31.6%となり、あっと驚くルイスの首位となったが、ポイント換算するとオトゥール候補35.2%、マッケイ候補34.8%、ルイス候補30.0%となり、オトゥール候補が首位となった。
 ルイス候補が脱落したが、彼女の支持者の3分の1は第3候補を選択していなかったため、第3回投票では無効となった。残りの人々の5分の4は右派のオトゥール候補を第3候補としたため、オトゥール候補57.0%、マッケイ候補43.0%でオトゥール候補の当選が決まった。

 前回党首選では、本命視されたベルニエ候補があまりに斬新な改革案をぶち挙げたため、社会保守主義の票が知名度の低いシーア候補に集まり、ダークホースを当選させた。最終的にシーア候補を支持したトロスト候補やルミュー候補らは、今回は同じ社会保守主義のスローン候補やルイス候補を支持し、彼らが脱落すると最終的にオトゥール候補支持に回り、当選の原動力となった。2018年のオンタリオ進歩保守党党首選でも、社会保守主義はターニャ・グラニック・アレン候補を支持し、彼女が脱落するとダグ・フォード候補支持に回って、レッド・トーリのクリスティン・エリオット候補を破っている。社会保守主義は、今回党首選でも底力を見せつける結果となった。なお、カナダ同盟と進歩保守党が2003年に合併して成立したカナダ保守党の党首選は、全て右派が勝利しており、左派または進歩保守党出身者は一度も勝利していない。

 オトゥール候補は党首選に勝つため、「カナダを取り戻す」などの右翼的主張を繰り返した。だがカールトン大学で政治学を教えるジョナサン・モロイ教授は、総選挙に勝つには幅広い支持が必要で、党首選とは事情が違うと指摘した。
「スローン候補とルイス候補は、社会的保守主義陣営の反発力を示した。それでも彼らは、党内ではおそらく少数派で、一般市民の間では確実に少数派だ。」
「ハーパーは、社会保守主義の問題を党内で封印し、彼らを相手にしないことで効果的に党を率いた。シーアも、同じようにしようと努めた。だが世論は予想以上に進歩し、LGBTの問題を避けて通ることは彼には許されなかったが、社会保守主義の後押しで当選した彼には、社会保守主義を無視することが難しかった。」
 当選したオトゥール氏は、幅広い勢力の結集を訴えた。
「あなたが黒人だろうが白人だろうがブラウンだろうが、いかなる人種であろうが信条であろうが、LGBTだろうが異性愛者であろうが、先住民だろうが3週前の移民だろうが3代前の移民だろうが、うまくやっていようが何とかやっていようが、礼拝を金曜にしようが土曜にしようが日曜日にしようが一切しまいが、あなたはカナダの重要な一部であり、カナダ保守党に居場所がある。」
保守党のエリン・オトゥール党首は9月8日、影の内閣を発表した。
副党首にキャンディス・バージェン元社会開発大臣、下院院内総務にジェラール・デルテル元ケベック民主行動党党首を任命した。
アンドリュー・シーア前党首はインフラ・地域社会担当に、新型コロナ対策で注目の厚生担当はミシェル・レンペル・ガーナー元西部経済多様化大臣が就いた。
 保守党は党大会で3月19日、党首選のルールを変更した。
 旧ルールでは、338選挙区は全て100ポイントを有していた。党員は属する選挙区で好きな候補に投票し、選挙区で最も多くの票を獲得した候補が、得票数に関係なく100ポイントを獲得した。新ルールでは、投票総数が100票に満たない選挙区では、最も多くの票を獲得した候補が投票総数に等しいポイントを獲得する。

 単純に票数で争うのではなく、地域性が考慮されているのは、カナダ同盟が進歩保守党を吸収合併して保守党が結成されたという経緯に原因がある。カナダ同盟は西部を基盤としていたが、老舗の進歩保守党は西部の基盤をカナダ同盟に奪われ、オンタリオと東部を基盤にしていた。保守党は両派の合同を維持するため、少数派の旧進歩保守党グループを尊重する必要があった。しかし新党結成から20年間、選挙区平等を維持しようとする旧進歩保守党グループと、これを廃止しようとする旧カナダ同盟グループのせめぎ合いが続いた。なお、進歩保守党出身者が保守党党首選に当選したことはない。
 だが新党結成から20年経過し、ほとんどの議員が「保守党」出身者となり、カナダ同盟や進歩保守党の出身者はほとんどいなくなった。選挙区平等ルールが維持されてきた真の理由は、むしろ別のところにある。
 自由党は地方よりは都市で、また人口の少ない西部よりは人口の多い中部で支持されている。このような党では、地域を考慮せず単純に最も多くの票を獲得した人を当選者にしていい。だが保守党は都市よりは地方で、中部よりは西部で支持されている以上、単純な票数で決めると、都市や中部の意見ばかりまかり通ることになってしまう。そこで党員の数に関係なく、各選挙区を平等に扱うことで、党員数の少ない選挙区に有利に働く制度を採用したのだ。

 新ルールは、オンタリオとアルバータでは80%以上の賛成、サスカチュワンでは90%以上の賛成を得て成立したが、プリンスエドワード島とニューファンドランド&ラブラドルでは80%以上、ニューブランズウィックでは64%、ケベックでは62%、ユーコン・ノースウェスト・ヌナブートでは60%が反対と、党員数の多寡で明確に分かれた。過去2回の党首選では、投票総数1000票を超える選挙区のほとんどがオンタリオと西部だったのに対し、投票総数100票に満たない選挙区のほとんどはケベックと東部と北部だった。
 今回のルール変更は、2020年党首選に適用すると、59選挙区に影響を与える。そのうちケベックが52選挙区、ニューファンドランド&ラブラドルが2選挙区、ニューブランズウィックが2選挙区、マニトバが2選挙区、ヌナブートが1選挙区である。ケベック州の投票は、2020年党首選では23.1%の価値があったが、新ルールを適用すると18.2%の価値になる。ただし2020年党首選に新ルールを適用しても、結果は変わらない。

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