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随想ジャーナリズムコミュのドイツ新聞界事情

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„Zeitung kann mehr als andere Medien sein.“(新聞は、他のメディアを超えるものになりうる)

これは、ドイツの政界、財界、学界で最も影響力がある新聞・A紙の共同発行人の1人が、ドルトムントで行われたシンポジウムで語った言葉です。

ドイツにはいくつかレベルが高い全国紙(Überregionale Zeitungen)がありますが、少なくともベルリンの中央省庁の官僚たちの間では、この新聞を読んでから出勤することが重要になっています。

A紙は2007年10月5日に、30年以上続いた伝統を破って、若い読者の好みをより強く反映させるために、紙面の大刷新を行いました。この新聞は、ライバル紙と違って、歴史に残るような事件が起こらない限り、1面には写真を載せないことを、高質紙としての誇りにしていました。

「写真による感情的なショックではなく、内容で勝負する」というメッセージです。例外としてA紙が1面に大きく写真を載せるのは、歴史的な大事件が起きた時だけです。ここ20年間では、ベルリンの壁崩壊、ドイツ統一、NYとワシントンの同時多発テロ、そしてベネディクト16世がローマ教皇になった時くらいです。

 ところがA紙も、ビジュアル時代の流れには勝つことができず、他の新聞と同じく、1面にカラー写真を載せ始めたのです。

 またこの新聞は、社説のタイトルにひげ文字(Fraktur)を使う伝統を持っていましたが、若い読者に評判がよくなかったために、通常の活字に変更しました。ただし、1面の最上段にある新聞の名前は、今もひげ文字です。さらに、1面の記事を区切る線を減らしたり、記事の要約を増やしたりして、読みやすくする工夫をしています。

 新聞は毎日読むものなので、保守的な読者の中には、紙面の刷新を嫌う人もいます。「この刷新は自殺行為だ」と抗議の手紙を送りつけた読者もいましたが、大改革から2週間以内に定期購読(Abonnements)をやめた人は、180人前後にとどまったため、経営陣は胸をなでおろしています。

 ドイツでも新聞の読者は、テレビやインターネットなどにおされて、年々減っています。たとえば、新聞販売協会(ZMG)の統計によりますと、2007年の上半期の日刊紙の販売部数は、前の年の同じ時期に比べて1・9%減って、2078万部になりました。冒頭にご紹介したA紙も、販売部数が0・5%減って、36万1500部になりました。ミュンヘンに本社を持つ有力な全国紙であるB紙も、部数が0・3%伸びただけです。

 この国で最も販売部数が多いのは、センセーショナルな記事が多く、毎日必ずヌード写真を載せる大衆向けのC紙。毎日300万人を超える市民が買っています。しかしC紙すら、前の年の同じ時期に比べて販売部数を2・8%減らしています。

 日本と同じように、若い読者の活字離れが、ドイツでも急速に進んでいるのです。これまでは有力な読者層だったビジネスマンも、メールの普及によって仕事のテンポがこれまで以上に速くなって、むしろ忙しくなり、ゆっくり新聞を読む時間が減ってきているのです。世の中で起きていることを知るには、新聞社や放送局のウエブサイトの速報を見るだけで十分と考える市民が、増えているのです。

 新聞社の経営状態も、安定しているとは言えません。特にドイツ統一後にこの国を襲った深刻な不況のために、重要な収入源だった広告が大幅に減ったことが、新聞社に深刻な影響を与えました。統一前には、土曜日の新聞には分厚い求人広告がはさまっていたものですが、90年代後半から、広告が減って、土曜日の新聞が見る見る内に薄くなるのを、私も体験しました。この国の景気の悪化が、はっきりと現われていました。

経済関係の特ダネ記事で知られるD紙は、部数が10万部あまりにすぎず、創業してから10年経った今も、赤字です。ミュンヘンに本社を持ち、日本でも知られるB紙でも、所有者が売却先を探している状態です。かつてドイツの有力紙の新聞記者たちは、社用車(Dienstwagen)を与えられるなど、素晴らしい待遇を味わっていましたが、現在ではどの社もコスト削減に必死です。外国特派員を他の新聞と共有して、人件費を節約しようとする会社すら現われています。

 ドイツきっての高質紙であるA紙の読者数が、わずか36万人前後と聞いて、驚く人もいるでしょう。この国には、読者数が500万人を超えるような大新聞は一つもありません。新聞は全ての市民にアピールしようとするのではなく、特定の社会階層だけを読者とする傾向があります。したがって、新聞のレベルは千差万別です。

たとえばA紙は、高等教育を受けた市民やインテリだけに、的を絞っています。記事は日本の新聞よりも長く、記者は事実を伝えるだけでなく、歴史的、社会的な背景まで詳しく解説することを求められます。まるで短い本を読むような、充実感を与えてくれる記事も、あります。この感覚は、テレビやインターネットでは、決して味わうことはできません。ドイツの高質紙に慣れた人には、日本の新聞は記事が短すぎて、物足りなく思われるでしょう。

今後もドイツの新聞は苦しい戦いを強いられることになるでしょう。しかしA紙の共同発行人が言ったように、長い記事に取り組む覚悟がある読者に対して、深い洞察や、新しい物の見方を提供するという高質紙の役割は、他のメディアがいくら背伸びしても、果たすことができないものです。

この国で日常生活を送っているだけでは、現代のドイツが、歴史の流れでどのような位置を占めているのか、どのような方向に社会が進んでいるのかを知ることはできません。この国の舵取りをしている人たちが何を考えているかを知る上で、質の高い新聞を長い期間にわたって読むことは、重要な方法の一つです。幸いなことに、言論の自由を重んじるドイツでは、政財界の大物が、新聞の1ページを埋めるようなインタビューに応じることが、よくあります。

ビデオやDVDが普及しても、映画館が完全に消滅しなかったように、いくら活字離れが進んでも、新聞が死に絶えることはないと思います。みなさんも、1日も早くドイツ語の読解力を高めて、この国の新聞をどんどん読み、未知の世界への扉を開いてみて下さい。

コメント(2)

日本にはその種の高級紙はまったくないですね。
アメリカの新聞社も経営状態が悪化しており、先日もコロラド州で最古の新聞「ロッキー・マウンテン・ニュース」が廃刊となりました。

熊谷さんもご存じのようにアメリカは基本的に地方紙で成り立っていますから、おらが町の新聞社がつぶれるということは市民に大きなインパクトを与えます。

アメリカの地方紙は政治と同じように2紙体制が多いのですが、「ロッキー・マウンテン」もライバル紙と印刷・宅配などをシェアしていましたから、そのライバル紙もコスト増大から窮地に立たされることは間違いありません。

全米トップ25紙のうち2−3紙を除いた新聞が過去10年で30〜50%読者を失っています。

ドイツと同じようにアメリカの新聞は最多部数を誇るUSAトゥデーでも100万ちょっとで、地方紙などは20〜30万部の規模です。

ほかにもシアトルやサンフランシスコなどの新聞も廃刊に追い込まれるのではという噂があります。

私はニュージャージー州在住なので、ニューヨークタイムズとウォールストリート・ジャーナルを愛読していますが、この2紙とて先行き不透明です。

新聞という媒体はなくならないと思いますが、新聞社はなくなります。

インターネットという便利なメディアの登場で私たちのライフスタイルは大きく変わりましたが、その利便性と引き換えに失ったものも多いと思います。

ニュース記事の即効性という面でインターネットに後れを取るだけでなく、重要な資金源であったクラシファイドで利益を出すことが難しくなりました。

新聞のウエブサイトはかつて有料、今はどこも無料ですが、もう一度有料にすべきでは、という論争が起こっています。

何とかして21世紀の新聞のビジネスモデルをつくらないことには、残念ながら愛読する新聞が廃刊に追い込まれるのを見届けるほかはありません。

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