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蝮☆千夜一夜コミュの週刊『機動戦士ガンダム ガイスト〜鬼の啼く宇宙(そら)編〜』最終話〜帰らざる日々〜(後編)

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〜前編からの続き〜

 メーガのブリッジでは、固唾を呑んでセガールの戦いを見守っていた。セガールは出撃のとき、ジョーンズ艦長に、自分が戦っている間は敵との距離を取るようにと要請していたからだ。セガールが一人ですべてを引き受けようとしているのがジョーンズにはわかったが、現状、セガールの足手まといには違いなく、落ちた速力ながら、敵からは距離をおけるような方向へとメーガを向けさせていた。とはいえ、速度がほとんどあがらないので、セガールがやられてしまえば、メーガもすぐに捕捉されてしまうだろう。今はただ、みんなでセガールの戦いを見守るしかなかった。その中で、サラミスが大爆発を起こし、数機のモビルスーツが巻き込まれたように見られた。
 ハンガーでは、ターニャがいつまでも泣いていた。イズにはかける言葉がなかった。あの薬剤を渡さなければ、セガールはここにいて、最後までターニャの傍にいられたのかもしれない。ターニャがイズを憎むことも理解できた。だが、イズとしても、セガールの気持ちは痛いほどわかっていた。
「どうして?どうしてじいちゃんは・・・悲しくないの?セガールをあんなふうに送り出すことに・・・わたしからあの人を奪って、それで満足なの?」
 やりきれないターニャの悲しみの矛先がイズに向う。イズは黙っていた。
「なんとか言ってよ、じいちゃん!どうして黙っているの?ずるいよ!」
 ターニャがだんだんと興奮してくる。
「どうしてよ!・・・」
 興奮が極まって、ターニャは再び泣いている。その姿を見て、イズはポツポツと話し出した。
「ターニャ、よいかの?今からワシが言うことは、セガールがワシに言った言葉じゃ。どう受け止めてもかまわん。ワシをうらんでもよい。じゃが、今から言うことは、ちゃんと聞いてはくれんかの・・・」
 懇願するようにイズは切り出だした。
「少し前のことじゃ。セガールを見舞いに行ったワシはの、お前のことを頼んだのじゃよ。ターニャはワシの娘みたいなもんじゃから、この戦いが終わって無事に逃げ延びられれば、セガールにターニャの傍にいてやって欲しいとな」
 ターニャは涙を拭いながら聞いている。イズはターニャを座らせると、自らも横に座った。
「するとセガールはこう言ったのじゃ。『部長、生まれてからこれまで、自分は戦うことしか知らないし、それしか教えてもらっていない。そんな自分が普通の社会にもどっても、何も出来ないかもしれない。だからせめて、この戦闘が終わるまでは命にかえてもターニャは守ります。でも、戦闘が終わって鐘鬼が解散したら・・・自分は・・・俺はどうやって社会に馴染めばよいかもわかりません。病気のこともあります。人殺ししか知らない自分が彼女の傍に居て、それでいいのかは、今でもわかりません。正直、彼女を余計に苦しめるだけなんじゃないかって思うんです』とな。そこで聞いてやったさ。愛するということは理屈じゃないんじゃよ。お前さんがあのこの傍にいてやるだけで、それで満たされるものがあるのなら、それでよいじゃないか。それともお前さんは、そこまでターニャを愛してはおらんのかね?とな」
「・・・・」
 イズはターニャのほうは見ずに、記憶を手繰り寄せるように語る。
「するとセガールは怒ったんじゃよ、これがな。それでわかったよ、あいつはお前に真剣に惚れておるとなあ。『自分もできれば傍に居て、普通に暮らしたい。そうでなかったら、誰がこんなに悩むものか』とね。そんなあいつが、真剣な目で出撃すると言うんじゃ・・・よほどの覚悟じゃったろう・・・そう思うとな・・・ワシゃ・・・ワシゃ・・・セガールを止められんかった・・・ならばのう・・・せめて・・十分に戦えるようにのぉ・・・・すまんかった・・・」
 イズが両手で顔を覆った。ターニャが見た、イズの初めての涙だった。


 サラミスの大爆発によって、艦隊は混乱した。密集していたのもあるが、かなり味方も巻き込まれた模様で、連絡のつかないモビルスーツが多数あった。ハルヴァーソンは情報を集めようとした。この爆発であの忌々しいゲルググが破壊されていれば言うことはない。それにしては、わかっているだけで、サラミス3隻、モビルスーツ推定5機はやられている。一年戦争末期に囁かれた、ニュータイプというものの存在が頭をよぎる。あくまでもフィクションであり、また、宣伝効果をねらったものでしかないとハルヴァーソンは連邦の上層から聞かされてもいたが、ソロモンや、ア・バオア・クーの戦いに参加した将兵の口からはその存在を認めざるを得ないような戦いぶりを目撃した話も聴いたことがあった。
「ニュータイプであったにせよ、人間には違いない。死んでしまえばただの死体だ」
「は?」
 自分に言い聞かせるようにハルヴァーソンは呟いた。となりの副官がその呟きを耳にして、聞き返してくる。
「いや、なんでもない。敵はどうなったか?味方の正確な被害の状況は?」
 ハルヴァーソンは逆に副官に尋ねた。
「我が艦隊の・・・」
 そこまで副官が言いかけたとき、マゼランが大きく揺れた。
「なんだ?なにがあった!」
 ハルヴァーソンが叫ぶ。
「司令!敵のモビルスーツです!上方からやってきます!」
 オペレーターが絶叫していた。


 爆発に巻き込まれたように見られたセガールのゲルググは、そのB型の機動力によって、間一髪、免れていた。しかし、その代償は大きく、最大加速を行ったがために、セガールの身体に極度の負担を強い、彼の目の前、とくに右目の視力がほとんどない。視野が紅く見えるせいもある。毛細血管がやられ、どこもかしこも出血しているのだろう。もう少し加速をつづけると、どうなっていたかわからない。
「どちらにせよ、時間が・・・」
 セガールは覚悟していた。もう間もなく視力も失われるだろう。それは見えるという現象についてだけで、薬剤のおかげで限界を超えて動いている身体がいつ止りだすかということもある。
「我が愛機よ、行こうか」
 セガールが静かに呼びかけた。そして、敵マゼランおよび、最後のサラミスに向って矛先を向けた。


 辺境警備隊のモビルスーツは5機残っているはずであったが、迎撃したのは3機のみ。どうやら爆発のドサクサで2機が失われたようであった。
 ハルヴァーソンの背中を嫌な汗が流れる。思えば辺境に流されてからロクな人生じゃないと我ながら思っていたところに、今回の追撃戦の話が舞い込んできた。ハルヴァーソンにとってはうまい話のはずであった。誰がどう考えても、その戦力差からこの作戦が失敗するなんて考えられるはずがない。しかし・・・
「モビルスーツ隊。ぜ、全滅です!」
 オペレーターが恐慌状態で叫ぶ。
「全力で回避!対空砲火を敵モビルスーツに集中!」
 とっさにハルヴァーソンも叫ぶ。となりを航行しているサラミスに数弾命中している。これはビームライフルのようだ。
「フレッチャー、大破!」
 オペレーターが、サラミスの大破を告げる。
「敵モビルスーツ、向ってきます!!」
 対空砲が宇宙(そら)を染め上げる。その中をゲルググが進んでいく。ビームライフルをマゼランに放つ。しかしそれは数発の命中弾をマゼランのブリッジに浴びせて途絶えた。エネルギーが切れたのだ。
 ゲルググがビーム薙刀をかまえた。速度は落とさない。
 そのまま対空砲火をかいくぐり、セガールのゲルググはマゼランの後部動力部あたりを引き裂いて、そのまま流れ星のように戦場を過ぎ去っていった。
 マゼランは機関部をやられて停止。その後、破棄された。唯一、大破して残されたサラミス級のフレッチャーが負傷者や漂流者、およびマゼランの乗員を収容して、戦場を離脱した。


「セガール機、索敵範囲外へロストしました・・・」
 メーガのオペレーターが力なく報告した。ブリッジには声はなかった。連邦の追撃は今のところ凌いだといえた。しかし、払った犠牲はあまりにも大きかった。
「艦長、ハンマ中佐からです。つなぎますか?」
「ああ、そうしてくれ」
 元気なくジョーンズ艦長が答えた。生き延びた実感よりも、生き延びたことによる喪失感の大きい戦いだった。さすがのジョーンズも激しく消耗し、抜け殻のようである。
「ジョーンズ艦長、なんとか凌げたようだな。今、そちらに我が艦隊を向けている。合流してくれ。貴官たちを収容しよう。そのムサイは破棄してくれ。そうでなければ、新たな追っ手に追いつかれてしまう」
「了解した・・・よろしく頼む」
 ジョーンズが答えた。シートに深々と腰掛けて天を仰いだ。生き残った・・・それだけだった。ジョーンズもヒロコにも、それだけでしかなかった。

 この日を境に、宇宙から『鐘鬼』という名は消えた。



 世界に小さくニュースが流れた。あるジオン残党をティターンズと連邦軍が合同作戦により壊滅させたという内容の。多くの人が関心を示さなかった。一年戦争の後遺症から時代はまだ混迷しており、人々はその日を生き抜くことで精一杯だったからでもある。
 ジオン残党討伐の功績は、残党の母船を沈めたティターンズのものとなり、S.O.Gはその生き残りの逃亡を阻止しきれなかったという謗りをうけ、解散されることとなった。


 その、数ヵ月後。
 一人の女がサイド6に降り立った。黒い髪をなびかせたその女性は、周りを警戒するように鋭い視線を送りながら、宇宙港から街へと向かう。すれ違う男たちがその女に視線を奪われるほどの美しさを持ちながらも、声をかけさせるのを躊躇させるような、張り詰めた空気をまとっていて、他人を寄せ付けない何かがあった。
 女は今までも、各サイドを回っては、出版社に話を持ちかけていた。だが、ティターンズ全盛のこのご時勢に、彼女の持ち込むネタを出版しようというところは皆無に等しく、ようやくにして、このサイド6にて、興味をもってくれる社を見つけたのであった。
 どのような形でもよかった。ただ、世界に知らせなければならないと彼女は固く信じていた。
 一年戦争時に中立を表明し、戦火を免れたサイド6の街は落ち着いた雰囲気であり、とても世界が大戦争をしていたとは思えないほどの平和な光景であった。それは逆に女にとっては違和感でしかなかった。
 予定の時間より少し早い。女は公園で時間を調節しようとしていた。そこにはいろんな人たちがいた。散歩するもの、何かの練習をするもの、楽器を奏でるもの・・・
 女はそれを見てため息をついた。自分が見た世界とは違う、日常という平和を満喫する人々・・・いや、女もかつてはその世界にいたはずであった。しかし、もう、戻れそうにはなかった。
 手にしたバッグの中には、データメモリーから落とした原稿がある。これらを渡し、それが評価されればデータを送信できる手はずにしてある。
 ここまで長かった。いや、時間的にはそんなにかかったわけではなかったが、ほとんど絶望的な中でのことであったから、なおさらその感が強い。門前払いが大半であったことから、ひょっとすると自分のことを圧力で止めているものがいるのかもしれないとさえ思ったぐらいだ。しかし、彼女は負けなかった。
 少し見晴らしのよいところで、風景を見る。高台の公園だけに、見晴らしがいい。しかもよい天気だ。もうすぐ、もうすぐ・・・・彼女は風景を見ながら自分に言い聞かせていた。
 そのとき、背後から声をかけられた。女の声だった。振り向いた瞬間、何かが胸にあたった。軽い衝撃が走る。相手を見た。どこかで見覚えのある顔だった。その女がニヤッと笑う姿を見た瞬間、足に力が入らなくなった。胸を見るとナイフが刺さっていた。服がみるみる赤く染まっていく。
「あなた・・・レチカーロフの・・・・」
とまで言ったとき、崩れ落ちた。そう、あのときの秘書の女ね・・・
時に手にしていたバッグが落ち、そこから原稿が零れ落ちる。風に舞う紙。倒れながら女はその原稿を必死で掴む。朱にまみれたその原稿を握り締めて女は涙を流した。
「た、大佐・・・」
 ナイフを持った女はその場を去ろうとしていた。それは喧騒に隠れた、完璧なタイミングと思われた。だが・・・
「ヒロコ!しっかりしろ!ヒロコ・・・大丈夫か!!」
 去ろうとした女を羽交い絞めにして取り押さえた男が叫んでいた。その声に聞き覚えがあった。
「ボ、ボッセルト・・・さん・・・」
 呟くようにその男の名前をいい、血まみれの女は原稿を掴んだまま意識を失った。


 久しぶりの地球・・・・その夕日を見ながら、カノン・ライヒは浜辺にたたずんでいた。手には雑誌を持っていた。最近話題になった、ジオンの残党のことを取り上げたルポルタージュの特集号だ。
(まいったなあ)
 心の中で呟く。あの戦いの後、ライヒは休暇をとり、地球に下りた。いや、休暇というほどのことではない。所属していたS.O.Gの解散も決まり、ライヒとしては宇宙にいる必要性がなくなったこともあった。だから、地球に下りて、訪ねたいところに行ってみた。
(まさか、こんなことになっているとはな・・・)
 ポケットから、トーマス・ウッズの形見であった、オモチャの銃を取り出して見つめるライヒ。じつは、トーマス・ウッズの母親に、トーマス・ウッズの最後を話しに行こうとしていたのだった。それが・・・
(ウッズが死ぬ、数日前に亡くなっていたとはな・・・)
 やりきれなかった。せめてもの救いは、トーマス・ウッズがそのことを知らずに逝けたことだろうか。
「柄にないことはするもんじゃねえな」
 独り言だ。波はライヒの独り言を聞いているように思えた。
「あの世で仲良く暮らすんだぜ」
 ライヒはそういうと、オモチャの銃を海に投げ捨てた。これで心残りはない。
「さて、どうするかな」
 今後の身の振り方だった。本当は決めている。エウーゴに行くという選択だ。
「今更、カタギもねえもんな」
 夕日を見つめながら薄笑いを浮かべる。ジオンの残党がほぼ壊滅しても、地球圏を離れると、アクシズは存在し、それ以外に、ティターンズのやり方に反発する勢力が力を持ち出していた。まだまだ平和というには程遠い。
「まあ、あれだ、ウッズよ。あの世で班長と待っててくれ」
 それだけいうと、ライヒは浜辺をあとにしようとした。そのとき、いくつかの声が聞こえた。子供の声のようである。見れば幼稚園なのかわらないが、幾人かの子供たちがこちらに向かってくる。一人だけ大人の女が混じっていた。たぶん、保護者か何かだろう。栗色の長い髪の女だった。
「ねえ、先生!海だよ!海!」
「はやく、先生、はやく!」
 子供たちがせかしている。ライヒはその光景を見て、微笑ましくなった。あまりにも今までが殺伐としすぎていたことの反動だろうか。
 引率の先生と思われる女性と目が合った。その胸にはプレートが付いている。
『向日葵の種』とそこには見えた。どうやら孤児院らしい。戦争で親を亡くした子供たちか・・・ライヒはそこまでで思考を止めた。
(さて、そろそろ行くか)
 ライヒは空を見上げた。また、あの戦場に戻るのだ。その決意の背後で子供たちの声がした。
「ねえねえ、先生。夜のお星さまは、今日、見えるかな」
「そうねえ、天気はいいから見えるわよ、きっと」
「先生、じゃあ、また、お話して。お星さまの話。みんなのためにがんばった人だけが、お星さまになれるって、お話」
「ええ、いいわよ」
「やった!」
「ほらほら、そんなに走っては危ないわ!サラったらもう、何回言えばわかるの!」
「あははは、先生!はやく!・・・ターニャ先生!」



〜Fin〜

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