ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

蝮☆千夜一夜コミュの週刊『機動戦士ガンダム ガイスト〜鬼の啼く宇宙(そら)編〜』第35話〜ポートレート〜(パート1)

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 何故に人は歴史を記すのだろう

 一宿一飯の恩義のために
 自らの首を刎ねて
 恩人の無実を証明した無名の男の記述が残されている

 機体ごと敵艦に突入していく
 若者達の姿を残した映像がある

 物言わぬ骸たちが
 地上を埋め尽くす様を残した写真家がいる

 そしてまた
 この宇宙にも
 誰かの記憶の片隅にしか
 生き様を刻めぬものたちの
 命の輝きがある



「とうとう追いつかれたようだな」
 スカーヴァティーでは、追いついてきた連邦軍艦隊を発見していたが、現時点では、移乗作業がすべて終了していたわけではないので、こちらから手を出すこともせず、相手も距離を保ったまま、不気味な関係が続いていた。
メーガはスカーヴァティーに接舷したまま、速度を合わせて航行している。重機関係などの移動はほとんど終了していたので、まもなく作業は終了すると思われた。
「大佐、あれが追手のすべてでしょうか?」
 ティドウィルが尋ねてくる。それはおそらく希望的観測を確かなものにしたいという願望の現われであろう。
「いや、違うだろうな。アレの後ろから来ている艦隊があるに違いない。速度を上げて振り切りたいところだが・・・・スカーヴァティーがこの有様だしな。それに、そうすれば、やつらも必死で追いついてくるだろう」
 腕を組んで大佐は話す。
「では大佐、あいつらを蹴散らすほうがよいのでは?」
 残存戦力で先手を打つという手もある。少なくとも、追手を叩いてしまうことで、追跡を免れられるかもしれないということも考えられぬことではない。
「あの大艦隊の姿を見ていなければ、その手を使ったかもしれないが・・・・敵は我々の予想進路を特定しているだろう。仕掛けるにしても、こちらの分離作業が終了して、メーガを逃がす算段が完了してからが望ましいだろうな」
 しばらくは我慢というところだ。しかし、そうやっているうちに、敵の大艦隊が現れるかもしれない。そこは賭けである。
「大佐」
 オペレーターのルッキーニが大佐を呼ぶ。
「なんだ?」
「・・・セガールの意識が戻ったようです」
 大佐はティドウィルと顔を見合わせた。どうやらギリギリで別れを言うことぐらいの時間はありそうである。
「わかった、ティドウィルすまないが、ここを頼む」
「了解しました」
 大佐はそう言って、ブリッジを後にして、メーガの方へ向かった。


 ベッドでセガールは横たわっている。目覚めはしたが、体が思うように動かない。目覚めたときよりは動くようになってきているが、それでもまだ、完全ではない。カーパー先生の話によれば、おそらくは一時的なマヒ状態で、時間とともに回復するだろう・・・ということであったが、それにしても不便極まりない。自分がメーガにいるということは、カーパー先生から聞いていたが、なぜメーガにいるのか、今後の作戦がどうなっているのか、については何も聴かされていない。ターニャも仕事があるのだろう。未だセガールところへは顔を出してはいない。そこからして、現在の鐘鬼の置かれている現状は厳しいものである、ということが推察できた。そもそも、バートレット先生の姿も見ていない。どんなことがあっても、セガールのことはバートレット先生の管轄であったので、そのバートレットの姿もないことが、セガールを不安にさせた。


 スカーヴァティーでは、ヒロコ・サトーがウェイヴェルに取材していた。おそらくはこれが彼の言葉を残せる最後の機会になるかもしれないから、という思いである。ヒロコにとっては、ウェイヴェルの存在には、特別の思いがある。連邦のスパイであるという身分を隠してやってきたヒロコに対し、はじめから疑いの目を向け、そして、事あるごとにヒロコに対し疑いや怒りの言葉を投げつけてきた人物であった。多くのものが大佐の「許可しよう」の一言から、ヒロコに対してさほどの関心を示さなくなったような感覚の中で、一人、ウェイヴェルだけが自分の存在を(たとえそれが疑惑、という眼差しであったとしても)そこに見ていてくれた、ということはヒロコにとって、この鐘鬼という組織に愛着を持つきっかけの一つにもなっていたといえる。
 サイド4の作戦があって、そこからウェイヴェルのヒロコへの疑いは晴れ、前よりもいっそう自分のことを仲間だと思ってくれているのだという感情がよく伝わっていた。ウェイヴェルという男は、良くも悪くも情の深い男であり、彼が熱血漢であるのは、根底にそういうものがあったからであろう。
「ウェイヴェルさんは、ずっとザクに乗ってらしたんですね?」
 ヒロコは取材を続ける。
「ああ、そうだ。独立戦争の後半から、ザクのパイロットとして戦場に出た。もう、そのころには、連邦もモビルスーツを開発して、さすがのジオンも苦戦を強いられるようになっていたけど、他に有効な手がなかなか打てなくてね。ザクの後継機の開発は遅れて、前線はいろんなモビルスーツでごった返し、補給も混乱していたな。そんな中でも、使用実績のあったザクは、さすがに稼働率も高く、信頼性の高い機体だったよ」
 ヒロコの用意したリコーダーにウェイヴェルの肉声が刻まれていく。ヒロコが担っている大佐からの使命は、鐘鬼のみんなのことをできるだけ書き記すこと。だが、なかなか個人の内面的なことまでは、こうやって時間を割いてもらって、きちんとした形をとらなければ取材のしようのなかったことである。セガール隊の3人(セガール、ジョン、ウェイヴェル)は特に最前線の部隊であったので、貴重な時間を割いてもらうには、さすがのヒロコも気が引けていた。
「ウェイヴェルさんが、大佐と出会ったきっかけはどのようなものだったのです?」
 淡々とヒロコは尋ねていく。ウェイヴェルも冷静に答えていく。
「ア・バオア・クーの戦いが、我々ジオンの敗北に終わり、俺たちは後退するための戦いを繰り返しながら消耗していたんだ。そのときに、大佐の艦と遭遇して、指揮下に入った。セガールはすでに重体でね。その後、本国は連邦と講和して共和国になった。俺たちはその間も戦い続け、仲間は減っていったよ。消耗が激しく、組織というよりは、やっぱり敗残兵そのものだったな。その後のデラーズフリートの反乱は、俺たちには連邦の目をそらせるいい機会になった・・・もう、ずいぶん昔のことに思えるよ」
 ウェイヴェルは笑っている。どこか澄んだ笑顔にヒロコには思えた。
「どうして戦い続けてきたんでしょう?」
 ヒロコは質問を続けていく。
「あはははは。そういえばヒロコに、負けるとわかっているのに戦い続ける・・・といわれて、俺は怒ったっけな。」
 ヒロコが鐘鬼に来たころ、大佐にそういって、それを聴いていたウェイヴェルが激しく抗議したことを彼女も思い出した。
「今思っても、失礼なことを言ったなあって思いますけど・・・でも、あれは正直な気持ちだったんですよね。私みたいなものから見ても、ジオンの残党に勝ち目なんかなかったし、実際に、残党を取材していても、多くは連邦軍に鎮圧されていましたから。」
 ヒロコは今だから言えるような気がしたので、正直に話した。
 それを聴いていたウェイヴェルも、少し頭を掻きながら、
「ヒロコに言われた言葉・・・あれはじつは図星だった。出口のなかったのは事実だし、鐘鬼以外の残党が鎮圧されていく姿も見てきたからな。だから逆に痛いとこを突かれて頭に血が昇った。今だから言えるけどな」
と答えた。
「・・・はじめこそ、俺たちは負けちゃいない。上のやつらが勝手に講和したから負けたと言われているだけなんだって、そう思いながら戦っていたよ。でもな、戦い続けているからわかるが、俺たちは歴史の流れから置き去りにされた存在なんだよ」
 意外な言葉だった。熱血漢ウェイヴェルが、冷静に分析していたということが。少なくともヒロコには、ウェイヴェルはジオンの勝利を固く信じ、そして戦い続けている存在だと思えていたからだ。ウェイヴェルの語るその言葉に、意外そうにしているヒロコの顔を見て、ウェイヴェルは、
「ん?やっぱり意外だったか?」
と聞いた。
「あ?え?ええ」
 ヒロコはしどろもどろに答える。
「認めたくなくても、認めざるを得ない。今までよく生き残って来られたと思うぐらいだからな。たぶん、大佐がいなかったら、俺はデラーズフリートに参加して、死んでいたかもしれない。サイド4で知ったと思うが、俺たちは他のスペースノイドが噂しているほど、綺麗事だけやって生き残ってきたわけじゃない。暗殺、取引、そういったものもやっている。鐘鬼のメンバーでも少数しか知らないがな。そんなことを一手に引き受けている大佐のことを知ると・・・どうしてもな・・・」
 ウェイヴェルがこんな心情を他人に話すのは初めてなのかもしれない。歯切れの悪いしゃべり方ながら、黙々と話す。そんな彼の姿を見るのは、ヒロコには初めてだった。話を聞きながら、ヒロコは迷っていた。死を覚悟した男の心情を聞き取るということに。ヒロコは他の残党でもそういう取材はしたことがある。しかし、それは、本当の心情ではなく、己の行動を美化し、自分の死後の名誉を考えての発言であることがわかるものばかりであった。いや、本来、そういうものかもしれない。死に逝くとき、人が欲するのは己の物語である。だから大佐は鐘鬼のメンバーのことを書き残すということをヒロコに求めたのだ。
「あの・・・ウェイヴェルさん。聞きづらいこと聞きますけど・・・」
 ヒロコが言い難そうにウェイヴェルに問いかける。
「なんだ?」
「今回の作戦・・・生還の見込みのない作戦に参加する心情について・・・というか・・」
 節目がちにウェイヴェルを見ながらヒロコは尋ねる。ウェイヴェルはその問いかけに、
「どの戦いにも生還できない可能性は付いて回るさ」
とさりげなく答えた。そこには、達観した領域のようなものが感じられる。
「それはそうですが・・・」
 ヒロコはどのように話を続けたらよいかわからない。できればそのような心情など聞きたいわけではない。だが、聞かねば残せない。
「好きで死にに行く奴なんていないだろう。命をかけるに値するから行くのであって、死にたいわけじゃない。それにな、人間はいつか死ぬ。早いか遅いかそれだけだ。なら・・・命ってのは、賭けるに値するときに使ってこそ、価値があるって思わないか?」
 ウェイヴェルがヒロコに問う。命を賭けるに値するときに使ってこそ・・・
「今がその時だと?」
「ああ、そうだ」
 恐らくこれ以上のことは、非常に個人的な感慨になるであろう。
「私には・・・・」
 戸惑うようにヒロコが呟く。
「え?」
「・・・私には、男の人のそういうところ・・・理解できません・・・」
 ヒロコには、ウェイヴェルの話から、大佐に同じ質問をしたとしたら、きっと同じ答えが返って来るような気がした。感覚的には、今まで取材してきた残党とは、根底が違うようには感じているけれど、うまく捉えきれない。
「あの・・・ジオンの大義とか、スペースノイドの理想とか、そういうもののため・・・ということではないですよね?」
 ヒロコは、かつて取材したジオンの残党の多くがそうであった、大義や理想という言葉で聴き質してみた。
「それは、違うな」
 ウェイヴェルは明快に答える。
「では?」
「そうだな・・・これは・・・リリヤによく聞かされた話なんだが・・・母親ってのはさ、自分の命を賭けて子供を産むだろ?その子を産むことが、自分の命を奪うことになるかも知れなくても、母親ってのは、産もうとするものらしい。それは、新しく生み出すもの、あるいは、生かしたいもののために自分の命を投げ出す・・・ということだろ?それと同じじゃないか」
 新しく生み出すもの、生かしたいもののために・・・・ウェイヴェルはそう言う。それがウェイヴェルにとっては「鐘鬼」という存在そのものなのだろう。
「最後に質問します・・・ウェイヴェルさんにとって、独立戦争と、そのあとの鐘鬼での戦いとは、なんだったのでしょう?」
 ヒロコに問われて、ウェイヴェルも少し戸惑った。しばらく考え込む風であったが、
「そうだな、独立戦争は・・・認めてもらうための戦いで、鐘鬼においては、人生を勝ち取るための戦い・・・・そんな感じかな?わかりにくくて悪いな」
 そう答えて、ウェイヴェルは笑った。


 病室というには、雑然とした倉庫と呼ぶほうがふさわしい場所で、セガールは横たわっている。他に何人かいっしょに部屋で寝かされている。あまり自由の利かない身体で、セガールは今までのことを考えていた。思えば、物心付いたときから、戦争の道具のような人生だ。それしか知らないから、今更娑婆に戻ったところで、どのように社会というものに適応すればよいかなんてわかりっこない。ただ、ターニャと話していたときに出た、地球の海・・・・そこには行ってみたいと思っている。ずっと星の海にはいても、生命を生み出したとされる、地球の海を、セガールは経験したことがない。
(何を感傷的な・・・)
 セガールは我に返る。今は戦いの只中だ。しかし、詳しい状況がわからないのにも困ったものだ。看護兵に聞いても答えてはくれない。恐らくセガールのことを思って、緘口令が敷かれているのだろう。
と、そんなことを巡らせていると、誰かが部屋に入ってきた。そして、入り口付近をコンコン、と2回叩いた。
「目覚めたようだな」
 聞き覚えのある声だ。
「大佐!」
 なんだか、長い間会っていなかったような気が、セガールにはした。セガールはゆっくりと起き上がろうとする。
「おい、大丈夫か?」
 大佐が駆け寄って抱き起こす。
「つっ・・・だ、大丈夫です。ちょっと、動作が緩慢なだけですから・・・」
 苦笑いしながらセガールは答える。
「それよりも、大佐・・・戦況は?誰に聞いても教えてくれないんです」
 セガールは今一番聴きたかったことを大佐に聴いた。
 大佐は傍にあった椅子を手にすると、セガールのベッド近くまで引き寄せて、そこに腰掛けた。
「戦況はよくないな。艦隊をスカーヴァティーとメーガにわける」
「分ける?のですか??」
 セガールには意味がわからない。
「簡単に言うと、スカーヴァティーの損傷が酷くてな。速力が上がらん。このままでは捕捉されるのは時間の問題だ。だからな、スカーヴァティーそのものを餌にして、メーガを逃がす算段だ」
「スカーヴァティーを餌にって・・・」
「なあに、餌って言ったって、むざむざやらせはしないさ。俺とウェイヴェルで敵の足を止める。その間に、スカーヴァティーはエウーゴ艦隊と、メーガはアクシズと合流することを目的とする」
 予想のしない話が連続するので、セガールは混乱した。
「いや、大佐、たった2機で足止めできる敵戦力なんですか?二手に分かれたら、鐘鬼はどうなるんですか?それよりも、スカーヴァティーを放棄して、メーガにまとまって脱出したほうが・・」
 セガールは矢継ぎ早に質問を返す。スカーヴァティーとメーガが離れ離れで活動することは、今まで何度もあった。だが、今回はスカーヴァティーそのものが囮を兼ねている。
「スカーヴァティーを棄ててメーガ1隻となれば、もはや、鐘鬼としての組織的な活動はできまい。ムサイはよく出来た傑作艦だが、いかんせん、史上初のMS母艦だ。モビルスーツの運用、ならびに乗組員の長期にわたる生活空間の確保となると・・・さすがに問題がある。ましてや、大戦中の、それなりに補給が望める環境ならばともかく、鐘鬼はその日暮らしだ。物資を余分に積載するスペースもいる。そうなると、やはりコロンブス改級ぐらいないとな・・・・活動できんのだよ」
 連邦の艦とはいえ、コロンブス改級は、鐘鬼になくてはならない艦であった。住居であり、工場であり、そして基地であった。
「それに連邦は、スカーヴァティーが旗艦だということを知っている。だから、俺はスカーヴァティーを餌にして、メーガの生存確率を上げることにした。もっとも、スカーヴァティーも可能性はある。そのためには、効果的な足止めが必要だ。となれば・・・あとはザク?に乗れる俺がやるのがもっともいい・・・ただ、ウェイヴェルまで付いて来るとは予想外だったよ」
 大佐がウインクして苦笑いした。
「で、敵戦力はどれくらいなんですか?」
 セガールが必死で聴く。
「推定だが、さっき俺達が会敵したのと同規模のようだ」
「そ、それを二機で足止めなんて!」
 無理だといわんばかりのセガールの表情。
「それに大佐の身に何かあれば、鐘鬼は・・・」
 セガールの問いかけに、大佐はセガールから目を逸らして、虚空を見た。
「なあ、セガール」
「・・・はい」
「鐘鬼というのは、俺が掲げた旗なんだ。誰に命令されたのではない、俺自身が掲げたな。その旗の下にいろいろな連中を巻き込んできた。だから、俺は生きている限りは、その旗を降ろすことはできない。そしてまた、その旗自体が破れるときは・・・・」
「破れるときは?」
 フッ、と大佐が優しく微笑んで、
「古来より、男の幕引きは決まっているさ」
とだけ言った。セガールはその一言だけで、すべてを悟った。
「た、大佐!自分も戦います!ですから!」
 大佐の服を力ない腕でつかんで、セガールは懇願した。
「ダメだ。お前は退け。俺達の足止めが失敗したら、奴らはメーガをも捕捉するかもしれん。アクシズ艦隊が本当に救援に来てくれるかどうかも不確実だ。ムレノとジョンをつけているが・・・万が一、お前の力がまた必要になる」
「しかし!」
「これが鐘鬼の指導者として、俺がお前に与える最後の命令だ」
「・・・・」
 セガールは言葉がでない。感情の処理が出来ないというほうが適切だろう。セガールを見守ってくれていた大佐の存在が消える・・・・その喪失感というものの大きさが、セガールの思考を止めてしまう。屈託なく向き合ってくれたジョナサンも逝き、今度は大佐が。もっとも自分の力が必要であるときに役に立たないという自分にも腹が立つ。気味が悪いと言われてまでも、鐘鬼を守ろうという気持ちだけで来たセガールにとって、自分の忌まわしい力が鐘鬼の役に立つことだけが、数少ない救いであったはずなのに。
「ああ、それからな。これからは、お前の体調管理はカーパー先生が診ることになる・・・」
 唐突に大佐が切り出した。
「え?バートレット先生は?」
「・・・亡くなった」
「え?・・・」
 セガールには実感がない。バートレット先生が亡くなった・・・そして、大佐やウェイヴェルとも別れが近い・・・スカーヴァティーのクルーとも、もう会えないかもしれない・・・・
「あの、モビルアーマー・・・連邦の。アイツのビームが直撃してな。バートレット先生やリリヤが巻き込まれて・・・お前を安定させるあの装置も一緒にだ」
 たった一発のビーム砲が、これだけ多くのものを奪っていく。戦争というものは、どこでもそうなのであろう。セガールもそうやって、多くの人の何かを奪ってきたのだろう。
「セガール、これからのお前の戦いはもっと凄惨かもしれん。心を制御して戦わねばならないことになるし・・・な。だが、誰もそれを代わってやることはできん。自分の人生は自分で歩くしかないからな。それでもお前は、生き抜いて、そしてターニャを守ってやれ。お前のその力は、誰かを守るためにこそ、存在するのだから」
 セガールのほうをじっと見つめながら大佐はそう言った。大佐の腕を掴んでいたセガールの手が、ゆっくりと離れる。
「そういえばな、ターニャにお前宛の物を少し預けてある。後から貰ってくれ」
 大佐が席を立とうとしながら言った。
「物?ですか?」
「そうだ。もとはお前の母さんの・・・ジュリエッタのものだったのだが。詩集と音楽ディスクだ。彼女がこよなく愛したものでな。ジュリエッタが亡くなるときに、俺にと渡してくれたものだ。それをお前に」
 セガールの母親が亡くなったとき、セガールは死に目には会っていない。ずっと軍の監視下であったので、セガールが母親のために墓に行けたのは、ずいぶん後の事なのである。
「しかし大佐・・・そんな大事なものを、自分は受け取れません」
 セガールは断った。
「いや、いいんだ。もし、俺に何かあって、墓でも作ってくれるようなことでもあったら、遺骨の代わりにしてくれてもいい。どちらにせよ、俺はお前に預けたいのだ」
 どうやら拒否はできないらしい。それだけ言うと、大佐は席を立ち、部屋を出て行こうとする。
「それではな、セガール。お前と共にした数年間、楽しかったぞ。もし、生きていれば、この星の海のどこかで、また会おう」
 振り返り大佐は、そう話し掛けた。そして、静かにドアが閉まり、大佐の背中がセガールの視界から消えていった。


〜パート2に続く〜

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

蝮☆千夜一夜 更新情報

蝮☆千夜一夜のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。