(4) 日本語は暗記に適している 日本語には語呂合わせが異常に多いということは、日本に生まれた人には気づきにくいが、在日外国人からはよく指摘されることである。これは、日本語の中に同じ意味を持つ和語と漢語と外来語があり、また同じ文字に訓読みと音読み、さらに音読みには呉音・漢音・唐音があるという特性に由来している。同じ意味の言葉や文字があることは、一般に無駄であると考えられるが、この特性が日本語に多様な語呂合わせを産んでいる。 例えば「九」は訓読みで「ここのつ」、呉音では「キュウ」、漢音では「ク」となる。漢数字だけでなく、アラビア数字で表記されていても読みが複数あることに日本語学習者は面食らうが、「鳴くよ(794)ウグイス平安京」、「一求銃口(1915)対華21か条」のように、豊富な読みが豊富な語呂合わせを可能にしているのだ。 年号暗記は、日本の教育に特徴的に見られるものである。では欧米にはないのかというと、なくはないが、印欧語では数字の読みは一つしかないから、ニーモニックを作るにも苦労することになる。 1492年にコロンブスがアメリカ大陸を発見したことには、以下のような覚え方がある。 Columbus sailed the ocean blue, In fourteen hundred ninety-two. 語呂合わせではなく、一定のリズムで覚えるのである。上の例では脚韻を踏み、覚えやすくしようと工夫した痕跡がみられる。しかし「意欲に(1492)燃えるコロンブス」の簡潔さには、遠く及ばない。 また以下のような覚え方もある。 I captured south’s flags.(1865年、南北戦争終戦) 単語の文字数がそれぞれ、1・8・6・5になっているのだ。単語の綴りを覚えられない生徒はどうするのかとか、最後をうっかり単数系にしてしまったらどうなるのかなどと、疑問に思っていてはいけない。
在日外国人がよく話題にするのは、日本には記念日がやたら多いということである。3月3日は「耳の日」とか、6月4日は「虫の日」などと、365日のほとんど全てが何らかの記念日になっている。これも、日本語の語呂合わせの豊富さが原因である。 ただし英語にもむろん、語呂合わせはある。カナダでは、車のナンバーを有料で好きな英数字にすることができるので、“2FAST4U”(Too Fast For You)のような語呂合わせナンバーをみかけることがある。日本の看板でも、電話番号を「●●●−4649(よろしく)」などと掲げているところがあるから、同じことだ。 中国語は同じ漢字を用いているが、読みは一つしかない。ただし、「一(イー)」を「么(ヤオ)」と読み替えることがある。「一(イー)」〔1声〕は電話で「七(チー)」〔1声〕と聞き違いやすいからである。「二(アル)」を「両(リャン)」と読み替えることもある。
さて語呂合わせの貧弱な印欧語では、九九をどう覚えるのだろうか。 One nine is nine. Two nines are eighteen. Three nines are twenty-seven. Four nines are thirty-six. Five nines are fourty-five. Six nines are fifty-four. Seven nines are sixty-three. Eight nines are seventy-two. Nine nines are eighty-one. 英語では数字の読みが一つしかないので、やはり語呂合わせではなく「ター・タッタ・タ・タ・ター」のリズムで覚えることになる。英語ではbe動詞を省略できないので、どのかけ算にも6音節を費やしている。だが日本語の九九は、助動詞と助詞を撤去して数字だけに簡略化されており、ほとんどの九九が5音節以内だから、覚えやすさは一目瞭然であろう。ただし積が1桁のとき、日本語の九九はリズムを整えるために助詞の「が」を挿入する。これは十の位の空位を意識させるもので、珠算において桁取りの間違いを阻止する効果がある。 日本語と異なり、英語の九九では最初の数が1つずつ変化する。これは英語の語順と関係があるようだ。英語の文中に「2×9」とあったら、その読みはtwo times nineだから、その和訳は「9の2倍」となる。 ドイツ語圏には「大九九」(großes Einmaleins)と呼ばれる20×20までの暗算ニモニックがあるという。インドでは近年、二桁の九九が教えられるようになり、学校により異なるが、最低でも20×20まで、最高では99×99まで覚える。インド人の多い江東区にはインド人学校があり、生徒の多くは在日インド人の子弟だが、中にはインドと何の関係もなく、数学を学ばせるために子供を通わせている日本人もいるという。 日本人が暗算を得意とする理由について、私は日本語の九九の優位性を指摘したいが、ある在日スロバキア人は「日本にはチップの習慣がないので、割り勘のとき厳格に1の位までの商を求める必要があるから」と語っていた。
英語での円周率の覚え方で、
May I have a large container of coffee?
というのがあると知りました。
単語の文字数がMay (3), I (1), have (4), a (1), large (5), container (9), of (2), coffee (6)となり、3.1415926を表しています。
綴りを間違えると意味をなしません。