意外と絵画について論じていても額縁についてはあまり触れられることはありませんが、本当に絵画を引き立てるためには、額縁は重要です。異論もあるかもしれませんが、そもそも絵画というのは室内装飾の一環であり、写真などが登場し、『表現』と『装飾美』のバランスが崩れ、パトロンと画家の関係が希薄になった頃からかもしれません。しかし、19世紀に入ってもなお記録を読めば、著名な人物の肖像を多く手がけた George Frederic Watts (1817年2月23日 - 1904年7月1日)などは、注文主の肖像が完成しかけたときの書簡で、注文主に『貴殿の居間にこの絵を飾るとしたならば、こういう額縁が相応しいと思う』とアドバイスし、画家が額縁職人に指示をして、額装して納めることが多かったようです。実際、この George Frederic Watts という人物は美術史上でもそれなりの評価のあるヴィクトリア朝の肖像画家であり、晩年には象徴主義の影響も受けた人物で、もちろんロイヤル・アカデミーの会員に選ばれた人物ですが、私の中では画家というよりも『Watts Style』という額縁を考案した功績が大きいように感じられます。
ロンドンの National Portlait Gallery が行った額縁を主題にした展覧会の図録の解説によれば『Watts Style』の額縁は1860年代に現れ、1910年代までの長い間英国上流階級の絵画の額縁として評判が高かったようで、ラファエロ前派の画家たち、特に Sir John Everett Millais や耽美的な作品の Lord Leighton、そしてサージェントやホイッスラーも愛用していた時期があったそうです。
なので、一般的な額縁屋さんではなくて、額縁職人を探しました。幸い創業111周年の神田にある弘雅堂さんを見つけました。電話でのやり取りをして、甲さんに来ていただいて、職人と打ち合わせ・・・。まじめそうな職人肌の若い主人で、 National Portrait gallery の額縁展の図録をお貸ししたところ、過去に似たような作品を手がけたことがあるそうでした。写真ですが、見て納得したので、全て手彫りで本金箔張りで、注文しました。額縁の太さもすごく重要で、細すぎると貧弱、太ければ絵が負けるということで、甲さんと弘雅堂の主人と話し合った結果、額縁の太さは5.5センチと決まりました。