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☆小説☆SFファンタジー☆愛知コミュの壊れたマイクスタンド

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昔々のある日。

僕はギターケースをぶら下げて
愛知勤労会館の前に立っていた。

場外を埋め尽くす女の子たちの行列。
その全員の額には「twist」と書かれたバンダナが
巻かれていた。
今日のゲストは凄い人気者のようだ。

会場に入って
僕ら出演者のリハが終わると
ゲストのリハの順番になった。

その「twist」というバンドのボーカリストは
ほぼ無人の客席の中央に座る僕の
横の席まで
わざわざ歩いて来て座り込んだ。

他にいくらでも座る席はあるのに。
吸い寄せられたかのように。

彼は、異様に疲れ切っていた。

「オレ・・・」
彼はいきなり話し出した。

「ゆうべ、トラックの荷台で、ようやく少し眠れた。
 大阪から名古屋までの間。ようやく。」

僕は そんな彼の言動に驚きもせず
うんうんと聞いている。

「・・・怖いんやろな。オレ。」

僕は 何が?とも 何故?とも聞かない。
ただ、うんうんと聞いている。

そのうち、彼の商売道具であるマイクスタンドが
舞台に上げられた。
スポット・ライトに照らされたそのマイクスタンドは
足が壊れていた。

彼は自分を鼓舞するように、よいしょ!と立ち上がり
舞台の上へと登った。両膝を付き、慣れた様子で
針金で、マイクスタンドを直し始めた。

この当時、一番人気のあった音楽番組は
黒柳徹子と久米宏の「ザ・ベストテン」で
今週の第一位が、彼の歌う曲= 「twist」の『ひきがね』であることを
僕は知っていた。

彼は、おそらく今週、この国で
一番、ちやほやされるべき歌手なのだろう。

その彼が今、僕の目の高さで
疲労困憊のままで、よつんばいになって
壊れたマイクスタンドを 針金で直している。
この姿を一体誰が、想像するだろう。

僕はその時、彼を癒す決意をした。

よろよろと僕の隣まで戻ってきた彼を
僕は両手を擦りながら迎えた。

僕が「背中を向けて」と言うと彼は
おとなしく背をこちらへ向ける。
僕は両手を広げ当てる。

「おーっ。気持ちいい。」
彼は、適温の風呂に入ったような
声を出し表情をした。

しばらくして彼は、別人のように溌剌として
立ち上がった。

「楽になった!ほんまに。でもなんでやろ?」
僕は答えず、親指を立てて見せた。

彼はステージに駆け上がって行った。
僕は、彼の疑問に自分の中で答えていた。

それはあなたが、きっと日本一疲れていたから。
だから僕のところへあなたは来た。

僕がしたのは、僕の生体エネルギーを照射して
あなた自身の持つパワーを邪魔するものを
少し取り除いただけ。

今溢れるその力は、
紛れもなく あなた自身のパワーだ。




    (5月の雨の日に。 touji)

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