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ユウジは仕事帰りの宵の新宿で、
はっと息を呑んで立ち止まった。
ラーメン屋の角をコマの方へ通りを横切った女。
ユウジのメモリに食いついている面影。

最後のクライアントに顔を出し、
所の業界事情のネタを交換し店を出る。
ユウジはそのまま歌舞伎町にあるジムに行った。

ミット打ちを2セットこなし、
程よく疲労してまた街へ。
すきっ腹にラーメンをぶち込んで食を満たし、
仕上げにガールバーへと流れる。

バーガールとボトルを空けながら。
ユウジはアドレナリンとアルコールに痺れた頭で、
またさっきの女の顔を閃いていた。

それはユウジが故郷の島で暮らしていた頃。
58号線をバイトをして組み上げたRZですっ飛んでいた頃。
後ろに消えていくベースのフェンス、
熱い潮風を切り裂いて、
白く光るコーラルリーフロック交じりのアスファルト上を飛ぶ。

ユウジは女の家に入り浸っていた。
とはいえ、いくつもある宿のひとつといったところだ。
その女とは二日前にクラブで出会った。
ユウジがライブを終えた後、
ラウンジでバンド仲間と呑んでいる時に、
ギターのヨシが連れきた女達の中にいた。

何気なく隣に座り合わせ、
ユウジはバーボン片手にその女を眺めた。

切れ長の目がすっと光、
抜けるように白い肌、
その上に細くさらりと流れる豊かな髪。
しかし、芯の強い負けず嫌いな性格は、
その呑みっぷりと笑顔に十分表れていた。

ユウジはRZをドラムに預け、
変わりにドラムのフュージョンにその女を乗せて帰った。

それからずっと女の家に居続けている。

コメント(1)

フュージョンのバックパックからコンビニ袋を取り出して、
ユウジは女の部屋のドアに向かって歩き出す。

女はドアの前に立って、
カギを指先で小さく回しながら待っている。

ほの暗く蒼い街灯に照らされた影が、
白いアパートのドアに映る。

「なあ、名前は?」
「そんなの、どうでもいいじゃん」
「ああ、そうか」

それ以来、ユウジは女の名前を聞かなかった。

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