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其の一

静かなオフィス、
ジリジリとマシンがCPUを熱くさせる音が、
乾いた空気を振るわせる。

ユウジはエクセルのセルを繋げたり離したり、
色を塗ってみたりソートをかけたり、
つまりは悪戦苦闘している最中だ。

クライアントが投げてよこしたデータは、
何人もの人間の手を渡り、
そのたび違った「癖」を貰って膨れ上がった。

それが夕方に届いた。
ユウジは夕飯代わりのゼリーパックに吸い付きながら、
モニターの端で動いている時計をにらんだ。



送られてきたデータに関わる見積もりにあたりをつけた頃、
外にはひと気もなく、
風が吹き付けて行く手を清めている。

ユウジはオフィスを出て、
真っ暗な下り坂を自転車で一気に駆け下りる。

古びた酒場の看板がいくつも後ろに流れて消える。
街の行政区域を抜けるとそこは盛り場。
アーケードは風を防ぎ、
道行く人はここで肩から少し力を抜くことができる。

ユウジはコートの襟を立てて自転車を漕いで、
揺れる人波を縫うようにして道のドンケツまで来た。

右に行けば酒を呑む。
左に行けば買い物をして帰る。

瞬きの間にユウジは思いあぐねた。
その時、
ユウジの前を二人の若い女が通りがかった。

風が流れてその女の髪の香りがユウジの鼻に届いた。
自然その視線はその香りの元を追う。
一瞬我に返り、
ユウジは自転車を路地に突っ込んで、
ドヤ街の方に足を向けた。

コメント(17)

其の二

自転車を電信柱の影に止めて、
ユウジは革鞄を右手にぶら下げて歩き出した。

時間は終電まであと少し、
しかし、盛り場は人でごった返している。

酔っ払った人々は、
ひと時に我を忘れて、
眠りという明日への切符を握るのが惜しいのか、
大きな声を出してことさら楽しそうだ。

そんな嘘っぽい喧騒を横に見ながら、
ユウジはなじみの関東炊きを食わせる店の暖簾をくぐった。

店は閉まりかけで、
客は犬を連れた婆さんが一人。
狭いカウンターの向こうに人のよさそうな親父が座っている。

「いらっしゃい」
「おやっさんホッピーとシラタキとダイコン」

ユウジはコートを脱いでモバイルをカウンターに置いた。
店には古くて湿度が高い昭和の歌謡が流れている。
婆さんの犬が椅子を渡ってユウジの傍までととっとやってきた。

黒い瞳がユウジを見つめる。
小さな舌をペロリと垂らして、
細かく息を吸っては吐いている

ダイコンを細かく箸で切りとって手に乗せ、
座敷犬の鼻面に差し出す。

犬は行儀よく座って婆さんをチラリと見た。
婆さんは小さくうなずき笑う。
すると犬は立ち上がってダイコンにむしゃぶりついた。

「よく躾けてある」
「そうよ、いい児でしょう」

ユウジはホッピーを呑んで、
中身をいくつかお代わりし、
店の親父と一言二言ことばを交わしてシラタキをもう一つ頼んだ。

「まだまださむいねぇ、でも今年は雪が降らない」
「そうだね、今年は冬が来ないのかね」
「こないならそれでもいいけどね、なんだかおかしいような寂しいような」
「こないならそれでもいいが、コートがいるかいらないか、それが決まらないのが困る」
「寒くないとこっちゃ商売あがったりだよ」

ユウジはホッピーをお代わりして、
皿に残った関東炊きの煮汁をすすった。

犬は婆さんの膝の上で眠っている。
婆さんも居眠りをしている。

「でも兄さん、どうもわしらの商売やコートの心配だけじゃ済まないらしいよ」
「どうしてさ」
「考えてもみなよ、俺が子供の頃はこんな暖かい冬はなかったよ」
「ふむ」
「新しい事はいいことばっかりじゃないってことさ」
「どういうこと?」
「なんでもほどほどが良いってことさ」

スピーカーからは昭和歌謡がしっとりと流れている。
其の三


「親父、勘定」

そういってユウジはモバイルをポケットから取り出しカウンターに置いた。
親父はそれをひとにらみする。
親父の目から赤外線が赤く延び、
モバイルのポートにアクセスした。

「まいどあり、お気をつけて」
「ありがとう」

ユウジは人でひしめく裏街に戻った。
道には客引きが幾人も並び活気に満ちている。
宵にふらつく与太郎に声をかけ、
強気のシノギに精を出す。

ユウジは特に目当ての店もなく、
熱に浮かされるように客引きの間を縫うように歩く。
すると一人の客引きに目が留まる。
丸々と太っていて張りつくような笑顔、
ただでさえ短い首を黒いフェイクファーで包み、
まるで達磨のような男。

「お客さん!どうですか遊んでいってくださいよ!」
「いい娘がいるのか?」
「ええもちろん、うちの娘はみんな天然モノですよ!」
「ほんとかよ」
「もちろんですよ、ちょっと観てみます?」

そういうと客引きの達磨はコートの前を開いて見せた。
そこには達磨の体は無く、
真っ黒い空洞が静かに口を開けている。

その空洞に煙のようなものがたち登り、
それがやにわに像を結び、
煙は女の姿になって空洞の中でゆっくりと回る。

「どうですか?この娘は情が深くておっぱいも大きいですよ?」
「そうかい、他にはどんなのがいてる?」
「ええ、ええ、いい娘がいますとも」

達磨は恵比須顔をゆがめて笑い、
次々と腹に煙を吐いて女の姿を映し出す。

一人の女がユウジの目に留まった。
肩ぐらい髪の、色の白い女。
その白い肌と、鳶色の瞳がユウジの「鼻」をくすぐった。

「よし、この娘を買う」
「毎度どうも!すぐにご案内しますよ!」

そういうと達磨はコートの前を閉じて、
ユウジをすぐ近くの雑居ビルの一室へと導いた。
其の四
ユウジと達磨は入り組んだ雑居ビルの中を歩く。
エレベーターは使わずに階段を上に上に登っていく。

「おい、エレベーターは使わないのか?」
「客さん、これから楽しいことが始まるんだからね」

そういって達磨は身軽に階段を登っていく。
階段の踊り場は階ごとにまったく違った様子で、
にぎやかな階もあれば、病院のような匂いが鼻をつく階もあった。

ユウジの背中に汗が薄っすらと滲み出すころ、
達磨が振り向いて恵比須顔を歪めた。

「お客さん着いたよ、ここが客さんの欲しかったものあるところ」

そこには灰色の冷たい鉄の壁がある。
ドアノブも何も無い。

「さあ、いってらっしゃい」
「こりゃどうやって開ける?」
「呼んだらいいですよ」

それだけ言って達磨はあっというまに階下に消えた。
ユウジは鉄の壁を目の前にして棒立ちになった。
棒になりかけたナニはすでにガッカリと首を垂れている。

下の階からは猥雑に騒ぎ立てる人の声が聞こえる、
何を言っているのかは判別つかない。

冷たいコンクリートの壁にその声が跳ね返り、
歪んで丸く響いている。

すると目の前の鉄の壁がやにわに震えだした。
鉄の壁とコンクリートの壁の境目がぶれて滲む。

ユウジはそれを呆然として見ていた。
無意識に唾を音を立てて飲み込んだとき、
鉄の壁に何かが浮かび上がった。

「¥18000」
その伍

ユウジはネクタイを緩め、
紅く光るダイオードに¥18000円をさしだした。

札は泡になって消えた。
瞬間ユウジの足元の床が消失し、
突然広がった闇の口にユウジは吸い込まれた。

遠くなる光の速さに、
ユウジは瞬間心地よい気絶を感じた。

「get up!get up!」
「ゲットアップ!ゲットァ」
「起きて!もう、起きてよ!」

頬を叩く女の声でユウジは目を覚ました。
その伍

五感を瞬き失って、
つ鼻先をくすぐるポワゾンパフ。
きつい香水のにおいでユウジは目を覚ました。

深めのベッドに羽を敷き詰めた大きなソファーの真ん中で、
ユウジほうわと暖かい心地で女の顔を逆さに眺めた。

「うん、ああ」
「目さめた?」
「さめたさめた」

女は一歩下がって三つ指をついた。

「ようこそいらっしゃいませ、モモヤツです」

ユウジは半身を突いて振り返り、
モモヤツのうなじを逆さに見て「また逆さだな」と想った。
モモヤツが静かに顔を上げてじっとユウジを観る。

その眼に瞬きの視線を泳いで。
ユウジは安堵の息を漏らした。

「あの・・・。」
「ああ、なに?」
「あたしは御気に召しませんか?」
「いやそうじゃないよ、寝てしまって悪かったね」
「いいえ、お着物をこちらに」
「ああ、ありがとう」

モモヤツはユウジの上着を受け取ると、
振り返りざまに優しく微笑み、
壁に向かって羽の池を泳いでいく。

壁にたどりつき、
モモヤツは腕ほどの長さの黒いノブを捻った。

「コクンッ」

どこかで小さな物音がした。
すると羽の海のあちこちが陥没し始め、
やがてそれは部屋の姿を現した。

「恥ずかしい、このお部屋は古いからどっかで音がするの」
「HDの機動する音か」
「え?よくわかったね」
「なんとなく、俺のボロポッドも似た音を出す。」
「そうなんですね」
「ああ」

ユウジはモモヤツが見せた、
とっさ光ったモモヤツの地金に心を映した。
情熱的なギターがスピーカーから垂れ流される。

ユウジにロックが響いた。
それはいつもユウジの父親が車の中で聞かせた音。

懐かしく装い、
モモヤツはユウジの傍に座り込む。

柔らかい指先でモモヤツはユウジの胸をはだけさせ、
その胸に顔を埋め、
優しくユウジの胸の彫り物を撫でる。

現場に向かう父親のトラックの助手席に。
子供の俺の足元には、
山のようなサンプルブックの山。

トラックを自在に操る父親は、
まるで漫画の中のヒーローのようだった。

それはヒーローの歌。

さっき穴に吸い込まれたとき、
ユウジの記憶がスキャンされた。
そして選曲された曲を、
この可変式サービススペースである、
「キャンディーボックス」が流したのだ。

ユウジは片時、
自分の頭の中で酩酊した。

「ユウジさん、また寝てるの?」

モモヤツが胸元からユウジを見上げている。
大きな瞳を潤ませて、
自分に相手をしないユウジにすねて見せている。

「ああ、すまない、ちょっと瞬きの間に夢見てた」
「お疲れなんですね、ゆっくりなさってください」
「ありがとう、風呂に入るよ」

天蓋から垂れ下がるシルクで出来たカーテンの向こうに、
ユウジは立ち昇る湯船の陰をみた。
シルクのカーテンの向こうに歩き出すユウジの着衣を、
モモヤツは器用に脱がせていく。

ユウジにまとわり着くように共に歩いて、
シャツを脱がせてカフスを手に取る。

ユウジは思わずその所作に歩みを止めようとしたが、
モモヤツの静かな賢明さに歩調を緩めるに収めた。
そして緩やかに湯が満たされたバスタブにその身を沈める。

「今日はずいぶんお酒を呑んできたんですか?」
「いや、そうでもないよ、でもね」

そう言いかけてユウジは喉を詰まらせた、
この女に、自分のグチを聞かせてもつまらない、
そう思ったからに他ならない。

湯船の外からユウジの胸に咲くバラに、
優しく手を添えて湯をかけ流すモモヤツは、
言葉を詰まらせたユウジの顔を、
その次の言葉を待って、
少し不安げな、それ以上に問いかけるような顔した。

「どうした?」

問いかけたのはユウジだった。

「いいえ、いいんです」

そう言って、
モモヤツは薄絹を脱ぎ捨てて、
ユウジが沈む湯船に足を入れた。
ユウジの腹の上にモモヤツは静かに沈む。

それは淡雪のごとく柔らかき肌と肉。
ふと、もたれ掛かるモモヤツのうなじの脂が、
ユウジの鼻腔をくすぐる。

流行の香水に、
モモヤツの脂が艶をのせる。
それをユウジは腹いっぱい吸い込んで吐いた。

「ユウジさん、また寝てるの?」
「もう寝ないよ、悪かったよ」
「あん、ごめんなさい」
「どうした?」
「あなたにごめんて言わせたいわけじゃないのよ」

そういってモモヤツはくすくすと可愛らしく笑った。

モモヤツに体を洗われながら、
ユウジはモモヤツの肉尻を眺めて確かめたり、
その髪の分け目の丁寧さに関心していた。

モモヤツがユウジに抱きついて手を回し、
ユウジの背中を優しく撫で洗う。

同じくして、消え入るように柔らかな乳房が、
葡萄を二ついからせてユウジの胸を撫でる。

「ふぅ」
「ん、どうしました?」
「うん、気持ちがいい」
「そうですか?よかった」

そう言ってモモヤツはユウジにきゅっと抱きついた。
ベッドに戻り、
ユウジはボロポットを枕もとのポートに挿した。
ルーツミュージックがキャンディーボックに流れる。
キャンディーボックスは気を利かせて照明を落した。

ユウジの胸に軽い体を重ねながら、
モモヤツは優しく声を発する。

「ねえ、これはなんて花?」
「薔薇」
「白い色がきれいね」

それは真っ赤な薔薇の軸の部分の色で、
人の肌には残りにく色である。
ユウジはそんなモモヤツの眼に、
より愛しさを募らせた。

「ああ、すぐに消えてしまう白なんだ」
「そう?惜しいわね」

モモヤツはそれを舌でキレイになぞり、
儚き白色を味わった。
ユウジは褐色の肌を粟立てて、
薄紅色のモモヤツの舌が踊る様を眺めていた。
ユウジの愛撫はモモヤツを素直に昂めていく。

その表情は、言葉は、
目に見えて開いていく。

上気する肌の熱、
浮き上がる汗が伝えるもの。

ユウジはそれをまた、心を開き、
次の一手を打っていく。

舌遣い、手の運び、匂いをかいで、息を吐く。
全ての所作はモモヤツの情動を誘うために。
皮膚を通して、その心に触れるために。

そしてユウジはモモヤツの首筋から指先を這うように、
優しく、滑らかに髪を撫でた。
ゆっくりと、しかし掻き乱すように。

その時、
敏感に研ぎ澄まされた指先になにかが触れた。
それは微かな違和感だった。
往きすぎようする指はまた戻り、
夢が醒めたようにユウジはその「違和感」をまさぐった。

「やめて!」

モモヤツの声がキャンディーボックスの中に響く。
ユウジの体を跳ね除けて、
モモヤツは体を固くした。

「どうした?」
「・・・ごめんなさい」
「なにか傷があったみたいだ」
「・・・うん、傷があるの」
「痛かったのか?すまない」
「ううん、痛くはないの、でも傷だけは触らないで・・・」
「辛いのか?」
「そう、辛いのよ」

そういってモモヤツは微笑んだ。
熱を帯び、
高まるモモヤツの薄肌。

ユウジは今まで抱いてきた女との逢瀬をなぞり、
モモヤツの幸福を探りまさぐる。

それはいつかの肌の熱を探す旅であり、
また今、目の前のある喜びへの旅である。

ユウジの唇はモモヤツの乳房へ、乳首へ。
柔らかな桃色の控えめなその乳輪を舐り上げて、
舌を固くして肉をえぐる。

モモヤツの背筋が跳ね上がる具合を確かめながら、
与える刺激のバランスを計っていく。

「や、はぁ、脇腹はくすぐったいのよ」
「そうか」

すぐに骨まで達しようかというモモヤツの肉の、
繊細で儚い柔らかさ。

これは一度丸々と太って、
そして肉をそぎ落とした、
筋肉を付けなかった女の脂の乗り方だとユウジはすぐに分かった。

「柔らかい、抱きしめればすぐに骨まで」
「うん、骨まで抱いて」

ユウジは右手の中指の腹で、
モモヤツの勃起したクリトリスをこすりあげる。

もう充分に濡れて暖かくなった柔らかい肉が、
ユウジの指先に喜びを伝える。

ユウジは両手を上下に広げてモモヤツを抱く。
その口も、手も、足も、腰も、
全てでモモヤツと触れて、包み込もうと。

夢の中で迷走する二人。
ユウジは我知らず、
モモヤツが拒んだ「傷」をまさぐった。

それはその「傷」さえも愛するユウジの心。
そしてその「傷」に触れられてもモモヤツはその手にある快楽に、
拒むことさえ投げ放ってしまっていた。
瞬間。
ユウジの手指に雷光が走る。

青い炎が糸になって煌めき。
モモヤツのうなじにカンザシとなって踊る。

モモヤツは弾かれたように背筋を伸ばした。
すると見る見るその髪は白く色を変え金髪に、
瞳は空のように蒼く、
白い肌はより血色をまして柔らかく紅を引く。

目の前の怪異を食い入るようにユウジは見つめていた。
さっきまで肌を合わせていた女が変化したのだ。

「これはどういうことだ」
「・・・」
「お前は人形なのか?」

ユウジのこの言葉に、
モモヤツはその瞳の中で風のように影を落した。
「あたしは人形です、ごめんなさい」

そういってモモヤツは頭を垂れた。

ユウジは、
今の今まで生身の女を抱いていたかと思っていた。
しかし、実際は人形だった、
その事実に、戸惑いを覚えつつしかし、

「そうか、他にはどんな姿になれる?」

ユウジの冷たい目と暖かい言葉にモモヤツは顔を上げた。
そして唇を軽くかみ締めて、
両手を広げてユウジにその胸を開く。
そして次々にその髪を、肌を、顔の形さえ変えて見せた。

「さっきの姿はなんだった?」
「あれはあなたの心をスキャニングしたのよ」
「そうなのか?」
「あなたの望む姿を読んだのよ」
「あれが俺の欲しいもの」
「そう、あなたが欲しいぬくもり、欲望」

いつの間にか始まりの姿にモモヤツは戻っている。
ユウジはその面差しに、
なにか懐かしさを想った。

「あたしとこのキャンディーボックスは一体なのよ」
「上の親父は?」
「あれはあたしの傍に居てくれる人の影」
「そうなのか」
「そう、あたしはここで生きているの、ここからどこにもいかず」

そういうとモモヤツは寂しそうに笑った。
ユウジはそれが愛しく思えた。

「騙してごめんなさい、光熱費もただじゃないのよ」
「ああ、そうだろう」
「あたしはオンボロ、燃費が悪いの」

モモヤツは所在無さげに柔らかなベッドに沈み込む。
ユウジは黙ってモモヤツを抱きしめた。

ユウジは丁寧にモモヤツの体を愛撫して、
よくできた姫壷から滴る蜜をを味わった、
それは甘く、ユウジの唇を潤す。

「ねぇ、たまにはここに来てくれる?」
「ああ、いつでも来るよ」
「うそ、そんなことできないわ」
「できるよ、いっしょに居よう」
「本当に?」

キャンディーボックスに暗闇が広がる。
ユウジは鼻の奥に甘い香りを感じながら、
モモヤツの胸に顔を埋めた。

「ごめんなさい」


酷い雨のドヤ街。
傘を差しながらユウジは待ち往く男達に声をかける。
コートの端からは雨が滴り落ちる、
こんな日は早く帰ってモモヤツの肌を可愛がりたい、
そんなことを思いながらユウジは雨に滲むネオンを観ていた。

「おい、ちょっと」

ハンチングをかぶった厳しい男がユウジに声をかけた。
ユウジは客かと思ってすぐさま愛想良く応える。

「はいなにか御用で?」
「ああ、この男のことを知らないか?」

それはユウジをキャンディーボックスに招き入れた男だった。

「いやぁ、知らないねぇ」
「そうか、行方不明だった男なんだが、最近見つかってね」
「よかったじゃないですか」
「それがそうも言ってられない」
「なぜです?」
「死んで家に帰ってきたからさ」
「そりゃいいことありませんねぇ」

ユウジは男の写真をハンチングに返して、
コートの襟を立てた。

「ところで旦那、警察の人?」
「いや、俺は探偵だよ」
「そうですか、ならちょっと遊んでいってくださいよ」
「ポン引きか?」
「そうなんですよ、いい娘がいますよ」

そういってユウジはコートの前を開いて見せた。

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