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暇刊 巴mixiコミュのライジングケイジ

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その一ノ?〜雨ざらしの貴婦人Z〜

苛立ちと共に吐き出される煙と、
消える事のない喧騒に満たされたフロアに
イエモンが響き渡る。

それを洗い流そうと銀玉が狂ったように走る。
赤や黄色や蒼の光が踊り、静かな人々の前を通り過ぎる。
恵慈はTOAから叩き出される音だけで動く、体は躍動する、
どんなノイズも、恵慈の鼓膜に届く音を遮ることは出来ない。
孤独な道を誰の物でも無いモヒカンで切り裂いて汗かいて走る。
 
仕事を終えて、汗まみれのYシャツと偽物の蝶ネクタイを外し、
恵慈はニードルスの甚平を羽織って店を出た。
千日前のアーケイドまでのほんの十数メートル、
雨が降っている。
恵慈は傘など持っていない、
自慢のトサカが濡れるのに腹をたてながら歩。
前から綺麗どころの姐さんが、色とりどりの傘さして、
いい匂い放ちながら歩いてくるのも気に止めず。

恵慈はビッグピーカンのDVDプレイヤーとトサカを気にしながら、
水たまりを踏みしだいてガンガン歩いてゆく。
跳ねた雨水が姐さん達の前にこぼれる、
恵慈がハッとしたとき、三つの傘が揺れて止まった、
恵慈は一番前を歩いていた、
少し切りすぎた前髪が妙な女と眼が合って、
体をかわして姐さん達を先に通した。
むせかえるような香水の匂いが恵慈を一瞬包む。
恵慈はそれにやられて瞬きして雨に打たれた。
 

駅前の雑居ビルの一角。
買い物客が行き交う通りに面した床屋の軒先で、
信太はCDの入った箱をを漁って今日のキラーチューンを探す、
SIZZLAと書かれたRを、
デッキに叩き込んで店の前のベンチに腰を降ろした。
外は梅雨の初め、シトシト雨が降りそぼる。

店の中から親父がサンドバッグを蹴り上げる音が響いてくる。
信太は開襟アロハの胸ポケットの、
しなびたタバコを探ってアスファルトを眺めた。
細かな雨粒が水たまりを叩く、
信太は空になったタバコの箱を握り潰してゴミ箱に投げて、
旨くも不味くもない煙を吐き出した。

紫煙の向こうに雨煙り、
なんとも言えない気持ちに信太は呆然としていた。
なぜか信太は梅雨が好きな男だった。
この季節になると妙に心が落ち着かない、
かといってはしゃぐわけでは無いのだが。
この年の梅雨は特別信太とって心そぞろなものとなっていた。
もうじき、注文していた車が届く。
中古品だが好みの色に塗り替え、足回りを新調している。
それがもうじきやってくるのだ。

店の親父がタオルで汗を拭きながら表に出て来た、
よく鍛えられた体は現役のファイターのそれである。
 「よう降るなぁ、今日はあかんわ」
 「そやね、こんな雨降りに散髪来るのは職人ぐらいや」
そう言って信太はタバコをぷうぷう吹いている、
親父は店に戻ってパイナップルのアロハを素肌に着けて、
冷蔵庫から緑茶を出してコップに注いで信太に出す、
二人はSIZZLAを聞きながらゆっくりと茶を飲んだ。

二人はベンチに座って向いのジーパン屋の前に停まっている車を見ている。
アメリカに攻めにいったあのゼットが止まっている。
黄色のフェアレディーは、雨の中で濡れている。
そこにエメラルド色のビニール傘をさして、
麻の買い物籠を下げた奥さんが帰ってきた。
 「あんたら何をぼぉッとしてるん、景気悪いなぁ」
 「こんな日に来んのは職人くらいや」
 「わかってるんやったら剃刀でも研いどき」
親父は奥さんに尻を叩かれて中に引っ込んだ、
信太はまた独り雨を楽しむ。
すると今度は自慢のモヒカンが濡れて
機嫌の悪い恵慈がやって来た。
 「おっつ、調子どうよ」
 「おっつ、てなんやねん」
 「おつかれや」
 「ふぅん、ぼちぃぼち」
恵慈はあいさつもそこそこに店に入っていった、
奥さんがCDを変える、
プライベートサーファーが流れて落ちる、
信太は降りしきる雨の向こうに夏を想って空を見上げた。

コメント(2)

その一ノ?〜虎の尾を踏む犬〜

レゲエサンスプラシュのビデオを流したまま、
恵慈はうつ伏せにまどろんでいた。
ぼんやりしたブラウン管にドレッドが踊る。

醒めきらない頭でリモコンに手を伸ばし、
画面をテレビに変えて見ると、
 
 「どうなってしまうのかぁぁぁっっぁ」

ガチンコが啼いている、そんな時間かとペットボトルの
お茶にに口を着けて、恵慈はガチンコを垂れ流した。
しばらく大和の坊主頭を眺めて、
思い出したように外に出て恵慈はバイクを磨いた。
CD50のタンクの傷、
ひさしぶりの洗車にコンパウンドが白く光る。
雨上がりの空に星が光を強くして月と張り合っている。
その時横町の角から恵慈の耳にCB50の排気音が届く、
ファンネルが片腹で吠えている、信太がやって来た。
 
 「なぁしとん」
 「身だしなみや」
 「身だしなみしたんやったら行くぞ」
 「どこにぃ」

恵慈は信太と走り出した、
信太のCB50は赤タンクをネオンに閃かせてすっ飛ぶ、
恵慈はアクセルを絞りCD50-改のエンジンを解放してゆく。
二人は同時にブレイクを駆けて信号に捕まる。
「どこ行くねん」と恵慈が言うと、
信太はニッコリ笑って、青信号でカッ飛んだ。
恵慈は跡を追う、どうもミナミに行くらしい、
どうもうさんくさい、

信太が何も言わない時は悪戯を考えている、
それが恵慈の鼻につく。
突然目の前に10tが割り込んでくる、
背中に虎を背負ったデコトラが二人の行く手を阻んだ。
恵慈と信太は左右に別れて虎をかわす。
迷わず開けたアクセルがエンジンを目覚めさせる。
「何個ついてんねん」と信太はガードレールとコンテナの
間に突っ込みながら、
いくつも飛び出したモロゾフのプリンのような
派手なウィンカーをかすめて、
トラックの前に躍り出た。

火の着いた二人は淀屋橋から御堂筋に80kmで突っ込んで、
我に返って少しアクセルを戻す。
スゥッと信号が門のように開いてゆき、
恵慈達は夢見るように千日前で止まった。
CD50-改に跨がったまま恵慈は体がしびれているのを、
NOAHの三沢のように確かめていた。
 
 「あの虎えぐいなぁ、死ぬかと思ったぁ」 
 「ああ、ほんで今日はなんやねん」
 「タコスロで勝った、祭や」

信太はそう言って雑居ビルに入って行った。

狭いエレベーターに二人は乗り込んだ。
内装が禿げまくってアルミが丸出しの汚い箱の中で、
こうなったら信太の手のひらで、
ブレイクダンスを踊るしか無いと恵慈はため息をついた。
ビルの3階で降りると蝶ネクタイの兄さんが立っている、
信太は慣れた様子で店の様子を聞いている。
 
 「今どんぐらい待ち」
 「全然ヒマです、すぐいけますよ」

そう言って門番は信太から金を受け取ると、
指名は無いかと聞いて来た。
無論、恵慈には無い、
信太も無いと言うと席を用意すると言って、
カーテンの向こうに消えた。
 
 「金が無いオーラ出すなよ、ビッとしとけ」
 「ここなんや」
 「翼の折れたエンジェルの戦場」
 「なんやねんそれ」
 「まあそんなええもんちゃうけどな」

恵慈は待ち合い室で置いてあったドカベンを手に取った、
実際は岩城のホームランも里中の投球も眼に入らない。
ここがどこなのか大体見当はついた。
恵慈は全く予期していなかった事態にたまらず口を開いた。
 
 「なあ、やっぱええわ、金高いし」
 「うるさい、ここまで来といて遅いわ、
  どうせ泡銭や、腹決めて大人の階段昇れや」
 「ハードコアな階段やでぇ」

恵慈には言ってる意味が解らない、
少々面倒くさくなってきている恵慈を尻目に、
信太はいたずらっぽく笑みを浮かべる。
そうこうしていると、
カーテンの向こうからさっきの蝶ネクタイが迎えに来た。
その一ノ?〜流れる天使〜

ホールの中はミラーボールに回転するライトが光をまき散らし、
薄暗いフロアに潰れた音のユーロビートが爆発している。
案内されて中に入った恵慈は驚愕した。
ホール中を歩き回る無数のバドガール。
信太と少し離れた席に案内されて恵慈はビールを頼んだ、
二人が座るので一杯の席に恵慈は独り開き直った。
程なく恵慈の席にバドガールがやって来た、
恵慈の足下に軽くひざまずいて小さくお辞儀をする。
 
 「はじめまして、セイラです、よろしくお願いします」

金髪で細身のバドガールは狭い席にぎぅと入り込んで来た、
顔にはまだあどけなさの残る。
セイラはおしぼりを恵慈に渡すとニコッと笑った。
 
 「おビール頼んでもよろしいですか?」
 「ああ、ええよ」

恵慈は天井で回るライトを見てビールをイッキに飲み干した、
恵慈の飲みっぷりをセイラが囃し立てる。

 「すごぉい、お酒強いの」
 「ああ強い、ところでこの店何の店?」

それを聞いたセイラは、
言うが速いか恵慈の上に馬乗りになった。
いきなりマウントポジションを取られ、
しかも席が狭くてガードポジションが取れない。
恵慈は突然のことに、心の中でタップしてトサカがしゅんとした。
信太に助けを求めようとそちらを見ると、
信太は目を閉じて、
バドガールの乳房をしゃぶって悟りを開いている。

 「どぉしたらええんかなぁ」
 「あたしに触っていいの、好きにしていいの」

セイラと対面したまま恵慈はストーンしている、
とにかく一度セイラを横に座らせた。
セイラはきょとんとしている、
恵慈は自分の中でアップロックを始める。
もはや踊るしか無い恵慈は、
腹を決めて、目を開き、今を味わう事に決めた。

そしてセイラが間を図って口を開いた。

 「どこの生まれなん?」
 「生まれも育ちも大阪や」
 「そうなんやぁ。あたしは岡山」
 「ええとこやん」
 「あたしも大阪で生まれてたらどこにもいかんかったのになぁ」

セイラは、今まで故郷から広島や兵庫と、
いろいろなところを流れて、今は大阪にいるのだと話した。
戦場の天使達に次々と指示が飛ぶ。
セイラが席をはずして代わりにカテジナがヘルプに入る、
スパイシーなヴィジュアルのカテジナと、
自棄気味な対応をしていると、
売れっ子のセイラが帰って来た。
すると突然ホールの照明が落ちる、マイクがいい声で吠えた。

 「お待たせいたしました、Let's ライドオォォン!!」

ストロボが狂ったように瞬いて、
ライトは回転速度を増して行く、
ホールにアナスタシアが降りて来た。

客は静かに女の体をまさぐり、
思い思いにマッシュアップしている。
恵慈はわけも分からずぶっ飛んで信太のほうを見ると、
信太はデンプシーロールしている。
セイラが恵慈の耳もとによってきて囁いた。 

 「上に乗ろっか?いい?」
 「ああそやな」

今度はガードポジションがっちりである、
恵慈はセイラをやさしく抱き締めた、
なんだか妙に心静かに、
懐かしさにも似た感覚に恵慈は思わず口を開いた。

 「女って柔らかいなぁ」
 「そうかなぁ、あたし胸が無いからごつごつしてるって言われる」

恵慈は無性に愉快になって笑い出した、
セイラは初めどうしたのかと聞いたが、
何も言わない恵慈に釣られて自分も笑い出した。

時間が来るまで恵慈はセイラと体を合わせて話をした、
話ながら恵慈は前の席に座っている客を見ていた。
その客は一人で来ているらしく、
女がいない間はジッとしていて、
女が帰ってくると甘えるようにその肩に寄り掛かった。

女は優しく男の頭を撫でてやり、
男は安心した顔で何事か話している。
そして男は、女の顔を優しく手のひらで包み、
女の目玉を舐めた。

恵慈は何とも言えない感覚にに追い立てられて、
セイラを横に座らせた。

 「どうしたん、しんどかった?」
 「いや、大丈夫、せやけどあれやな、
  ここではアホにならなあかんねんなぁ」
 「そやで、みんなあほやし、恥ずかしいことも無いよ」

そう言ってセイラは屈託なく笑った、
恵慈はセイラと肩寄せあって何と言うことの無い話を続けた。
セイラの言葉の端々に岡山なまりが出てきた頃、
恵慈は彼女の肌が少し冷たいことに気がついた。

時間が来て店を出てバイクに戻ると、
信太は悟り切った様子で恵慈に言った。

 「名刺を持ってきたか、そんなもん持ってたらあかんで」

そう言って信太は自分の持ってきた名刺を丸めて捨てた、
恵慈は「そやな」と言って名刺をピッと飛ばして、
バイクのキックを蹴り抜きエンジンをかける。
二人はネオンの海を渡って家路を急ぐ。

途中に淀屋橋でゼットとすれ違った、
雨のそぼ降る中ゼットは滑る様に60kmの門に吸い込まれて行った。

参考音源;アナスタシア/T 99:イリジュウム/スコット ブラウン

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