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クトゥルー神話創作小説同盟コミュの闇島奇譚?怪異の潜む島(第十四回)

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 「な、何だ、ここは?それにあれは何だ?」三郎は想わず叫び声を上げていた。グレート・オールド・ワンのトゥルスチャを見せてやると言われていたので、てっきり夜島へ行くのかと想っていたのだが、雲の中に突入したままずっと上昇感が続き、気が付くと周囲が色彩だらけの妙な所に浮いていたのだ。そして、三郎の正面には透明な海月のような巨大な物体が浮かんでいたのだ。“ここはトゥルスチャの居る時空だ。主の正面にトゥルスチャが居る”「え?あれが!でも全然、炎と言う感じじゃないぞ。むしろ水の塊だ」“主の視覚にどう認識されているか我は知らぬ。だが、今、主の視覚に認識されているものこそ、主等の時空でこのように認識されている存在だ”三郎の心に緑色の炎の柱が映し出された。そこがキングスポートと呼ばれる町である事も、何故か三郎には理解出来た。だが、三郎が、今、見ている物体と心の中に映し出されたものとは、まるで異なる存在のように想えた。不意に正面に見えていたトゥルスチャが爆発した。な、何だ?“分散しただけだ”分散してどうなる?“アザトースの宮廷へ行き、そこで踊る。トゥルスチャには大した知能は無い。ただ、アザトースの前で踊るだけだ”不意に三郎の心に、星々の中に浮かぶ巨大な真っ黒い渦のようなものが見えた。“あの中に居るのがアザトースだ”その周囲に緑の炎たちがゆらめいている。そして、炎の中には様々な生物の姿が見えた。佐々木の姿もその中にあった。“トゥルスチャが喰らった魂は、アザトースの思念の領域内では再構成される。再構成された魂はトゥルスチャに依り、宮廷の踊り手を務めさせられるのだ”トゥルスチャは何の為に魂を喰らっているんだ?“踊り手の確保の為だ。再構成された魂も時の経過の中で無限に存在し続けられる訳ではない。見よ”三郎の視線は本人の意思とは関わりなく、空間の一画に固定された。黒い渦のようなものの周囲で踊る炎たちの幾つかが一つ、二つと消え、新たな炎が出現して行く。“一万年前に喰われたシャッガイの昆虫たちの再構成された魂が消滅し、代わって金星人たちの再構成された魂が参加した。”
 その後、どうしていたのか三郎には記憶が無かった。気が付くと鍵守神社の近くに全裸で立っていた。慌てて見回すと脱いでおいた物が足元に丸まっている。急いで身に纏ったところで、不意に「大和さま?」と声をかけられ、三郎は飛び上がった。夜の闇に侵食された暗がりの中に、巫女らしき人影を見つけて「ええと、夕子さんかい?」と訊くと「はい、そうです」と答が返って来た。「大和さま、何故、ここに?」夕子一人では無かった。村人らしい人々が数人居る。すると、その内の一人が「あんたか!大和三郎と言うのは?」と血相を変えて三郎に詰め寄った。「あんたのせいで、松は・・・」他の人々が男を後ろから押さえ込もうとし、男はそうはさせじと暴れようとし、一寸した騒動になってしまった。すると「静かにせんか!」と大きく一喝する男の声があった。その一喝は美事な程の効き目があり、みなおとなしくなった。現れたのは何処からあんな一喝を発せたのだろうかと想われる程、穏やかな感じの初老の男で、人々に村長(むらおさ)と呼ばれていた。村長と呼ばれた男は三郎の前に来ると「失礼した。わしは村長を務めまする夜辺(やべ)宗助(そうすけ)と申します。大和三郎さまでらっしゃいますな。二、三、お訊きしたい」と言った。「どうぞ。何でもお尋ね下さい」と三郎が言うと村長は「松と言う女をご存知かな?」と言って、松の特徴を話し、小夜子たちの事である事ない事、三郎に語った女だと説明した。松と言う名だったのかと想いながら、三郎は肯定した。「その事をどなたかに話されたか?」今度は三郎は否定した。本当は和明と少佐には話しているのだが、この人々にその事が漏れる筈も無いので一瞬の躊躇も無く否定していた。すると、今しがた三郎に詰め寄った男が、再び騒ぎ出した。「じゃあ、誰がお館様の耳に入れたって言うんだ?」それで三郎には事態が把握出来た。「僕に余計な事を吹き込んだとして、責められたのですね?」村長は肯定した。そして、今日の昼に誰かが薫子の耳に入れたのだと話した。「あんたがその話を聞かされた時、近くに誰かおらなんだかね?」それで想い出されたのは、夜子の事だった。女が慌てて立ち去った時、近くに夜子が立っていた。おそらく、女は、夜子に気が付いて慌てて立ち去ったのだろう。だが、その辺りの事を話すと何か告げ口めいて三郎としては良しとはし難いのだ。しかし、それは懸念だった。
 「夜子だよ」一瞬にして場を支配した一声を放ったのは、いつの間に現れたのか、孝作の姿をしたショゴス二体を引き連れた薫子だった。そして、その後ろから進み出たのは、「わたしが今朝、お松が大和さまに喋っているのを昼島で聞きました。だからお館様にお話ししたのです」と、きつい表情を変えない夜子だ。重い沈黙が人々を覆った。「夜部と鍵守に関しての噂話は堅く禁じられている。例え全部本当の事でもね。それを知っていて、お松は喋った。だからお松は罪人(つみびと)なのさね」薫子の言葉で三郎には大方の事実が呑み込めた。ここでは罪を犯した者はシャンブロウの生贄にされ廃人となる。いや、廃人となり衰弱して精神と肉体を消耗し尽くし、魂と命を失うのだ。
 「待ってくれ!」と人々の間から声が上がった。先程、三郎に詰め寄った男だ。「勝四郎!止めぬか!」村長が叱咤するが男は止めない。三郎が館の一員で、村の者でも、増してや島外の者でも無いのに、それで罪に問うのは酷過ぎると、切実に訴えるのだが、薫子は一言の元に切って捨てた。「勝四郎、わし等に訴える前に女房(にょうぼ)によく言い聞かせとくべきだったな」それから村長の方を向いて「どうする?見届け役が村長の役目とは言え義理の娘だ。見たくなければ今回は免除してやろう。相手がシャンブロウ様でも無い事だしな」その言葉が三郎には引っかかった。シャンブロウに刑の執行人を任せるのでなければ一体どうするのか。
 「おいで」気が付くと薫子が三郎の顔を覗き込むようにしていた。「あんたは見なきゃならんよ。あんたは話を聞くべきじゃなかったんだ。あんたが話を聞いたから、お松は罪人になったんだからね」いつの間にか三郎の後ろに、まるで退路を断つかのように夜子が廻っていた。観念して三郎はついて行く事にし、自発的に歩き出した。お松には気の毒だが、この島に関する新たな情報が、又、一つ得られるのだ。
 薫子を先頭に一行が着いたのは鍵守神社の裏手だった。小さな祠のようなものが岩場にあった。その手前には、矢張り孝作の姿をした別なショゴスが提灯を手に佇んでいる。薫子がその前に行くと、提灯を手にしたショゴスが中へ入る。薫子が続き、三郎もついて行った。村人たちも、それぞれ提灯や角灯(ランタン)を手に続いて来るようだった。祠の中は下に降っていた。すぐに道は二つに分かれた。一行は左の道を進んだ。道は右回りに螺旋を描いていた。後で判ったが、左右どちらも螺旋を描いているのだが、右の方は足元が悪く歩き辛いので、ふだんは使われていないのだと言う。
 螺旋道が終わると、そこは磯だった。そこに巫女姿の人影が立っていた。顔立ちは夜子や夕子と一緒だったが、何処か呆けたような表情で、けれども朝子程、存在感が希薄でも無かった。むしろ、全身から存在感が溢れ出しているような娘だった。「お館様ァ、準備出来ております」薫子の姿を認めると娘は軽薄そうに言った。どうやらこの娘も頭が弱そうだ、と三郎は想った。「曙子(あきこ)、もう少し待て。小夜子と昼子が来たら始めるとしよう」と薫子が言うと、「じゃあ、朝子にそう言って来ますね」と慣れているのか波打ち際迄、岩場を正確な足取りでひょいひょいと進んで行く。そこで初めて三郎は、海の手前に台のような物が設けられている事に気が付いた。台の上には二つの人影があった。一つは横たわり、もう一つは立っていた。いずれも全裸だった。ここからでは良く見えなかったが、それでも立っている方は曙子が近寄っているから朝子なのだろう。すると横たわっている方がお松か。「それにしても、あの台は何なのだろう」想わず三郎が呟くと、「祭壇です。ヴーゾムファ様に生贄を捧げる為の」と声がした。小夜子だった。見ると、他にも巫女姿の娘たちが大勢居た。なみと言う娘や昼子もその中に居た。昼子の横には夕子や夜子にそっくりな、しかしまるで無表情な娘が立っている。その娘は三郎を認めると「昏子(くらこ)です。姉妹たちが世話になっています」と、まるで感情の籠もっていない平坦な調子で挨拶をすると、これ又、心の籠もっていない感じのお辞儀をした。おのれの姉妹を一言で姉妹たちと片付けてしまったり、感情に乏しいどころでは無さそうだ、それとも頭を病んでいるのだろうかと、三郎は少し気にかかった。
 「お始め!」薫子の声が辺りに響いた。いつの間にか衣を台の上に脱ぎ捨てていた曙子と既に脱いでいた朝子が台の上に横になった。一方は仰向けになり、もう一方がその上にうつぶせの姿勢で乗る。但し上下は逆だ。曙子と朝子、どちらが上でどちらが下なのかは判らないが、上に乗った方は下になった方の足首を掴み下になった方は上になった方の足首を掴んでいる。何が始まるんだ?仰天した三郎が見つめていると、誰か袖を引く者がある。小夜子だった。「ヴーゾムファが来ます。ここに居ては危険です」見ると、みな螺旋道のある洞穴にぞろぞろと戻って行くところだった。昼子と小夜子に挟まれるようにして三郎も洞穴の中に入ろうとする。だが、誰かが飛び出して来て三郎は突き飛ばされてしまい、岩に叩き付けられる直前に小夜子に抱き止められた。小夜子に礼を言って顔を上げると、勝四郎だった。祭壇の方へ走って行く。松を助ける積りなのだ!
 夜子がいきなり走り出した。勝四郎の後を追う。その直後に螺旋道の洞穴から村人たちが飛び出して来た。みな口々に勝四郎に戻るよう呼びかけている。だが、「およし!」と制止の声か男たちの背後からかかる。「もう間に合わないよ!こうなったら夫婦仲良く送っておやり」洞穴の奥から薫子の声が響く。村人たちは諦めたように、又、螺旋道へ引き上げ始めた。処刑を言い渡されたも同然の勝四郎は、その事を知ってか知らずか、祭壇にあと一歩の所で夜子に追い付かれ、後ろから羽交い締めにされてもがいていた。「いけない!彼を・・・」三郎は夜子に手を貸すべく走り出そうとした。ヴーゾムファと言う存在が何をするのかは判らないが、このままでは勝四郎まで生贄にされてしまう。しかし、三郎の身体を受け止めた小夜子は、そのまま押さえ込んで離そうとしなかった。おまけに昼子が三郎の身体に触れるので下手に小夜子を振りほどこうとすると、昼子を跳ね飛ばしてしまう危険があった。結局、小夜子と昼子に引きずられるようにして螺旋道を通り、三郎は上に連れて行かれた。意外にも昼子は中々の力持ちで、一度は三郎が暗い螺旋道の中で足を滑らせて前に倒れ込みかけたのだが、気配で何が起きたのか気が付いた昼子が素早く前に廻ると身体を受け止め、そこを小夜子が横から引き戻してくれたのだ。
 岬の突端には、岩陰に隠れるように小さな石段が設けられていた。螺旋道の祠から岬の上に戻った一行は、今度はその石段を降り始めた。岬より人間二人分くらい低い位置に平らな場所があり、周囲は頑丈な木で柵が設けられている。柵は人の背丈よりも高かった。みなは柵にしがみつくようにして外を見ている。三郎も同様にして、みながそうしている理由が判った。眼下に見えているのは海とあの祭壇だった。祭壇の上では二つの裸体が上下になって絡み合い妖しく蠢いているのが見える。そのすぐ横には矢張り裸のお松だろう、ここからだとはっきり様子が判るのだが、後ろ手に縛られ両の足首も縛られて何とか自由になろうともがいている。その祭壇に向かって手を伸ばしているのは背後から夜子に押さえ込まれている勝四郎だ。
 風向きの関係か、声も良く聞こえていた。淫らに絡み合っている裸女二人の艶かしい嬌声や勝四郎のお松を呼ぶ声が三郎の耳朶を打ち続ける。
 「来たぞ!」と誰かが叫び、同時にみな一斉に柵から離れた。何だ?何が起きた?改めて眼下の海に視線を凝らして、三郎は、アッ、と声を上げた。何か巨大な影が海中から出現していた。暗くて仔細迄は判らないものの、その姿を何と形容すれば良いのだろうか。(*)蛸のようでもあり蟹のようでもあり海月のようでもある、と言ったところだろうか。そいつは祭壇に近付いて行った。そいつの全身からは触手のようなものが伸びていた。だが、その触手の形はまるで男性器のようにも見えるものだった。
 「な、何だあれは?」三郎は想わず声を上げていた。「あれがヴーゾムファ様です」後ろから柔らかな声と腕が三郎を抱きしめる。それで三郎はおのれが震えている事に今更ながら気が付いた。
 ヴーゾムファの触手が、一斉に前方に向かってロープのように伸びた。祭壇の上の曙子と朝子はヴーゾムファの存在に気が付いていない。狂ったように、いや、元々狂っているのかも知れないが、無我夢中で二人は互いに絡み合っている。そんな二人の頭上をヴーゾムファの触手が通過して行った。触手がお松の身体に触れる。絡み付くと言うり軽く触れた感じなのだが、それでもお松の反応は凄まじかった。途端に全身をくねらせ聞くに堪えない下劣な声を上げ始める。勝四郎が夜子を振りほどいて前に飛び出した。いや、夜子の方で手を離したのかも知れなかった。勝四郎が愛しい女房を抱きしめるが、松は夫には眼もくれず、近くにゆらゆらと揺れている触手の一本に掴みかかる。三郎には表情は判らなかったが、恐らく狂女の顔になっているのだろうと想った。松は自ら数本の触手を巻き付けると獣のような咆哮を上げて果てた。松がぐったりと祭壇の上で動かなくなると、触手は今度は勝四郎に向かって伸びた。かわす暇など勝四郎には無かった。触手に触れられると全身がびくんびくんと震え、程なくして野太い声を迸らせて勝四郎も又、祭壇の上に沈んだ。その頃になると、流石に曙子と朝子も気が付いていた。気が付いて、なお、逃げるどころかヴーゾムファの触手を求めてにじり寄ろうとする。一方、夜子も逃げるどころか、ふらふらとヴーゾムファに向かって歩いて行く。
 不意に三郎は柵から引き離された。気が付くと、みな、石段を上がり始めていた。嫌も応も無く、三郎も又、上に連れて行かれた。だが、岬の上に出ようとした所で銃声が響いた。「海の方だ」誰かがそう言い、岬の突端に幾つかの人影が走った。だが、すぐに「見えない。もしかしたら祭壇の方だ!」と別な声が言い、みなは今、上がって来たばかりの石段を急いで駆け降りた。三郎が再び柵にしがみついた時には、みな、銃声の主を見つけていた。磯伝いに波打ち際を移動して来たらしく、三つの人影が祭壇から少し離れた所におり、一人が拳銃を握っていた。「大木!」想わず三郎は叫んでいた。「罪の館に火をかけた奴等じゃな。罪の館があれば、こんな残酷な罰を与えんでも良かったのじゃがなあ」薫子が、そう呟くのを耳にして、三郎は想わず詰め寄っていた。「どちらにしろ残酷じゃありませんか!」それに答えたのは小夜子だった。「シャンブロウ様なら誰にも浅ましい姿を見られずに刑罰が済みます。でも、ヴーゾムファ様に犯される姿は、みなに見られる刑罰なのです」
 大木は銃を全弾撃ちつくしたようで、弾倉を引き抜くとポケットから取り出した別な弾倉を差し込み、再び狙いを点けた。既に祭壇の上には夜子も倒れており、おそらく夜子よりも先に触手の洗礼を受けた筈の二人、曙子と朝子はまだ触手を両手に握り締めて悶え狂っている。しかし、大木が改めて八発全弾撃ち尽くした時には、二人も流石に倒れて動かなくなっていた。するとヴーゾムファの触手は、今度は三人に向けられた。自分に対して害意がある事を承知の上でなのか、ヴーゾムファは距離を縮めようとしてか巨体を揺らしながら波打ち際を移動し始めた。大木たちは慌て撤退を開始した。だが、そこへヴーゾムファの触手が伸びる。先に立って移動していた二人には届かなかったものの、最後の一人の背に一本の触手がまともに命中した。叫びを上げて、一人は海に落ちた。「安達!」大木が悲痛な叫び声を上げたので、落ちたのが安達少尉なのだと三郎には判った。ヴーゾムファの触手が海中に飛び込むや、安達少尉の身体を持ち上げた。海水から引き上げられた時点で、既に少尉は全身を激しくくねらせていたが、すぐに悶絶したらしく、がっくりと頭を垂れて動かなくなってしまった。その間に大木中尉と比企少尉は安全圏へと脱したようだった。波打ち際を岬の反対方向へ逃亡したのだ。生贄が無くなったヴーゾムファは、そのまま向きを変えると沖合いへと去って行った。
 
* トレイシー・アンビュール&ジェームズ・アンビュール「Beast of Love」

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