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二人の絆コミュの第二章「ほころびに咲く花」

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プロローグ2

公園でバットを持った艶やかな瞳の少女。
その場に居合わせたアキラは驚きのあまりしばらく声が出なかったが、
少女の言葉の節々から、脳裏に焼きついた思い出がよみがえる・・・。


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第二章、ようやくスタートです。
皆さんの個性を徐々に出していってくださいね。
管理人もちょくちょく書きますので♪

なかなかキテる感じになって来ましたが、うまいこと行くことを望んでおります(笑)

コメント(5)

 午前4時をすこし回ったところだろうか、ぼくはひとり家路をたどっていた。
 あれから、ホームレスか少女のどちらかが、派出所に駆け込んだのだろう。にわかにざわつきはじめた気配に気付いた『ポチ子さん』は「また、同じ場所で」と言い残し去っていった。ぼくにすこしでも精神的余裕があったならば、それがここのことなのか、それともチャットルームなのかを聞く配慮ができただろう。あいにくとぼくは彼女がいなくなってからも、しばらくベンチで痴呆老人のように呆けていた。幸い、警察は来なかったらしい。
 ぼくは、ようやくベンチに張り付いた腰をあげ、1時間前に来た道を逆にたどることにした。いつもの道に、今日は人っ子一人歩いていない。時間が時間だけにあたりまえなのだが、世界の全てが息絶えてしまったような不気味さを感じてしまう。

――世界を消しちゃう方法って知ってる?

 彼女はたしかにそう言った。そしてそれは質問ではなく、あとに「教えてあげようか」とでも続きそうな口ぶりだった。
 まるで、そんなものが本当にあるかのような。

 まさか。通り魔のきちがい女が言うことを真に受けてどうする。ぼくは、あの女とは違う、まだまだまっとうなの人間なんだ。少なくとも人を殺したことは、ただの一度もない。そして、これからも人殺しをすることはないだろう。ぼくにそこまでの度胸はなければ、狂気もない。こそこそと『外国製の煙草』をすすっているくらいが性にあっている。
『外国製の煙草』に火をつけてぼくは苦笑した。
「それにしても、『世界を消す方法』とはね」
 
 ぼくは、わずかな月明かりに浮き出された青白い顔の輪郭を思い出そうとした。でも、輪郭線のなかにうかびあがるのは、どういうわけかあいつの――柚榎の顔だった。
 浮かび上がる柚榎の顔は儚げだった。
 柚榎は格別美しいわけではなかったが、ふとした瞬間に見せる翳りのある俯き顔や細い声は、思春期の少女が大人の女性へと変化していく様を見て取れる。かわいらしさと凛々しさを併せ持つ少女は白い肌を少し赤らめながら初めて肌を重ねた後に涙を浮かべ口を開いた。
「ごめんなさい。私、あなたに言っていなかったことがあるんだ。」
ためらいがちに彼女は言った。

「私ね、パニック障害っていう病気なんだって。今まで形づくられてた心が一気に崩れてく…気がつくと家の中が荒れてたり、親に刃物を向けたりして……それで、私は…独りなんだ。馬鹿だね、私。」

 施設から抜け出して柚榎と僕は、今日みたいな真夜中に二人で会っては、たわいもない話をした。僕は彼女の翳をいつか取り払ってやれると信じていた。

「でも今は大丈夫、薬も飲んだしアキラ君が傍にいるから。」

 彼女は僕の心のほころびに咲いた小さな白い花だったんだ。

柚榎は外に出たら僕ら以外の人間と誰とも会わずにいられる夜中の大通りが好きだった。夜中の大通りは僕ら以外誰も歩いてなんかいないから、二人は二人として外を歩けた。


 金属バットを振り回した少女の声が、振り子のように、澄んだ音を奏で耳の中で響いている。

世界を消す方法なんて、そんなのあるわけがない。
あるのは、死ぬまで続く苦痛に満ちた現実と、愛を失ったこの虚無感だけ。
そう思っているはずなのに、世界を消してしまえたらどんなに楽かと気になってしまっている。

僕の両親が死んだのが不運にも高校卒業の一週間前。柚榎が死んでから一年が過ぎた頃だった。
 本当にこんな現実を消しされるならいいのに。
 そんなくだらないことを考えながら、また黙々と仕事をする日々が続く。あれからあの日のことが忘れられない、正直彼女を怖いとも思った反面、何故あんなことをするのか気になりまた会いたかった。しかしこの頃両親の保険金も残り少なくなり、煙草が買えず、禁断症状が辛くて幻ばかり見るようになっていた。

 そんな悶々とした日々が続き、クリスマスが近づいていた。街はライトアップされ街行く人々もどこか嬉しそうだ。


 僕も柚榎が生きていた頃はクリスマスが人並みに楽しみだったと思う。どこかに二人きりで行こうと決めていたし、プレゼントもかなり悩み学校に無断でバイトもしていた。

 そして彼女が行きたがったのは、ディズニーランドでもおしゃれなレストランでもなく冬の海だった。
「誰もいない場所に行きたい。」
彼女はよくそんなことを言っていた、冬の海なんてと思ったが彼女の顔には有無と言わせぬものがあったから、クリスマスは二人で近くの海に行くことにした。

 電車に揺られ1時間もすると海が見えてきた、出発するのが遅れたので辺りは暗くなり始めていたが、夕方には着いた。

海なんて来たのはいつぶりだろう、海水浴なんてここ何年も行ってない、ましてや冬の海なんてこれが初めてだ。流石にクリスマスの海には人が誰もいなかった、自動販売機で買ったココアで手を温めながら、凍えそうな潮風が吹く海辺を寄り添いながら歩く。

その頃にはもう夜になっていて、満点の星空と十六夜の月が世界を銀色に染め上げていた。海も砂も家も何もかもが淡く照らされ、それは街中のクリスマスのライトアップのように派手ではなかったけれど美しい光景だった。あまり感動しない僕もこれには感動した。

「キレイだ。」

「そうだね、この世界はこんなにも美しいものなんだね・・」

彼女は何を考えているのか分からなかったが、月光に照らされた横顔は何よりも美しく、そして儚げだった。
寡黙な二人はそれきり話すことなく銀色の世界をただ見つめていた。

帰り道、僕は彼女にネックレスをあげた、女性に何をあげていいか分からなかったから無難なものにした。それでもカラーサファイアをあしらったもので高校生の財布にはかなりこたえた。彼女はありがとうと言い、出会って初めて僕の前でほんの少しだけど微笑んでくれた。

これが僕が見た彼女の最初で最後の笑顔であり、この三ヵ月後彼女はリストカットをした。


今更何を思い出しているのだろう、柚榎と同じことを言うあの女のせいかもしれない。あれから何年も過ぎた、あの海は今も美しいままなのだろうか。そう思うと、いてもたってもいられなくなり、休暇をもらいクリスマスの日にあの海に向かうことにした。

電車に一人揺られ、海に着くと以前と同じ自販機でココアを買った、あまり人気のないこの海はあまり変わっておらず寂しいままだった。

夜の海は相変わらずキレイだった、以前と違うのは柚榎がいないことだけだ。そんな自分しかいない海で
「キレイだ」
と独り言をいった時だった。

「そうだね・・」

はっ、と思わず横を見ると少し離れた所に儚げに柚榎が立っていた。

最初は何が起こったのか分からなかったが、今まで抑えていた思いが溢れて止まらなかった。 

「柚榎!!」

思わず叫んで走り寄った、話したい事がたくさんあった、幸せにしてあげたかった、そんな柚榎が目の前にいるのだ、もう離さない、抱き寄せようと手を伸ばした瞬間、その手は空を切り、反動で倒れて膝をついた。

煙草のみせた幻だった、それに気づいた時、もう立つことができなかった。言葉にできない喪失感が全身を駆け巡り、柚榎が亡くなった時も、親が亡くなった時も涙などでなかったのに、今は涙が溢れて止まらなかった。きっとどんどん哀しみは溜まっていたのだ、それが今になっていっぱいになって溢れてしまった。

僕は『かけがえのない』ものをなくしてしまったのだ、どんなに美しくても、分かち合う人がいなければ意味がない、柚榎のいない世界など消えて無くなってしまえばいい。

そう思った時、あのバットを振り回す女のことを思い出した。
『世界を消しちゃう方法を知ってる?』

正直まともではないと思ったが、今の自分にとってそんなことはどうでもいい、
「世界を終わらせよう。」
そう決意した僕は立ち上がり砂を払った。


近くの岩場には小さな白い花が潮風に吹かれ揺れていた。
「久しぶりね。あなたなら、きっと私に会いに来ると思ってた」

オレの前に現れた女はそう言うと静かに笑った。
場所は、いつもの公園。
女は、あの時と同じ様に半袖の服を着て、二色に分けた髪を静かに風にそよがせている。
傷だらけの右手には、ボコボコのバットが握られていた。
オレは、三度呼吸する。
そして、静かに佇む彼女を見つめながら言った。

「教えてくれ。世界を消す方法を」





ーーポチ子へ。もう一度会って話がしたい。連絡をくれ

あの夜の海から帰った日、オレは『ポチ子』に再びあう決意をし、誰もいない掲示板にメッセージを入れた。
もはや迷いも恐怖もなく、全ては海岸で着いた砂のように、どこかに消えてしまっていた。

返事はすぐ来た。

ーーいいよ。場所と時間は?

オレは真っ暗なパソコンの画面に輝く文字を見ながらすぐに返事を書いた。

ーー明日、時間と場所は前と同じで。
ただし、今度は警察抜きでね。




暫く沈黙が続いた。
月が大きい。
その強すぎるほどの光りが、ちょうどスポットライトのようにオレ達を照らしている。
彼女はじっとオレを見つめていたが、急に眉をしかめた。
「あなた、自分が何言ってるか分かってる?」
オレは少し当惑しながら答えた。
「何って・・・その方法が聞きたいって言ったんだ」「解ってるからきたんじゃないの?」
「解ってるなら、こんなところにあんたを呼び出したりしない。とっくに自分ですましてる」
彼女は深く溜息をついた。「なるほど。私のかんちがいだったてわけね。それじゃあ、もうあなたにようはないわ」
さよなら、そう言って彼女は踵を返した。
オレは焦った。
「あんた、オレに言ったじゃないか。世界を消す方法を教えるって」
約束が違う、そう叫びたかった。
ポチ子は、ちょっとだけ振り返った。
「確かに言ったけどね。」呆れたように言う。
「あれは、聞いただけ。知ってるかって意味。教えるなんて一言も言ってないわ」
「そんな・・・卑怯じゃないか」
「あなたが勝手に勘違いしただけでしょう?それにね、それは人から聞いてどうこうできるものじゃないでしょう?あなたがあなたなりにそれを見つけて、しっかりと実行する。それ以外の方法なんかないわ」

オレは気が遠くなった。
「そう・・・なのか?」
彼女は二度目の深い溜息をつく。
「そんなことも解って無かったの?もうちょっと話せる人だと思ってたのに」
残念だわ、彼女はそう呟くと、もうオレのほうを向いてはいなかった。
「待ってくれ!」
そう叫んだが、もはやポチ子は振り返えらずに、歩き去ろうとする。
目の前が急に真っ暗になった。辺りを照らしていた月の光も消え失せ、オレを辛うじて立たせていた蜘蛛の糸のように細い何かが、ぷっつりと途切れてしまったように感じた。
「なら、オレはこれからどうしたらいい?」
オレはいつの間にかその場に突っ伏していた。
冬の空気が纏わり付き酷く身体が重く、身動きがとれなくなっていた。
空気の音だけがいやに大きい。

ポチ子は暫くオレを無表情で眺めていた。
月に速足な雲が被り、辺りが一瞬暗くなった。
風が音をたてながら倒れているオレに近づき、ほうを触る。
ポチ子は三度目の溜息をついた。
そして、無造作であるが静かにオレの傍に立ち、微かな声で聞いた。


「ホントに知りたい?」


オレは、月光で陰る彼女の顔を見上げた。
雲はもう過ぎたようだった。
彼女はしゃがみ込み、未だ立ち上がれないでいるオレに頭の高さを合わせる。
そしてもう一度微かな声で聞いた。
「世界を消すには、どうすればいいか知りたいかって聞いてんの」
オレは喉の奥から絞り出すようにして答えた。
「教えてくれるのか?」
彼女は立ち上がった。
「さっきも言ったでしょう。それは自分自身でみつけるしかないって。」
「それじゃあ、なんで!」言いかけたオレの言葉を遮って彼女は続ける。
「ヒントぐらいならあげられるっていってんの。私は今からある事をしようとしている。あなたがそれを手伝う。そうすれば、何か掴めるかもしれない。そういうことよ。」
「あんたに協力すれば、オレにも解るのか」
世界を消す方法が。
彼女は晴れた空を見上げながら答えた。
「それはあなたしだいよ」
で、するの?しないの?ポチ子はオレに聞いた。
オレは答えた。
「やる。何だってやってやる」
もう、内臓が溶け出て、暗くしか詰まってないような身体で、自然死するまでの日々を指を折って数えるような生活には堪えられなかった。

「OK。契約成立ね」
彼女はオレの手を握り、引っ張り起こしながら言った。
「本当はもっとちゃんとした人に協力してもらいたかったんだけどね」
「ちゃんとしてなくて悪かったな。で、なにをするんだ?」
「着いてくればわかるわ」そう言って彼女は颯爽と歩き出した。
慌てて後を追う。
辺りは前にも増してあかるくなっていた。
空に雲の姿はなく、風も少し弱まったようだ。
公園のベンチや楠も静かにそこにあった。
道に敷き詰めてある砂利も鈍く輝いている。
全てがひっそりとだが、確実に静かに呼吸をしていた。
そのなかを速足で歩く彼女の後ろ姿を見ながら、たった今チームを組んだものとしての扱く当然な、そしてひどく茫洋として、この場には少しだけ突飛な疑問が浮かんだ。
オレは彼女に質問した。
「あんた、一体何者なんだ?」
ポチ子は少し立ち止まり、やがて振り向き、
「テロリストよ」
と言って薄く笑った。
「テロリストよ」と言って柚榎は笑った。
「人間って、なんだかわからないものが怖いんだって。周りの大人たちは、みんな私のことを怖がってる。当然よね。どう、あなたは私のことを怖いと思う? なんでこんなことをするのかって」柚榎は手にした包丁の刃を、手首に当てている。刃が触れた部分の白い肌にうっすらと血がにじみだした。
「私にもわからないわ。だから私は自分のことが怖くてしかたないの。あなたと同じようにね」
「バカなことはやめろ」自分でも驚くほど感情のこもっていない声だった。まるで、生徒をなだめすかす教師のような。
「私にとっては聖戦なの。ちっぽけで、ひどく個人的なものだけど。私は、テロリストよ」 
 
 8年前の春の日。柚榎は自ら命を絶った。
 すぐに手当てをすれば助かったかもしれない。しかし、そうと知りながら、俺はただ彼女が死んでいくのを眺めているだけだった。見殺しにしたと言ってもいい。だから正確には、命を「絶たれた」と言うべきだろう。もちろん俺の手によって。正直のところ、俺は、彼女が怖かったのだ。わかりあったつもりでいただけで、本当は、なにひとつわかってはいなかった。
 
 俺は彼女の死体を、あの海に投げることにした。あいつが好きだった、あの海に。彼女の遺品ありったけを重りにして。あとを追って死のうなどとは、そのときは考えもしなかった。くだらないセンチメンタリズムに動かされないことには自信があったし、なによりも、俺は死にたくなかったからだ。あの頃の俺は、口では調子のいいことを喋りながら、結局はわが身かわいさに保身に走るような男だったのだ。柚榎と一緒にクスルをやるようになってからも、俺は、キマっているフリをしているだけだった。『外国製の煙草』以上のものに手を出すのが怖かったのだ。そして、彼女を通じてクスルがばれることを恐れて、俺は彼女を見殺しにしてしまった。海に捨てたのは、何のことはない、誰にも見つからない場所をさがした結果だ。

 俺はいつのまにか、そういう大人になっていたのだった。

 

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