どこでもいっしょ。トロと小説コミュのケーキの味

「ただいま〜」
いつものように、いつもの時間に玄関のドアを開け、帰宅する。
「おかえりﾆｬ〜」
いつものように、トロはキュッキュッと言う独特の足音を立てて迎えに出てくる。
「ﾆｬ？　なんか甘い匂いがするﾆｬ？」
とぼけた顔して、食べ物の事に関しては抜け目のないやつだ。
「駅前でね、残り物ケーキが安かったんだ」
そういって、ショートケーキが2個入った手箱をトロに手渡した。
トロは人を喜ばせるくらいの笑みになり、手箱を手に取る。
「わーい♪　けーきﾆｬ　けーきﾆｬ！」
ケーキの箱を抱えたまま、小躍りするようにトロは奥の部屋へと駆け出した。
「こら、走ったら転ぶぞ？」
と、言うが早いか･･･

コケッ！・・・・・ぐしゃ･･･

何につまづいたのやら。両手を伸ばし、大の字で顔から倒れこんでしまっている。
ﾆｬ･･･
やれやれ･･･

トロはドキドキしたような、緊張したような複雑な表情を浮かべている。
そぉーっと、おそるおそる箱を空けてみる。
それはもう、、、床に叩きつけられたケーキがどうなっているか･･･
想像するのを難しくはない。

「！！！　ケーキじゃなくなったﾆｬ！！」
「大丈夫、少し崩れたけど、食べられるよ」
「ダメﾆｬ！　ケーキじゃないのﾆｬ！　えーーん」
トロは、顔をくしゃくしゃにして泣き出し、押入れへと走りだし、閉じこもってしまった。
「トロのせいﾆｬ･･･。トロが転んだからケーキがケーキじゃなくったのﾆｬ･･･グスン･･･」
「大丈夫だよトロ、ちゃんと食べられるから」
「ﾆｬ･･･せっかく買ってきたケーキをトロがケーキじゃなくしたのﾆｬ･･･」
僕は台所へ行き、大き目の皿を取り出し、崩れたケーキを丁寧に乗せる。
冷蔵庫から、飲みかけのジュースを取り出し二つのコップに注ぐ。

「ほら、トロ。一緒に食べよう。ジュースもあるよ。」
トロは半べそをかぎながら、押入れのふすまを少しだけ開けてこっちを覗いている。
「ﾆｬ･･･怒ってるのﾆｬ･･･せっかくかいりの買ってきたケーキ･･･ケーキじゃなくなってかいり怒ってるのﾆｬ」
苦笑いするしかなかった。
「ケーキじゃなくなったかどうか。食べてみよう？」
「ﾆｬ･･･ケーキじゃなくなって、きっとｶﾚｰﾗｲｽとｺｰﾋｰがケンカしたような味になってるﾆｬ･･･」
ふすまから覗きながら、なみだ目になっている。
「どんな味だよ、それ。。いいから食べてみよう？　じゃないと全部食べちゃうよ？」
「ダメﾆｬ･･･お腹お壊すﾆｬ！」
「しょうがないなぁ･･･」
崩れたケーキを一口、パクッと頬張る。
もぐもぐもぐ･･･
「ん・・・おいしい」
「･･･お腹ｲﾀｸないかﾆｬ？」
トロの言葉には答えずに、わざと大きく口をあけ、おいしそうに食べてみせる。
もぐもぐもぐ･･･

ﾆｬ･･･

トロは、不思議そうな、泣きそうな顔で押入れから出て、テーブルの前に立っている。
黙って。フォークをトロの前に差し出す。
トロも黙ってフォークを受け取り、おそるおそるケーキを取る。
僕はもう一口ケーキを食べてみせると、トロも目をつぶってケーキを口に入れた。

もぐもぐもぐ･･･もぐもぐもぐ･･･

「ﾆｬ！　ケーキの味ﾆｬ！　ケーキじゃないのにケーキの味がするのﾆｬ！」
「形が崩れても、味が変わるわけじゃないんだよ」
「不思議なのﾆｬ〜。ケーキじゃなくなっても、ケーキの味がするのﾆｬ〜」
トロはご機嫌にケーキを頬張りはじめた。
「そんなに食べたら、僕の分が無くなるよ」
「かいりはさっき、いっぱい食べたのﾆｬ〜。これはトロの分なのﾆｬ〜」

やれやれ･･･。