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藍太郎 FuN ClUb。コミュのクリスマスに贈る特別な話 〜黒い恋人達〜

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クリスマスには白が似合う。
クリスマスは恋人同士で祝うもの。
クリスマスは誰もがハッピーになる日。
そんなイメージの張り付いた聖なる夜に語るお話としては、少しスパイスが効き過ぎているかも知れない。
でも、あたしはこう思う。
雪の降らないクリスマスだってある。
更に、あたしはこう思う。
甘いケーキが万人の舌に合うとは限らない。
だから、あたしはこう思う。
誰かの幸せを叶える事が、他の誰かの幸せに繋がるとは限らない。
だったら、いいんじゃない?
少し変わったプレゼントがあったって。

たまたまだ。
たまたま、今年は特に予定が入っている12月24日。
いつもなら、無宗教のあたしには関係ない日。いつもなら、特に予定もなく過ごす普通の日。宗教的に関係なく、普通の日である認識さえ変わらないものの、今年はたまたま予定が入った。
ヒメコという名がよく似合うと言われる。
真冬生まれだって由来で、氷の瞳の子と書いて『氷(ひ)瞳子(めこ)』(」)。
浮かれた世の中を冷めた目で見ているらしい。
その筈。だからエッセイストなんてやってるのだ。謙虚で慎ましやかな姿勢が美しいと言われる国民性の割に、辛口評論家というのが受ける世の中だ。題材は何でもいい。辛口で冷めていればいるほど受ける。
友人、親族、社会、異性同性、対象が何であれ簡単な事、要は自分に正直になれば良い。冷めた言い方をすれば『妥協&協調』か『主張&孤立』どちらを取るか。
全くあたしと言う人間は、公的に見れば面白く、私的に付き合えばつまらないと言われる典型タイプだろうな。自分で言うのも何だけど。

そんなあたしと私的に付き合いたいと言う男が現れたのは、今から半月前の事。
どうせ夏の花火ゴッコと高を括っていたこちらの予想を裏切り、粘り強く関係は続いている。
短期型のあたしには珍しいケース。
ただただ、よくもまぁと感心する。
男の名は白井三太浪と言う。
それが本名なのかも分からない。仕事はIT関係とか言ってるけど、特に気にした事も無いから具体的に何をしているのかも分からない。
別に、性格が凄く良いという訳でもない。
価値観が合う訳でもない。
ホストだという話は聞いた事がないが、ホストの様な飄々とした態度に粋がった身形。
仕草も舌先も胡散臭いが、見た目だけは良い奴だった。

あたしはこう考える。
形=つまり外身のない物に中身があるだろうか。
愛には形が無い。
ならば中身の必要性ってそれ程だろうか。
今、旬な例えをするなら、無宗教…もしくは『宗教の坩堝』とも言える日本社会を彩るクリスマス、それ程中身が色濃いとは思えない。キリストの誕生日を祝う姿勢は何処にも伺えない。寧ろキリストが生まれた日だって知ってる奴がどれだけ居るかも定かじゃない。結構、そんなもの。表向きは年間一大イベントだって。
クリスマスライトもパーティードレスも料理も、見た目だ。
だからあたしは見た目の良いものを選んだ。
ただそれだけなんだけれど。

まぁナリソメを語るならば、そんな男との出会いは平日の映画館で、真っ昼間から一人でサスペンスを観ていたあたしに向こうから声を掛けて来たのが切欠だった。
一人でこんな映画観てたら怖くない?とか、一人で観るの寂しくないかとか。
別に怖けりゃ観ないし、然して寂しくもないから(寧ろこの男の様にうるさい奴が隣に居ると集中出来ないから)一人で来ているのだが、下手な口実作りだな、ぐらいで無視していたのに、映画が終わってもそいつは粘って来た。
だから付き合った。
直向さに負けたとかではなく、ただしつこくて面倒臭いから一段落つける為にOKしただけだった。
その関係が、燃え上がるでもなく冷めるでもなく、ダラダラ続いている、それだけの事。

そんな関係がダラダラ突入する予定のクリスマス。
別に何をする予定も無いが。まだ。

クリスマスの話をする前に、あたしには書かなきゃいけない仕事がある。
それでその大事な原稿のメモリーを、男の家に忘れて来た。
男に相手もそこそこに徹夜して書いていたせいで、ボーっとしていたんだ。
酷く不愉快な気分で白井三太浪の家に向かった。
何故なら、彼は留守かも知れないからで、留守の場合、仕事に遅れが生じるからだ。
もし、嘘偽り無く普通の会社員だったとしたら、居ない時間の筈…午後1時の事だった。

普通のアパート。
汚くはないが綺麗でもない3階建て。その二階の真ん中の部屋。全てが中途半端な白井三太浪。ITとかデカく公言する割には残念さが漂う。
鍵を持っていないあたしは、嫌な不安と共に、建物端の階段に向かった。元々他人の家の鍵など持ちたいと思わないので、持っていない事に関しては何も文句はないが、こういう事態に陥るとやや無念に思う。
と、管理人の部屋の前を通る時、中から聞き慣れない甘ったるい声が聞こえてきた。甘くしかもデカい。
「もぉ〜マジでありがとう〜♡おじさんのおかげで助かりましたぁ〜!」
母音子音その全てに「ん」が入っている様な独特の喋り方。『偽装天然』もしくは『ド天然』のオンナノコの多くが心得ている技、とあたしは認識する。
「今度わマジでお礼しますぅ♡」
のろい喋りと裏腹、外に人が居るか居ないか関係ねぇぐらい勢い良くドアを開けて出て来たのは、金髪で背の低い明らかに10代のオンナノコだった。
「いやぁ、君の事はよく見てるからね、こんな可愛いお嬢さんがまさか不法侵入したり何かを盗んだりって事はないだろうからね。」
後ろから出て来た管理人さんは、そりゃもう笑顔だ。
何があったんだか。
「鍵はまた返しに来てくれればいいからね。私はここに居るから。ちゃんと返してくれれば問題にはならないからね。」
男の下心の裏側に、ちゃっかりいざという時の転嫁の用意と、厳しい大人の規則の棘を忍ばせる熟年の技。
それに気付いてないのか気付かぬフリなのか、またも甘い受け答え。
こういう攻防戦は面白い。一番のネタだ。
まぁお互いの要求が満たされればそれでイイ訳で、ある意味、人間の自然体そのものかも知れない。
甘い声のお嬢ちゃんは、上機嫌のまま階段に向かって来る。その右手にチャリチャリ…遊ばせているのは合鍵の様だ。
なるほど、そう言う手を使えばあたしの忘れ物も取り戻せるのね。
半分冗談、半分感心しながら彼の部屋に向かっている内、あたしは背後のチャリチャリが、いつまでも離れない事に気付いた。
ふと、振り返る。
目が合う。
相手の上っ面の愛想笑いに答えずにまた前を向き、2階真ん中の部屋の前に立つ。居るだろうか。わざわざここまで足を運んで、最大の不安が押し寄せて来た。チャイムを鳴らしてみる。
が、返答なし…。

思いっ切り憂鬱な気分になって、引き返そうかと思った。
ら。
チャリン。
背後で音がして、振り向いた。
金髪のオンナノコが、同じ部屋の前に立っていた。

「あの〜、ここの鍵なんですけどぉ〜…?ご用なんですかぁ…?」

疑い深い眼差しであたしを見上げながら、オンナノコは合鍵をチャリチャリと指先で回した。



 
 *続くよ。

コメント(2)

「はい。用です。」
一応あたしは最小限の言葉にとどめた。
「…あー。じゃあー。入っちゃいますぅ〜?」
何!?

と思ったらもう鍵を開け出したので、入ってしまった。一体誰だか知らないが、どんな権限だ。
カーテンを閉め切って薄暗く物の少ない部屋は、いつもと変わらず気温が低くて、中途半端に生活感が無い。
小さいDKと、カーペットを敷いた畳の4.5畳間も、ついこの前来た時と比べても、物の配置すら変わり映えがない。目につくのは脱ぎ捨てられた見覚えのあるジーンズだけ。
そんな空間に。
男の留守中の部屋に、面識の無い女二人。不穏で微妙だ。
かと言って、何か話したい気分でもない。疑問点は…勿論…多々あるが、この場で追求するより、尋問するなら後で充分に出来る。
先ず、さっさと 目的を果たそうと、ローテーブルの上に置き忘れた筈のメモリーを探すが…無い。
確かにそこに置き忘れた筈だけど。
変に気を利かせて、片付けてしまう様な男だとも思わないが。
金髪の子は、頻繁にこちらをチラ見しながら、ただ居辛そうにしている。これだと、この不穏な空気のまま、なかなか引き上げられない。いっそこちらから追求してしまおうかと、見知らぬ金髪に向き直った瞬間、
「あのぉ〜?」
向こうから切り出された。
「えっとぉ〜、立ち話もなんなんでぇ、お茶いれますかぁ?」
立ち話さえもする気は無かったが、金髪娘はヒールを履き損ねた様な態とらしいヨチヨチ歩きで寄って来た。
よく気の利く女がいいなんて言われながら、空気の読めない女がモテるのも浮き世の面白さだろうか。
茶を淹れればいいって訳じゃない。

あたしの見解からして、通常…見ず知らずの人との間に流れる緊張感を解くには、気遣いが必要だ。
でも、あたしの見解からして、現状…相手が全く緊張感なく、気遣いにも気付かない場合は何が必要だろう…。まあきっとこれは相手がどうこうって問題じゃない。シチュエーションの問題だ。
男の留守に、初対面の女が二人…。
答えは一つなのにどちらも触れようとしない…。

いいや。とっとと帰りたいのは山々だが。メモリーが無ければ今の状況より窮地に陥るかも知れない。
切り捨てられる物もあるが、切り捨てられない物もあるので。
とりあえず、コンビニに行くとか言って一旦出ようか。それで一人になってから探して。
いや回りくどいな。
あたしは一番手っ取り早い方法を取る事にした。
「あの、メモリー見なかった?」
あたしの突然の声に吃驚したのか、メモリーが何だか分からないのか、金髪はこれまた業とらしくキョトンとした顔で、業とらしく可愛い角度に首を傾げた。
「めもりー?どんなやつですかぁ?」
「…テーブルの上に無かった?」
「んーゎたしも今来たばっかなんでぇ。」
「あ、そう。」
短い取調べだった。
仕方ない。
あたしは何も言わずに自分の薄っぺらいバッグを掴み、立ち上がった。
金髪を放っておいて、玄関のドアに手を掛ける。
ガチャっと音を立てて、ドアは開いた。
驚いた。
あたしじゃない。
開けたのは向こう側からだった。
一瞬、白井が帰って来たかと思ったが、予想外れの人物がそこには居た。
眼鏡。長い髪。薄い身体つきの長身。オフィスっぽい暗色カーディガンとスカート。ローヒール。女。
長葱の飛び出したスーパーの袋とコンビニ袋を提げた女は、同じく驚いた様子であたしを凝視した。
また女か。
金髪娘も流石に驚いて居る様だ。後ろで立ち上がったのが分かった。
「あ…」
短い声を発して、眼鏡の女は止まっていた。
あたしも、金髪も止まっていた。

「誰?」

数秒後、眼鏡の女は訝しげに問い掛けた。
「こっちも同じ質問しようと。」
あたしも疑い深さを全く隠さず返した。
「え?えー?」
金髪は頭を抱えている。
「あやべです…」
眼鏡が掠れ声で自己紹介した。
「あやべさん…黒井です。」
あたしも自己紹介した。
「ぃちごでぇす。」
金髪もおどおど自己紹介した。

「あの、どういう関係?」
次の質問は、ほぼ三人同時にしていた。
「わ、私は、白井とお付き合いしてますが…」
「カノジョでぇす…!」
「一応、男と女って関係ですが。」
そして三人ほぼ同時に、同じ回答をしていた。

沈黙。

驚愕の事実に驚愕。
唖然。
一連の流れの後、あたしは額に手を当てて壁に寄り掛かり溜め息をつき、眼鏡は幽霊でも見た様に買い物袋を取り落として固まり、金髪はえーとかきゃーとか喚き出した。
これが、波乱の序章だった。

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