新谷研究室コミュの教育史学会

研究室雑感としてブログに書いていた文だが、個人が特定できるのでなんとかならないだろうか、という苦言が聞こえてきた。おそらく彼だろうとは思うが、まあいい。
学会がどういうところであるべきかについては改めてブログに書いておいた。皮肉として。
で、内輪の面々への教訓として隠して記事をこちらに転載する。熟読されたし。
この程度でも批判されたくなければ発表などするべきではない。わが研究室はそういうプライドをもって学会に臨むべし。

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１０月10、11日と教育史学会で名古屋大学に行ってた。
司会をしたのだが、その時間帯は西洋教育史の部会がなかったため、西洋教育史の人たちがずいぶん来ていた。で、かなりおもしろい質問や意見が飛び交っていた。就中、大御所のＭ沢大センセが「どうしても一言言わせろ」と要求するので最後の質問タイムをお渡しした。すると「今日の発表はことごとく事例研究だ。事例とは何だ。全体がわかっていないで事例とはおかしいではないか。」と言われる。まさにその通りだ。全体像を把握しないで、事例研究なんて出来るわけがない。その事例が大きな歴史の中にどう位置付くのかという問題意識無しに研究をすることの意味は何なのか。

僕自身も地域の特定の学校の研究から始め、ずっといわゆる事例的な研究をしてきた。始めて論文らしきものを書いたとき、師匠のＴ﨑大センセに「モノグラフをいっぱい作れ」と言われていたこともある。しかし、史料調査に行き、郷土史家の方々に教えを乞うたびに自分と郷土史家とのちがいは何か、何か自分をして教育史研究者たらしめているのか、という問いを自分に突きつけながらやってきた。それは「この研究対象は大きな歴史の中でかくかくしかじかの意味を持っている」と説明できるかということではないだろうか。

僕の学位論文は福岡県だけで書いている。しかし、事例研究とは一言も書いていない。これは日本の中等教育成立史の研究なのだと書いている。改めて『尋常中学校の成立』九州大学出版会　を読んで欲しい。
　うむ。いい本だ。

気になる発表がいくつかあった。
ある史料をたんたんと紹介したものがあった。本人は一生懸命やっているのだから、そのことは評価しよう。しかし、何のためにそれをやっているのか、というとよくわからない。というものがあった。

たとえ院生であっても学会で発表したのだから具体的に書いておこう。それは学会で発表することの責任でもある。そういうことは学会発表をとしようとする院生はよくよく覚悟しておこう。ゼミの発表ではないのだから。いや、ゼミでもそういう発表はいかん。いかんけど、そこでは指導は受けられる。学会は指導の場ではない。と言っても会員にしかわからない程度にはとどめるけど。

話を戻そう。その発表はある女子用修身書の分析で、先行研究でＡ氏もＢ氏も「対社会的道徳や対国家的道徳はほとんど言及されていない」「国家的観点からの...発想はない」と指摘し、実はそうしたことが書いてある、と発表している。ならば、それはＡ氏、Ｂ氏が作ってきた「学界の定説」を覆すものだが、本人はそのようには言わない。「これから時代背景を調べて......」と話を逸らすだけである。言うなら言うべきであるし、言わないならそんなふうには言わないことだ。

その後指導教員のＹ氏と話したが、Ｙ氏曰く「その修身書を編纂した西村繁樹が時代を読めなかったんだろう」と言う。そういうことも含めて責任ある学会発表に持っていって欲しい。

もう一件。これも某院生。「何何の淵源を探る」というたぐいの発表でいろんな辞書を引いてその使われ方を論じるところから始まっていたが、耳障りなところがあった。それは仏語、仏国を（ぶつご）（ぶつこく）と読むことだ。（ぶつご）（ぶつこく）と言えば「仏の言葉」「仏の国・仏教国」などの意味である。フランス語のことなら濁ってはいけない。発表前にきちんと調べておくことだな。
それはともかく、何のために淵源を探っているのか。そのことがわからない。ていうか問題として立っていない。結局は自分のひとりよがりの調べ学習に終わっている。

いずれも問題の設定（研究上の意味）がなっていないということだろう。ていうか、なぜ自分がそのことを研究するのか、という引き寄せがないのだ。前者について言えば、女子教育史・女性史の先達であるＡ氏Ｂ氏を否定するということは自分の立場をどういう方向をめざすものとして位置づけるのか、という研究姿勢まで問われることになる。

やはり女子教育関係、かな。

質問への回答が「女性差別はまだまだあります」みたいなふうにどんどん展開していくのだ。歴史研究から離れたところに話が行ってしまうのだ。それは関心が歴史的課題にあるのではなくてたまたま古いことを対象にやっているというにすぎない。それは人物史的な研究にもあった。ある人物の思想を時間軸を超えて語ってしまうのだ。人間の発言なんていうのは時局を反映するものだ。しかも、戦前戦後という大転換を経て何も変わらないというのだろうか。

ま、女性差別云々のおしゃべりに堪えられなくなって会場を出た。配布資料を末席に座っていた院生のＹ本くんに托して。

Ｙ本くん、あれは捨ててくれたかな。