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思考交換所コミュのPart 2

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シーン 5〈崇の緊張〉

 俊次はバイトの休憩室で崇のことを考えていた。崇と俊次は高校で出会った。二人とも地元では有数の進学高校に通っていて、家が割りと近かったし、お互いバスケットボール部に所属していたこともあって、自然といつも一緒にいた。お互い控えめの性格ということもなかったけれど、別にそんなに積極的に話しかける方でもなかったし、何より二人でいることのほうが気が楽だったので、二人でいる時間が長かった。お互いにお互いを干渉することはなかったが、隠し事もなかった、悩みがあれば相談をしたし、くだらない話もしたし、お互い思ったことを喋って喧嘩になったりもした。高校卒業後二人とも東京の大学に進学した、そしてお互いに大学の近くで一人暮らしを始めた、二人の大学はそんなに近いとも言えなかったので、バイトやサークルに追われる日々の中で二人が会う機会は減ったが、それでも悩みがあったりすればお互いに会ったりした。大学卒業後は崇が同棲を始めたことも重なって更に会う機会が減ったが、二人の関係は変わることなく今日まで至っているのである。昨日も、崇が俊次を呼び出した。二人は崇の家の近くにある大学時代によく行った居酒屋へと行くことになった。店に入り一時間くらいは、たわいもない話をした、最近バイト先で起こった面白い話、テレビの話、映画の話。俊次もわざわざ崇がこうやって呼びだす時は何か悩みがあるのを知っていた、本当のことを言えば、お互いそれを詮索したことはなかったが、気にはなっている。ただ、それでも何も聞かないでいられるのは、多分相手がいつしか話してくれることを知っているからだろう。だから、今回も俊次は崇に聞こうとはしなかったが、結婚が決まったばかりの出来事であるので、俊次はどことなく気を使っているようだった。グラスのウイスキーを飲み干した、崇は言った。
「明日さ、由希の実家に結婚の挨拶をしにいくんだ」
俊次は本題に入ろうとしている空気を感じながら、少しはぐらかした
「おい、今日俺と飲んでていいのかよ?俺今日お前を酔いつぶすつもりだったんだけどな・・・」
崇も少し笑ったが本題を続けた。
「由希のお母さんはもう知ってて、喜んでくれてるみたいなんだけどさ。父親はまだ知らないんだって。まあ、改めて娘の彼氏が挨拶に来るって言うんだからこの歳だし、気がついてはいると思うんだけどね。」
崇は少し、落ち着かない感じだった、確かに彼女の父親に挨拶ということからくる緊張のせいだろうが、何か少し心配そうだった。俊次は話を真剣に聞きながらも、また少しはぐらかせた。
「なんだよ、お前不安なの?もしかして、あのドラマとかで、土下座して娘さんを下さい!!って感じの本気で想像してんの?で、反対されたりして・・・、馬鹿だね。」
崇も話しに乗ろうとしたが、何となく気分が乗らず、30秒以上に長く感じる、沈黙が生まれた。そして、崇はもともと真剣だった口調を更に強めて口を開いた。
「由希のお父さんって無口な人なんだって、だから、今まで由希が決めたこととかに口出したことってほとんどなかったみたいで、由希は後からお母さんに本当は反対してたとかって聞くらしくて、本人はどうでもいいって言ってるけど、本当は少し寂しいんだと思うんだよね。ほら、由希って一人っ子じゃん、だから由希の話し聞いてるとお父さんも由希のこと凄く大切にしてるとは思うんだ。だからこそさ、例え結婚に反対だとしても何も言わないんだと思うだよね。俺は、本当はそれじゃいけないと思う。でも、本当に賛成してるか、反対してるかなんて俺にはわかりっこないし、どうしたらいいのかなぁってさ」
言い終えると、崇はウイスキーをお代わりした。崇が注文をしている間、俊次は黙っていた。注文を言い終えた崇にさっきとは違うテンションで尋ねた。
「そんな、相手の親の本音なんて、初対面で分かりようないだろ、ただお前にできることなんて、お前が由希ちゃん幸せにしたいって気持ち伝えるしかできないじゃん。例え反対されても結婚諦める気はないんだろ?」
崇は即答した
「ないよ、納得してもらうまでは結婚できないけど」
俊次も、いつになく真剣な崇に答えるように、力強く答えた。
「だったら、いいじゃん、お前は単純に由希ちゃんを幸せにすること考えればさ」
「そりゃそうだよな。それしかできないよな」
崇は、何も解決してないこの会話のなかで、少し落ち着きを取り戻した。

バイトの休憩時間を終え、そのまま俊次は時計の針を少しの間だけ見つめた。


シーン6 〈由希の実家〉
 
 家に着くと、由希のお母さんに暖かく二人は迎えられた、一通り挨拶を済ませ、敢えてお土産は崇からお母さんへと手渡された。二人は8畳の掃除の行き届いた和室に通された。由希はお茶を入れに行ったお母さんを手伝いに行ったので、父親のまだ来ていないその和室で崇は一人になった。最初は正座をしていた崇だがしばらくして崩した。それでも、いつもは割りにだらだらしている崇も緊張した面持ちで、誰かが来るのを待っていた。しばらくすると、お茶と少しの茶菓子を持って由希が戻ってきた。
「今、お母さんがお父さん呼びにいったから、もう直ぐ来ると思う。」
由希も、実家とは思えないほどの緊張を隠せずにいたが、それ以上に緊張している崇を察して続けた。
「大丈夫だって、お父さんなんて関係ないんだから、きっちり一度挨拶さえしとけば問題ないから。」
崇も、それが由希の本音ではないことが分かっていたし、崇自身もそれではいけないと思っていたが、由希の気遣いを受け入れ、声に出して返事はしなかったものの、少し頭を縦に振った。
直ぐに由希の両親はやってきた。由希の父親は崇の想像とそう違わず、優しそうでがっちりとした体格ではないが、しっかりとした雰囲気と振る舞いだった。由希の父親は部屋に入ると、崇に少し頭を下げ、座りなれた座布団に腰をかけた、そして由希の母親もその隣に腰を下ろした。崇は崩していた足を正座へと戻した。崇はこっそりと一息つくと、話を始めた。
「初めまして、北村崇と申します。大学4年の頃から由希さんとお付き合いさせてもらってまして、今日は結婚の報告・・・というか、結婚の承諾を頂きに挨拶に伺いました。」
由希の母親は、崇と由希のその緊張した面持ちと、たどたどしさを目の前にし、うれしさと、愛らしさを感じ、大袈裟にではないものも、穏やかな顔をして見せた。
崇の挨拶を聞いて、父は表情一つ変えずに、でも何かを考えているかのように、黙っていた。沈黙に耐えらずにいた崇も続ける言葉が見当たらず、黙っていた。しばらくして、父親が口を開いた。
「由希も結婚するつもりなんだな?」
父親はやはり表情を変えずに由希へと確認をした。
「うん。私たちは結婚するつもり。だから今日は報告しにきたの」
由希は敢えて、ただの報告であることを強調した。父はまた少し黙っていたけど、二、三度、軽く自分自身にうなずくようにその場で首を振り
「だったら、そうすればいい。お互いが結婚したいと思っているんだったら、俺がとやかく言うことじゃないし、崇君もこうして筋を通してくれたわけだから、何も文句を言うところはない。それに、よさそうな青年だし良かった。」
と言って、父は崇を気遣って少し笑って見せた。崇は予想どうり、由希の父親が何を思っているか読み取れずにいた、由希も少し安心した表情を見せたものも、まだ心のどこかに不安を抱えているようだった。そんな、三人の空気を察して母親が会話に入った。
「まあ、良かったわね。お茶冷めちゃうから、頂きましょう。」
崇も正座を崩して、4人は談笑を始めた。ただ興味があっただけだか、それとも三人の空気を察してか、母親が崇に質問を始めた。崇の仕事のこと、家族のこと、大学のこと。多分、それらの中に、由希から既に聞いて知っていたことも少なからずあっただろうが、父親に聞かせるように質問した。相変わらず、父の口数は少なかったが、話題の所々で発言をした。それらの発言にはトゲがなく、はたから見ると、とても和やかに見えるのだが、崇には、父親が崇を心配させないように気を使っているように思えた。それでも、その優しさに崇は笑顔で答えた。そんな談笑が一時間ばかり続いた。

父は何を思っているのだろうか・・・・・。


シーン7   (お線香)

 毅と紀子はお線香をあげ終えると、応接間に通された。30半ばぐらいのその未亡人は、毅と紀子にコーヒーとクッキーを出し終えると、49日を控えた骨壷と、位牌、そして写真を見つめていた。紀子も、同じように写真を見つめていた、毅はそんな二人の女を気まずそうに見つめた。しばらく誰も喋ろうとはしなかった、というより誰一人としてその場に心地悪さを感じていたし、毅は帰りたい気持ちでいっぱいだった、コーヒーにもほとんど手をつけなかった。紀子も毅と同じ気持ちでいただろうに、不思議と帰ろうとはしなかった。そして、その未亡人が愛想なくしゃべり始めた
「主人は雁だったんです。でも、全然誰にも体調悪いこと言わなかったし、病院にも行かなかったから、倒れるまで誰も気がつかなくて。で、発見も遅れたのもあって、倒れてからひと月も入院しないうちに、他界しました。上の子がやっと小学校上がったばっかりですし、まったく・・・・」
その未亡人は無愛想ながら悲しそうに見えた。何となく、見るに耐えなくなって毅はタンスの上にある家族写真を見つめた。父と母と子供ふたり、大きい方の子は小学生くらいだから最近撮ったものだろう、毅はその覚えのある父親を見て、老けたなぁとだけ思った。
紀子はいぜん黙っていた、悲しそうな顔も、緊張した顔もしていなかった。ただ、無表情にその位牌の隣の写真を見つめていた。
「本人も望んでのことではないでしょうが、家族を残していなくなってしまうことは、どの道罪深いことね」
紀子は突然言った。突然言われたのであまり状況の飲み込めていない未亡人を待たず、紀子は続けた
「そろそろ、お邪魔になりますから、失礼しましょう」
毅もまだ、状況を飲み込めてはいなかったけど、「うん」と答え、紀子は一礼をして玄関へと向かい、毅もそれを追っかけた。
靴を履いているところに、その未亡人も追いついた。靴を履きもう一礼して帰ろうとする紀子と毅にその未亡人は言った。
「お葬式に呼べずに、すいませんでした。でも・・・・・」
その無愛想な未亡人も申し訳なさそうに、なにか、いい足したそうに言っていた。紀子は笑ってこそはいなかったけど穏やかな表情で返事をした。
「いいのよ、気にしないでそんなこと、今日お線香をあげただけで充分よ。家を出てった人の事なんて、もう捨てたも同然だから。それに・・・」
紀子も少し何か言うのをためらっていたが、続けた
「もし、私があなたの立場にいてもお葬式には呼べなかったと思うわ。だから、あなたは間違っていないわ。」
言い終えると、直ぐに一礼して家から出た。
毅は紀子に話しかけずらそうにしていたが、ご飯を食べて帰ろうとだけ提案し、二人は駅前のファミレスへと向かうことにした。

毅はこんな紀子を見たことがなかった・・・。


シーン 8 〈場違いな高校生〉

 お昼時のピークの時間帯を過ぎたとはいえ土曜の午後の割りには、俊次の働くレストランは空いていた。土曜の午後はもともと、混む事を予想して、たくさんのバイトが出勤するために俊次は余計暇をしていた。そんな暇なときは、いつもなら俊次は店内の掃除したり、何かしらして過ごすのだが、今日はそういう気分ではなかった。俊次は基本的にウエイターをしていたので、お客さんにたまに呼ばれるまでの間はボーっと厨房の影から、店内をのぞきこんでいた。そのレストランは、いわゆるファミリーレストランと呼ばれるレストランに比べると、雰囲気も大人っぽく、その分まあ、そこまでではないにせよ料理も気軽に立ち寄れるような値段ではなかった。土曜の午後は、買い物途中にカフェ代わりによるお客さんも多かったが、それでもどこかのファミレスで食事できるくらいの値段はしたので、割りに大人のカップルや20代の半ば以上の女性が目立った。そこに、高校生ぐらいの男女4人組がやってきた。高校生がやってくるのはそこまで珍しいことではないが、やはりその初々しさや経済観念などを考慮すると、店内では浮いてしまって、なにか落ち着かないうちにコーヒーを飲み終えそそくさと店から出て行くのが常だった。また、その高校生たちも土曜日のせいか、私服ではあったものの、隠せない初々しさが、ひときは滑稽に店内に現されていた。俊次もたまにやってくるこういったお客にも慣れてはいたが、今日のなんだか色々に気乗りがしないテンションの俊次の目にはその高校生たちは余計に滑稽に映った。男2人と女2人、よく分からない関係性のこの四人は、メニューを眺め、今ひとつ注文を決めかねていた。俊次は店内が空いていることも考慮して敢えてその子達の注文を焦らせたりはせず、厨房のすそから、その高校生たちをぼけっと眺めているのであった。注文がやっと決まったらしく、俊次は注文を取りにそのテーブルへ向かった。
「お決まりですか?」
いつもと変わらず、接客をする。4人の中の一人の男の子がまとめて、オーダーをした。アイスコーヒーが2つにアイスティーが2つそしてケーキが2つ。俊次は注文を取り終えオーダーを通しに厨房に向かいながら、誰が何を食べるんだろうかと、くだらない推測をした。飲み物をを届けると、俊次は勝手に女の子たちがアイスティーで男の子がアイスコーヒーだと思い込み、出したがどうやら女の子のうちの一人がアイスコーヒーで男の子もアイスティーだったようである。その高校生たちは、その俊次の前で間違いは正さず、俊次がいなくなった後にこっそりと交換したようだ。
どうやら、その高校生の男の子たちは女の子達が好きで、思い切ってデートに誘ったように俊次には思えた、そのせいか男の子たちはこの場違いな店内で少し見栄を張っていた。女の子のうちの一人はそれに乗っかっていたが、アイスコーヒーを頼んだ女の子の方はなんだか浮かない顔をして、わざと可愛くないことをしているようにも見えた。
「なんか、あの高校生みたいな男の子たち頑張ってますね、なんか可愛いな」
話しかけてきたのはウエイトレスをやっている、バイトの娘だった。
「そうだね。でも男だから少しくらい見栄を張らないとね」
穏やかにそう答えたが、内心は大学一年で大して歳も変わらないだろうこの子の発言に違和感を感じたりもしていた。

男ってのはそんな風に見られているものなのかもな・・・・・。

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