香港ノワール映画－英雄片－コミュの【香港ノワール／過渡期】九龍大捜査線

原題：絕不低頭/廉政第一擊(First Shot)
香港　デヴィッド･ラム･フィルムズ作品　93年　103分　カラー　HRSフナイ配給

製作総指揮：マ･ピクリン　製作･監督：デヴィッド･ラム　脚本：ソー･マンシン／チャン･クー･イン　撮影：ウォン･ボー･マン／アブドゥル･モハメッド･ラムジャン　アクション指導：ユエン･タク／レオン･シウハン　音楽：ローウェル･ロー

出演：(３点リーダー以降の人名は日本語吹替版ビデオのキャスト)
ティ･ロン(狄龍)=ワン･ヤット･チョン…西村知道
マギー･チャン(張曼玉)=アニー･マー…田中敦子
サイモン･ヤム(任達華)=サム･モク…藤原啓治
アンディ･ホイ(許志安)=ロー･カムソイ…古田信幸
ラウ･シェーミン(劉錫明)=イップ･チャンワン…成田剣
ウェイス･リー/レイ･チーホン(李子雄)=水龍頭ルー･タイチュウ…田原アルノ
カン･ヒンイン(金興賢)=イップ･フォク…仲野裕
コン･ムンシェン(江文聲)=ホー…チョー
チャン･チー･リョン(陳治良)=マッスル
リー･ホイサン(李海生)=ウェイ
チョウ･ホンチウ(周匡朝)=マッケイ…山下啓介

―解説―
警察官の汚職が公然化していた70年代の香港を舞台に､新任総督の特命を受け汚職撲滅の為悪徳警官やマフィアの頂点に君臨する大物ボスへ命がけの闘いを挑んだ精鋭たちの姿を描くアクション映画。出演は『男たちの挽歌』(86年)などのティ･ロン(狄龍)､『ラヴソング』(96年)などのマギー･チャン(張曼玉)､『ワイルド･ブリット』(90年)などのサイモン･ヤム(任達華)､『大丈夫日記』(88年)などのウェイス･リー(レイ･チーホン=李子雄)､『裏街の聖者』(95年)などのアンディ･ホイ(許志安)､『少林キッズ』(95年､ビデオのみ)などのラウ･シェーミン(劉錫明)ほか。デヴィッド･ラム(林德祿)監督､93年作。

―物語―
1970年代初頭､香港の新総督マクラホスはカーク法務官に警察の汚職一掃を命じ､秘書アニー(張曼玉)は買収を断り部下に撃たれた警官チョン(狄龍)に協力を求める。チョンは新米警官から射撃の名手カムソイ(許志安)と殉職した汚職防止課刑事の遺児チャンワン(劉錫明)を特別班にスカウトし､かつて自分を撃ったサム(任達華)の情報でアジトの米屋から帳簿を押収して彼も仲間に加えた。特別班は黒幕チュウ(李子雄)を告発しようと会計士マッケイを証人にするが､先手を打たれカムソイもろとも殺される。哀しみのなか有力者へ説得を続けたチョンの尽力でＩＣＡＣ(対汚職独立捜査局)が設立され､汚職撲滅の激闘が開始された!

コメント(2)

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[1] mixiユーザー 01月11日 12:54

既に当コミュでご紹介している｢大いなる野望リー･ロック伝｣２部作や日本未公開の｢跛豪/To Be Number One｣(共に91年)など､1950～70年代初頭までの香港における裏社会を支配していた人物をモデルに描いた｢実録(犯罪)映画｣で､必ずといっていいほど登場する｢ICAC(廉政公署､画像左がロゴ)=汚職捜査機関｣。この発足に至るまでの経緯を描いたのが本作です。つまり本作もまた｢実録(犯罪)映画｣の潮流で制作された1本なんですね。
監督のデヴィッド･ラム(林德祿)は"香港ニューウェーブ"の監督のなかでもとりわけ異色の経歴の持主で､複雑な家庭環境の下少年時代から武術を学び､ショウ･ブラザース傘下のTVB俳優訓練班第1期生として映画界入りするものの､間もなくTVドラマの制作スタッフに転身。ツイ･ハーク(徐克)やリンゴ･ラム(林嶺東)といった後のトップ監督たちとドラマを共作しますがやがて失業同然の状況に陥り､80年代には本作の舞台となった香港廉政公署の広報宣伝部署でＰＲ用の映像や広告を制作していました。85年に入り､エリック･ツァン(曾志偉)に請われて廉政公署を離れて映画界へ戻り､翌年監督デビューを果たします。２作目の『コール･ガール』(88年､ソフトのみ。画像中)が好評を博しシリーズ化された後は､本作含め社会派寄りの娯楽作品を撮り続けます。演出はセミドキュメント･タッチで抑制が利いており､複数の登場人物を並列して描く群像劇を得意とし､また女性キャラクターの描き方には定評がありました。90年には自分の映画会社を設立､本作を制作したのもその会社で､かつて廉政公署で宣伝用作品を撮った際の経験と手腕が活かされています。
その後は『コール･ガール』以降の女性映画路線から一転し硬派のポリスアクションを撮っていましたが､香港返還以降映画界が沈滞化してからはレストラン経営や金融業界に進出。その後2014年に久々の監督作『Ｚの嵐』(配信のみ。画像右)がヒットし､シリーズ化されています。

[2] mixiユーザー 03月21日 15:45

本作の大きな見せ場は､『男たちの挽歌』(86年)で敵味方に分れ激突したティ･ロン(狄龍､画像左)とウェイス･リー(レイ･チーホン=李子雄､画像中)が､再度顔を合わせ対決することでしょう。ところが…､様々な意味で残念な感じになっちゃってるんですよね。
まず主役のティ･ロンですが､当時警察官の間で常態化していた賄賂を受取らない木石漢(ぼくせきかん､人情や男女間の情を解さない男)と呼ばれる警官として登場しますが､とにかく異様なまでに融通の利かない､口より先に手が出る超短気な暴力性の強い人物で､正直感情移入しづらいんですよね。判断ミスで部下を死なせたりしますし。実際モデルになった人物もそういう人だったかもしれませんが…。
そして『アンタッチャブル』(87年)のロバート･デ･ニーロを思わせる悪の大ボスに扮するウェイス･リー(レイ･チーホン)も『男たちの挽歌』以降80年代の出演作で見せた､善と悪の間を揺れ動く複雑さが消えて､『ミスティー』(92年)の時と同様マッチョ化した類型的な悪役に陥っているのは残念なところです。しかも彼の場合元々甘いマスクでそれほど年老いてもいないので､大ワルならではの貫禄を醸し出すところまで達してないんですね。コレがケネス･ツァン(曾江)やパトリック･ツェー(謝賢)とかのベテランであれば､また雰囲気もガラッと変わってもっと重厚な凄味が出たと思うんですけど。いずれにしろ､ティ･ロンとウェイス･リー(レイ･チーホン)はクライマックスにおいてクルーザーの中でくんずほぐれつ闘うんですが､ドタバタというかドンガラガッシャン感が強く(意味不明)､何か今イチ締まらない場面になっちゃってますね。加えてサイモン･ヤム(任達華)も比較的大きい役で出てますけど､本作に関してはあまりパッとしない印象です。
そんな精彩の無い野郎どものなかにあって､物語に華と一本芯を通しているのが､マギー･チャン(張曼玉､画像右)扮する法務官秘書の女性です。彼女がある種の狂言回しとして､迷走する男たちを叱咤激励し､映画全体の推進力となり活躍する様は爽快かつ痛快です。当時美貌も演技も絶頂期にあったマギーのポニーテールでキメた70年代ファッションの数々も見どころです。ただ彼女の場合､"香港ノワール映画"への出演が本作と『いますぐ抱きしめたい』(88年)位なのが寂しいトコロですね…。

本作は日本では小規模で公開され､ビデオ化されました。その後残念ながらDVDやブルーレイ化には至っていません。確かにツッコミどころはありますが､非常に骨太なテーマを扱っているだけに､再評価とソフト再リリースに期待したいところです。

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