香港ノワール映画－英雄片－コミュの【香港ノワール／絶頂期】獅子よ眠れ

原題：龍騰四海(Gun n' Rose)
香港　インギア･フィルム･プロダクション作品　92年　100分　カラー　日本劇場未公開(ビデオ)

製作総指揮：ローヴァー･タン　製作：アラン･タン　監督：クラレンス･フォ　脚本：ワイ･カーファイ　撮影：ウォン･ジーウェイ　アクション指導：ラウ･スン･フォン　音楽：ローウェル･ロー

出演：(３点リーダー以降の人名は日本語吹替版ビデオのキャスト)
アラン･タン(鄧光榮)=アラン…玄田哲章
アンディ･ラウ(劉德華)=アンディ…堀内賢雄
サイモン･ヤム(任達華)=サイモン…金尾哲夫
レオン･ライ(黎明)=レオン…宮本充
ボウイー･ラム(林保怡)=ボウイ…後藤敦
モニカ･チャン(陳法蓉)=モニカ･チャン…日野由利加
キャリー･ン(呉家麗)=キャリー…高島雅羅
ロレッタ･リー(李麗珍)=ロレッタ…鈴鹿千春
チン･トン(程東)=ビー…島田敏
ティエン･ファン(田豐)=ラン…小関一
チャーリー･チャン(陳惠敏)=チキン…秋元羊介

―解説―
台湾マフィアの養子になった男が､内部抗争を避けて妻と香港へ逃れるが､妻を失ったことで台湾へ戻り無法を尽くす義弟と対決する姿を描いたバイオレンス･アクション。出演は『マカオ極道ブルース』(87年､映画祭のみ)などのアラン･タン(鄧光榮)､『七福星』(85年)などのアンディ･ラウ(劉德華)､『ワイルド･ブリット』(90年)などのサイモン･ヤム(任達華)､『天使の涙』(95年)などのレオン･ライ(黎明)､『ダブルタップ』(2000年)などのモニカ･チャン(陳法蓉)､『カップルズ』(96年)などのキャリー･ン(吳家麗)､『上海ブルース』(84年)などのロレッタ･リー(李麗珍)ほか。クラレンス･フォ(霍耀良)監督､92年作。

―物語―
台湾マフィアの首領ランが狙撃されるが､看護師モニカ(陳法蓉)の輸血で窮地を脱した。ランの養子アラン(鄧光榮)はモニカと食事中に襲って来た刺客を撃退し､彼を妬む末弟ボウイに密告され拘留になる。次兄サイモン(任達華)にボウイが制裁され､アランは極道から足を洗いモニカと結婚するが､首領の座をねらうサイモンの刺客が式場にも現れ､負傷したモニカを抱え台湾を去った。香港で運転手を始めたアランは､アンディ(劉德華)とビーの麻薬トラブルに巻込まれる。さらに台湾からサイモン配下のレオン(黎明)が現れ､モニカが隠遁生活に疲れて自害し､アランは台湾でサイモンと決着を付けようと決意する。

コメント(4)

最初
全て
最新の40件

[1] mixiユーザー 11月25日 06:46

"香港ノワール"の金字塔｢男たちの挽歌｣シリーズ(本項では89年制作の『狼』も含む)は､"武俠映画"の現代的アレンジである―その真実は､監督のジョン･ウー(吳宇森)やプロデューサーのツイ･ハーク(徐克)も認めるところであり､評論家を始め多くのファンやマニアによって検証が行われてきました。
入会者の皆様のなかで｢香港映画は"ノワール"しか見ない｣と言う方がいらっしゃるのであれば､"武俠映画"という言葉は聴き馴れないかもしれません。
"武俠映画"は､中華圏で広く人気のある大衆向け小説のジャンルである｢武俠小説｣､もしくは｢武俠小説｣に登場するような世界観を映画化した作品群を指します。
実は｢武俠小説｣の定義や歴史自体､諸説入乱れているのが事実で､これを解析するだけで複数のコミュニティが必要になります。そのため本項ではごくかいつまんでのご案内となりますが､"武俠映画"は日本語に意訳すると｢時代劇ファンタジー映画｣ということになります。ただこういっても現代の日本人にはピンとこないでしょう。何故なら日本では江戸時代以前の｢時代劇｣に､荒唐無稽で奇想天外な｢ファンタジー｣の要素を加えた小説や映画が未成熟･未発展な状況にあるからです。辛うじてそうしたジャンルを構築しようとした作家や作品といえば､旧くは山田風太郎原作の忍者を主人公とした｢忍法帖｣モノや､最近であれば夢枕獏原作の｢陰陽師｣シリーズ位ではないでしょうか。近年日本のみならず東アジアにも人気が波及しているコミック｢鬼滅の刃｣も日本的｢時代劇ファンタジー｣の流れを一部踏襲してはいますが､いずれにしても香港･台湾で量産されてきた"武俠映画"とは非なる内容です。
近年中華圏で愛読され映画やドラマ化されるケースが多いのは､第二次大戦後中華人民共和国成立以降に香港･台湾で発展した｢新武俠小説｣と称される潮流です。代表的な作家として金庸･梁羽生･古龍がおり､彼らの著作は現在に至るまで香港･台湾･そして中国本土で多数映画化､もしくはドラマ化されており､実は日本にもかなりの数の作品がソフト化され､BS･CSテレビ局でも常時放送されています。
これとは別に｢武俠小説｣を直接の原作としないものの､その世界観に影響を受け自らの作品に反映させてきた偉大な映画作家たちがいます。代表的なのは『俠女』(71年､画像左)などで国際的な評価を得てきたキン･フー(胡金銓)､前述のジョン･ウーが香港の映画会社ショウ･ブラザースで師事したチャン･チェ(張徹)といった監督たちです。当コミュニティでも紹介済のジョン･ウー監督作『ワイルド･ブリット』(90年)の原型となったのは､チャン･チェが73年に発表した『ブラッド･ブラザース/刺馬』(DVDのみ､画像中)で､｢武俠小説]ではなく清朝時代起こった提督殺害事件をモチーフとしており､ファンタジー色の強かった"武俠映画"に､不倫や政争､そして流血を交えた残酷描写などリアリズムを持込み大きな反響を呼びました。この作品は『男たちの挽歌』(86年)のティ･ロン(狄龍)が主演し､ジョン･ウーが助監督を担当しています。また前述した｢新武俠小説｣の大家のひとり古龍の原作をショウ･ブラザースで次々映画化してヒットさせ､香港･台湾の映画人に大きな影響を与えたチョー･ユン(楚原)監督も外せない存在です。そしてこの影響下で､台湾において古龍脚本の"武俠映画"に主演した後の大スターがいます。言うまでなくジャッキー･チェン(成龍)です。当時彼を専属させていたロー･ウェイ(羅維)監督は､"第二のブルース･リー"に仕立てるべく､香港で流行していた古龍に脚本を依頼し『成龍拳』(77年､画像右)など３本の"武俠映画"にジャッキーを出演させますが､この試みは失敗に終わります。ただ『成龍拳』では､前述した傑作『俠女』の主演女優シュー･フォン(徐楓)とジャッキーの共演が実現しており､アクション含め相応に見るべきところもある内容にはなっています。

…というワケで､次項から本作『獅子よ眠れ』自体のご案内となりますが､非常に長い前振りとなってしまいました。というのも､本作についてはここまで述べてきた"武俠映画"のごく基礎的な知識を知らないと､愉しめない面があるからです。つまり本作はイチバン最初に言ったように､武俠映画"の現代的アレンジを試みた１作なんですね。しかしそれは一連のジョン･ウー監督作とは全く異なるアプローチだったということで…､とまれ詳細は次項をお待ち下さい。

[2] mixiユーザー 12月09日 23:20

本作の主演はプロデューサーも兼任しているアラン･タン(鄧光榮､画像左)です。彼の役どころですが…､捜査に苦闘する刑事をリアリティをにじませ演じたダニー･リー(李修賢)のようでもなければ､黒社会に暮らす男の生き様を哀感込めて見せたティ･ロン(狄龍)とも違います。ひたすらに"ヒーロー=英雄"なのです。何度もトンボを切ったり空高くジャンプするなど身のこなしが超人的な上､コートから何丁もの拳銃を取出しては瞬く間に何十人もの敵をあっという間に倒していきます。敵の銃弾は一発も彼に当りません。長匕首を持たせれば剣のように操り､容赦なく敵の首を跳ね飛ばします。コレ時代劇ならまだ通用するのですが､見てわかる通り本作は現代アクションです。そして彼の動作を見ていると､ある程度広く香港映画を見た方であれば気付くことがあります。前項で案内した"武俠(時代劇ファンタジー)映画"のそれなんですね。まさに本作では､現代を舞台に"武俠映画"をアレンジしようと試みているのです。ただそれはかつてジョン･ウー(吳宇森)監督が｢男たちの挽歌｣シリーズで試みた登場人物の内面の葛藤の反映ではなく､ワイヤーアクションや剣劇のような殺陣など､徹底的に派手で突拍子もない殺陣が連続します。勿論黒社会に生きる男たちの葛藤や裏切りは描写されてるのですが､ここまでファンタジー路線に振り切った"香港ノワール映画"も珍しいです。
制作のインギア･フィルム･プロは､チョウ･ユンファ(周潤發)を招いた『マカオ極道ブルース』(87年､映画祭のみ)､気鋭の監督ウォン･カーウァイ(王家衞)のデビュー作『いますぐ抱きしめたい』(88年)といった優れた"香港ノワール映画"を送り出してきました。しかしカナダロケまで行った『武闘派烈伝』(90年､ビデオのみ)が作品的にも興行的にも失敗に終わります。そのため『タイム･ソルジャーズ』(89年､映画祭のみ。画像中)や『赤の広場の龍』(90年､CS放送のみ)などで､外連味あふれるアクション演出を見せた娯楽派監督クラレンス･フォ(霍耀良)と､後にジョニー･トー(杜琪峰)組に合流するワイ･カーファイ(韋家輝)を脚本担当としてそれぞれ本作に抜擢しました。
本作の出来と方向性にアラン･タンは満足したようで､翌年引続きクラレンス･フォ(霍耀良)監督を使い､自らを筆頭とするオールスター･キャストのアクション･ファンタジーを撮ります。それが『黒豹天下/ブラックパンサー』(ビデオのみ。画像右)です。本作よりさらにブットンだワイヤーワークと銃撃戦を愉しめますが､もはや"香港ノワール"からは完全に逸脱した娯楽作となっています。

[3] mixiユーザー 12月21日 21:06

本作も例によってアンディ･ラウ(劉德華､画像左)が主演のように喧伝されておりますが､実際には中盤の香港スタンレーの場面から登場する準主演格です。ただ前回アラン･タンと共演した『武闘派烈伝』よりも扱い自体は大分上がっていて､チンピラっぽさは残るものの､子分もいる親分役に"出世"しています。この時期は"実録(犯罪)映画"路線への続投で老け役にもチャレンジしていたアンディですが､やはり陽気でヤンチャな役どころは見ていて楽しいです。
悪役は『武闘派烈伝』に続いてサイモン･ヤム(任達華)です。この時期は本作のような狂気じみた悪役が多かったようですが､コレがやはりハマるんですよね～。最終決戦前の大演説シーンはなかなかの見せ場となっております。
そして…止むを得ない事情から台湾マフィアお抱えの殺し屋となった青年役で､アンディ同様香港ショービジネス界｢四大天王｣の一角レオン･ライ(黎明)がキャスティングされています。クールというより虚無的な演技が印象的ですが､当時彼は多忙でスケジュール調整が難航し､大幅に出番が減ってしまったようです。とはいえ､｢四大天王｣同士であるアンディとの顔合せは大きな見どころです。ふたりが次回映画で顔を合わせるのは､世紀をまたいで2003年の『インファナル･アフェアⅢ 終極無間』まで待つことと相成ります。

[4] mixiユーザー 01月08日 07:43

本作のヒロインは３人という華やかさです。まずアラン･タンの妻となる台湾の看護師を演じたモニカ･チャン(陳法蓉､画像左)。ミス香港出身の美貌､そしてトロント大学とハワイ大学を卒業した才媛でもあります。現在も香港の芸能界で活躍していますが､日本では劇場公開された出演作が非常に少なくほぼ無名の存在なのが惜しまれます。
アラン･タンが香港へ来てから登場するのが､キャリー･ン(吳家麗､画像中)とロレッタ･リー(李麗珍､画像右)です。キャリー･ンは当コミュでも出演作を何本もご紹介して参りました。本作でも気丈なキャラを好演していますが､アンディ･ラウの恋人に扮したロレッタ･リーも非常に気の強い役どころで､後年の主演作『欲望の街･純愛篇紅い疾風』(96年。当コミュにてご紹介予定)を彷彿とさせます。

といったところで､作品の概要とメインキャストをご紹介して参りましたが…､実はこの映画､これまで当コミュにてご紹介して参りました数々の"香港ノワール映画"のなかでも随一の｢トンデモ映画｣だと思っております。コレを主張してるのって実は管理人だけではないのですが(笑)。
では一体何が｢トンデモ｣なのでしょうか。それは本作のラストシーン､台湾で仇敵のサイモン･ヤムを倒し､意気揚々と香港のキャリー･ンの元へ戻ったアラン･タンの台詞に尽きるのです。
｢ヤクザも悪くない。君ならわかるだろ？｣
…主人公にこの台詞を吐かせた時点で､この映画は"香港ノワール映画"としての一線を超えてしまったのです。つまりこの映画では反社会勢力である黒社会=ヤクザを完全に肯定かつ礼賛してしまってるんですね…。
"香港ノワール映画"の不文律であり醍醐味として､｢因果応報｣を必ずといっていいほど物語に織り込んでいます。つまり黒社会に染まったり､加担した人間たちは､劇中でその報いを受けるんですね。それは主役側であろうと敵側であろうと同等なので､それゆえ黒社会を描いた"香港ノワール映画"というのは､アンハッピーエンドが多いのです。でもその因果応報が根付いてるからこそ､"香港ノワール映画"は多分に寓話的であり､それが観客に深い余韻とインパクトを残すのですね。ところが本作の場合その不文律を捨て､堂々とヤクザを肯定､礼賛した上で半ば強引にハッピーエンドへ持込んでるんですよね～。この流れには唖然とさせられました。
勿論ハッピーエンドの"香港ノワール映画"もあるんです。既にご紹介した分だと『ガンメン－狼たちのバラッド－』(88年)とかそうですが､あれはその前に家族をも巻込んだ巨悪との苛烈な戦闘を乗超えたからこそ､仲間との友情や家族との絆が甦ったカタルシスを味わえるワケです。また今後紹介予定の｢欲望の街古惑仔｣シリーズ(96～97年)も続編を考慮した上でのハッピーエンドですけど､そこには主人公の｢俺たちはいつまでこの闘いを続けるのか｣という因果が巡ることへの問掛けもありますし､何よりこのシリーズは"青春ドラマ"の要素も強いからこそハッピーな終わりが活きるんですよね。
とはいえですね､本作が｢トンデモ｣ではあってもつまらないのかというと､そんなことはないんです。"香港ノワール"としては､異様なまで陽性なノリではありますが､アクションは勿論ストーリー展開もテンポがいいので､実際のところ娯楽映画としては相応に面白いです。まぁ金字塔の｢男たちの挽歌｣シリーズ前後から､それこそ日本未公開作含めて何百本と作られてきたジャンルだけに､こういうよくも悪くも掟破りの作品だって出て来るよね､ということでご記憶頂ければ幸いです。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ