香港ノワール映画－英雄片－コミュの【香港ノワール／絶頂期】ギャングス

原題：童黨/少壯威龍(Gangs)
香港　シル･メトロポール･オーガニゼーション作品　88年　100分　カラー　レイライン配給

製作：フー･チー　監督：ラウ･アモン　脚本：チェン･メンクェン　撮影：チェン･クァンギン　音楽：ツァオ･コウヤン
出演：ホー･フイトン／ウォン･チョンチュン／マー･フーテン／リャン･サヤ／ツェ･ワイ･キット／ヨン･イ／タン･ギンセン／ラウ･チィタッ

－解説－
香港の街角にたむろするストリートギャングの少年少女が犯罪や喧嘩に明け暮れていく鬱屈した日々を実録タッチに描き出した作品。出演は『チャイナホワイト』(89年)などのホー･フイトン(何沛東)､『無名家族』(90年､ビデオのみ)などのリャン･サヤ(梁十一)､『てなもんやコネクション』(90年)のツェ･ワイ･キット(謝偉傑)､マー･フーテン(馬衍亭)､『復讐は薔薇の香り』(90年､テレビ放送)のウォン･チョンチュン(王忠巡)ほか。監督はこれが処女作にあたるテレビ出身のラウ･アモン(劉國昌)。88年作。

－物語－
香港の街角､ヤクザに憧れゆすりや盗みに明暮れる若者たちがいる。ビッグＫ(何沛東)とリトルＫ(王忠巡)の兄弟もスン一家のストリートギャングだった。夜毎仲間のコマ(梁十一)やディーモン(謝偉傑)たちと悪事や馬鹿騒ぎを繰返し､元極道の父親とも喧嘩が絶えず､兄弟は家を出る。ディスコ･ギャングとの抗争で兄貴分ウェンが殺され､逆上したビッグＫは敵の頭をメッタ刺しにした。九龍城へ隠れたビッグＫたちだが､重傷のリトルＫをめぐり内輪もめが起こる。逃亡の最中チンピラに売られた恋人ラードケーキ(馬衍亭)を助ける為ビッグＫとディーモンは売春宿に放火するが､それは父をも巻込む殺し合いへ発展した…。

コメント(4)

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[1] mixiユーザー 11月14日 20:47

以前､『野獣たちの挽歌』(86年､テレビ放送)トピックのコメントで､当時確立された"香港ノワール映画"には①ヤクザな世界に生きる男たちの友情や葛藤をヒロイックに描いた"黑社會(英雄)片"､②ダニー･リー(李修賢)主演作を中心とした警官たちの日常と苦闘にスポットをあてた"ポリス･アクション(警察匪片)"､そして③｢省港旗兵｣シリーズに始まる中国からの密入国者の犯罪をテーマにした実録風映画､という3つの流れがあることをお伝えしました。
これが88年に入ると､①の流れに新機軸が派生します。これまでは男盛りのベテランに近い極道が主役だったのですが､組織の若い組員､もしくは組織にすら入れないチンピラ､あるいはその配下にいるストリート･キッズたちに焦点をあてた作品が出て来たのです。1本は既に当コミュでご紹介済のウォン･カーウァイ(王家衞)監督デビュー作『いますぐ抱きしめたい』(88年)､そしてもう1本が本作『ギャングス』です。作り手側としては､ギャラの安い若手を起用することでコストが抑えられますし､映画を上映する側でも若者層の観客増加も見込めることで､願ったりかなったりの企画だったのではないでしょうか。
まず結論から申しますと､この新機軸の下作られた２作は､両作とも成功しました。『いますぐ抱きしめたい』(88年)にてアンディ･ラウ(劉德華)が演じたチンピラ役は非常に好評で､『逃避行』(90年)を決定打として街のチンピラを当り役とし､同系統のアンディ主演作が続々と制作されます。それらの作品群は80年代末～90年代初期の"香港ノワール"のなかで重要な位置を占めていくことになるのです。
一方の本作『ギャングス』は､香港の街でたむろしていたストリート･キッズで､演技未経験の少年少女たちを多数起用。｢省港旗兵｣シリーズを思わせるセミ･ドキュメント･タッチの演出で､そのフレッシュかつ生々しい映像は､映画界やマスコミに衝撃を与え､その年の香港電影金像奨で複数部門でノミネートされ､香港国際映画祭で特別上映されるほどの評価を得たのです。以降､原題の"童黨"を冠したストリート･キッズを主人公とする作品が制作され続ける契機にもなりました。
そして､ご紹介した２作…『いますぐ抱きしめたい』からは､若く活きのいいイケメンのチンピラがヒロイックに活躍する青春活劇と恋愛ロマン､『ギャングス』からは群像劇の要素をピックアップ。ブラッシュアップを重ね､人気コミックを原作にスタイリッシュな映像とアクション描写で､"香港ノワール"に新たな柱を打ち立てたのが､イーキン･チェン(鄭伊健)主演の｢古惑仔欲望の街｣シリーズ(96年～)なのです。

[2] mixiユーザー 11月25日 09:29

本作が監督デビュー作となったラウ･アモン(劉國昌)は､1949年南アフリカ生まれ。香港で教育を受けると､アメリカ･南カリフォルニア大学で映画を専攻。78年に香港へ戻りツイ･ハーク(徐克)監督の助監督を経て､TV局に入り当時人気だった社会派ドラマの演出を手掛け注目されます。本作でもTVドラマの現場で学んだドキュメンタリー･タッチや当時の映画では主流でなかった同時録音といった手法を活用し､高い評価を得ました。そして90年代の香港アクション映画で流行した"実録路線"にも影響を与え､自身も引続き社会性や実在の人物や事件を扱った作品を発表していったのです。

[3] mixiユーザー 12月07日 15:14

前コメントでもお伝えした通り､本作のメインキャストは実際のストリート･キッズたちを多数起用しています。ホー･フイトン(何沛東､画像左)やリャン･サヤ(梁十一)､女性のヨン･イ(容兒)といったメンバーは､その後も芸能界に残り､俳優として映画やTVドラマへ出演していきます。ちなみに彼らを囲む大人たちの役にはプロの俳優たちが扮しており､作品中でも独特の存在感と重みを残しています。

日本では当初イベントにて上映されましたが､そこで本作の魅力に取り憑かれたのが､当時邦画のインディーズシーンで活躍していた山本政志監督でした。当時注目されていた"アジアNIEs"ブームに乗って､勢い付いていた香港映画に括目した山本監督は､本作を自身の会社で配給し国内での封切りを実現させました。そして､本作に出演していたツェ･ワイ･キット(謝偉傑､画像中)を主役に抜擢し香港ロケも敢行して監督したのが､『てなもんやコネクション』(90年､画像右)だったのです。ツェ･ワイ･キットは､本作のメインキャスト中で唯一現在も芸能界で活躍を続けています。彼らの後にストリートからスカウトされ映画界入りしてきたのが､今やトップスターとなったサム･リー(李璨琛)です。サム･リーと言えばデビュー作の『メイド･イン･ホンコン』(97年)。これもやはり低所得者層の地域で生きる若者の鬱屈した日々を描いた､まさに本作のような"ストリート･キッズ映画"の系譜から派生した１本だった訳です(『メイド･イン･ホンコン』は後刻当コミュニティで紹介予定)。

ちなみに本作『ギャングス』を制作したシル･メトロポール(銀都機構)は､中国本土寄りの映画会社で過去アン･ホイ(許鞍華)監督の『清朝皇帝』(87年)､そしてジェット･リー(李連杰)やコン･リー(鞏俐)といった本土でスターとなっていた俳優たちの作品を香港などへ配給していた会社です。本作がいかに異色な1作だったかを示すエピソードです。