映画が好きコミュの「ヒミズ」

まだ始まったばっかりながら　恐らく本年度の最高傑作と思われる作品で　ラストの震えが来る感動はただただ涙があふれるばかりで　これを観ずして邦画を観たと云うなかれ

少年は震災によって破壊された町から近い所で貸ボート屋を両親に代わってやりながら　１５歳の中学生だが学校に通いつつ池に来る釣り客やアベックの客を相手に暮らし　時々やって来る父親は子供に金をセビリ無ければ殴る蹴るの暴力責めであげくに早く死んで保険金をよこせと叫び　母親はそんな夫を見限ってサッサと別の男と駆け落ちして･･･

少年の住む水辺の周りにはいくつかテントが立って　そこには震災の被災者達が少年に遠慮がちに細々と暮しながら　あまり学校に行かない少年に同じ匂いを感じた同級生の少女は手伝うと称して勝手に上りこみ　迷惑そうな少年を無視してテントの人らと仲良くなったりして･･･

少年は毎度来る父親の暴力に絶望してついに殺してしまい　その贖罪もこめてこの世の悪を懲らしめようと包丁持って町へ出かけて　朦朧とした絶望的な気持の中で獲物を探して町中を彷徨って　一歩踏み出せないチグハグな気分のまま帰って来るのだが･･･

３１１の震災の目を覆いたくなる絶望的なる光景をバックにして
それと並行して今社会の荒んだ絶望的な人々の心の風景も描いて
それは物語の中に震災が横たわって震災の中に物語が寄り添って
　　　　テントの人が常にソレをフラッシュバックとして感じて池を眺め
　　　　壊れた町とガレキしかない地上に立ちただただ叫ぶだけの彼らで
　　　　池の中央には流されてきた小屋が浮かず沈まずの感じで常に有り
　　　　中年を過ぎた彼らが不便な生活を強いられつつ何とか生き延びて
　　　　母は絶対に家に上げるな風呂に入れるなと少年にきつく言い渡し
　　　　放射能にうつされるからとほざき自分はサッサと出て行く勝手を
　　　　正に今の日本社会に蔓延した全体的な物言いとして象徴的に描き

　　　　少年が町中で殺す獲物を探して歩き回るその風景は凡庸な現在で
　　　　都会の真ん中で演奏する今風の若者たちの平和さを映し出す中で
　　　　或いは混み合ったバスで妊婦に席を譲らない若者を叱責する中で
　　　　そこへ唐突に包丁持った若者が演奏者を又は叱責する人を刺して
　　　　その場に居合わせた少年がここぞとばかりに犯人に包丁突きつけ
　　　　正に迷路にはまった若者の未来無き構図を震災にダブらせて描き

　　　　そしてこの暴力的な映画は暴力的なまでの大災害と常に並行して
　　　　人間の絶望的な暴力を見せる事で自然の大災害の絶望的な破壊と
　　　　人々の救いようの無い無軌道を見せる事で大災害と照らし合わせ
　　　　人が祈ろうが懇願しようが悪を懲らしめようが大災害は変わらず
　　　　少年が罪を罪として認めた事で大災害の表情には変化有る訳なく
　　　　人間社会においてケジメをつける事で再び大災害と対峙する姿を

　　　　ヒミズとは日見ずモグラと云って体長が８センチほどの小動物で
　　　　耳たぶは無く目は退化して埋まりミミズや昆虫を食って穴に入り
　　　　それこそは少年の或いは劣化した社会に巣食う現代人を皮肉って
　　　　更に火水とも読めて正に火(放射能)と水(津波)の事かと思いつつ
　　　　一筋縄では行かない監督によって震災の絶望の果てに来る希望を
　　　　わずかに残した微かな光によって日の目を見るヒミズの脱皮をば

少年少女がお相手の所為か園子温の露出度と残虐性は完全に封印されて
たんまに見えるパンチラで誤魔化しつつも状況の立ち位置をわきまえて
極度に刺激度を抑えつつも出てくるお顔はあの恐く凶暴なエロい面々で
だが若い二人をトコトンしごいた事でヴェネチア映画祭で大喝采を浴び
泥らだけのご褒美としてお二人は最優秀新人俳優賞を受け取る栄誉にと