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愛しき空コミュの愛しき空(加那)10

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仕事をしている間、恋人ごっこの最後の夜が
楽しみで仕方がなかったし、寂しくもあった。
(早く、仕事が終わらないかな。)
と、いつもより気合を入れて仕事にとりかかる。

だって、恋人ごっこをしたのがキッカケで心の奥底に
仕舞い込んでいた素直な自分を見つけることができたし
その自分に戻れるような気がしたから。
そのお手伝いをしてくれたのは、言うまでもなく空のおかげだ。
彼には、本当に感謝しなくっちゃ。

でも、それと同時に楽しかった恋人ごっこも終わってしまう。
それはなんだか、寂しい気がした。
なんでだろ・・・

いつものように、パソコンとにらめっこして
今日の残りの仕事を片付けている最中に携帯は鳴っていたらしい。
一息ついた時に、ふと携帯を見ると、ディスプレイには「新着メールあり」の文字が。
集中しすぎて、音をシャットアウトしていたみたいで気づかなかったようだ。

「そろそろ終わりそうだけどそっちは?」
空からのメールに慌てて返信をする。
「こっちももう終わるよ。じゃあ7時30に迎えにきてよ。」

メールした時間に間に合うように、家に帰って軽く支度をした。
だって、今夜は最後の恋人ごっこだもんね。

いつものように、ワンコールの合図で空は迎えにきていた。
そして、いつものように私は助手席に乗り込んだ。
「今日はどこいこっか。October guyサン。」
「腹へってんだろ?」
「そうだね。」
「じゃあ飯だな。October girlサン。」
「はーい。」

ふざけて言い始めたOctober guyとOctober girlという呼び名。
結構気にいってて、こうやってお互いに呼び合っていた。
ま、この呼び名も今日で終わりなんだけどね。

車を走らせると、見慣れない景色が通りすぎていく。
どこに行くんだろうなと思っていると、見慣れないお洒落なお店へと到着。

ラーメン=空のイメージだったので
あまりのギャップの差にびっくりして訊ねてしまった。
「こんな店、空のイキツケなの?」
「まー最後ぐらいこんなところいいだろ。」

最後ぐらいか。きっと空は気を遣ってくれたんだろうな。
お店の中に入ると、感じのいいウエイターが、予約していた席へと案内してくれた。
コース料理を予約していたみたいで、前菜、スープ、メインディッシュ・・・と、順番に出てくる料理たち。
美味しい料理のはずなのに、不思議なもので
いつも食べるラーメンの方が美味しいんだろうなと思ってしまった。
見慣れない場所に、見慣れている空がいるので、なんだか変な感覚だったのかな。

「美味しかったね」
お店を出るときに、空にこうやって言ったのは、ちょっと気を遣ったからだ。
ここで、
「いつも空と行くラーメン屋の方が美味しかった」
なんて、さすがに言えないでしょ。

それからは、車を走らせ、いつものコースへ。
いつもの場所で、いつものような会話。
ぼーっと夜景を眺めながら
(私が初めて泣いた時から、何回ここにきたっけ。
 これからは、あんまり来なくなるのかな。)
そんなことを考えていたら、無意識のうちに言葉を発していた。
「今日で終わるね。」

「だな。」
空もぼんやりしながら、返事をした。

「結局彼氏を嫉妬させることできなかったけどね。」
「そうみたいだな。」
「でも、空には本当感謝している。」
「なに?あらたまって」
「ありがとう。」
「なんだよ!」

私が真剣にお礼を言うなんて、そんなに珍しかったのか
空は驚いた顔をしていたので、私はお礼の理由を話すことにした。
「昨日の夜ね空になにか喜ばしてあげたいなって思ったのだけど
思いつかなくて素直に気持ちをつたえようって思ったんだ。」

だまって、それを聞く空。

「だってこんなに長い付き合いなんだし、変に飾らないほうがいいかなーって思ったんだ。」

素直にならなくちゃと、心の奥底に仕舞い込んでいた私が
出てきたのに、この世界にまだ慣れないのか
素直になるのは、まだ少し照れるみたいだ。

黙っていたかと思うと、空が急に口を開いた。
「加那は彼氏のことが好きなんだろ?」

「・・・そうなんだろうね。」
「そっか。」

好きなのかな?と疑問に思う時もあったが、別れていないんだから
別れられないんだから、まだ好きな気持ちがあるのかな
と思って、曖昧な返事になってしまった。

悪い空気が車の中に流れる。
いや、きっと私がそう思っただけなんだろうけど。

空は、こんな優柔不断な私をどう思ってるんだろう。
バカだなー。と思っているのかな。
弱いやつだな、しっかりしろ。と思っているのかな。
空の横顔を眺めながら、そんなことを考えながら
ルールを破った日の話をした。

テンションの低い話をしていたのに、最後は
いつものように私が今の彼氏と出逢った頃の話や
空が前の彼女との話、二人がはじめて遊んだ時の話をしていた。

しんみりした空気から、明るく変えてしまうのは空の十八番なのだ。
話に夢中になっていたせいで、気づけば時計の針は12時から一歩進んでいた。
知らぬ間に、最後の夜は終わっていたのだ。

「じゃあそろそろ帰ろっか。」
「そうだな。」

見慣れた景色を抜けて、家の方までと急ぐ。
家の前に着くと、珍しく空が車から出てきて、こう言った。
「じゃあな。」

その言葉を聞いて、自分は何処かに行ってしまう
転校生のような感覚に思えて少し寂しくなってしまった。

「うん。あっそうそう、Sweet Novemberじゃ二人はどうなるの?」

「おしえねーよ。」
「ケチ!」
いつもの調子が出てくると、相変わらずな2人のままで
何も変わっていないことにホッとした。

「でも1ヶ月本当にありがとうね。」
「はいよ。」

「がんばれよ。」
という言葉をかけられると共に、私は空の腕の中にいた。
急に抱きしめられるという、思いがけないアクションに
動揺をかくせなかった私。
「なによ。ビックリするじゃない!」

「ルール違反ではないよな。じゃあな。」
と、空はサラっと言うので、私は少し笑った。
これもきっと彼なりの励ましなんだろう。

「じゃあね。」



「October guyさん、じゃあね。」
「空、またね。」

遠くなる空の車を見つめながら、私はそっと呟いた。

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