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MmRコミュのMmR-2. Kifuru

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「――あぁっ、もうっ」
 正直、何がなんなのか全くわからなかった。
 昨日寝るときは、普通に自宅のベッドで寝たはずだった。
 読みかけの小説を中ほどまで読破し、つらつらと日記をつづり、あくびをかみ殺し、暖かい布団にくるまって、夢も見ずにぐっすり朝まで。そしていつものようにぎりぎりに起きてコーヒーをすすり、楽器と絵筆を持って学校へ急ぐ。そのはずだった。
 そこへきてあの夢だ。そしてこの目覚め。
 樹古が目覚めた場所は、どこか客室のような場所だった。質素な家具に古い壁時計。白いシーツの敷かれたベッド。壁の一面には暖炉があるが、今は火は灯っていない。
 ご丁寧にも、樹古はそのベッドの上に寝かされていた。傍らには黒いデイパッグ。既にジッパーは開けられ、中身が乱雑にシーツの上にぶちまけられている。その前であぐらをかき、樹古は難しい表情で腕組みをしていた。
 部屋の内装、そして渡された地図を見るに、今回の『プログラム』の会場は打ち捨てられた古城のようだ。それがまた樹古の表情を渋らせる一因となっていた。孤島のような開放された空間だったら、まだ逃げ出すチャンスもありそうなものなのだが。
 そもそも、『プログラム』とは何なのか。バーチャルネットの世界に身を置くものとして、そして何より『ちゆ板住人』として、樹古がそれを知らないはずはない。
 それが最初に開始されたのがいつのことなのか、正確に把握している人間は皆無に等しい。表にその名が知れ渡り、一般的なものとして認知されたのはここ数年のことであるが、確かなデータによるとそれ以前にも定期的に行われてはいたらしい。
 一つのコミュニティの住人を強制的に狩り集め、閉鎖した場に押し込み、武器を渡し、そして殺し合いをさせる。
 最後の一人になるまで。あるいは全員が死ぬまで。
 それが何のために行われているのかを知るものはいない。それが何がしかの戦闘訓練となるものなのか、それともサーバ負荷を軽減するための『人減らし』なのか、もしくはただただ単純に『ゲーム』として行われるのか。
 樹古がその気違いじみたイベントの存在を初めて意識したのは、今からちょうど2年ばかり前のことだった。
 当時彼女が足しげく通っていた『ちゆ板』。そこで『プログラム』が実施されたのだ。
 彼女自身は難を免れたものの、90名以上ものコテハンがその残忍な計画に巻き込まれた。そのうち、生きてちゆ板に帰ってきたものは一人もいない。公式発表によれば、コテハン達は会場となった孤島で連日激戦をくりひろげ、わずかに生き残った者達は脱走を試みてプログラム執行側の粛清を受け、全員が死亡したとされている。
 もちろん様々な情報が交錯するちゆ板のことだ。風の噂では、生き延びて者がいるとか脱走組は罪人として捕らわれているとか、『勝ち残った』最後の一人は良心の呵責から自分で命を絶ったのだとか、一部ではそういった噂も囁かれている。
 ただ、ただ一つはっきりしていることとして、参加したコテハンは誰一人としてちゆ板に帰ってきてはいなかった。
 それまでにも場所を変え参加者を変え密かに行われていた『プログラム』であったが、この事件はその犠牲者の数から、多くの人間の関心を集めることとなった。しかし話題になったのも数ヵ月のこと。生存者が板に帰ってこないという冷酷な現実の前に、人々は次第に口をつぐむようになっていった。
『プログラム』は星のように存在するサイトやコミュニティの持ち回りで行われる。一度『プログラム』の洗礼を受けたちゆ板が再び標的になることは、まずないだろう。その思いが、彼らの記憶を風化させていった。
 樹古も同様だ。
 もちろん、死者を悼む気持はある。しかし板の流れは早い。次から次と起こる事件、それに日々の生活。そういった諸々が彼女の頭を満たし、記憶を薄れされていたのは事実だった。
 今日までは。
 難しい顔で、樹古は目の前に置かれた携帯端末を見下ろした。その中に表示された、自分を含め18名のコテハン。
 彼等もあの『プログラム』を幸運にも免れた者達ばかりだ。彼等は今の状況をどう思っているんだろう。どう感じているんだろう。
 目覚め、戸惑い、理解し、そして……選択しなければいけない。
 生きるか、死ぬか――いや違う。
 殺すか、殺されるかだ。
「――あぁ、もうっ!」
 頭を振って、樹古はその不吉な想像を振り払った。しかしその声には、さきほどのような覇気は感じられない。
 悩んでいるだけじゃ、だめだ。とりあえず動いて、前に進んでみなければ。
 荷物をデイパッグに詰めなおし、樹古はベッドから下りた。最後にベッドに置かれた“それ”を見下ろし、彼女は逡巡した。持って行くべきか、ここに置いて立ち去るべきか。
 持って行くのには強い抵抗があった。誰かを襲うにせよ、自衛に使うにせよ、これを手にしてしまった瞬間、自分はこの『ゲーム』に乗ってしまうことになる。そんな気がする。
 しかし、だからといって丸腰のままこの城内を歩き回るのも非常な勇気がいった。
“非情な”、と言うべきか。勇気を持つのはいいことだ。しかし、それは身を守ってはくれない。
 悩んだ末――樹古は“それ”をスカートの腰の部分にねじ込んだ。
 くすんだ黒の銃身。滑らかな、掌に吸い付くような銃把。充分に人を殺傷しうるパワーを忍ばせながら、どこか優美なシルエット。
 ベレッタM92FS。装弾数15+1発。重量945g。
 その重みが不安な気持を少し解消してくれるようで――それがまた、悲しかった。


         【残り18人】

コメント(7)

というわけで過去の経緯とか基礎情報とか。
ちなみに本家TBRとは厳密にリンクはしてません。一種の並行世界な感じ。
ただ、昔、ちゆ板でもあったよ、と。
なるほどー・・・ですよねー・・・じゃないとプログラムの古城はお化け屋敷ってことになりますからねー

ウラメシヤー 〜(ΦωΦ)〜

最初18話はキャラクターの紹介になるのかな?
だってねぇ、俺を含めて参加者の何人かは本家で死んでるしw
<! 今回参加の俺はクローンだったとかならありだけど >
そうですねぇw
樹ぃちゃん以外は基本死んでますし、おりさんなんて超人なままになっちゃいますしw
樹っつぁんがすごく「らしい」ですね。いい感じです。
期待age。
数人分はキャラ紹介、んで順次事件を起こしてく予定かな。
全員分このペースでなんて書けん(w

ちなみに樹古ちんは性格があの通りなので、悩んだり迷ったりが多くなりそう。
イメージで追っかけてくと文量が長くなる、長くなる(w
いつの間にか私出てるー?(・□・;)
本当それっぽいですねw
期待ageでつ。

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