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MmRコミュのMmR-26. Kifuru

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 立ち上がりたくなかった。
 薄暗い廊下の隅にぺたりと腰を下ろし、樹古はぼんやりと宙を見上げていた。
 柱となっているのだろう、城の外壁に沿った石壁には等間隔に半円形の出っ張りがあり、松明の灯りの間隙に身を潜めれば、人ひとりが身を隠せるだけの物陰となる。
 歩き疲れてそこに腰を下ろして30分近く、樹古は再びそこから動き出すことができなかった。
 右手には支給武器であるベレッタが握られているが、力なく床に下ろされた手は先ほどからぴくりとも動かず、凶悪な力を秘めた凶器はまるで玩具の銃のように、どこか頼りなげに見える。
 同じく投げ出された左手には携帯端末が握られ――それを握りしめる手は対照的にぎゅっと強張り、指先に伝う細かな震えが端末をもふるふると震わせている。
 ゆらが死んだ。
 マイスターが死んだ。
 ひよたまが死んだ。
 機械的に、端末に――これ以上なく無造作にこの手に届けられた情報が、樹古を打ちのめしていた。
 出会えれば。
 集まれれば。
 助け合えば。
 みんなで協力して、脱出する方法が何か見つかるのではないか。
 何ひとつ明確なビジョンがあったわけではない。ただ、自分の見知った彼等や、彼女たちが殺し合う光景なんて、想像もできなかったから……
 何とかなるんじゃないか。何とかしなきゃ。ただひたすらにそう思って、薄暗い城内を彷徨っていたのに。
 自分が無為にうろつき回っている間に、「それ」はもう、始まってしまっていて――
 そしてきっと、もう止まらない勢いで、動き出している。
 恐怖を。不安を。怒りを。憎しみを。些細な勘違いを。打算を。生きるために。殺すために。帰るために。
 この閉ざされた城内に渦巻く様々な感情や行動やベクトルを呑み込み、それを糧として、『プログラム』は動き続ける。
 一つ前に進むごとに、誰か一人を犠牲にしながら。

 最初に響いた電子音は、ゆらの死を知らせるものだった。それからあまり間を置かず、へたり込んで呆然とする樹古の元に、続けざまに二つの訃報が届けられ更に彼女を打ちのめした。
 三人とも、若輩者の自分にとってそれぞれ尊敬すべき部分を持った得難い友人達であり、自分が一人悩んだり愚痴ったりしている時はそっと手を差し伸べてくれる――そんな存在だった。
 それが。
 その三人が、もういない。
 その事実は冷然と、予想以上の重さを伴って樹古を打ちのめした。
 普段は強く気を持っていても。心構えだけはしているつもりでいても。
 こうした事態に陥ってしまうと、やはり自分の弱さを思い知らされる。
 のしかかる事態の重さ、そして思い知らされた自分の無力をはねのけられず、樹古はその場にうずくまったままだった。何一つ前に進む術も思い立たず、ただ、呆然と。悪夢なら醒めて欲しい。冗談なら止めてほしい。もう、立ち上がりたくない――
 はっとして、樹古は顔を上げた。強張った首の筋肉に鈍い痛みが走る。しかしそれすら気にならず、彼女は通路の奥を凝視する――
 かすかな、ひたひたという足音が、どこからか近づいて来ていた。慌てて頭を巡らせ、樹古は周囲を見回す。
 少し先で、通路はT字に分かれていた。二股に分かれたあの先だろうか。向こうから、誰かが近づいて来ているのか。ぼうっとしていた頭にはそれ以上の思考は走らず、樹古は立ち上がり通路の中程に歩み出たまま、そこで呆然と立ちすくんでしまう。
 その間にも、静かな足音は近づいてくる。ああ、でもどうすればいいのか。身を隠すべきか。声をかけるべきか。それとも、それとも――戦わなければ、いけないのか。
 刹那、視界に影が走った。
 あっと思う間もなく、樹古は背後からその影に抱きすくめられていた。とっさに上げようとした悲鳴を素早く掌で押さえ込み、影は衣擦れの音ひとつ立てず、彼女を元いた暗闇に引きずり込む。
 一秒と間を置かずに、T字の通路の先に別の人影が姿を現した。
「…………っ!」
 抵抗しもがくことも忘れ、樹古は大きく目を見開いた。その目に映っていたものは――
(ベローナ、さん……)
 気配を感知したのか、ベローナが血走った目をこちらに向け、手にしたショットガンを、真正面から樹古に向けていた。
 恐怖と驚愕にしびれたようになり、樹古はその光景に声を上げることすらできなかった。ただ、興奮し血走った目を向ける、彼の姿に釘付けになる。
 暗闇に身を潜めたせいで、ベローナからはこちらの姿は見えないようだった。その頭上に灯る松明の明かりに照らされ、鬼気迫る彼の表情が窺える。目には見えずとも気配を感じるのだろうか、彼は銃口を突き出し、のぞき込むようにして通路の隅々に目を凝らす。
 自分を抱きすくめる誰かの手に、ぎゅっと緊張が走った。しなやかでいて力強いその腕に抱かれ、体は凍り付いたように動くことを忘れる。背後の人物と同様息を殺し身をすくめ、樹古はベローナの視線を受け止める。
 と、その時、かすかな音が響いた。
 物音だろうか、それとも誰かの声か。弱々しい響きは通路に反響し、その色も源も判然としない。
 それでも、ベローナにとっては注意を引くものだったようだ。
 はっと顔を見上げ、彼は横に顔を向け通路の先を振り仰いだ。先ほど彼が進んでいたT字路の先。そちらに目をやり、再度、樹古の隠れている暗闇に一瞥をくれ――
 向きを変え、ベローナは再びそろそろと歩き出し、樹古の視界から消えた。

 少しの時間が過ぎた。何秒か、何十秒か――それとも何分か。
 その姿が通路の先に消え、足音が遠ざかり気配が完全に失せたのを見計らい、背後の人物は樹古の口から手を離し抱きすくめていた彼女を解放した。
「危ないところでしたな」
 思い出したように荒い息を繰り返す樹古を見下ろし、その男――すろぷろは落ち着いた声を放った。

          【残り15人】

コメント(8)

やだーすろぷろさんのえっちーすけっちーわんさうざんとたっちー。
ちょっとなにしてんのよwうら若き乙女にww
ベローナさんは暗闇の中でも気配を察知して銃口を向けることの出来る殺戮マッスィーンなんですね(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

>すろさん
ンマー!えっちw
ちなみに、次回は逆上した樹古ちんにすろさんが射殺される予定(ぇー

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