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とにかく怖い話。コミュの【4/5】フタエ

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四夜目です。
〜〜〜〜〜〜
 「橘音!早く起きなさい!遅刻するわよ!」

白井橘音はいつものように母の声で目を覚ました。

ムクリと上半身を起こし壁にかけてある時計に目をやると、太い針は既に八時に差しかかっていた。

「ヤベ!ガチ遅刻じゃん!」

橘音はスイッチが入ったかの如く布団から抜け出し、そそくさと服を着替えて洗面所に走った。

洗面所でまず髪を濡らし、右手でシャンプーをワシャワシャやりながら、左手で歯を磨く。

日頃の鍛錬により手に入れた、少ない朝の時間を最大限に生かす技である。

「アンタ、こんなギリギリなのに朝からシャンプー?」

あきれたような母の顔をチラリと見て、橘音はヘヘっと笑った。



 髪を乾かしながら、橘音はテーブルに用意されている朝食を食べる。

これもいつもの【合わせ技】だ。

 ほぼ同時に髪乾かしと朝食を終え、橘音は8時15分に家を出た。

 8時18分、橘音は学校に到着し、無事、遅刻ギリギリリミットの8時20分に教室に辿り着いた。

「おはよう白井さん。今日もギリギリだね」

席に座り、橘音が呼吸を整えていると、隣の席の山口花が笑顔を見せた。

「ハァハァ…ま、まあね。私の中では余裕だけどね」

「うらやましいなぁ、その余裕。私絶対10分前には着いて無いと怖いよ」
「花ちゃん、こういうのはね、馴れよ。毎日勝負の中に心を置いていれば、自然とその状況に慣れて、心と体が順応するようになるのよ」

「へ〜、白井さんって、やっぱり凄いわ。私、受験の事で頭いっぱいで、無駄に勝負所を増やしたく無いわ」

「受験か。進学組は大変だねぇ。ケケケ」

「あ、白井さん、変な笑い方した!たまにするよね?その変な笑い方」

「え?そ、そう?私変な笑い方した?」

「うん。今したよ」

「まあ、気にしないで」

「うん。気にしないようにするよ!」



 なんやかんやで1日学校が終わり、白井橘音と山口花は一緒に門を出た。
「白井さんって、成績良いよね。なんで進学しないの?」

花が頭に付けている花形の髪留めを触りながら言った。

「別に深い意味は無いよ。…まあしいて言うなら、勉強なんて学校行かなくても出来るって気付いたからかな」

「へ〜。白井さんってなんか皆と違うよね。なんていうか…卓越した部分があるよね」

「そうかな?…まあ、世の中広いから、同じ高校生でも色んな種類が居るものよ」

「そんなものかぁ…あ!」

花は草むらを見て声をあげた。

「ねえねえ、白井さん見て!あそこに狐が居るよ」

花が指さす草むらを見ると、狐がちょこんと座っていた。


花はその場にしゃがみ込み、狐に対してオイデオイデをした。

だが、それを見た狐は二人をジロリと見つめ、どこかに去って行ってしまった。

「あ〜、行っちゃったかぁ。…あの狐、たまに下校中見かけるよね。どこに住んでるんだろう?」

花は狐が去った方角を眺め、少し口を尖らせた。

「…きっと、山の方じゃないかな。…人間が、ここを住みにくくしたから」

橘音が静かに言った。



 家に着いた橘音が自分の部屋に入ると、さっき草むらに居た狐がチョコンとベッドの上に座っていた。

「遅かったな、ヒトエ。…いや、今は橘音と呼ばれているのだったな」

ベッドの上の狐は目を閉じながら橘音に言った。

「サエタ、今日は何の報告?知ってると思うけど、4時過ぎにはお母さんが帰ってくるの。手短にお願いね」

橘音はそう言うとスカートの隙間からピョコンと尻尾を出した。

「やれやれ【お母さん】…か。人間の暮らしが長すぎて、とうとう心が人間になってしまったのか?」

「そ、そんな事無いよ!…私は…人間なんかじゃない」

「…今朝、お前はドライヤーとかいうけったいな機械で濡れた髪を乾かし、ピザとかいう奇妙なパンを食べていたな。…狐には到底考えられない行為だが」

「み、見てたの?朝の私を」

「ああ。今日は偵察させてもらった。…朝が遅い所だけは、昔と変わらないようだな」

「うるさいわね!放っといてよ!」

「…それより、今日は重大な報告がある。…大長老が寿命で亡くなり、早三ヶ月。新しい長老が、とうとう今夜、人間共をこの町から追い出す作戦を決行するとの事だ」

「えっ!」

橘音は身を乗り出した。

「人間を追い出すあの作戦を…?で、でも、大長老は遺言で、どんなに追い詰められようとも、絶対人間と争ってはならないと言っていたじゃない!」

「…ああ」

「本能寺の変って知ってる?追い詰められた明智光秀は謀反を起こして信長を倒したけれど…その後幸せにはなれなかった。…人の世に頻繁におこる人種差別問題だってそう。追い詰められて武力で解決しようとしても…上手くいかない事は多い。もしかしたら、大長老はそういう歴史を数多く見てきたから…」

「大長老が死に、大長老の意思を尊重する古株共を、我々若い者が黙らせたのだ。新しい長老は、人間共と戦う意思をくみ取ってくれた。それに…」

サエタは閉じた目を開き、ゆっくりと橘音の顔に視線をやる。

「…ヒトエ。お前が今まで集めてくれた情報も十分に集まった。作戦を決行するに満ちた」

「…」

橘音は下を向いた。

「…もう、あれから七年か。それだけ長く暮らせば、情の湧いた人間もおるかもしらん。…だが、忘れるな。お前の両親を死に追いやったのは…」

「…わかってる。…私は…お父さんとお母さんを殺した人間を許さない」

「…わかっていればいい。…では今夜、この町に襲撃をしかける。…お前は隠れるなり逃げるなりしておけばいい」

「…そうね、わかったわ」



 サエタが山に帰った後、橘音はベッドに横たわり天井をみあげながら、七年前の事を思い出していた。

ヒトエとサエタは幼馴染の狐だった。

ヒトエが物心ついた頃にはもう、両親は生きていなかった。

両親は、ヒトエを守る為、人間に殺されてしまったと、大人達から聞かされた。

 サエタの両親は、ヒトエの事を本当の子供のように可愛がってくれた。

ヒトエも、サエタの両親が大好きだった。

…だが、家に帰るとヒトエは一匹。

結局、サエタの両親はどれだけ良くしてくれても、サエタの両親でしか無かったのだ。

 ある日、村の若狐達が集まり、大長老に意見しに行った。

ヒトエとサエタも付いて行った。

内容はこうだった。

人間は、もともと自然豊かだった村の木を切り、町を作った。

それどころか、山も切り開き、どんどん町を広げて行き、狐の住家をどんどん狭くした。

血気盛んな若者達は大長老に言った。

「人間と戦い、我々の住家を取り戻そう」

だが、大長老は首を縦には振らなかった。

「人間と争ってはならん。それが古くからの教えだ」と言って…。

ヒトエもサエタも、人間と戦う事には賛成だった。

人間の欲は恐ろしく深い。

その勢いはどんどん加速し、短期間にゴッソリ山は削られたからだ。

ヒトエとサエタの帰り道、ドサッと、近くで何かが落ちた音がした。

二匹が様子を見に行ってみると、そこには小学五〜六年生くらいの女の子が倒れていた。

頭がパックリと割れ、どう見ても即死だった。

おそらく、山登りをしていて、道を踏み外してここに落ちてしまったのだろう。

「橘音!!橘音――!!!」

上の方から声が聞こえて来た。

おそらく、この女の子の両親だろう。

だが人間が死のうが、サエタやヒトエには関係の無い話だ。


二匹は女の子を放っておいて、家に戻ろうとした。

…だが、サエタはある事を思い付いた。

この子供や両親を上手く利用して、人間の弱点を掴む方法を。

…そう、ヒトエがこの女の子になりすまし、人間の生活に溶け込み、そして人間の弱点を調べ、狐に伝える。

そして狐はその情報を集めた後…それを元に人間を襲撃する。

サエタのその作戦にヒトエは賛成した。

ヒトエはすぐさま女の子の姿に化け、両親の元に姿を見せた。

「橘音!!!無事だったか!!!」

「良かったぁ!」

女の子の両親は、化けたヒトエの姿を見るなり泣いて喜び、強く強く抱きしめた。


その時の不思議なぬくもりは、ヒトエが生まれて初めて体験する温かさだった。



「…あれからもう、七年か」

天井に貼ってあるポスターを眺めながら、橘音はボソリと呟いた。

この七年間、ヒトエは沢山の情報をサエタに伝えてきた。

七年間で集めた人間の弱点は相当な量だった。

…だがそれと同時に、人間の優しさや温かさも知ってしまった。

このままでいいのか?

優しいお父さんやお母さんとの別れ…。

橘音の心は複雑だった。

…本当のお父さんやお母さんを殺したのは人間。

でも、親子の温かさを教えてくれたのも人間なのだ。



 夜がやってきた。

とうとう、仲間の狐達がこの町にやって来る。

人間達が敵だと嫌う姿に化けて…。


「ちょっとコンビニ行ってくるね、お母さん」

「こんな時間に?」

少し驚いたような顔をして橘音の母は言った。

「うん、ちょっと買い忘れてた物を思い出して」
狐は玄関で立ったまま靴を履き始めた。

「そう。…もうすぐ夕飯出来るから、早く帰って来なさいね」

橘音の母はそう言ってガスコンロの方に体を向けた。

玄関の扉を開けて、橘音は母の後ろ姿を見つめた。

「…じゃ、行ってくるね、お母さん

…ありがとう」

震える小さな声で橘音は呟き、そっと扉を閉めた。


 星空の下、橘音は携帯電話を取り出し、クラスメイトの山口花に電話をかけた。

「もしもし?こんな時間にどうしたの白井さん?」

「花ちゃん、今日はお別れの挨拶で電話したの」

「え?何?どうしたの??」

「花ちゃん私ね、実は誰も友達を作るつもりなんて無かったんだ。…でも、花ちゃんが声をかけてくれて…そっけなくしても話かけ続けてくれて…嬉しかったよ」

「ちょっと待ってよ!何があったの白井さん?」

「…ワケは…言えないんだけど、とにかくお別れなの。私、もうこの町には居られなくなる…それだけ」

「ねえ?白井さん今から会える?少し話そ…」

橘音は電話を切った。

涙が止まらなかった。

そしてそのまま、橘音はヒトエの姿に戻り、この町を出た。



 ヒトエが町を出た後、町に不思議な現象が起こった。

クッパ大王、魔王バラモス、バルタン星人等、人間にとって敵だと思われる大量のキグルミが、町にやってきたのだ。


キグルミ達は人間を驚かそうと必死だったが、人間達は愉快にそれを眺めた。

その夜はまるでお祭りのような騒ぎとなり、大人も子供も皆が喜んだ。



 人を驚かそうと化けていた狐達も、人が喜び、なぜかもてなしてくれた事で、人間もそんなに悪い者では無いと思うようになった。

夜が明け、キグルミ達は山に帰り、いつもとあまり変わらない一日が始まった。



 ただ、橘音とヒトエだけが居なくなった。


  (了)


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