とにかく怖い話。コミュの仮親【創作】※注意書き有り

少し重いテーマを題材としています｡
読むうちに不快感を覚えられる方も多いと思います｡
途中で止めていただいてもちろん構いません｡
一応似たような題材のものは検索でいくつか確認しましたが､不適切な内容でしたら削除等の処置もお願い致します｡
ご意見等ありましたら進んでお受け致します｡
ご自由にお書き下さい｡































































｢人､殺したんだ｣

こんな言葉を友達から聞かされたらどんな顔をすればいいんだろう｡
一浪しているから法律上は成人｡
少なくても自分より大人｡
そんなものはこちら側の都合のいい話で､この友達も例外なく相当の反応を見せた｡


一ヶ月ほど前､付き合っている彼女を妊娠させ堕胎させた｡
約13万｡
人の命は安いものだった｡
これで法律で罰せられない人殺しになった｡
年上の彼女は親に全て黙って済ませる方向で話を進めたが､こちら側の親には堪え切れず全て話した｡
親は思った以上に冷静だった｡
何も知らせていないのは彼女のご両親のみとなっている｡


友達は全て静かに聞いてくれていたが､相手の親が何も知らないことは少し叱ってくれた｡

｢これ以上は口出しも責めもしない｣

話題の最後に友達はこう付けた｡
1年近い付き合いだが見たことのない表情だった｡

腹を割って話せそうな共通の友達があと2人いたが､正直まだ話す気になれなかったし広めることでもないと思っていた｡


電話がかかってきたのは次の日の深夜1時前だった｡
ディスプレイに映った名前は共通の友達の1人だった｡
嫌な汗が手の平に滲む｡
声に動揺がでないよう明るく出てみると､彼氏ができたという他愛もない話題だった｡
これで確信できた｡
こんなことで電話をしてくる子ではないのは分かっている｡
それでもこちらから話題が切り出せなかった｡


｢また聞いて欲しい話があるんだ｣

｢…全部知ってるよ｣


こう返事が来るのはわかってはいたがやっぱり言葉が出てこない｡
最初の友達がひとりで抱え込み切れずこの子に相談してしまったらしい｡
電話でことごとく叱られた｡
この事について初めてまともに叱ってもらえた｡
嬉しかった｡
距離を置かれれるのが怖くて黙っていたが､勝手に距離を置いたのは自分だった｡
またとんでもないことをいくつか犯してしまった｡
友達を信じられなかったこと｡
ひとりに全て背負わせようとしたこと｡
いろんなことが頭の中で点滅を繰り返すなか､

｢いつでも相談してよ｣

この一言が胸の内側に刺さった｡
涙が止まらなくなった｡


相手のご両親に事情を伝えに行くことを友達に約束した｡
深夜だったが彼女にはこの電話のあと連絡して考えを伝えた｡
相手先の家に行くのは週明けに決まった｡
ただ自分の中でもうひとつ､早急に謝らなければならない人ができた｡
最初に話を聞いてくれた友達だ｡
相当に悩んで出した結果だったのなら､きっとまた余計な不安を抱え込ませているに違いない｡
一言とにかく謝りたかった｡
深夜なのでメールを送るだけにしてこの日は終えた｡


次の日､大学の授業がないので最初に話を聞いてくれた友達が会う時間を作ってくれた｡

痛いくらいよく晴れた日だ｡

都市部の大きな駅で待ち合わせた｡
落ち着かなくて20分ほど前に着いてしまった｡
本音は､どうしようもなく怖かった｡
見切りをつけて友達を辞めてしまわれることが本当は一番怖かった｡
人混みに精一杯の虚勢をはって待ち合わせに向かうが､動機が治まらずに吐きそうだった｡
待ち合わせ場所まであと階段を上るだけのところまで来たとき､


何か左手に違和感を感じた｡


ただあまりに心地よ過ぎる違和感だった｡
何か暖かくて柔らかい小さなものが手の平に触れている｡





























小さな子どもの手のようだった｡

感情が高ぶって錯覚しただけなのだろうが､思わず一瞬立ち止まった｡
驚きとは逆に動機は治まっていく｡
錯覚に励まされるような錯覚を起こしていた｡
命をひとつ消しておいてこんな都合のいい錯覚も飽きれるが､こちらはなかなか治まらない｡
すぐ歩き出したが消えない｡
それは先を行くでもなく後を追ってくるでもなく､ただただ隣をついてきた｡
左手を軽く握る｡
見えないが感触と温度が応える｡
何故か感謝と申し訳なさが体を満たしていった｡





気がつくと人混みを涙目で歩いていた｡
違和感の消えた左手が不自然な格好で固まっていた｡



















週が明けて､本日火曜日｡
相手先のご両親に伝えに行く日｡
全て事後報告で終わっていることがどうしようもなく情けないが､こういう結果を招いたのは自分自身だ｡
事情を知っている友達は3人になっているが､支えでいてくれることには変わりない｡
こんな考え方は人を殺しておいてしていいものではないが､もし､あの時に左手を握ってくれたのが自ら手にかけた子だったのなら､と今も思うことがある｡
もし父親として選んでくれるのなら､この先誰に何を言われても､この子の父親面を生涯していくつもりだ｡

あの日の朝と同じように､今日もよく晴れている｡



(終)