とにかく怖い話。コミュの-旧友- 友人Kとの物語。

昨日、5年ぶりに旧友と逢う機会があり彼の家に遊びにいってきた。

私と彼、そしてKと三人で元旦から飲み明かす。

彼は13年前に、かみさんと娘を事故で亡くしていた。

私たち三人は、彼のかみさんの手料理をつまみながらよく飲み明かしていたものだ。
私たちは、奴のかみさんも含め学生の頃からの腐れ縁だ。

「もう13年経つんだな・・・今年で」

「あ~~~あっという間だったよ。娘も生きてりゃ今年成人式だ」

「お前、こんな言い方もなんだが、新しい嫁さんは貰わないのか?」
「もう、13年だ。いい区切りだろう。それにお前は昔からモテただろう」

「あ~~~何人かは付き合い、結婚を互いに考えた事はあったんだがな・・・」

「どうしたんだ?」

Kは黙ってグラスを傾けている。

「みんな怖いって言うんだよ・・・」

「怖いってなんだ?・・・」
「怖いって・・・お前?」

「この家に来るとな・・・感じるって言うんだ」

「感じるって?」
「何をだ?」

Kが咳払いした。
　
俺は奴の瞳の中の緊張を見逃さなかった。

「うぁはははは!!!」

奴の笑い声が部屋中に響く。
Kの視線は一点を見つめ微動だにしていない。

「すまん、すまん・・・考え過ぎだよ」
奴は俺の肩を叩いた・・・

Kは黙り、暗闇の漂う窓の外を見ている・・・
　
私は初めて見た・・・Kがこんなに緊張している姿を。

瞬間!!!

私の携帯が部屋中に着信音をまき散らす。

「うぉっつつ!!!」

私は反射的に体を震わせていた。

電話の相手は女房からだ・・・
家の給湯器が壊れたと・・・私たちは実家に戻るのでと・・・。

「すまん、家の湯沸かし器が壊れて正月で修理が遅れるらしい。風呂貸してくれ?」

「おおっ。入っていけ寡婦暮らしだが掃除はしている」

「すまん。お前は昔からきれい好きだったからな」

「おおっ。暖まってこい」

私は彼とKを残し風呂を借りた。

そして・・・奇妙な光景に出くわした。
確かに、きれいに掃除されシャンプーやらボディーソープやら整頓されている。
「彼奴・・・本当は女でもいるんじゃないか・・・」
私はつまらん憶測をしながら・・・
体を流し、頭を洗い、湯につかる。
風呂場は気温が低いのだろうか湯気で真っ白になる。まるで霧のように私にまとわりつく。
「ふぅ。いい風呂だ」
腕をのばして体を解放する。
ぽと・・・ぽと。と。私の伸ばした腕に天井が水滴が落ちてきた。
とても冷たい水滴だ。
10分程たち、湯から出て体を拭く。
頭を拭く。
　
その時、初めて気付いた。
排水口一面に蔓延る黒い物体を。
「なんだ・・・これは?」
私は悪寒を感じてすぐに服を着て奴らの所に戻っていった。
ドアをバタンと大きく閉めて一息ついた。

「どうした? そんなに慌てて」

「いや・・・何でも無い」
Kは無言で私を見つめている。

「なあ? お前最近本当に女と付き合っていないのか?」

「ああ・・・この1年位は音沙汰なしだ」

「お前・・・風呂場の・・・」
と言い始めた時。
真っ暗な闇の向こうから。
どんんんんん!!!!
と、窓に何かがぶつかる音が部屋中に響いた。
私と奴の視線は窓を見つめる。
だがKだけが、風呂場に続くリビングのドアを注視していた。

「何だよ・・・強い風だな。驚いたな」
そういいながら、奴は窓に近づいていく。

その時、初めてKが言葉を発した。

「開けない方がいい」

「とうしてだ?」
奴が問い返す。

「いや、風が強い。今は開けない方がいい」

奴は不思議そうな顔をして私たちの所に戻ってくる。

私は、Kの言葉の意味を瞬間理解出来た。が何も知らないような振りをして三人で飲み明かした。
いつにもなく陽気な奴の肩越しに・・・亡くなったかみさんと娘さんの写真が私たちに笑いかけていた。

彼は、かみさんと娘を亡くした年からストレスで髪が抜けて今は短髪なのだ。
風呂場の排水口の黒い物体は、奴の髪ではない・・・薄い茶髪と黒く長い髪だった。

2012年1月1日の深夜のことである。