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とにかく怖い話。コミュの【創作】Truth in the fog ?

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ーーーーーーーーーーー
?.Re:birth


暗闇が街を覆い尽くし始める頃、一人の女が部屋の窓から空を眺め、先刻手に入れた地図を開く。
この女、霧雨怜香には夜へと表情を変えた空よりも暗い過去がある。



今から二年前、妹の美咲の誕生日パーティーを開くということで、霧雨はプレゼントなどを前もって準備し、仕事を早めに切り上げるつもりでいた。
しかし、世の中思う通りには行かないもので、その日の夕刻に殺人事件が起き、本庁に勤め始めた新人刑事は雑用のように駆り出された。
その結果、帰宅するのは深夜になり、当然家の明かりは全て消えている。
本庁とは別の、家の近くの署へと異動していた父、慎吾と主婦の母、引きこもりの妹、美咲は在宅のはずだった。
ところが、家に入っても人の気配は無い。
リビングに霧雨が入ると、稲光によって、切り傷だらけの両親が天井から吊されているのが照らし出された。
その直後、霧雨は何者かに襲撃され、意識を失う。



霧雨はその時こしらえた右手の切り傷をさすった。

後に事件の責任者となった鎌田から、美咲も犯人に追い詰められ窓から転落死したことを伝えられる。
霧雨は一人になった。
その目には復讐の炎がたぎる。

霧雨は地図に描かれた六芒星の中心、霧雨一家殺人事件の現場であるかつての我が家を見つめた。
鎌田は父、慎吾の同僚で、霧雨一家殺人事件の責任者でもある。
鎌田の、元同僚の事件を解決するという言葉は、一見すると最ものように聞こえるが、今の霧雨は鎌田がこの事件に関与しているのではないかと考えていた。
鎌田には不穏な噂が付き纏う。

慎吾との不仲説。
霧雨一家殺人事件証拠隠滅。

前者は周囲の話を聞くと、真実であったと霧雨は確信していた。また、後者も真実であれば、鎌田が犯人であるという推測が成り立つ。
いや、そうとしか考えられない。




憎悪の感情に支配されそうになった霧雨は月を見た。
綺麗な月だ。
しかし、霧雨の心中は全く穏やかではなかった。








一方、鎌田剛もまた、自宅でソファに深く腰掛け、月を見ていた。
霧雨は自分の家族の事件に関して、尻尾を掴み始めている。
このままでは危険だ。
鎌田はソファの背に掛けたスーツを取り上げ、胸ポケットに入れた地図に手を伸ばした。
が、無い。
鎌田は思わず顔を歪めた。
どうやら署で霧雨の顔を見て、慌てて事件の資料を片付けた時に落としたようだ。
まさか自ら霧雨にヒントを与えてしまうとは…。
鎌田はまた月に視線を戻す。









さらに、もう一人月を眺める青年が居た。
霊感抜群の医大生、鍋島哲也だ。
普段霧雨と居る時にはおちゃらけたキャラだが、今は鋭い眼光で月を睨む。
実はこの男にも暗い過去がある。
自分にとって最も大切な女性を、彼は目の前で失った。
鍋島は月を見て呟いた。
「鞄の中に納豆詰めたまま、旅行なんて行くもんじゃないな…」
鍋島の部屋には異臭が立ち込めていた。







これからこの三人の運命は濃密に絡み合う。
それは、出会いから既に仕組まれていたものだったのかもしれない。

コメント(38)





翌日、三連休最終日を満喫しようと、昼過ぎまで霧雨は眠り続け、近所の犬の鳴き声でようやく目を覚ました。
ボサボサになった頭を掻き、ついさっき見た夢を思い出そうとした。
珍しく、今までと違う夢だ。
あれは、事件が起こる日の朝の記憶に違いない。




事件当日の朝、霧雨はけたたましい目覚まし時計のアラームで目覚める。
部屋を出て、隣の妹の部屋のドアに目をやった。
もう数日間、美咲の顔を見ていない。

階段を下り、一階のリビングに入る。
父は既に起きており、リビングに隣接したダイニングでコーヒーを啜りながら新聞に目を通している。
「おはよう…」
霧雨がよたよたと歩きながら挨拶をする。
「おはよう。相変わらず朝に弱いな」
父、慎吾が苦笑いした。
母は台所で霧雨の朝食を作っている。
「今日は美咲の誕生日だから二人共早く帰ってきなさいよ」
母が目玉焼きを載せた皿を霧雨の目の前に置いた。
「分かってるよ、プレゼントはばっちりだ」
慎吾はそう言いながら霧雨に目を向けた。
今回のプレゼントは、家族三人の共同制作。
美咲が感動すること請け合いだ。
「そういえば、今日はスペシャルゲストも招待してあるの」
母が思い付いたように言う。
「スペシャルゲスト?」
霧雨が目玉焼きを頬張りながら繰り返した。
「誰だ、それは」
慎吾も眉をしかめる。
「帰って来てからのお楽しみ!さぁ、早く支度しなさい」
意味深なことを言ったまま、二人を急かす母。
二人は言われるままに着替え、慌てて玄関を出る。






そこで霧雨は夢から醒めた。
あの日、あの事件が起きた時、私達家族以外に誰かが家にいた?
霧雨は頭を抱える。
しかし、全く見当がつかない。
父が知らなかった所から考えて、鎌田では無さそうだ。

ならば一体誰だ?

親戚?美咲の友人?
考えられる選択肢は多岐に渡るが、どれも確証は無い。

霧雨は地図を再び開いた。
やはり、直接行って確かめるしかない。
悲劇が始まったあの場所へー。






夕方を過ぎた頃、黒いコートに、黒い革手袋を嵌め、職場に行く時のような格好で霧雨は部屋を出る。
何かが起きる。
そんな予感が霧雨の胸を騒がせていた。
マンションのエレベーターを使って、一階に下りると、霧雨の視界に見覚えのある後ろ姿が飛び込んでいた。
空は曇っており、雨がぽつりぽつりと降り始める。
鍋島哲也が、雨に濡れないよう、マンションの出入り口の狭い隙間で立ち尽くしていた。
「何やってるの?」
霧雨が声をかけると、鍋島が振り向く。
「あ、どうも。昨日はすみませんでした。旅館に電話したら、女将が何があったか説明してくれて…」
鍋島はどうやらこの前の旅行での謝罪をしに来たらしい。
霧雨の格好を見て、鍋島は訝しんだ。
「仕事…ですか?」
霧雨は黙る。
仕事ではない。
が、着いて来られるのは嫌だった。
「そんなところかな」
霧雨ははぐらかした。
鍋島は霧雨の目を覗き込む。
「嘘…でしょう」
鍋島の言葉に霧雨ははっとした。
「今の霧雨さんの顔、死相がはっきり出てる。美咲さん絡みの何かに関わろうとしてるんでしょう」
鍋島は霧雨の目を見ながら追及する。
霧雨は鍋島から目を逸らした。
「あんたには…関係無いでしょう」
霧雨は長い髪で自分の顔を隠すようにした。
自分のプライベートに入り込んで欲しくないという気持ちもある。
だが、それ以上に、この男を危険に巻き込みたくないという気持ちが強かった。
「霧雨さん、俺も行きます」
鍋島は思った通りの言葉を吐いた。
鍋島が着いて行こうとすると、
「来ないで!」
霧雨は大声で制した。
くるりと方向を変え、マンションを離れる。
鍋島は霧雨を追い、手首を掴んだ。
雨が強くなってきた。
「俺が、行きたいんです。お願いします。連れて行ってください」
鍋島の静かだが、強い言葉に、霧雨は何も言い返せなかった。




車の中に雨の音と、ワイパーの音だけが響く。
助手席に座る鍋島は何も言わない。窓の外の流れる風景を、ひたすら目で追っていた。

霧雨の住んでいた住宅地に着き、車の速度が徐々に緩められる。
「あそこに見えるのが私の住んでいた家」
住宅地の隅の、高台にそびえる比較的大きな家を霧雨は指した。
「で、二階の窓が美咲の部屋の窓で、あそこから美咲は飛び降りたの」
二階から飛び降りたと聞くと、怪我くらいで済むのではないかと大体の人が考える。しかし、美咲の部屋の窓は高台の壁に沿った位置にある。つまり、あの窓から飛び降りた場合、二階分の高さに高台の高さが加えられる。成るほど、合計すると十メートル近くになるだろうか。これならコンクリート地面に頭を打ち付けて死亡というのも頷ける。

霧雨はさらに車を移動し、高台を登り、かつての家の前に車を止めた。
「事件が起きてからまだ何も片付けてないから、家の中は昔のまま」
霧雨はそう言いながら玄関に鍵を挿し、回そうとした時に異変に気付く。
「開いてる…?」
鍵を抜き、ドアを引くと、何の抵抗も無く開いた。
玄関には埃を被った当時の家族の物以外に、黒い男物の革靴がある。
霧雨は侵入者が居ることを確信する。
鍋島を見ると、鍋島も気付いたらしく、二手に分かれれようと視線で合図する。
霧雨は一階、鍋島は二階へとそれぞれ向かった。





霧雨はリビングへと続くドアを開けた。
カーテン、シャッターが閉められ、外界からの光は全て遮断されている。
胸ポケットのペンライトを取り出し、室内を照らす。
持って来た拳銃は護身用に鍋島に預けた。警察に入る過程で、霧雨は格闘技、特に柔道を一通りやってきた身であった為、幾分安全であると考えたのだ。
とは言え、ペンライトの頼りない明かりで照らされる狭い視界は、霧雨をどんどん不安の渦に陥れていった。
霧雨はリビングと襖で隔てられた和室へと向かった。
室内に入ると、本棚と引き出しのみが照らし出される。
どうやら侵入者は二階に居るようだ。
その考えが頭に浮かぶと同時に、後ろに人が立つ気配がした。





階段を上りきった鍋島は、迷わずに美咲の部屋のドアを開ける。
美咲の部屋の奥には、予期していた通りのごつい背中が待っていた。
その背中の持ち主、窓から漏れる街灯に映し出された鎌田剛がドアの開く音に気付き、振り返る。
「待っていたよ、鍋島哲也。お前に尋ねたいことがたくさんある」
鎌田の言葉に、鍋島は沈黙で答える。
室内に入り、部屋のドアを閉める。
その口には、不気味な笑みが広がっていた。






暗闇の中、霧雨は立ち尽くした。
ペンライトを握る手が湿る。
後ろから異様な呼吸音が聞こえた。

ひゅー…。
ひ…ひゅー…。

振り向くと、そこには頭部を酷く損傷した髪の長い女が立っていた。
乱れた呼吸音は、砕かれた鼻と口から漏れる空気の音だ。

ペンライトで反射した何かを、霧雨に向かって女が振り下ろす。
霧雨は咄嗟にかわしたが、姿勢を崩し、壁に背中をつけた。

あの夢と同じー。
霧雨は自分を襲った犯人の顔を思い出した。
思い出すと同時にその名を口に出す。



「美咲…?」



女の動作がぴたりと止まった。








鍋島は鎌田と向き合う。
美咲の部屋の窓は、カーテンが全て開かれており、外の街灯がお互いの顔をぼんやりと浮かび上がらせる。
「鎌田さんの質問の前に、俺から一つ、尋ねたいことがあります」
鍋島が数歩、鎌田に近近付いた。
「何だ?」
鎌田は鍋島の要求を飲む。
「鎌田さんは、この事件の犯人をご存知でしたよね?何故、あなたはその犯人を庇うように証拠を隠滅したんですか?」
鎌田は黙った。
そうして、しばらくの沈黙の後、渇いた口を開く。
「お前に分かるとは思わないが、刑事ってのはプライドが高い人間が多くてな。特に、身内の人間に殺されたなんて、死して尚、恥を世間に曝すようなものだ。真実は俺が分かっていればいい。だから俺は外部の犯行のように仕向けた」
鎌田の答えを、鍋島は鼻で笑った。
「同僚のプライドを守る為に、自らの立場を危ぶめたということですか?」
「信じないならそれでいい。俺は答えた。次はお前が答える番だ」
鎌田は鍋島の対応を気にも留めず、真っ直ぐに対面する相手を睨んだ。


長い沈黙の間、暗闇で女の不気味な呼吸音だけが響く。
白いワンピースに多数の血痕が残されている。
美咲の転落死した後の姿なのだろう。
霧雨はほぼ確信していた。

「美咲なんでしょう?」
霧雨は再度確認する。
が、女は尚も沈黙を続ける。
霧雨の問い掛けを無視し、女は右手の包丁を再び振り上げた。
刃先が勢いよく霧雨の顔面を目指す。
「待って!」
閃光を描いた刃先が霧雨の鼻先で止まった。
女は目茶苦茶に破壊された顔で、霧雨を見る。
「私はあんたに殺される覚悟はできてる。だからもう抵抗はしない。でも、知りたいことが沢山あるの。それを理解するまで、私は死んでも死に切れない」
霧雨の言葉を聞き終えた女は右に曲がった首をゴキリ、と鳴らし、手で元の位置に戻した。
「分かっ…た」
思うように動かない口で女は答える。
霧雨はいくらかほっとし、最初の疑問を投げ掛けた。
「まず初めに、二年前の事件で何故あんたは私を襲ったの?あんたが私に引け目を感じて生きていたのは知ってる。でも美咲、あんたはそんなことで道を逸れるような弱い人間じゃなかった。そうでしょ?」
霧雨は姉として、目の前の女と対峙した。
「確かに…私はお姉ちゃんに引け目を感じていた。小さい頃から容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能の姉と自分を比較して生きてきた。容姿こそ似てはいるが、私は運動音痴で、その方向でお姉ちゃんよりも優れるのは無理だと諦めていた」
お姉ちゃんという呼びかけに、目の前の女が美咲であることが分かる。
美咲は口を動かしにくそうに開く。
「だから…責めて勉強でお姉ちゃんを越えようと努力した。学年でトップになることもあった。…それでもお姉ちゃんには敵わなかった」
美咲は首をゴキリ、と鳴らし俯いた。
「私はお姉ちゃんを越えることを諦めず、医学部を目指した。でも、一年目はやっぱりダメで浪人生に。この頃から私は、精神科に通うようになり、部屋に引きこもった。だけど、お姉ちゃんを恨むことはあっても、殺そうとは思わなかった。だってこの時、私には、お姉ちゃんよりも優れている点が、一つだけあったから」
霧雨は美咲の言葉に聴き入った。やはり、美咲が自分を襲った理由は学力なんかでは無かった。
「当時、私には彼氏が居たの。予備校で知り合った、同じ医学部を目指す男の子。お姉ちゃんはクールな性格からか、異性との交際という話は聞かなかった。彼ができてから、それだけが私の取り柄となった」
美咲の言葉に、霧雨は思わず目を見開く。









鎌田は美咲の机に飾られた写真を鍋島に投げる。
「初めてお前を見た時から、俺は何か引っ掛かるものを感じていた」
鍋島はその写真を見る。
写真には、美咲の隣に映る、自分の姿があった。
二人は笑顔で寄り添っている。
「事件の捜査でたまたま見掛けた写真だ。記憶には曖昧にしか残っていなかった。まさかお前が霧雨美咲の恋人だったとはな」
鎌田の言葉は耳にも届いていないといった様子で、鍋島は写真を指でなぞった。
「詳細を話してもらおうか?あの事件が何故、どのようにして起きたのか」
鎌田が鍋島に迫るように尋問を開始した。




美咲の言葉を聞いて、霧雨は思い当たる人物の名前を呟く。
「鍋島…哲也…」
美咲は霧雨の言葉を沈黙で肯定する。
「でも、彼が私のお見舞いに来た時、偶然彼がお姉ちゃんを見掛けたことがあったの。彼はお姉ちゃんを綺麗な人だと褒めていたわ。それ以降も、彼との話で幾度と無くお姉ちゃんの話題が出た」
霧雨は何となく美咲の犯行の動機が読めてきた。
「私は怖くなった。彼がお姉ちゃんに奪われてしまうのではないか。もし奪われてしまったら?それこそ私の取り柄は皆無になる」
美咲は下に向いた首を、また関節を鳴らしながら霧雨の顔へと向けた。
「それからよ。お姉ちゃんに殺意を抱き始めたのは」

霧雨は溜息をついた。
妹に狙われる原因が異性に関する物だったとは。
しかし、その根底に眠るのは、やはり姉への引け目であったことに疑いは無い。
こうなる前に、自分が美咲との関係を良好に築いておけば、誰も犠牲にならずに済んだのか。
溢れる後悔に、霧雨は思わず唇を噛み締めた。

「お父さんとお母さんは?何故殺したの?」
霧雨は次の質問に移る。
しかし、美咲は予想外の答えを口にする。
「お父さんとお母さんを殺したのは私じゃない。部屋から出て、一階へ下りたら、もう死んでいたわ。それで何かが吹っ切れた私は、お姉ちゃんを襲ったの」
美咲の言葉は嘘では無いようだった。
まず、ここまで白状しておいて、嘘をつく必要性が無い。
霧雨は美咲の言葉を信じることにした。
「で、私を襲った後あんたは死んだ。つまり自殺したってことよね?」
霧雨は初めて怒りを言葉に乗せた。
自殺こそが愛する妹の、自分に対する最大の裏切りだった。










鎌田の質問に、鍋島は美咲が霧雨に対して答えたのと大体同じように答えた。
「成る程。慎吾の殺害に霧雨美咲が関与していなかったというのは知らなかったが、他は大体予想通りだ」
鎌田は探るように鍋島の目を見つめる。
「で、鍋島。お前はいつここに来たんだ?」
鍋島は遠い眼差しを浮かべた。
「俺がここに来たのは、霧雨さんが美咲に襲われた直後だ。お母さんにサプライズゲストとして招待されていたから、深夜に霧雨家を訪問することになっていた。だけど、家の中は真っ暗で、パーティーをやっている気配は無い。試しにドアに手をかけてみると、鍵が開いていた。中に入った時にまず視界に入ったのは、倒れている霧雨さんと、ゴルフクラブを持った美咲の姿」
ここまで語ると、鍋島は辛そうな表情を浮かべる。
「美咲は俺の顔を見るなり、慌てて自分の部屋へと向かった。そして窓を開けて…」





自殺の過程について美咲は語り出す。
「哲也の顔を見た時、私は頭が真っ白になった。愛する人の為に行った殺人未遂。こんな所を見られたら、彼は私を嫌いになる。無我夢中で階段を駆け上がり、部屋に入った。窓を開けると、彼は必死で私を止めようとしたわ」
霧雨の前に立つ美咲の姿が、何となく悲しげに映る。
「でも、私は飛び降りた。だってこれ以上私に失望する人間の目を見たくなかったから。まして、最愛の人が私に失望する目なんて…」
そこまで言うと、二人の間に再び沈黙が訪れた。
美咲の悩みの深刻さと、自分の無力さを改めて思い知らされる。
霧雨は覚悟を決めた。
だが、霧雨にはその前にやることがあった。
霧雨はズボンのポケットに手を入れる。
それを見た美咲は、慌てて包丁を握り直した。
が、次に霧雨の口から発せられた言葉は意外なものだった。
「これ。遅くなってゴメン」
霧雨の手の平には、合格祈願の文字が刺繍されたお守りが乗っている。
市販の物では無く、母が作った物だと、美咲は瞬時に分かった。小さい頃からよく母の手芸を手伝ったものだ。
「鎌田さんの娘さんからのプレゼントで思い出したの。誕生日、おめでとう」
霧雨は微笑んだ。
美咲はお守りの中に、数枚の手紙が入っていることに気付く。
お守りを開き、手紙を取り出す。父、母、姉それぞれからの手紙だった。
三人からの手紙に共通するのは、合格祈願のお守りだというのに、美咲の健康を気遣う文が大半であったということ。



そして、印象的だったのは、姉、霧雨怜香からの手紙の最後の文章だった。

『私、霧雨怜香は、美咲の姉として常に越えるべき壁として在り続けることを誓います。

でも、同時に、常にあなたを守る為の壁としても役割を果たすことを誓います。
何か悩んでることがあったら、いつでも私に頼ってください。
姉妹なんだから、弱い部分見せ合ったっていいでしょう?』



この文に目を通した時、美咲の体が一瞬泣いているように、霧雨には見えた。
美咲は手紙をお守りの中に仕舞うと、包丁を手から離す。

本当は分かっていた。
姉は自分の男を奪うような女ではない、と。
姉は自分の壁であり、理想とすべき女性であった。
美咲は思い知る。
手紙を読んで、姉の存在の大きさを。
そして、もっと生きて、この素晴らしい女性と肩を並べて歩けるようになりたかったと、美咲は心の底から思った。

しかし、もうその願いは叶うことは無い。



美咲は霧雨に背を向け、その場を離れていく。
「どこ行くの?」
霧雨の問いに、美咲は答えなかった。

いつの間にか、美咲の姿は暗闇に溶け込んでいた。




鍋島は何かに気付いたように突然、辺りを見回す。
「美咲…?」
そして、しばらく考え込んでから俯いた。
「そうか…」
鍋島の不可解な行動を、鎌田は見つめ続ける。
と、突然鍋島の背後のドアが開いた。
「鍋島君!」
慌てた様子で霧雨が部屋に入って来る。
しかし、部屋の中に居るもう一人の人物を見て、状況に困惑する。
「鎌田…さん?」
混乱している霧雨を見て、鎌田は鍋島に尋ねる。
「さて、あの事件がどのようにして起きたのかは分かった。そして今回の六つの怪事件、これはお前の仕業なんだろう。何故お前が関与したのか、説明してもらおうか?」
鎌田の言葉を聞いて、霧雨は驚きの視線を鍋島に向ける。
鍋島は観念したというように両手を上げて笑った。
「いいですよ。美咲は死後、俺の前に現れ、事件の成り行きを説明した。それで、美咲は霧雨さんの殺害計画を実行したいと持ち掛けてきた。俺が悪かった、霧雨さんは悪くないと美咲に伝えると、美咲の嫉妬心は余計に燃え上がった。俺は仕方なく美咲の要求を飲み、ある呪いを計画する。でもその説明の前に、鎌田さんの推理を聞いてみたい」
鍋島は興味津々の目を鎌田に向ける。
「俺がお前に疑いを持ち始めたのは、第三の事件の生き霊の主に面会しに行った時だ。奴は俺を見て純粋に驚いていたよ。何だ、死ななかったのかってな。話を聞くと、いとも簡単にお前の名前を聞き出せた。鍋島哲也という青年に、生き霊を使った人の殺し方を教わった、と」
鍋島は笑いながら答える。
「あなたの推理力は、俺と美咲の計画の邪魔になると思った。だからあなたを先に潰そうと思ったんですよ。結果として失敗に終わった訳ですが」
鍋島の嫌味を含んだ笑いを無視し、鎌田は推理を続ける。
「次に、第一の事件の容疑者、平石の元へと向かった。彼は二つのヒントを与えてくれた。一つ、宗教サークルのメンバーには、神格化された人間の名前は載せていない。二つ、あの逮捕劇の最中に言った言葉は冗談ではない」



霧雨はあの事件の記憶を呼び覚ました。
暗いアパートの一室で行われる不気味な宗教活動。
その時、霧雨は平石に尋ねたのだ。
『神って…?』
すると平石はこう答えた。
『さぁ…あなた達の後ろにでも居るんじゃないですか?』

あの時、平石の言葉は戯れ事程度にしか思っていなかったが、もし現実的な意味で考えると、霧雨と鎌田の後ろに居たのは…。



「あの時俺達二人の後ろに居たのは鍋島、お前だ。つまり、あの宗教サークルの神はお前だということになる。それならサークルの名簿にお前の名前が無いことも説明がつく」
鎌田が言い終えると、鍋島はくつくつと笑い始める。
「さすが鎌田さん。あなたの推理力はやはり危険だ。その通りですよ。あの宗教サークルの神は俺だ。霊である美咲と、霊感の強い俺が組めば、どんなマジックも不可能じゃなかった。心の依り所の無い現代の若者のニーズを利用した、至って効率的な手法だろう?こうした若者に不信感を募らせたのは、現在の政治経済を運営する大人達だっていうのは皮肉だけどな」
鍋島は小難しい言葉を並べる。
「宗教団体と言うのは、実に利用しやすかったよ。深く信仰する人間は、自分の身の危険すら顧みなかった。俺と美咲の計画には六つの怪事件を起こすことが必須事項だった。地図に六芒星を描き、その中心でのみ美咲を具現化できる。それが俺達の呪術だ。その為には命を顧みない駒が必要だった」




鍋島の長い解説を聞き終え、鎌田は推理を続ける。
「お前の手は宗教サークルだけに留まらず、最早宗教団体にまで及んでいた。第四の事件で、神隠しの被害者達には一つだけ共通点があったよ。全員が同じ宗教団体に所属していた。鍋島の宗教サークルから派生した宗教団体にな」
鎌田が一先ず推理を打ち切る。
「彼らにはトンネルの両端の祠を破壊して、霊界への扉を開いてもらったんだ。勿論、一般人に霊界から戻る術は無い。そのまま帰らぬ人となった。第四の事件は非常に重要でね、美咲の力を強めるという最大の目的があった。第二の事件の霧雨さんの友人も、第五の事件の窪田先生一家も、俺の部下だ。霧雨さんの友人には数日間だけ霊の出る部屋で生活してもらい、窪田先生一家にはあのタイミングで献体してもらった。第五、第六の事件の現場は美咲に関係した場所で、霧雨さんに美咲が迫っているという恐怖を感じさせる目的があった。第五の事件現場は、美咲の入院していた病院。第六の事件現場は…」
鍋島がそこまで言うと、鎌田が続きを口にした。
「霧雨一家の一度きりの旅行先だ」
霧雨ははっとした。旅館自体見覚えのある気はしていたが、家族旅行の宿泊先であることには気付かなかった。
「まぁ、効果はあまり無かったみたいだ」
鍋島は霧雨の表情を見て苦笑する。
「霧雨から旅館の名前を聞いた時、ピンと来たよ。仕事ばかりの慎吾が、初めて家族と旅行に行ったと、何度も嬉しそうに話していた。その年の年賀状にも、旅先の写真が使われていた」
鎌田が胸ポケットから年賀状を取り出し、ヒラヒラした。






「これでスッキリしましたか?」
鍋島は少しずつ歩を進め、窓へと近付いた。
鍋島のしようとしていることが、霧雨には分かった。
「待ちなさい!」
霧雨は鍋島に駆け寄り、体を押さえようとする。



が、鍋島は霧雨をかわし、逆に霧雨の手を後ろに組ませ、霧雨の貸した拳銃を突き付けた。
それを見た鎌田は、咄嗟に銃を構える。
「俺が死ぬのを邪魔するな!やっと美咲と同じ風景を見て死ねる。美咲と一緒になれる」
鍋島の目には涙が浮かんでいた。
「撃てよ」
鍋島は鎌田を挑発した。
奇しくも、鎌田が娘を目の前で失った時と同じ状況になった。
「撃たなきゃこの女は娘と同じ状態になるぞ!いいんだな!」
鍋島は拳銃を握る手に力を入れる。
「鎌田さん、ダメ!」
霧雨の叫び声と銃声が同時に響く。



鍋島はよろけながら右肩を押さえた。右手から拳銃が落ち、床で重い音を立てる。左手がじわじわと紅く染まる。
鍋島は拳銃を握ったまま硬直する鎌田を見て、微笑んだ。鎌田の銃口からは、白煙が流れる。



「霧雨さん。美咲から、最後の伝言があります。不器用なあいつらしい言葉です」
鍋島は霧雨に向かって口を開く。
「ごめんなさい、ありがとう」
そういうと鍋島は窓の縁に足を掛けた。
「人を呪わば穴二つ、か」
鍋島の姿は、部屋から消えた。




霧雨はその場に座り込み、床を見つめる。
鎌田は携帯で警察を呼んでいた。
静かな部屋に、鎌田の低い声が、重く響いた。






霧雨と鎌田は、雨の降る中、家の外でパトカーの到着を待った。
「結局、父と母を殺したのは、誰なんでしょうか?」
霧雨の髪は雨で濡れ、顔に張り付く。顔に付いた水滴は、涙にも見えた。
「さぁな…。でもこれでまたお前との捜査が続けられる」
鎌田は上着を霧雨に被せる。
「真実はまだ霧の中だ。だけどいつかその霧を晴らしてみせる。それまで、よろしく頼むぞ」
鎌田の言葉を聞き、霧雨は先程まで堪えていた涙を一気に落とした。
そして、強く頷く。



やがて、パトカーが数台、二人の近くに到着する。
赤いサイレンが静かな雨の夜空をけたたましく割る。

二人の捜査は、まだ終わらない。






ーーーEndーーー







薄暗い電子機器に囲まれた部屋で、男は渡されたデータを見ていた。
「これで、霧雨怜香に関する情報は全てですか?」
パソコンの向こうに立つ、もう一人の影に確認を取る。
「ああ、それで全てだ。後はお前に任せる。生かすも殺すも、お前の采配一つだ」
そう言うと、データの受け渡し人は、部屋を出た。
残された男は、画面に浮かんでいる『End』の文字に、目を戻した。

すると、画面の文字に異変が起こる。
『d』の字が消え、新しいスペルが自動的に打ち込まれていく。
『t』、『e』、『r』ー。
画面には新しい単語が浮かび上がる。
『Enter』。
その表記の上に新しい英文が、またもや自動的に打ち込まれる。
『If you want to know the end of this story, please click here.』
その表示を見た男は迷わず、カーソルを『Enter』の上に乗せ…。









.

以上で最終話となります!
一話から読んでくださった読者の皆様には、本当に感謝しております。
一つの話だけで目茶苦茶長いのに何話続けるつもりだと呆れた方も居たかもしれません。どうも失礼致しました…。
このコミュニティーでは珍しいスタイルの話だとは思いますが、こういった話でたまに息抜きしていただければ、と。


次回からはシンプルな怖い話を投稿させていただこうかと思います。
一応、謎や伏線はいくつか残しておいたので、気が向いたら続編を書くやもしれませぬ(-.-;)


それでは長い間、読んで頂きありがとうございました!
以上でTruth in the fog終了とさせて頂きます。
お疲れ様でした。
とても面白かったですわーい(嬉しい顔)霧雨の両親を殺した人は・・・・結局誰なんでしょうねぇ雷
長編お疲れさまでした!
読み応えがあって、とってもおもしろかったです。

最後の男は誰なんでしょうか…。
霧雨の両親を殺害した犯人も気になる…。

というわけで、わたしも迷わず【Enter】をクリックします!
続編を書いてくださることを願って。。。
楽しかったです!

世界感に引き込まれて一気に最初から読んでしまいました。

続編楽しみにしていますわーい(嬉しい顔)
面白かったです!続編、次回作に期待します!
本当に面白かったです!!!

ありがとうございました☆
最後の男二人…
なるほど!(僕の予想が当たっていれば)

よかったらぜひ続編をお願いしますウッシッシるんるん
最初から最後までいっき読みしましたexclamation ×2
結局両親を殺した奴誰か、僕も気になり過ぎて眠れーんからのパラライズドオーシャンですよブタ


鍋島ああああぁ!!!!

ううぅ…

でも面白かったです(>_<)揺れるハート
遂に最初話…
すっごく楽しみです猫ぴかぴか(新しい)

> メチャオさん

ありがとうございますほっとした顔
もし続編を書くようなことがあれば、両親の話になるかと思います電球
> 二葉さん

ありがとうございます!
こちらこそ、こんなに無駄に長いお話を7話も読んでいただき、感謝しております。
正直、こんなに最後まで読んで、コメントしてくれる方がいるとは思ってなかったので嬉しいです。

『Enter』クリックして頂けますか!
続編に少しずつ手を付けていこうかな…?
> さらら★BPクレクレ★さん

確かに少し激変させすぎてしまいましたね…
> やーチャン@全力少年さん

ありがとうございます!
続編はイメージはぼんやりとできてはいるんで、いつか書けたらなと思います。
> ゼクス@シャアの再来さん

ありがとうございます!
多分続編はだいぶ長めの話になると思うので、気長にお待ち頂けたらと思いますほっとした顔
> みれいさん

ありがとうございます!
また期待に応えられるようなお話が投稿できるよう頑張ります。
> 。゚+мiκi+゚。さん

いえいえ、こちらこそこんなに長い駄文を読んで頂きありがとうございました!
> 09ばかずや01さん

ありがとうございますほっとした顔
機会があれば続編投稿させていただきますね。
> うつけものさん

最後の男は続編が書かれる場合、かなりのキーパーソンになる予定です!
ただ、今考えてる話だと、続編は怖い話じゃなくなってしまうのが悩みです…。笑
> D-SKさん

ありがとうございます!
眠れない時にパラライズドオーシャンはまずいですよ衝撃
> ☆voice☆さん

ありがとうございます!
皆さんの応援のお陰で、続編書こうかなって気持ちになりました。気長にお待ち下さい!
> _ノ乙(、ン、)_さん

いつも応援ありがとうございますほっとした顔
鍋島ファンには残念な形になってしまいました…
申し訳ありませんがまん顔
なんとなくですが…


仕方なく妹に従ったはずが
最終的に殺人、犯罪を楽しんでいる人格に変わった

様に読めてしまいます

でも作品はとてもおもしろく読めました

いつも文句ばかりですみません


次回作期待しています
鍋島くんは、打ちどころ悪かったけど助かってた…なんてないかなぁ…
最後が更に良かったです!!
私はこういう『終わっても物語の世界は続いてる』的な終わり方大好きですっ!(≧∇≦)
> さらら★BPクレクレ★さん


いえいえ。
いつもこんな長文駄文で申し訳ありません。
次回からはもう少し成長した文章を書けるよう努力致します
> R☆Lmanaタロスさん

鍋島ファン意外と多いですね(¨;)
しかも女性に…。
羨まs(ry

エンディング気に入ってもらえてよかったです!

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