とにかく怖い話。コミュの【体験】シングルルーム

1ヵ月の半分を出張していたって頃の話です。

ゴルフ場のど真ん中にあるホテルに、同僚とふたりで仕事で泊まりました。
宿泊客はほとんどゴルフ客なので、シングルルームは宴会場のある本館と宿泊棟をつなぐ通路に数室あるだけの作りで、私たちはその少ないシングルルームにそれぞれ部屋を取っていました。
部屋はとくに変なところもなく、むしろ廊下を歩く酔っ払った人たちの声がうるさい程度。

次の日の朝が早いので、私たちはそれぞれ9時には部屋にはいり、そのまますぐに寝てしまいました。
そして私は夢を見ました。

焼死体に追いかけられる。
焼死体から逃げ回る。
焼死体に抱きつかれる。

抱きつかれたところで、思わずはっと目が覚めました。
あけた目に最初にはいったのは、すごい鳥肌のたった自分の腕でびっくり。

…とその瞬間、部屋の湿度がやたら高いのに気づき、一瞬空調の故障かと思いました。
思わずベッドから身体を起こすと、部屋中に腐った水のヘドロのような臭い。
なんなんだ？とあたりを見回していると、実際にある部屋になにやら別の風景が浮き上がりだし、みるみるうちに濃さを増します。

気がつけば、腐ってにごりきった沼の真ん中に私の寝ているベッドがあり、その周囲を長い髪の毛がざんばらになった、人とも思えぬ物体がゆらゆらゆれながら囲んでいました。
最初はうすぼんやりしていたそれらが、見ているうちにどんどんはっきりしてきて、臭いは耐えられないほどになっており、瘴気のようなものが肌をちくちく刺してきます。

「やばい！」と感じて、同僚が泊まっている隣の部屋に電話をかけました。
その時、午前2時。
寝ているはずの同僚、1コールの呼び出しが鳴らないうちに電話に出て「どうしたの！」と叫んだので、「今からそっちに行く！泊めて」とだけ言い、荷物を抱えて脱兎のごとく部屋を出ました。
あとで聞いたら、突然目が覚めて、その直後に私からの電話が鳴ったんだそうです。

同僚の部屋にはいって驚きました。
彼女の部屋は、私が泊まっていた部屋よりもすべてに古かったのです。
壁紙もカーペットも古く、私の部屋ではユニットになっていたバスルームも、まだタイル貼りでした。
しかもなぜか、彼女の部屋には頼んでもいないエキストラベッドが置かれていて、枕も毛布も全部準備されていました。
最初から、その部屋に誰かが泊まる前提のように。

それを言おうとしたら、同僚が「明日の朝は早い。今は何も聞かないでいるから、とにかく寝よう」と言い、その日はそのままふたりとも寝てしまいました。
次の朝、起きたことを全部話しましたが、「これから仕事だし、とりあえずその間は忘れることにしよう」とふたりで話しました。

ところが、

同僚がその後、ホテルの受付にふたり分の清算しに行ったのですが、怪訝な顔をして戻ってきました。
「ひと部屋分の請求しかしてきてない。ふた部屋取ってますって言ったけど、向こうから『こちらのみの請求になっております』って言われた」

仕事はとどこおりなく終わりましたが、会社に戻ってから、会社で契約しているそのホテルチェーンの営業担当に、「得たいの知れないものが出た」と連絡したところ、電話口で「今からすぐに参ります！！」と叫ばれてびっくり。

本当に文字通りすっとんできた営業担当、菓子折りを私に差し出し、「申し訳ありませんでした！！あそこ、出るんです！！」と。

毎年、そのホテルはお祓いをしてもらっているのだそうですが、営業担当には「現場の人間に確認したのですが、お泊りになられた部屋は、“出る”部屋じゃないそうですが、いったい何をごらんになられたんでしょうか？」と逆に聞かれました。

なぜ、私の泊まった部屋だけがすべてに新しかったのかを尋ねたところ、「シングルルームをじょじょに改装している」と言われました。
しかし、なぜ、同僚の部屋にもうひとり泊まるのが当然の準備がされていたのかは、営業担当にもわからず。
私が泊まった部屋代だけ請求されなかったことについても、営業担当も「そんなはずはないと思うんですが」としか言わず。

ホテル側では、今後私が泊まった部屋もお祓いしてもらうことにしたと、後で聞きました。
幽霊話の好きな人に、「そのままその部屋にいたら、そっちの世界に連れていかれちゃったのかもしれない」と言われ、ぞっとしました。

もちろん、そのホテルには二度と泊まっていません。