ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

とにかく怖い話。コミュの【創作】君を想う

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
久しぶりに書きました。
下手っぴですが、お時間ある方、読んでくれると嬉しいです。

では、どうぞ。
↓↓↓↓↓↓↓



気が付くと彼女を見ていた。

それが何故なのかはミノルにも分からなかった。
彼女というのは同じクラスのユキのことで、ほとんど話したこともない大人びた雰囲気のある女の子だ。たまにクラスの男子が可愛いとか付き合いたいなどといった内容の会話をするのを耳にしたことはあるが、基本的には目立たない少女だった。

目立たないのはミノルも一緒で、それは中学生になって2年経った現在も変わることは無かった。人の目が気になってしょうがないのだ。とにかく注目を浴びるようなことだけはしたくない。試験では出来るだけ平均点を目指したし、運動や美術でも無難な結果が出るように努めた。そしてそれが自分にとってもっとも良いスタイルだと信じた。必死になって他人より秀でるように見せるのはどうしても好きになれなかった。ただ、目立たないように過ごすことには全力だった。

ある日、ミノルは放課後意味も無く残っていた。クラスの連中はとっくに帰宅したか部活に行くかしていて教室にはミノル独りだった。それが彼には心地良かった。

ふと窓の外を見る。
沢山の生徒がボールを追いかけたり、トラックを走ったりしている。活気の良い掛け声や金属バットに球が当たる音、ホイッスルの音などが聞こえる。
桜は散り始めていて、風が吹くたびに薄紅の花弁が舞う。
その中にユキを見つけた。
真っ直ぐに視線を前に向け、疾走している。後ろで束ねた髪が地面を並行になびき、黒い線を描いている。
それを見て、単純に綺麗だと思った。ミノルは陽が落ちるまで校庭を見ていた。



翌日、登校すると彼女の死を知らされた。



教師の話によると、下校中に交通事故に遭いほぼ即死だったそうだ。
教室内はざわつき、泣きだす女子もいた。ミノルはただ耳で聞いたその内容を脳をフル稼働させて理解しようとしたが、どうしても否定する感情が邪魔をした。

クラス全員で通夜に参列した。ユキの父親が挨拶を述べているが嗚咽でほとんどが言葉になっていなかった。会場のあちこちですすり泣きや鼻をすする音がする。悲しみで満ちている。ミノルは茫然と遺影の中で笑うユキを見ていた。

次の日の朝、学校へ行くといつもと変わらない光景が広がっていた。ミノルはそれに苛立ちを覚えた。クラスメートが死んだんだぞ。そう心の中で呟いた。みんなが努めて明るく振る舞おうとしているのも分かった。意識してその話題を出すまいとするのも。

ミノルはずっとユキの事を考えていた。
友人と楽しそうに話す彼女。
決して大声を上げるわけではなく静かに微笑む彼女。
髪をなびかせ疾走する彼女。
遺影の中で笑う彼女。
もう一度、ユキに逢いたい。

家に帰るとすぐに事故のあった現場へ行ってみた。沢山の花束、ジュースにお菓子にぬいぐるみ。供え物がトンネルの出口に山を作っていた。彼女はここで車に轢かれたらしい。
遺体は激しく損傷し、犯人は逃げてしまったとも聞いた。

ここが彼女の最期に見た風景か。
彼女は他にどんな景色を見ていたのだろう。

ミノルは翌日、陸上部に入部届けを出した。
「なんでこの時期に?」
「で、何かやりたい種目あるの?」
「へえ、短距離」
陸上部の先輩にあられのように質問を浴びせられた。珍しいものを見るように目を輝かせている。顧問の教師もどこか表情が笑っている。

「ま、とりあえずタイム計ってみようか」

顧問に促されてスタート地点に着いた。両手を軽く地面に着き、膝を折り曲げてスタートの体勢を作る。肩と膝が緊張する。笛が鳴らされる。地面を蹴る。前へ前へと腕を振る。息が切れる。苦しい。脚が他人のもののようだ。苦しい。

どうにかゴールに辿りついた。15秒02。顧問に種目を変えた方が良いんじゃないかと言われた。短距離は持って生まれた能力が8割で、おそらく向いていないのだと説き伏せられた。他の競技じゃ意味ないんだよ。ミノルは心の中で呟いた。遠くで見ていた先輩たちはみんなニヤニヤしていた。

それから独学で研究を始めた。良いスタートとは。良いフォームとは。良いトレーニングとは。良かれと思う事はなんでも実践した。

部活が終わった後も、近所をランニングした。コースは例のトンネルを通るもので、毎日現場で黙祷を捧げた。祈り方が良く分からなかったが、目を閉じ俯いて、心が落ち着くまでその姿勢を保った。

いつのまにか教室から彼女の机が消えているのに気付いた。担任が片づけたのだろうか。昼休みに彼女の机を探した。思った通り、物置きとして使われている空き教室に置いてあった。彼女の机の上にはキズがついていたのを憶えていて、それが目印になった。机の右隅に横棒が4本。誰かがつけたのか何を意味しているのかは分からない。あるいはユキ本人がつけたものかも知れない。とにかくそれが目印となって探し出せた。放課後、ミノルは密かに自分の机とユキの机とを交換した。


夏休みに入る頃、下校中に女子高生の会話が偶然耳に入った。

「あそこのトンネルあるじゃん?女の子の霊が出るんだって。ほら、春先に事故あったじゃん?あの事故で死んじゃった女の子が轢き逃げした犯人を未だに探しているらしいよ」

「マジー?あそこ通らないようにしなきゃ」

ミノルはそれを聞いて身体が熱くなった。霊?ユキの霊?本当にいるのなら例え幽霊でももう一度逢いたい。しかし、何度トンネルを通ってもユキが現れることは無かった。


学校の授業はほとんど耳に入らなくなっていた。
机のキズを触りながらミノルは思う。
何故もっと彼女に話しかけなかったのか。
何故もっと彼女の姿を目に焼き付けなかったのか。
何故もっと早く自分の気持ちに気付かなかったのか。
ミノルは思う。
昔の人は良く考えたものだ。「おもう」という漢字は何故二つあるのか。これが「想う」ということか。


陸上部では相変わらず冷ややかな目で見られていた。スプリンターを目指すにはあまりに遅すぎた。いくら真剣に練習してもタイムが伸びない。試合に出れば必ずビリ。見かねた顧問は長距離ならタイムが縮めやすいと勧めてきたが、ミノルは100m走にこだわった。前に記録簿で見たユキのベストタイムは13秒01。それがミノルの目標だった。ユキの走った速度で世界を見てみたい。そのためだったら何を犠牲にしてもいい。

夏休みに入ると、自主トレを強化した。毎日トンネルを通るコースをランニングした。この頃になるとユキへの供え物も大分少なくなっており、花束が一つか二つになっていた。黙祷は忘れずに続けた。

ある日、練習に夢中になりすぎて、ランニングを始めた頃には日が暮れていた。例のトンネルを通る頃には夜になっていた。すると、人通りがほとんどないこのトンネルに、音楽を大音量で流しながら一台のワンボックスカーが入ってきて停止した。その後、クラクションが3回鳴った。ミノルは不審に思い見つめていた。

「あれー?おかしいな、何も起きない」

大学生風の茶髪の男の声が、開け放された窓から漏れてきた。

「本当に霊が出るの?」

鼻に掛かった女の声。

「いやマジだって。このトンネルで事故で死んだ女の霊が出るってネットに書いてあったもん。クラクション4回だったのかな?」

トンネル内にクラクションの甲高い音が響く。

「・・・何も起きないよ」

「ちきしょう。つまんねーな。せっかくこんな気味の悪いところまで来たのに」

クラクションが連打された。

「うるさい」

いつの間にかミノルは車に近づいていて、男に言い放っていた。

「なんだこのガキ?今俺に言ったの?やっちゃうよ?」

「ちょっとやめなよ。こんな子供相手にしないでよ」

「け。意味分かんねーし。ガキ、命拾いしたな」

ワンボックスカーはタイヤの音を立てながら急発進していった。
その日はいつもより長く黙祷を捧げた。

夏休みが明けると、別の噂を耳にした。トンネルに若い男の霊が出る、というのだ。ぼーっと俯いて佇んでいるのだという。ミノルはすぐにそれは自分だと思った。祈る姿を誰かに見られたのだろう。噂なんてあてにならないな、とミノルは思った。

「なんでもその霊がユキを死の世界へ引き込んだらしいよ」

さすがにそのエピソードには心が痛んだが、ミノルは黙って聞いていた。


冬になると、ミノルのタイムは急速に伸び出した。今までの低迷が嘘のようだ。相変わらず試合では負けっぱなしだったが、そんなことはどうでも良い。ユキの見た景色を見られればそれで良い。ミノルは夢中で練習した。

トンネルはいつの間にか落書きで埋め尽くされていた。
『幽霊上等』
『呪』
『死ね』
その他卑猥な言葉、まがまがしいイラスト、意味不明な文句。壁一面に書かれた。最初のうちはミノルは消そうとしてみたが、増え続ける落書きを全部消すのは不可能だった。落書きが増える度、祈りを捧げた。肝試しに訪れる輩もあとを絶たない。クラクションがトンネルに響くたびにミノルは胸を痛めた。


冬休みが明けると、ミノルの成長もピークに達した。走る度にタイムが上がる。そしてついにその日は訪れた。

脚が軽い。いくらでも前に進める。そうか、これがユキの見た景色。
あの日見た、桜の中を駆けるポニーテール。
それが今の自分にぴたりと重なった気がした。
13秒フラット。
顧問も先輩もみんな驚き、口々に賛辞を送った。

「お前凄いな。ここまで伸びるとは思わなかったよ。このまま伸ばせば大会だって狙えるよ」

ミノルは褒められるのも悪くないなと思った。
しかし、ミノルには別の確信があった。


その日の夕方、ミノルはトンネルの前で入念にストレッチをしていた。服もいつものジャージではなく競技用のものだ。ユキ、見ていてくれ。俺は君より先の景色を見に行くよ。
ミノルは確信していたのだ。あの時だした13秒、あれが全力では無かったことを。

ミノルは今では一つだけになってしまった花束の前に膝をつく。
そっと目を閉じる。
クラウチングスタートの姿勢をとる。
そっと息を吐き、止める。
弛緩していた身体を一瞬、緊張させて大きな一歩目を踏み出す。
その瞬間―――

ミノルの目に飛び込んできたのはコントロールを失った大型トラックだった。恐ろしいブレーキ音を上げながらミノルに襲いかかる。そして・・・




2人の生徒が教室から机を運び出していく。
「しかしさ、あいつまで事故に巻き込まれるなんてな」
「ああ、しかも前あった事故と同じ場所だってさ」
「あそこって意外と危ないんだな」
「あれ?机になんか書いてあるぞ」
机には古い4本の横棒のキズの上に、比較的新しいキズがつけられ文字となっていた。

「これ『幸』って読めない?」
「ほんとだ。でもこの歳で亡くなって『幸せ』なんて・・・もっとあいつと話したり遊んだりすれば良かったな・・・」


そう。そのキズはミノルがつけたものだ。ただし『しあわせ』とは読まない。ミノルは想いを込めて『みゆき』というキズをつけた。『実』と『由希』が寄り添うように。



あれからどれくらいの時が経っただろうか。同級生はみな卒業し、それぞれの夢に向かって巣立っていった。教師もみんな入れ替わり、もはや当時の悲劇を知るものは学校にいなくなった。今日も教室内ではどこから聞いてきたのか、出もとの分からない噂がまことしやかに囁かれている。


「ねえ、知ってる?あそこのトンネル幽霊が出るらしいよ。男の子と女の子が手をつないで走りながら、ふっと消えていったんだって。本当だって。友達の友達が見たんだから」




コメント(28)

うん、いい!!

映像化してもらいたいような作品ですね(^-^)
二人でなーらーんであーるーいた散歩道るんるん
良い話でしたー!


切なくて、悲しいけど、最後は報われた…と思いたいですね♪
不覚にも目が潤んでしまいました涙

こういうのが本当に好きってことなのかなほっとした顔
めっちゃ良い話ですね!
次回作も楽しみにしてますわーい(嬉しい顔)
【幸】の字の本当の意味。
付箋に気付かずに読んで、
ミノル→実
ユキ→由希
と知ったとき、涙が出ました。

素敵なお話をありがとうございましたm(._.)m
読みやすくて良かったデスほっとした顔
感動したハート


>トンキさん
コメントありがとうございます。
片思い、もう一度してみたいものです(笑)

>GONZOさん
コメントありがとうございます。
お誉めの言葉嬉しい限りです。

>すずなさん
ありがとうございます。

>くりぼんさん
ありがとうございます。書いた甲斐がありました。

>函館のカールゴッチさん
コメントありがとうございます。
その曲何でしたっけ??

>アン(Magnum)グラさん
コメントありがとうございます。

>もっくんさん
コメントありがとうございます。
怖さゼロになっちゃいましたね。

>MAKIMAKIさん
ありがとうござます。

>天斗@勇往邁進!さん
コメントありがとうございます。
一応はハッピーエンド?になったかな、と。

>チェスさん
嬉しいコメントありがとうございます。
>ゆうすけさん
ありがとうございます。
本当に好きって難しいですね・・・

>ごたれさん
ありがとうございます。
次回も頑張ります。なるべく怖いのを。

>☆すず☆ さん
ありがとうございます。
意図が伝わって嬉しいです。

>s2...ткαё...s2 さん
ありがとうございます。
どうしても長くなってしまうので、読みやすいということで安心しました。
> NOR★★さん

コメントありがとうございます。次も頑張ります。
うわ…鳥肌が。。。
感動しました。
読みやすくテンポもいいですね。
随所に素晴らしい言い回しがあり、すごい良かったです。
素敵なお話ありがとうございました。
怖い話とラブストーリーの融合した話でおもしろかったです
うちは素人で文章の構成とか
専門的なこととかよくわからないですが

すごくたのしめましたほっとした顔!
最後はとてもじーんとして
悲しいけど
なんだかほっこりしましたハート

次回作もたのしみにしてますね!
がんばってくださいウッシッシぴかぴか(新しい)
>だっちょさん
お誉めの言葉ありがとうございます。嬉しい限りです。

>リラリラさん
コメントありがとうございます。

>ぶたちゅーさん
ありがとうございます。
文章力上がるよう精進します。
ストーリーもいいし文章もとても読みやすかったです。主人公の心境がうまく書かれていて感情移入されました。

何より悲しいけどいい話!

次の作品を楽しみにしていますほっとした顔
あぁハート

なんか切ないです涙

ありがとうございました揺れるハート
じーんときました。゜(ノД`)゜。
哀しいけど一応ハッピーエンドだったのかな。
思わずコメントしてしまいましたウッシッシ
男の子の一途さに心打たれました。

主さまの文章もとてもピュアできれいな感じがして、ぐいぐい読み進められました。

一見恋愛小説のようにも感じられますが、どこか異様な怖さもあって、
‥‥ってなんか偉そうにすみませんあせあせ(飛び散る汗)

凄く考えさせられる内容でした。
よかったですぴかぴか(新しい)
>花梨さん
コメントありがとうございます。
花梨さんのコメント、救われる思いです。

>ぷぅちゃんさん
コメントりがとうござます。
お礼を言わなければならないのはこちらです。
ありがとうございます。

>柘榴さん
コメントありがとうございます。
ラストは・・・柘榴さんが感じられたままに捉えて下さいませ。

>†JunkJewel† さん
コメントありがとうございます。
ちらりと覗かせた怖さに気づいて頂いて嬉しいです。

皆々様、ありがとうございます。
ここまで温かいコメントして頂けるとは嬉しい限りです。

ログインすると、残り5件のコメントが見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

とにかく怖い話。 更新情報

とにかく怖い話。のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。