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東京農業大学 農村政策研究室コミュの「中山間地域の活性化に果たすグリーン・ツーリズムの役割と課題に関する研究」

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序章 本論文の課題と研究方法

第1節 はじめに
 日本は、第二次大戦直後から経済の高度成長期までの米の増産政策によって、1967年に米収穫量が(史上最高の)1,475万tに達する。しかし、農産物需要の多様化(畜産物消費の増加等)によって、日本における米の消費量は1962年をピークに供給量が需要量を上回る需給構造に転換し、生産調整対策(減反政策)がとられるようになる。
 米過剰の解消のための果樹への転作は、経済の高度成長期以降の果実需要の増大から特に果樹産地で果実の大量生産体制が確立された1)。特に、温州ミカンの生産量増加は著しく、15年間(1960〜1975年)で栽培面積2.7倍、生産量3.7倍に増加した。しかし、温州ミカンの1967年と1972年の価格暴落による生産調整2)が実施され、1970年代に果樹は供給過剰状態に陥り、果樹農業の停滞時期に移った。また、1970年代後半には、牛乳・鶏卵といった畜産物などの生産過剰もとりだたされるなど、日本農産物の過剰傾向が顕在化している。
 更に、1985年のプラザ合意による円高基調、1993年のウルグアイ・ラウンド農業合意により農業貿易の自由化が大幅に促進される3)。こうしたグローバリゼーションの流れの中で、日本が最後まで自由化を拒んできた3品目(米、牛肉、オレンジ)の輸入が1990年代に相次いで自由化された4)。農業貿易の自由化による影響は、ウルグアイ・ラウンド締結後の(1995年以降)の6年間で日本の供給熱量自給率は46%から40%へと6ポイントも低下している5)ことからも読み取ることができる。
 こうした現状にある日本農業、特に中山間地域は、農産物過剰基調と農業貿易の自由化による農業経済の低迷の影響をもっとも受ける地域といえる。米については、小規模による稲作生産が中心の中山間地域において、政府買い入れ米価の引き下げは大きな打撃となった。また、牛肉、オレンジの輸入自由化は、和牛、柑橘類の生産が盛んな中山間地域(特に西日本)により大きな影響を与えた。
 こうした、中山間地域における農業経済の低迷は、農業所得の減少、耕作放棄地の発生、担い手不足による農家の高齢化といった問題を生み出す源泉になる。特に、農業は工業と比較して土地集約度が高く、土地(耕地)が商品(農産物)を生産する過程で果たす役割が大きい6)。しかし、農業センサスによれば、耕作放棄地は、5年間(2000〜2005年)で約4万ha拡大している。全国の経営耕地面積に占める中山間地域の経営耕地面積が約38%なのに対して、全国の耕作放棄地に占める中山間地域の耕作放棄地が約54%を占めている。こうしたことから、中山間地域における農業経済の衰退は、耕作放棄地拡大という影響を与えている。
 一方で、1989年の『農業白書』において、農業の多面的機能が明記され、農業の食料生産機能以外の公益的機能が政策的に提起される7)。農業の多面的機能は、(株)三菱総合研究所の調査によると、(年間で)洪水防止機能3兆4,988億円、保健休養・やすらぎ機能2兆3,758億円等の外部経済効果があると推計されている8)。特に、中山間地域における棚田や傾斜地の耕地は洪水防止機能や土砂崩壊防止機能、緑豊かな自然は保健休養・やすらぎ機能等の多面的機能を有している。こうした、中山間地域における農業の多面的機能を有している耕作を維持することで外部経済効果を発揮できる。しかし、中山間地域における耕作放棄地の増加による農業の多面的機能を喪失は、地域住民だけでなく国民厚生を損失することにつながる9)。
このような中山間地域の農業の課題を解決し、農業の多面的機能を発揮させるには、?定住人口の維持と?農林業の維持・活性化という2つの要因が必要である10)。
 ?定住人口を維持するためには、所得の確保が重要であり、橋詰登氏は、定住人口維持に、「DID地域までの所要時間」と「1人当たり課税所得」という2つの要因が定住人口の維持に結びつき、所得確保につながる都市部へのアクセスが重要だと計量的に分析している11)。しかし、全国の中山間地域は、(DID地域などの)都市的地域への移動時間・距離が等しいわけではなく、インフラ整備を進めたとしても移動時間や距離の短縮に限界がある。
 そのため、中山間地域における定住人口維持には、就業機会と安定的所得の創造が必要である。一般的に中山間地域の就業機会は、都市的地域と比較して限定的であり、職業選択が限られている。また、グローバルゼーションが進む社会情勢において、中山間地域で農業に従事することは、収入が安定的に確保できないという高いリスクを持つ。そうした状態で、多くの若者に安定的な就業を確保するためには、減少傾向にある農業収入を何らかの形で、補完することが求められる。こうした、中山間地域において、農家民宿や農家レストランを経営部門に導入することで、減少傾向にある農業収入を補完し、農業経営を安定化させることが期待される。
 また、域外住民の移住による定住人口の増加も中山間地域の活性化を促すために求められる。域外住民の移住には、農村の伝統的な慣習などによる域外住民を排除しようとする閉鎖的なコミュニティを開放的なものにして、域外住民受け入れることが必要である12)。そのため、グリーン・ツーリズムは、直接的接触の少なかった農家と都市住民の交流による接触機会の創造による農村コミュニティの開放を促すこと役割の発揮が期待される。
 次に、第一次産業の依存度が高い中山間地域の活性化には?農林業の維持・活性化が求められる。政府は、2000年に中山間地域等直接支払制度(以下、直接支払制度)が施行した。この直接支払制度とは、農業生産が平地と比べて不利な中山間地域の農家と集落を対象とした補助金を支払う制度である。直接支払制度は、集落単位で耕作放棄地発生の抑制による農業生産の維持を目的に行われているため、支払金額は農家と集落で折半するシステムとなっている。しかし、日暮賢司氏が指摘するように、集落に支払われる補助金が小水路などの小規模土地改良で利用され、本来の平地地域との格差を補完することを目指すのであれば、直接支払制度の補助金は、全額農家に支払うべきである13)。このように、中山間地域の農業(耕地)を維持させるための農家所得の補償をする制度は確立され始めたけれども、直接支払制度は農家が経営を維持させるのに十分な仕組にいたっていない。
 こうした農業林業の活性化に対して、グリーン・ツーリズムは、緑豊かな自然や棚田などの資源を利用した収入確保の方法としての役割を発揮できる。また、直接支払制度による中山間地域農業の維持・活性化は、日本政府の財政難による政策的転換によって変化する可能性もあり、不安定なものである。こうしたことから、筆者は、グリーン・ツーリズムによる農家民宿や農家レストランを経営部門に導入し、自立した農業経営による中山間地域農業の持続的な維持・活性化に求められると考えている。また、中山間地域におけるグリーン・ツーリズムの導入は、地域内の他の産業との連携を強化させる効果が期待される。
 日本におけるグリーン・ツーリズムは、農林水産省によって1992年に定義され、政策として提起された。グリーン・ツーリズムは、上記の農業情勢の中で、減少傾向にある農家収入を補完し、農業経営を安定化させる役割を有している。特に、本論文の研究対象地域である中山間地域は、本来生産性が平地の水田と比較して劣る棚田や金銭的価値に換算されない伝統文化を地域の資源として多く有している。こうしたことから、中山間地域におけるグリーン・ツーリズムの役割と課題を明確にすることにより、持続的な中山間地域の活性化方法の解明につながる。
 上記の問題意識において、具体的に解明するのは、以下の3点である。
 第1グリーン・ツーリズムの西欧の事例からの日本における普及要因の解明である。これは、西欧の普及事例より、日本における普及要因を明らかにするためである。
 第2に長野県飯田市のグリーン・ツーリズムの特徴と課題を解明する。これは、中山間地域である同市のグリーン・ツーリズム事業を検討し、他の地域への活用方法や同市の抱える課題を解明するためである。
 第3に日本におけるグリーン・ツーリズムのありかたと推進の方法の解明である。特に、中山間地域における、グリーン・ツーリズムの役割と課題を明らかにする。
 本論文の目的は、上記3点を明らかにすることによって、中山間地域の活性化におけるグリーン・ツーリズムの役割と普及課題について解明することである。
 
第2節 研究の方法
 本論文の研究方法は、長野県飯田市におけるグリーン・ツーリズムの現状分析を中心に行っている。研究方法は以下の通りである。
 第1は、西欧における事例を中心とした、文献サーベーによる普及要因の解明である。グリーン・ツーリズムの先進地域である西欧の優良事例をサーベイすることにより、日本における普及要因を学ぶことができると考えられる。
 第2は、フィールドワークによる事例研究(長野県飯田市)である。これは、フィールドワークは、中山間地域においてグリーン・ツーリズムを導入して成功している優良事例の展開過程や課題を明らかにすることで、日本におけるグリーン・ツーリズムの推進方法を解明するためには重要である。
 本論文では、特にフィールドワークによる地域の取組事例の実態の分析に重点をおいている。本論文における事例研究による問題点は、分析によって明らかになったグリーン・ツーリズムの普及要因や課題を他の中山間地域において活用できる保証がないことである。しかし、事例研究の対象地域である長野県飯田市は、観光資源が乏しい中で、グリーン・ツーリズムを導入し成功している。そのため、本論文において、フィールドワークによる対象地域の経験から中山間地域の活性化に対する重要な示唆を得ることができると考えたためである。

[序章脚注]
1)橋本卓爾・大西敏夫・藤田武弘・内藤重之編[6]のpp.136-140参照。1961年の「果樹農業振興特別措置法」、1971年の「卸売市場法」の制定により、果実の生産・流通における政策的近代化が進められた。
2)1)に同じ。温州ミカンは、1979年度の「うんしゅうみかん園転換促進事業」(5年間で)約3万ha、1988年度の「かんきつ園地再編対策」(3年間で)2.2万haが他品目へ転換されるなど、生産調整が行われた。
3)應和邦明編[2]のpp.55-56、p.255参照。
4)日暮賢司[7]のp.125参照。1991年に牛肉・オレンジの自由化、1999年米の自由化が行われた。
5)3)のp.64参照。
6)荏開津典生[1]のp.47参照。 
7)3)のpp.204-205参照。
8)農林水産省[10]のpp.196-198参照。
9)3)に同じ。
10)橋詰登[5]p.183参照
11)10)に同じ。
12)辻雅男[4]のpp.20-21参照。
13)詳細は、日暮賢司[9]のpp.298-301参照。

[序章参考文献・資料]
[1]荏開津典生(1997)『農業経済学』岩波書店。
[2]應和邦昭編(2005)『食と環境』東京農大出版会。
[3]倉本器征(2001)「水田利用の動向と再編課題」『水田輪作技術と地域営農』農林統計協会。
[4]辻雅男(2006)「農村再構築のフレーム(?)―ソフト面からの接近―」『農村再構築の課題と方向』農林統計協会。
[5]橋詰登(2005)『中山間地域の活性化要件―農業・農村活性化の統計分析―』農林統計協会。
[6]橋本卓爾・大西敏夫・藤田武弘・内藤重之編(2004)『食と農の経済学』ミネルヴァ書房。
[7]日暮賢司(2002)『食料経済入門』東京書籍。
[8]日暮賢司(2003)『農村金融論』筑波書房。
[9]日暮賢司(2004)「農村政策の基本特性と課題」『農と食の現段階と展望』東京農大出版会。
[10]農林水産省(2006)『食料・農業・農村白書』農林統計協会。

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