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ハイヒールの科学コミュの31 ハイヒール筋?(その2)

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ハイヒール筋の続きです。
言い訳がましいのですが、物理は得意ですが、筋肉は門外漢。
にわか勉強による考え違いなどもあるかもしれません。
間違いを見つけたら、素直に修正するつもりですので、ご指摘ご鞭撻、よろしくお願いいたします。

さて、「ハイヒール筋」と呼びたい筋肉の最後、3つ目は、
前脛骨筋(ぜん・けいこつきん)です。

脛(すね)の骨の前側を、膝の下あたりから足のかかとの骨を通り、中足(ちゅうそく)部まで伸びている筋肉です。上述の大腿直筋が、腰から脛までを受持つのに対し、この前脛骨筋は、脛から足までを受け持ちます。足首を背屈(甲側に曲げる)したり、内転(内側へ曲げる)するのに使う筋肉のようです。

さてこの背屈は、、ハイヒールの場合には履いただけで、底屈(足の裏のほうへ曲がる=甲が伸びる)しきってしまう足首を、戻す方向になります。

筋肉や関節は、同じ姿勢を長い時間とり続けるのは良くありません。血流が滞る部分が出てくるからです。
したがって、ハイヒールを履いたままで、底屈と背屈を同じ程度に行なえるのは、とても好都合なのです。

では、具体的にどんな場合に、背屈状態になるのでしょうか。

遊脚(地面についていない側の脚)状態では、身体を支える必要がないので、背屈が可能です。しかし、ハイヒール時に遊脚の足首が背屈するのは、効率を重視する「ハイヒールの科学」では、あまり好ましいものとは言えません。遊脚後半は、大事な着地のための準備期間であり、かかとに負担をかけない着地のためには、足指付け根付近(中足部前方)の着地準備をするために底屈気味な姿勢にしておく必要があるからです。
それに加えて、遊脚側の脚捌きは、見栄えにも大きく影響します。背屈したハイヒールは、靴裏が上を向くので美的な面からもお勧めできません。

となると、背屈動作は、遊脚ではない脚、すなわち軸足となっている間に行なわれることになります。

結論を先に言うと、軸足の足首の背屈こそ、「蹴り脚」の大事な要素なのです。

前々回の、「倒立振り子」の図を思い出してください。地面に固定した軸足の足首を中心として、その上方にある脚全体が、回転運動をするのでした。この回転を行うには、足首が背屈する必要があります。背屈しないと、脚全体は直立したまま(たちんぼう状態)となり、颯爽とスムーズな歩きにはなりません。

今回のトピックの最初の図は、前脛骨筋の筋電位データを解析してみたものです。

図の右側から左へ歩いていく場合の、4種類のステージに分けて考えます。
一番右は、遊脚ステージ。後ろ脚だった脚が空中を移動して前へ出る段階のことです。
次に、かかと着地ステージがあり、つづいて、足裏全面着地ステージとなり、軸足機能を果たします。この間にもう一方の脚は、遊脚状態となっています。軸足機能を終えたあとは、かかとが上がり、つま先部(中足部)だけが地面に触れている状態を経て、遊脚ステージになります。
左右の脚が、交互にこのステージを繰り返すわけです。片足の1サイクル(4ステージ)は、優雅に歩く場合の歩数から計算すると、約1秒以内におこなわれます。

図の中段のグラフの赤と青のラインが、筋電データです。

かかとのない靴の場合を青、ハイヒール(ヒール高さ7cm)の場合を赤で示してあります。遊脚状態では、どちらのカーブもほとんど同じゼロに近い値で、筋肉があまり緊張していないことがわかります。
なお、筋肉が収縮するときに、筋電位がプラスに振れる、という前提です。

さて、かかとが着地する場面で、大きな差が出てきます。
かかと無しの靴の場合は、かかと着地時に急に大きな+電位変化が見られます。これは、一瞬足首を背屈することを示します。これは、着地寸前に、「ひょいとつま先を上げる」動作ではありません。かかと着地後に身体の重心を前へ移動する動作によるものです。

つま先がまだ着地しないうちに、足首は背屈するわけです。
前回のトピックで触れたように、鏡の前で静止ポーズを取ったときなどは、歩行状態とは違う状態なので、この現象が起こりません。余計なことですが、静止ポーズでモデルを撮影すると、本来なら緊張するはずの筋肉が弛緩しているので、美脚に見えたりします。

一方、ハイヒールの場合の赤いラインは、緩やかな変化で+電位の増加を見せています。ハイヒールの場合は、かかと(ヒール)接地中は、その高さがじゃまをするので、背屈しにくい状況にあります。ヒールの太い靴でしたら、かかとだけでなんとか体重を支えられるので、青いカーブと同じ変化もありえます。しかしピンヒールなどでは、それは出来ないので、早くつま先部を着地しようとして、背屈ではなく底屈気味になると思います。
この点に付いては、トピックNo.1〜5あたりの「履ける?」「歩ける?」を読み返していただくと理解が早いです。

さてこの筋電位測定実験の被験者については、その身体のサイズデータや、ハイヒールの慣れ具合など、不明なのですが、1990年代前半の若い看護学生達だということですし、当時でも7cmヒールは街中にあふれていましたから、この実験自体は、無理のないヒール高さであったろうと推察します。したがって、綺麗な緩やかな増大カーブになっているようです。
なお、7cmヒールは、昨今の美脚ジーンズの製造上の標準丈になっているようです。このことからも、被験者の詳細条件は不明ながらも、実験自体は、標準範囲でのものと考えられます。

さて、つま先部も着地して、軸足機能を発揮している段階では、ヒールの有る無しで大きな違いが見えだします。

ハイヒール(赤)歩行では、筋電位が+側の高いレベルを維持しています。足首背屈動作をずっと続けているわけです。地面近くにある足首を中心として脚が倒立振り子状態で前方へほぼ等速(等角速度)で回転していくことを意味しています。

これに対して、かかとのない靴の場合は、ややマイナス側でレベリング(一定の値を保つこと)しています。これは、背屈ではなく底屈気味の状態にあることを意味します。

ゼロではなくマイナス?これは一体なんでしょうか?
察しのいい方はもうお気づきかもしれません。
これが、「蹴り足準備」状態なのです。軸足は、ベタ足でただ地面に触れているのではなく、足裏の中で、力のかかる部分が、かかとからつま先へ移動しつつ、爪先立ち状態に近づいているのです。そして、最後の「蹴り足」が行なわれます。この蹴り足の反動で、遊脚状態になった瞬間に、急激な背屈動作が起こることを、赤い筋電位変化は、ちゃんと示しています。ハイヒールの場合は、そもそも足首が固定気味なので、急激な変化は起こりません。

上述の蹴り脚が静かに終局を迎え、再び遊脚ステージに移行し、筋電位も緩やかに下がります。

このように、筋電位データから見ても、ハイヒールを履きこなすためには、ある種の筋力が必要だということがわかります。たぶん、違う歩き方をしてしまっている場合も、データを検証することで、改善のヒントが得られると思います。しかし、正確な筋電位測定は、該当する筋肉の筋繊維近くまで電極針を刺す必要があり、簡単に計測できるものでは有りません。表面に電極を貼り付ける表面筋電位測定も多用されていますが、これですと深いところの筋肉の動きがなかなか分離できず、解析には困難が伴います。

興に乗って、また長文になりました。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
不明な点、?という点は、ご質問ご指摘お願いいたします。

なお、使用している図は、私のオリジナルですが、筋電位変化の特徴などは、前回トピックでも示した論文を参考にしています。
参考文献)
「靴のヒール高と筋活動」小野英徳 (整形外科から見た歩行・論文集)

コメント(2)

軸足内の重心移動の指摘は勉強になりました。ダンスでは歩行でパワーをつける必要があるので、歩行の科学的な解明はためになります。
このトピックでは、まだ重心移動の観点での考察は書ききれていないのですが、重心移動に関連するであろう他の筋肉も含めて、動的なバランスは一瞬たりとも手抜き(脚抜きといいたいところですが−笑−)出来ないわけです。そしてそれらの姿勢の変化の反力(反動)を、軸足それも、接地面積の小さいハイヒールが受け持つわけですし、しかも、コンマ何秒の短い時間の動作なので、パワーというよりも、繊細なコントロールが重要だと考えています。
ダンスは、単に前に進むと言う目的以外の動作も同時に行なわなければならないでしょうから、「パワー」という概念が必要なのでしょうね。テンポや動作のメリハリ、強弱、緩急…プロのダンサーたちの身体の動きは、もう、私には感慨しかありません。そのレベルになると、科学ではなく心の世界なのかもしれません。ダンスは門外漢の私ゆえ、へっぽこレスでスミマセン。

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