『ラビリン』新浦安店コミュの最後の晩餐。

舞台中央、横に長いテーブル。

左から、
バルトロマイ（野村知広）
小ヤコブ（安田ユーシ）
アンデレ（室岡悟）
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）（黒のバニー耳をつけている）
ペトロ（久ヶ沢徹）（ひとりだけ袖のちぎれた服を着て、ねじり鉢巻きをしている）
ヨハネ（森谷ふみ）

中央に、キリスト（片桐仁）

トマス（西田征史）
大ヤコブ（犬飼若博）
フィリポ（ＴＲＯＹ）
マタイ（山内圭哉）
タダイのユダ（橋本さとし）
シモン（池田成志）

ざわざわしながら、ものを食べている。ペトロ（久ヶ沢徹）が「お茶くれーい」などと言うのにバルトロマイ（野村知広）がヤカンで麦茶を注いだり。

キリスト（片桐仁）「みなさん。聴きなさい」

だがうるさくて誰も聴いてない。

キリスト（片桐仁）「聴けよぉ〜〜!!」

一同、やっと注目する。（ただし、マタイ（山内圭哉）、タダイのユダ（橋本さとし）、シモン（池田成志）の右端の三人は一切聴いてなくて、三人だけで何かやっている。以後同じ）

キリスト（片桐仁）「あなたたちのなかに、私を裏切る者がいる」

数瞬おいて、（右端の三人以外の）使徒全員が席から飛び退り、土下座をする。
一同「申ぉぉし訳ございません〜〜!!!」

キリスト（片桐仁）「エエッ!?」

バルトロマイ（野村知広）「すいません僕、先生のプリン食べちゃいました！」
小ヤコブ（安田ユーシ）「ぼくは先生の洗濯物で猫のゲロを拭いてしまいました」
アンデレ（室岡悟）「私はついうっかり先生の粘土に落書きを」
ペトロ（久ヶ沢徹）「俺はこないだ、棚のガンプラを落として割っちゃって」
ヨハネ（森谷ふみ）「先生のことを武蔵美出身だって嘘ついちゃいました」
トマス（西田征史）「オイラぁ、先生のことをヤキソバ星人だと」
大ヤコブ（犬飼若博）「僕は先生のことを冷やし中華だと」
フィリポ（ＴＲＯＹ）「正直、佐藤竹善ハドウカト思イマシター！」

……と、一同、何も言わないでちょこんと正座しているイスカリオテのユダ（小林賢太郎）に妙な視線を向ける。

イスカリオテのユダ（小林賢太郎）、無表情のまま、内懐から黒革の財布をとりだして、キリスト（片桐仁）に返す。

キリスト（片桐仁）「お前ら、……そんなことをしてたのか……！」

一同「お詫びを申し訳ございません」
ふかぶかと頭をさげる。

キリスト（片桐仁）「いや、……まあ、それはいいから、……座りなさい」

一同着席。

キリスト（片桐仁）「……食べながら聴くように」
と言うと、一同、普通に食べはじめる。

トマス（西田征史）「で、先生、さっきの話でやすけど、この中に裏切り者がいるとかなんとか」
キリスト（片桐仁）「うむ」
ペトロ（久ヶ沢徹）「ええっ!?」
小ヤコブ（安田ユーシ）「さっき聴いたやないですか……」
ヨハネ（森谷ふみ）「こういう人なのよ」
トマス（西田征史）「で、先生、裏切り者は１人だけなんですかい？」
キリスト（片桐仁）「うむ」
一同、「俺じゃないですよ」「僕じゃないですよ」「私じゃないですよ」と口々に言う。
キリスト（片桐仁）「お前ら……さっき、いろいろ告白したくせに（苦笑）。俺になんかあったら真っ先に逃げ出しそうだ（苦笑）」

……と、テーブル左から酢豚の大皿が回ってきたのを大ヤコブ（犬飼若博）断って、
大ヤコブ（犬飼若博）「僕、ブタ肉食べられないんだ」
ペトロ（久ヶ沢徹）、指さして「あっ、ここにイスラム教徒がいる!!!」
トマス（西田征史）「まだねェよ！　――まだイスラム教ねえよ！」
フィリポ（ＴＲＯＹ）「ボクハ、ビーフガ苦手デス」
ペトロ（久ヶ沢徹）「ヒンドゥー教徒だ！」
ヨハネ（森谷ふみ）「違うって！」
ペトロ（久ヶ沢徹）「なんだよヨハネ、かばうなんて、お前も裏切り者の仲間なのかー？」
小ヤコブ（安田ユーシ）「せやから『裏切り者は１人』やて、さっき言うてましたやん」
ペトロ（久ヶ沢徹）「あー？？？」
ヨハネ（森谷ふみ）「だから、こういう人なのよ」
ペトロ（久ヶ沢徹）「いいかぁプチ・ヤコブ」
小ヤコブ（安田ユーシ）「小ヤコブです」
ペトロ（久ヶ沢徹）「俺はなぁ、記憶力がない！んだ」
ヨハネ（森谷ふみ）、トマス（西田征史）、大ヤコブ（犬飼若博）、キリスト（片桐仁）「知ってる知ってる」
キリスト（片桐仁）「言っとくけどお前、鶏が鳴く前に三回くらい俺のこと忘れるからな(笑)」
ペトロ（久ヶ沢徹）「え？どちらさま？」
キリスト（片桐仁）「ん？」
ペトロ（久ヶ沢徹）「……はい？」
大ヤコブ（犬飼若博）「もう忘れてる……」
トマス（西田征史）「なんでこんな人が一番弟子なんだ」
ヨハネ（森谷ふみ）「私たちの主でしょ！」
ペトロ（久ヶ沢徹）「ああっ、失礼しました、棟梁！」
キリスト（片桐仁）「“主”だろ!?」
トマス（西田征史）「大工じゃねえんだからよぅ」
大ヤコブ（犬飼若博）「あながちハズレでもない気はしますけど……」
小ヤコブ（安田ユーシ）「このひと忠誠心はあるんですか、ほんとに」
ペトロ（久ヶ沢徹）「馬〜鹿〜野〜郎〜、俺ぁなー、尊敬してんだ、親方を！」
バルトロマイ（野村知広）「言ってるそばから……」
ペトロ（久ヶ沢徹）「うっせぇ！――では尊敬の証に、ぼくたちの教会の建立を願う歌を歌います。
　　　　　　　　　　　　√嗚呼♪」
アンデレ（室岡悟）「√嗚呼♪」
一同、ぎょっとする。
ペトロ（久ヶ沢徹）「√われらの♪」
アンデレ（室岡悟）「√われらの♪」
ペトロ（久ヶ沢徹）、アンデレ（室岡悟）『√サン・ピエトロ聖堂〜……まだ無い〜♪』
ペトロ（久ヶ沢徹）、アンデレ（室岡悟）、深々と一礼して着席。
小ヤコブ（安田ユーシ）「……意味ねぇ〜……」
トマス（西田征史）「こんな歌あったのか？」
大ヤコブ（犬飼若博）「はじめて聴いたよ」
ヨハネ（森谷ふみ）、立ち上がる。「はいっ、ヨハネ、主を讃えるダンスをやります！」
トマス（西田征史）「対抗するな！」
ヨハネ（森谷ふみ）、うざったいダンスを踊る。
一同、「うひ〜〜〜っ！」と“かゆいかゆい”仕草をする。
大ヤコブ（犬飼若博）、歩み寄って、止める。「ヨハネ、やめるんだ」
ヨハネ（森谷ふみ）「お兄ちゃん」
ふたりとも、うなずいて、座る。
バルトロマイ（野村知広）、頭をかかえる。「世界観に、ついて行けない……」
トマス（西田征史）、がばと立ち上がる。「ちっくしょう、オイラなんかなぁ、“日本一早い”……なんだろう？」
小ヤコブ（安田ユーシ）「しかも日本て」
バルトロマイ（野村知広）「もともと、なんの話だったんだ」
大ヤコブ（犬飼若博）「そうだ、裏切り者の話ですよ！」
ペトロ（久ヶ沢徹）「なにぃ〜、裏切り者ー!?」
トマス（西田征史）「おどろくな！」
キリスト（片桐仁）「おいペテロ、もういいから、すこし静かにしてて」
ペトロ（久ヶ沢徹）「わかりました、大将！」
大ヤコブ（犬飼若博）「筋金入りだ……」
トマス（西田征史）「で、先生、誰なんですかい、その裏切り者ってやつは？」
小ヤコブ（安田ユーシ）「“先生”と“主”と、呼び方混ざってますやん」
バルトロマイ（野村知広）「ここはスルーしておきましょう」
ヨハネ（森谷ふみ）「主よ、それは誰なんですか？」
キリスト（片桐仁）「うむ。これから、わたしが、このパン切れを浸してわたす者が、その人である。」
と言って、目の前のパン一切れを取りあげ、皿のスープに浸す。
それから、ヨハネ（森谷ふみ）、ペトロ（久ヶ沢徹）が退く中、イスカリオテのユダ（小林賢太郎）にパンを与えようとするが、イスカリオテのユダはテーブルの上をぼーっと見つめていて気づかない。
キリスト（片桐仁）「……おい」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「……」
キリスト（片桐仁）「おい!?」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「……あ、ゴメン聞いてなかった」
キリスト（片桐仁）「!!……なんで聴いてなくていられるんだ!?」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「間違えました。よく、間違えます」
キリスト（片桐仁）「大事な話してたんだぞ!?」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「オッ、どんな『話』が飛び出すんだろう♪」
キリスト（片桐仁）「どんなって、……この中に裏切り者がいる話！」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）、キリストが“この中に”と広げた両手の中を覗きこむ。「え、この中に？」
キリスト（片桐仁）「いや“これ”じゃなくて！」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「え、これじゃないんだ。えーどれだろうー？」
と、嬉しげにあちこち見回す。
キリスト（片桐仁）「いや、どれって言うか、この、ここの人たちの中に！」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「え？ここの人の中に？ここの人たちの、『中』に？『IN』？」
と、『エイリアン的な何かが口の中から出てくる』ゼスチャーをする。
ペトロ（久ヶ沢徹）、驚愕して、「いるのか！」
トマス（西田征史）「いねえーよ！」
キリスト（片桐仁）「そんなモンスターはいないよ！」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「いないの？　ナイス！」
キリスト（片桐仁）「なにナイスって。だから、裏切り者の話！」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「オッ、どんな『話』が飛び出すんだろ♪」
キリスト（片桐仁）「だから、裏切り者がいる話！」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「え、ちょっと待って。“裏切り者”は“いる”んだよね？」
キリスト（片桐仁）「……そうだよ」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「じゃあさ、“裏切り者”は、“いる”んだから、“裏切らない者”は、“いない”んだよね？」
キリスト（片桐仁）「……そんなこと言ったら、そこらじゅう裏切り者だらけになっちゃうじゃないかよ」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）、急に不安そうにあたりを見回す。
キリスト（片桐仁）「い・な・い・よ!!」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「いないんだ。ナイス。ナイスバッティング！」
キリスト（片桐仁）「なんだよバッティングって。だから、今は、裏切り者の話！」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「オッ、なんの『話』が飛び出すんだろ♪」
キリスト（片桐仁）「キ〜〜〜ッ!!　あの、だからァ、この部屋の中の人たちに、裏切り者がいる話をしてて！」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「待って待って待って。この部屋の中に裏切り者がいるってことは、……部屋の外には、いないの？」
キリスト（片桐仁）、うなずく。「おう！」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）、思慮深げにうなずく。「はいはいはい、見えてきたよー……」
キリスト（片桐仁）「何が見えてるんだ、お前」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「……うん。“いる”より、“いない”ほうが、圧倒的にいいもんね？　――って、言うよね？」
キリスト（片桐仁）「何あたりまえのこと納得してるんだ」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「うん。――続けて？」
キリスト（片桐仁）、苦笑して、「だからその、『わたしを裏切る者は誰か』と訊かれたから、“わたしが、このパン切れを浸してわたす者が、その人”だっていう話をしたんだよ」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「へえ〜〜、あるんだぁ、実際！」
キリスト（片桐仁）「まだオチじゃないからね!?」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「だって、ねえ？　“ワタシガコノパンキレヲヒタシテワタスモノ”なんて変わった名前の人が、実際に、ねえ！」
キリスト（片桐仁）「いないよ!!」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「いないんだ？　間違えました。よく、間違えます」
そして、己のオツムをテンテンとたたく。
キリスト（片桐仁）「ク〜〜〜ッ!!……死ねばいいのに」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）、泣く。「くぅっ」
キリスト（片桐仁）「あ〜まだ死ななくていい死ななくていい用が済むまで死ななくていい」
と、ピンポーン、と、チャイムが鳴る。
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）、トッテッテ、と内線電話まで歩いていって、受話器をとり、「パン！」と言って、切ってしまう。
キリスト（片桐仁）、「あるよ！！！」と、手に持った“パン”をかざして怒鳴る。
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）、ぴょんぴょんと“二本足ウサギ”のゼスチャーで跳んで帰る。
キリスト（片桐仁）「跳ぶなァ！！！」
と、ふたたびピンポーン、とチャイムが鳴る。
バルトロマイ（野村知広）「ぼく、出ます」

バルトロマイ（野村知広）、舞台下手袖に入ると、そのまま後ずさりして戻ってくる。
そのバルトロマイ（野村知広）に鼻を突き合わせるようにして、岡持をもった割烹着の出前持ち（平田敦子）が仏頂面で入ってくる。
出前持ち（平田敦子）、一転してニコニコしながら、「カツ丼こちらでよろしいですかァ？」
ペトロ（久ヶ沢徹）「ああ。俺、俺」
トマス（西田征史）「出前をとるな！」
出前持ち（平田敦子）、下手袖にはけるかと思いきや、バルトロマイ（野村知広）の眼前に立ち止まってにらみつける。
出前持ち（平田敦子）「可愛いじゃないか。……来な」
とドスのきいた声で言って、蒼白なバルトロマイ（野村知広）の腕を掴んで、持って行ってしまう。
小ヤコブ（安田ユーシ）「エ〜〜、これでお別れなんです、か……？」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）、ニコニコと手を振る。つられてペトロも。
キリスト（片桐仁）「俺の話を聴け――!!!」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「オッ、どんな『話』が飛び出すんだろ♪」
キリスト（片桐仁）「こーのーやーろー！！」
キリスト、イスカリオテのユダの襟首つかんで、壁に叩きつける。
キリスト（片桐仁）「……だからお前、もう、ちょっとここに座れ」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）、そこの床に座る。
キリスト（片桐仁）「椅子に座れ！」
キリスト、イスカリオテのユダの肩を押さえるように椅子に座らせ、息を整える。ユダの手を取ってパンを持たせる。
キリスト（片桐仁）「……もういい。だから、お前が、俺を裏切る者なの！」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「ええっ？　ぼくなんて、ごくふつうのバニーボーイだと思うんだけど？」
キリスト（片桐仁）「じゃなくて！　このパンが……」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「このパンが裏切り者なの？」
キリスト（片桐仁）「じゃなくて！　このパンが渡された者が裏切り者で！　……もういい。いいから、お前がやろうとしていることを、すぐにしなさい。」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）、片方のバニー耳だけをペコッと折って、小首を傾げる。
キリスト（片桐仁）「ウヒ〜気持ち悪い！　お前、それ可愛いと思ってるのか自分で！　だから、そうじゃなくて、お前がしようとしてたことをしに、出て行きなさい！」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「いいよ♪」とうなずき、ぴょんぴょんと“二本足ウサギ”で跳んで、下手へはけていく。
キリスト（片桐仁）、地団駄を踏む。「跳ぶな――！！！」
ペトロ（久ヶ沢徹）「酋長、何処へ行かれるのですか」
大ヤコブ（犬飼若博）「ぼくたちは何処へ行くのだろう……」
トマス（西田征史）「しかし、あいつが裏切り者だったなんてなあ！」
フィリポ（ＴＲＯＹ）「意外デス！」
大ヤコブ（犬飼若博）「しかし彼に、人を裏切るという、普通のものの考え方ができるのかどうか、いささか疑問です」
トマス（西田征史）「あきらかに普通じゃないもんなあ。なあ!?」
トマス（西田征史）、それまで騒ぎに一瞥もくれずにいたマタイ（山内圭哉）に話しかける。
マタイ（山内圭哉）、タダイのユダ（橋本さとし）、シモン（池田成志）の、右端の三人は完全に無視。
トマス（西田征史）、無視されたのが面白くなくて、マタイ（山内圭哉）の肩を叩く。「おい、お前ら聞いてんのかよ」
マタイ（山内圭哉）、不機嫌むきだしで咬み付く。「やかまっしゃおんどりゃボケぇ、話しかけんな！」
大ヤコブ（犬飼若博）「さっきから君たち、三人だけでかたまって、何してるんだ？」
マタイ（山内圭哉）「“こっくりさん”や！」
一同「こっくりさん!?」
マタイ（山内圭哉）、タダイのユダ（橋本さとし）、シモン（池田成志）の三人、10円玉に指をおいて、真剣にこっくりさんをやっている。
大ヤコブ（犬飼若博）「こっちは真面目に深刻な話をしてたのに、君たちはこっくりさんをしてたのか」
小ヤコブ（安田ユーシ）「あんまり深刻とも思えなかったですが」
ヨハネ（森谷ふみ）「でも主は疲労困憊してるわ」
うなだれていたキリスト（片桐仁）、かろうじて手をあげ、“大丈夫だ”という仕草をする。
マタイ（山内圭哉）「深刻な話って、なんじゃい？」
トマス（西田征史）「ユダの奴が、先生を裏切ったんだよ」
マタイ（山内圭哉）、タダイのユダ（橋本さとし）にむかって、「なんやお前、お師匠さんを裏切ったんか!?」
小ヤコブ（安田ユーシ）「また新しい呼び名じゃ……」
タダイのユダ（橋本さとし）「俺はなんにもやってねえよ！」
大ヤコブ（犬飼若博）「君じゃなくて、イスカリオテのユダだよ」
タダイのユダ（橋本さとし）、席を立って激昂する。「ふざけンな！“ユダ”といったら本家は俺だ！あいつのことを言うなら“イスカリオテのユダ”と言え!!」
シモン（池田成志）、切れる。「うるさ――い!!!　真面目にやれ――――!!!」
一同、あまりの剣幕に立ちすくむ。
シモン（池田成志）、切れる。「!……こっくりさん、まだ帰ってない!!」
タダイのユダ（橋本さとし）、自分の指が10円玉からはなれているのを見る。「――あ」

舞台上手袖から、ラメとサテンのうさんくさい正装をした“こっくりさん”（後藤ひろひと）が入ってくる。
こっくりさん（後藤ひろひと）「どうも、こっくりさんです」
こっくりさん（後藤ひろひと）、その場を見回し、シモン（池田成志）の50音表を見て、うさんくさげにうなずく。
こっくりさん（後藤ひろひと）「察するところ、わたくしの出番はこれまでのようですな。では、失敬♪」
大ヤコブ（犬飼若博）、舞台を横切っていくこっくりさんを呼び止める。「あのー、こっくりさん」
こっくりさん（後藤ひろひと）「はい？」
大ヤコブ（犬飼若博）「ひとつ、お訊きしたいことがあるんですけど」
こっくりさん（後藤ひろひと）「わたくしに答えられることが、あれば♪」
大ヤコブ（犬飼若博）「イスカリオテのユダは、何処へ、何しに行ったんですか？」
こっくりさん（後藤ひろひと）、非常にうさんくさい表情と仕草で答える。「あ〜あ、彼のことならご心配なく。すぐに、帰ってきますよ、“すぐに”ね♪」
こっくりさん（後藤ひろひと）、舞台下手へ諧謔味たっぷりに消える。
ドアのSEと同時に下手袖から、イスカリオテのユダ（小林賢太郎）、ずだ袋をかついでニコニコしながら走ってくる。
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「とってきたよ――♪」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）、ずだ袋の中の“茶色いぺらぺらした物体”をみんなのテーブルに大量にぶちまける。
キリスト（片桐仁）「――これ、何？」
イスカリオテのユダ（小林賢太郎）「“うま”の耳の現物」
一同、「うわ――――っ!!!」
……と、「ヒヒーン！」といういななきのSEとともに、『耳を切られた“うま”』の大群が、下手から舞台に殺到する。
全員、パニック。

『８時だヨ！全員集合』の“盆回り”の曲がかかって、混乱のうちに幕。