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白井京月の世界コミュの私の父はスパイ

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「私の父はスパイ」 白井京月

私の父はスパイでした。本人が言っていたのですから間違いないでしょう。父は私が子供の頃、死にました。いや、もしかしたらどこかの国で二重スパイとして未だ生きているかもしれません。祖父母が私を育ててくれました。母には会ったこともありません。父はほとんど不在でしたが、家に戻るとでかけることもなく私にいろいろなことを教えてくれました。

世界は1%の支配層と99%の奴隷でできているということ。奴隷たちには、成功と幸福という意味不明な言葉を与えるだけで十分だということ。決して成功や幸福という言葉に騙されてはいけないということ。世界を知ろうなどという野心は無駄に終わるということ。奴隷であることを自覚して要領よく生きるためのいくつもの知恵。常に冷静で、優しい父でした。

私は父の教え通りに要領よく地方公務員になりました。世俗的な欲望の罠に落ちることもなく、平凡な一奴隷として生きていたのです。

しかし、ある本を読んだことで私の人生が変わりました。この醜悪な現代文明を破壊したい。いや、少なくとも解剖して痛烈な一撃を加えたい。そして、私は武器としてペンを選んだのです。目的などありません。勝算もなければメリットもない行為です。ただ、血が騒いだ。そうとしか言いようがありません。

私は父から、欧米のメディアが決して報道しない陰謀や非人道的な作戦、計算された内線やテロの実態を聞かされていました。そして、国際社会の対立の背後に、各国の支配階級の強固なネットワーク、もっとハッキリ言えば血のつながりがあることも聞かされていました。資本主義と民主主義という嘘にまみれた制度が、奴隷の生産性を高めるためのものであることも。

いろいろな研究に没頭しました。そして、奴隷を支配する力の源泉が経済学と脳科学、そして何よりも言語学であるという仮説を作りました。一応は自由主義で高度に通信の発達した時代です。反体制的な学者でも多くの著書を出版していると考えている人も多いでしょう。しかし、それは体制公認の反体制であって、自由を演出するための役者に過ぎません。言ってみれば、弱者を慰めるための存在です。そんな似非反体制には何の力もないのです。

研究対象は体制の支配下にある最先端の研究成果でした。彼らはなぜ、それを研究するのか。その分野に巨額の資本が投入されるのはなぜか。そこから見えてきたことは、奴隷を、つまりは一般市民を完全にマインド・コントロールするための文法であり、その文法を浸透させるためのメディアによる潜在意識への直接攻撃の手法が高度化し、ほぼ完成と言える段階にあるということです。

これだけは覚えておいてください。支配階級にとっては、戦争も経済もただのゲームであり、遊びだと言うことを。

私は血の騒ぎから20年以上の間、戦い続けました。その結果は言うまでもありません。成果なき惨敗です。その戦いはとても苦しかった。しかし、いまはその思い出が懐かしく、そして楽しいのです。

私は父の言葉を無視して世界を見ようとした。それはきっと、父と同じく血が騒いだからであり、宿命のようなものでしょう。

この戦いで、私はボロボロになりました。そこにあるのは惨めな姿と、周囲からの憐みの目です。しかし、私が死ぬ時にはきっと、楽しかったなと笑顔を浮かべるのだと思います。

私の戦いは終わりました。これからは文明の傍観者として、変容する文明を、そして崩壊するであろう文明の物語をあれこれと夢想し、隠居生活を送るだけです。

私の父はスパイでした。これは最新の暗号です。安易に口にしないように。グッド・ラック。(了)

コメント(1)

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